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第一話

設定など思い付きですので、甘い所が多々あります。ご容赦ください。

サラッと読んで頂ければ幸いです。

 あー私、転生したな、これ。


 そう自覚したのは寝て起きた五歳の時だった。

 知恵熱なのか、熱を出して寝込み続けた三日間。虚ろな意識の中、様々な前世の記憶が甦り、自身が転生をし、尚且つ、ここが乙女ゲームの世界である事を理解した。


 前世享年、21歳。

 若すぎる生涯であった。


 そんな事をボンヤリと考えながら、侍女に促されるまま鏡の前に座る。


 白銀に輝く髪と濃い紫色の瞳。

 つり目がちの瞳の側には泣きボクロまで付いており、これぞ正しく美人! であろう顔には、しかし、表情が皆無である。



 転生しても、悪役じゃねぇ……。



 とほほである。



 私の現在の名前はサクラ・スカーレット。

 魔法が混在する世界の公爵家長女である。実母が急逝している為、長女といっても後を継ぐわけではなく、跡継ぎには後添えとしてもらった義母の連れ子が就くらしい。連れ子なのに、後を継げるのか? そう思いもするが、それは大人の事情か、魔力の高さが至上とされる世界でその子が潜在能力を認められた結果であろう。


 その子は現在、四歳でカオル・スカーレットと名を改めている。私の義弟となる存在だ。



 そして、ご想像の通り、攻略対象者である。



 この世界は、前世で大変人気だった乙女ゲーム。

 あまりの人気ぶりにファンディスクや、CDまで発売され、さらには舞台やアニメ化にまで至るという白熱ぶりだった。


 攻略対象者は五人で、いずれもハイスペック、身分や魔力の高さは勿論の事、当然のように皆イケメンである。








「お、お姉様! お加減はもう宜しいのですか?」


 そう言いつつ、ご機嫌を取るようにビクビクしながら部屋に入ってきたのは、件の義弟、カオルである。


「……あら、カオル。ええ、もう大丈夫よ」


「そっ、そうですか! 良かった……!」


 本当に心底ホッとしたと言うように息を吐くカオル。そんな義弟を尻目に私はこれからのストーリーを思い返す。


 サクラとカオルは魔力保持者である。魔力を持つものはその大小に関わらず、成人と認められる15歳になった時、その力を安定させ、尚且つ自身にあった職業につくために魔法大学校に三年間入学する。

 平民出身の者は立身出世の為。

 貴族はその繋がりを強固とする為。

 その大学校に入るのは大変な名誉とされる。


 ゲームがスタートするのは、サクラが大学校三年の時、卒業する年の事である。

 メインヒーローがこの義弟、カオルの為、ヒロインもカオルと同じ二年生で編入してくる。


 なぜ、魔力保持者なのに編入なのか? そんな疑問も過るがヒロインは複雑な家庭環境、そして何よりもそうしなくては物語がスタートしないではないか! という事情がある。


 とにかく、この目の前でモジモジこちらを伺っている義弟はメインヒーローなのである。



 そして、私は悪役令嬢!



 暗くなった気持ちで思わずジトリとカオルを睨み付けてしまった。


 カオルは艶やかな黒髪と濃い青色の瞳を持った美形である。今は四歳であるからほんわかとした印象だが、将来は涎物の美形へと成長する。

 ゲーム上の私は、そんなカオルを幼い頃から激しく嫌い、虐め抜いている。


 突然出来た義弟に幼心に嫉妬心や寂しさを募らせた結果であろうか。



「……ひっ」



 またもや、虐められると思ったのか、カオルはその表情に怯えを募らせる。


「…………」


 私は、そんな表情を見ながら思う。





 どーでも良いわぁー! お前に興味はねぇーんだよ! 





 ……取り乱しました。

 幼く可愛らしい子供に向かってなんて事を考えるのかと言われるかもしれないが、今の私はそれどころではないのだ。

 正直、多少胸くそ悪いが、悪役令嬢だろうが何だろうがどうでも良い。




 なんだったら、ゲームがスタートする前日に目覚めて欲しかったとさえ願う。




 私がこの世界で願う事は一つ。




 魔法大学校、教師であり、隠しキャラのヒイラギ・ウォーカーの声を間近で拝聴する事である。




 ……もう一度言おう。




 私は、ヒイラギ・ウォーカーの声が聴きたい。だけ、なのだ。



 他には何も望まないし、何より前世から最大の願いがそれだった。



 私は前世で、声優をしていた。声優と言ってしまえば聞こえは良いが、声優育成の専門学校を出た後、事務所に所属したは良いが、主役は勿論の事、端役のオーディションにも受からず、もはや素人と変わらない自称声優であった。


 来る日も来る日も、オーディションとバイトの日々。むしろバイトがメインとなりつつある生活に拗ねて、表情も暗く、目線は低く、ひたすらに世の中を恨んでいた。


 転生した今思い返しても、あの精神状態は危険だった。


 そんな自分の状態が悪かったのか、信号を良く見もせずに横断歩道を渡った結果、呆気なく事故に遭ってしまったのだが。


 むしろ、亡くなり転生した今となっては、運転手の方に謝りたい。私がフラフラとさ迷うように歩いていたせいで、死亡事故を起こさせてしまった。


 申し訳ない。


 ……話が逸れてしまったが、そんな私にも憧れや望みがあった。それが、ヒイラギ・ウォーカーに会うことである。


 厳密に言うと、ヒイラギ・ウォーカーの声優をされている男性に会うこと、だったが。


 私はその職業に声優を選ぶほど、声フェチである。ゲームやテレビは勿論、ラジオでも気に入った声があれば、悶えられる自信がある。


 そんな大の声フェチの私の中で、断トツ一位だったのが、ヒイラギ・ウォーカーである。

 最早、その一位は不動のもので、その方とお会いしたいが為に声優の道を志したと言っても良い。


 声は勿論の事、ヒイラギ・ウォーカーのクールな性格やその生い立ち、何もかもが私にはツボだった。ファンディスクやCDを買い漁り、イベントにも声優勉強と称して通い詰めた。


 ああ、あの至福の時……!!



 ……。



 つ、つまり、あの憧れの世界に今、自分は降り立っているのである。


 実際は悪役令嬢で、結末的には、義弟ルートや婚約者ルートで追放もしくは死亡ルートであろうとも!


 それはそれ、これはこれである。


 例え、ゲーム補正が働いて、そのような結末に至ろうとも、私は屈しない。


 この身で、耳であのお声が聴けるのならば、どんな苦労でも背負う覚悟である!


 私、サクラ・スカーレットは、ヒイラギ・ウォーカーのお声を聴くためならば、どんな困難にも立ち向かう!!



「うおおおおおお!!」


「お、お姉様?!」


「お、お嬢様!!」


 立ち上がり、雄叫びを上げた私に周囲は慌てふためいている。


 しまった。

 自分の立場を忘れていた。


 しかし、私は忘れない。今日のこの日を決意の日として、改めて生きていこう。



 あわよくば、生き残り、ヒイラギ・ウォーカーと結婚……。



 いやいや、そんな畏れ多いことなど、出来はしまい!






 立ち上がったまま、悶絶する私を見て、義弟が義母と父を呼びに行ったのを、このときの私は知る由もなかった。

お読み頂き、ありがとうございました!

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