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第七話

本日二回目の投稿です。

「で、どうしてこうなったのかしら……」


「それは私がお聞きしたいです。姉上」


 そんな私達の悲痛な叫びは、広い勉学室の空間に吸い込まれていった。


 ここは、王城の一室。皇太子から火急の用件ということで呼び出された私は、顔をひきつらせているカオルを引っ立てて、ここまでやって来た。


「本当に私が居ても良いのでしょうか……?」


 皇太子の側近から案内された勉学室の中を見渡しながら、不安そうに顔を歪めるカオル。


「……不安そうな顔をしてる時だけは、九歳の子供らしさが出るのになぁ……」


「何か仰いましたか、姉上」


「……いいえ、何も」


 いけない。つい心の声が漏れてしまった。カオルの小姑スイッチが入ったら長くなるので、急いで話題を切り替えねば!


「そ、そんなに心配しなくても大丈夫! 皇太子様が何か仰られても私が庇ってあげるわ!」


「と、いうかその前に私は帰りたいのですが……」


「それは却下よ!」


 せっかく、連れてきた味方をここで帰してなるものか! カオルにはツンデレスイッチのセーフティーとして活躍してもらわないと。


 私はガシッと隣のカオルの腕にしがみつき、ニヤリ……いやニッコリと可愛らしく微笑んだ。


 ちょっと! 何で顔ひきつってる訳?! 失礼な奴だなぁ!







「待たせたな! ……うん? だっ、誰だ、お前!」


 私がカオルの腕にしがみついている時。丁度、勢い良く皇太子のスグルが入ってきた。初めは満面の笑みを携えていたが、私達を見て怪訝そうな表情をしている。


 いやいやいや、そっちが呼んだんでしょうよ! まさか、仮とはいえ、もう婚約者の顔をお忘れに?! 

 私達は姉弟揃って固まっていたが、素早く回復したカオルが私からの拘束を解き、皇太子の元へと進み出る。


「皇太子様、ご機嫌麗しゅうございます。私はスカーレット公爵家のカオルでございます。先日、姉上と一緒に茶会席に同席させて頂きました」


「……あ、ああっ! あの時の弟かっっ! いや、なに、お、俺の婚約者が男に抱きついていたものだからな。少し驚いてしまったのだ。……あらぬ疑いをかけてしまった。すまない」


「いえ、滅相もございません」


「…………はあ?」


 いやいやいやいや。普通に流してるけども、今の会話おかしいよね?! 疑問点が沢山ありすぎて、目眩がするよ!


 まず、私は婚約者ではなく、()! 婚約者である。

 さらに、あ、あらぬ疑いって言いましたよね?! 九歳(カオル)十歳(わたし)(見た目)の抱擁ってそんなにおかしいですか?! お、男に抱きついてって!! 私から見たら、どっちも子憎たらしいクソガ……いやお坊っちゃんだよ! 何で一人前の男性認定なの?!


 ないわー、特に金髪の方、より一層ないわー。


 私はもう二人の会話に入る気になれず、一人呆然とその光景を眺めていた。


 自称、立派な()同士の話はまだ続いているようだ。


「して、カオルは、何故ここに?」


 皇太子の言葉を聞いたカオルがちらりと私に思案げな視線を向けてきた。そして、何かを思い付いたのか、それまでの表情を一転させると面白がるような、楽しそうな表情を浮かべる。



 正直、姉上は嫌な予感しかしない。



 カオルは私の変化した顔色を満足げに眺め、楽しそうな表情をさせたまま、口を開く。


「はあ……。それが姉上ときたら、照れているのか、恥ずかしがっているのか、一人で皇太子様と接するのが畏れ多いようで。ご無礼とは思いましたが、こうして私も同行して参った次第です」


「う、うむ」


「…………うん」


 あまりの弁舌に私も思わず、うんって言っちゃったよ。カオル、あんたは私の本心を知ってるよね?! それなのに、恥ずかしがってるとか、畏れ多いとか、ペラペラと良く言えるな! お前の将来が恐いわ!!


 私が顔を青くしながら下を向いていると皇太子が話を振ってきた。


「……お前、そんなに俺の前に立つのが恥ずかしかったのか?」


 ちょっと意外そうな顔をしている。

 まぁ、それはそうだろうな。

 初対面で、これっっっぽっちも興味が無いと言った女だ。今さら『あなたに会うのが恥ずかしいの、キャッ』とか言っても、説得力がまるで無い。


「えっ? うーん、まぁ、恥ずかしいと言うか、嫌と言うか……ごにょごにょ」


 本当は一人で会うのは嫌だから小姑(カオル)を連れてきました! って正直に声を大にして言いたい。しかし、今は皇太子の側近も侍っているし、何よりも至近距離に小姑という名のスナイパーがいる。私は目を光らせているカオルを刺激しないように言葉を濁した。



 ヒイラギ様のお声を聴くまでは、絶対に死ねない。



「……まぁ、良いだろう」


 皇太子も渋々と言った感じだったが、引き下がってくれた。まあ、周囲(カオル)の不穏な空気と、私の怯えを察知したのかもしれない。







「ところで、本日は火急のご用件との事ですが、一体どのようなご用事なのでしょう?」


 勉学室の椅子を促され、ようやく席に着いた私達。

 そこで、本来の用件をカオルが切り出した。


「うむ。実はな、ここは俺が日々勉強している勉学室なのだ」


「はあ」


 得意気な表情をしている皇太子の言葉に、曖昧に頷くカオル。勉学室だもん、見れば分かるよ。とは言えないのが苦しいところだ。


「それで、今日からはお前達も交えて勉強をすることにした」


「……へ?」


「……は?」


 ぼーっとしていた私は勿論、しっかり者のカオルまでもが聞き返している。


「えーっと、それはつまり、今後、十五歳で魔法大学校に入るまで、ずっとご一緒に勉学に励むと……?」


「うむ」


 いやいやいや。だからさ『うむ』じゃないんだって!! 一般的に王族には家庭教師が付くものだから、大学校に入るまで勉強するのは分かるよ? でも、何で私達も一緒に勉強しなきゃなけないの?! この金髪皇太子(バカ)、一体何考えてるのさっっ!!


 私の心の叫びが聞こえたのか、カオルも穏やかさを装いながら、青筋を立てて質問を返す。


「あの、お言葉を返すようですが……。公爵家でも教師を雇い、大学校に入るまでに必要な然るべき教育を日々受けておりますので、その、わざわざご一緒に王城で勉強しなくとも……」


 良いのでは……? と続きそうなカオルの言葉は発せられることは無かった。

 自分の言葉が否定されると勘づいた皇太子が重ねるようにして口を開いたからである。


「と、とにかく! お前達は俺様と共に勉学に励むのだ!! サクラ、お前は俺の優秀さや逞しさをもっと側に居て目に焼き付けろ! そして、これっっっぽっちも興味が無いと言った事を後悔しろ! そしてカオル、お前はついでだが、これも何かの縁だ、一緒に励め!」


「…………は、はあ」


「…………つ、ついで…………」


 私も幾らかのダメージは受けたが、この場合、ついで呼ばわりされたカオルの方が重症だろう。


 俺様ツンデレ皇太子の攻撃は私だけではなく、カオルにも効くらしい。





 私はこの日、初めてカオルに申し訳ないと反省の意を示した。


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