八話
「さっきは助けてくれてありがとー」
作った花冠をカイルの頭に乗せながらお礼を言うアケミ。「
(何故俺に…)声が聞こえたからな。当然のことだ。」
二つ目の花冠を作りながら「ジェルもお礼言わなきゃ。」と、全く心のこもっていない言葉を発する。
「…………」野原に寝そべり、無言のジェル。
「…た、すけてくれて…あり…がと…」と寝そべり、そっぽを向いたまま言うジェルに、頭に白い花冠を乗せた阿保みたいなカイルは、ジェルの年相応の態度に少しだけ安堵した。
「…とでもいうとでも思ったか!!バカ!!バカ!!ハゲろ!!明日ハゲろ!!」
お礼を言ったと思ったら次の瞬間には寝そべったままカイルに対する嫌悪を口にした。
アケミとカイルは絶句する。
ジェルは立ち上がり大爆笑をする。
「どうしたの?大丈夫?」と、アケミが声をかけると、
「なんでもない。お昼にしよう?アケミ。」ジェルは少年の清々しい笑顔でアケミに言った。
「…昼飯なのだが…」カイルは顔を横に向けて昼ごはんの入ったバスケットを見る。
バスケットには動物たちが群がり、昼ごはんを食べていた。
「「え?」」ジェルとアケミは固まった。
「…さ、幸い、中身は柔らかいパンと葉物野菜、ミルクだけだ。動物たちに害はない。問題ない。」
「いや、そこじゃないでしょ。大事だけどさ。」
「そーだわ。そこじゃねーよクソが。ハゲ、死ね。」二人(主にジェル)はカイルにブーイングと罵詈雑言を掃出したが、結局ご飯は戻ってこないことを悟り、帰ることを決めた。
「今から帰れば夕飯前には優に着くだろう。よし…アケミ、私の馬でいいな?」カイルは淡々とそういう。
「はあ?なんでお前みたいなオッサンとアケミが一緒なんだよ。アケミは俺の馬でいいだろ。」
「私の方が馬に乗っているし、体格も大きい。安定しているのは私だと思うが?」ウンザリとした様子でいうカイル。
「うるせぇ。喋んなよ。」そんな二人のやり取りを全く気にせず花冠を量産しているアケミ。
「アケミはどっちに乗りたい!!」突然ジェルに聞かれてビックリするアケミ。
「ん~、馬乗るの初めてだからカイルかなー。ジェルとはまた今度乗るよー」
アケミはにっこりと答えた。そんなアケミの答えにふて腐れたのか、ジェルは無言で馬を走らせて帰ってしまった。
「じゃ、行くか。」と、何もなかったかのようにカイルは告げる。
カイルはアケミを馬に乗せ、カイルはその後ろに跨った。
馬に乗るという行為自体初めてなのに二人、しかもイケメンに抱擁されているような形で乗っているのでとても恥ずかしかった。
…気まずくはないけど…とりあえず!!仲良くなるために話しかけろ私!!
「今、今日は、いい天気ですね。」
「…ああ」
私の馬鹿!!コミュ障か!!コミュ障なのか!!
「…俺の前では、無理に話題を振らなくてもいいぞ?」
おやぁ?私は別に無理など…
「俺は無言でも平気だ。無理に仲良くしなくてもいい。今日だけで随分疲れたんだろ?無理するな。時間は沢山ある。」
…年上にはかなわんな…全部見透かされてるようだわ…
アケミは手綱から手を離し、後ろのカイルにもたれかかった。
「…どうした?」
「…落ち着くの…最高だよ。カイルの身体…」
「一々言い方が変だぞ?」フフフと笑うアケミ。
「だって落ち着くんだもーん…体格がいいから胸筋が良い枕になるし、心臓の一定のリズムは子守唄、あったかい人肌で…」
寝るなよ。と注意をしようと思った矢先に口を開くアケミ。
「手綱を引く手は男の人のちょっとゴツい大きな手で腕も筋肉質、腹筋も割れてるのかな?身長は190超えてるのかな?素になると俺口調になるのもポイント高いね。」
いつ観察されたか分からないが軽く寒気がした。
「…すごい観察眼だな。俺にはお前が変な女だということしかわからないがな…」
ゆっくりと進む馬。風が吹き、ふとアケミが上を向くと、灰色の髪を風になびかせて、アケミを見る目が優しく細められていた。アケミはトクンッと心臓が鳴り、これはいけないと思い「何?惚れた?」と冗談を飛ばす。カイルは優しい瞳のまま「かもしれないな。」と返してきた。
アケミの頬はピンクに染まり、
これ以上は惚れる危険有と判断し、すぐさま無言で前に向き直った。