第四話
俺様キャラに対する偏った文章がございます。あくまで主人公サクラの視点ですのでご容赦ください。
朝食後。
私は、カオルの指示の元、着替えのために無理やり私室に戻された。そもそも、私付きの侍女が何故カオルに忠実なのだ。
さすがは、メインヒーローである。
気に入らないが、小姑カオルに怒られるのが怖いし、面倒臭い。ここはとりあえず大人しく従っておこう。
冷静に考えてみれば、皇太子との面会だっていずれは訪れる事だったのだ。その予定が少し早まっただけ。
そう、死にはしない。死にはしない。死にはしない。
……。
な、何故だか、さらに不安になってしまった。もはや泣きそうだ。
私は、鏡の前で嬉々として髪を整える侍女を尻目に、思考を切り替えるように必死に皇太子ついて考えてみた。
皇太子、スグル・エドワードは所謂、俺様皇太子である。身分の高い皇太子なのだから、当然と言えば当然だが、前世でスグルが大好きだった友人は鼻息を荒くしてその良さを常々語っていたものだ。
「スグルの良さはね、やっぱり後半なのよ! 後半! 共通ルートの時はお前! だの貴様! だの言ってるけど、個別に入ったら、名前呼びにヤキモチのオンパレードよ?! 猛獣を飼い慣らしたようだわぁ……! ああ、堪らない!!」
そう言って、蕩けるような表情を浮かべた友人はご想像通りのドエムである。
スグルから、罵られれば罵られる程、その後の展開を想像し、悶えるらしい。
大切な乙ゲー仲間の友人だったが、私にはどうしても理解出来ない思考であった。
……そう、何を隠そう、私は俺様が大っっ嫌いなのだ。
私は鏡の中の自分を見つめながら、大きく溜め息を吐いた。
「はあああ」
「お嬢様、いかがなさいました? お髪が気に入りませんか?」
「えっ、ううん、そうじゃなくって。その、皇太子……様に会うのが億劫でぇ……」
「まあああ!!」
私の髪を整えていた部屋付き侍女のミクは信じられないと言ったように、その口を閉ざした。その目に否定の表情を見た私は戸惑いながら不安を口にしてみる事にした。
どうせ、皇太子を避けていることはバレているのだ。噂でも何でも良い。今生のスグルについて有益な情報の一つや二つ聞けるかもしれない。
「ミクは……皇太子様がお好きなの?」
「えっ、いや、まあ……お好きというか……崇拝はしておりますよ。勿論」
「そう……」
さすがに一介の侍女が皇太子を好きだと言うのは憚られるよね。聞き方を間違えた。何かフォローを口にしなければ!
「その、えーっと、皇太子様は俺様だってお聞きしているのだけれど……」
「はっ? お、俺様……?」
「ぎゃ、ぎゃあ!」
わわわ、私のど阿呆!!
皇太子を俺様呼ばわりしちゃうなんて!
……っていうかこの世界に俺様とかのフレーズ無いだろう?! なんて変な事を口走っているんだ、私!
「あわわわわ……」
私が一人でアワアワしているにも関わらず、慣れた様子で髪を整えるミク。
何故だ。その瞳や表情が義弟のカオルと被る。なんか気に入らない。
「まあ、皇太子様は、重責を担うお方ですから、難しい方かもしれませんが……」
髪を整え終わったミクは鏡の中の私にニッコリと微笑む。
「サクラ様の美しさならば、良き友人……いえ、いずれはご婚約されるのも夢ではないかもしれませんよ?」
ですから、頑張って下さい。というミクの言葉を聞いて私は気絶したくなった。
「私、死ぬのかなぁ……?」
悪役令嬢なんて、なるもんじゃないよ、やっぱり。
私はフラフラになった身体をミクに支えられながら部屋を後にした。
正直、ゲーム発売前の前評判から、隠しであるヒイラギを狙っていた私は他のキャラに興味が無かった。
特に俺様、何様、皇太子様!!
を地で行っているスグルには無関心どころか嫌悪感すら抱いていた。何が悲しくて乙女ゲームで罵られなければならんのだ。
私は癒されたい!そして、甘やかされたいのだ!!
基本的に我慢強く無く、短気な私。
そして、同じくな性格でツンデレのツンが異常にキツいと評判のスグル。
合うわけがない!
前評判でさえ、スグルの塩っ気を嫌った前世の私はそのルートをスルーしようとした。
しかし、結果的にガッツリプレーすることになる。
そう……。
スグル攻略後でなければヒイラギ様が攻略出来ないからである!!
さすがは愛しの隠しキャラ! 一定の条件をクリアしないとルートが出ないとは……。
想像してみて欲しい。
全く興味の無い男を落とすために青筋浮かせて攻略している私を。
何が悲しくて、お前! だの、貴様! だの言われなければいかんのですか?!
そりゃ、デレの時はグッと来ましたけどね?! 出来れば、デレのみでお願いしたいのですよ!
攻略中、あまりのツンぶりに何度ゲーム機をへし折ろうと思ったか……!
まあ、お陰でその後のヒイラギルートが更なる至福に感じられた訳ですが……。
「げへへへへ」
……。
つ、つまり、何が申し上げたいかと申しますと!
スグルとの面会、絶対的に上手く行かない気がする。むしろ、本編始まる前に命を落とす気がする!!
って事なんです。
しかし、無情にもさっさと乗せられた馬車は風のように王城へと向かっていくのでした……。