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七話

IN野原

野原につき、御車(フォッカ)は三頭で引いていた馬のうち二頭を置いて先に帰った。

野原は一面シロツメクサのような白いふわふわとした花が咲いていた。

一瞬綿毛やケセランパサランかと思ったが、触るとしっかりとした質感があり、花だと実感する。


「可愛いこの花は、なんていうの?」と、アケミはカイルに聞いてみた。

「この花はシロケワタという花だ。光を浴びるとわずかだが発光する。今も光っていると思うぞ?」と、しっかりとした解説が入った。

アケミは何故か「ホホゥ」と悪い顔で笑う。

アケミは考えるように立ち尽くし、風を感じるように目をつむった。

サワサワという風の音が聞こえる。

カイルもジェルも同じように立っている。

そんな静寂を切り裂くように、アケミは馬鹿でかい声で

「じゃ、かくれんぼしよっか!!」という。

突然の大声に二人はビックリして目を見開く。


「鬼はカイルね?かくれんぼってかくれる人を鬼が見つけるの。最初に見つかった人が次の鬼で、ここから約半径2キロ以内に私とジェルが隠れるから100数えたら見つけに来てね?」


急いで説明し、呆然とするジェルの手を無理やり引いて、走って隠れ場所を探すアケミ。

カイルもしばらく呆然としていたが、やっと我に返ってつくづく強引な女だと思いながらも100数え始めた。


「っておい!!」ジェルはアケミの手を振り払う。

あたりを見るとすでに野原は全く見えない森の中。すぐそばには洞穴らしきものが見える。

「どうしたの?」アケミは不思議そうに聞いてくる。


「どうしたじゃない!!!」


「??かくれんぼ嫌だった?」


「違う!!あ、違わないけど…勝手にかくれんぼするって言ったと思ったらアイツに鬼押し付けて、勝手に俺の手を引いて走りやがって!!」


「ん?楽しいよ?かくれんぼ。」


「あああ!!!話しが通じねえ!!異国人かお前は!!」


「そうだよ?」


「ああ!!もう!!とにかく俺は、やらない!!」怒って来た道をたどるジェル。


「ええー、私この洞穴にいるから見つからなさそうだったら来てねー」後ろからそんな声が聞こえたが、無視をするジェル。


大体何が悲しくてかくれんぼなんて…あの女…来てから一日しかたってないのに劇的に俺んちの家族関係を変えてくれやがって…強引で、人の話聞かないキチガイで……


ふと立ち止まるジェル。


…あの女、来た道わかるのか?


「アケミ!!」大声で呼んでみる。

「なーにー?」返ってきた。


「来た道わかるのか?」


「わかんなーい!」


ああ…やっぱり…


ジェルはアケミの居るであろう洞穴へ向かった。


あの女を一人にして、迷子になって騒ぎになったら面倒なだけだ。別に心配とかしてないし、あんな人んちの事情に首突っ込むおせっかいで阿保で小さいやつのこと心配なんかするわけないし…


大きな洞穴の入り口を覗くと、アケミがちょこんと座っていた。

ジェルも隣へ座る。

「…仕方がないから戻ってきてやった。別にお前が心配で戻って来たとか、心細いかな。なんて思ってないんだからな…かくれんぼも楽しそうだと思ったからなんだからな…」

顔を真っ赤にしてそっぽを向くジェル。

「やっだー、ツンデレ?お姉ちゃん興奮しちゃう~」アケミは嬉しそうに笑う。

その笑顔を見てジェルは自分の気持ちに気が付いた。


≪俺は、この女が好きだ。≫と、人の家を荒らし、強引で笑顔で意味不明な存在であるこの女が、気になるのだ。

もっと知りたいのだ。もっと仲良くなりたいのだ。

この女となら気軽に話せる気がする。この女となら何でも言い合える気がしたのだ。

「…気持ち悪い…ツンデレじゃない…」ジェルは溜め息をつき、アケミは笑う。二人はコソコソと他愛ない会話をしてクククと笑いあう。

そんな二人の笑いが、叫びに変わった。


…ジェルのやつ完全にあの女のこと好きだろ…ルゥナもあの女のことが好きだが、その好きとはまた違う。

ルゥナの好きを親愛だとするとたぶんだがジェル好きは友愛。

人付き合いが苦手で、友人一人いないジェルがあんなにしゃべるとは感心だが…初めての友達があんなのでいいのか?

「っておい!!」近くからジェルの声がする。

「違う!!」


…場所を特定することは難しくない。まあ、すぐに終えてあとはのんびりと野原で寛ぐか…


すると突然「ギャァアアアア」という二人の叫び声が、向かっている途中で聞こえた。


「ギャァアアアア!!!」二人の目の前に現れたのは巨大な竜であった。

「ちょっ…ジェル!!なんとかして!!」ジェルの後ろへ隠れるアケミ。

身長はジェルの方が高いので難なく隠れる。

「はあ!?無理無理無理無理!!」首をブンブンと横に振るジェル。

「ジェルのことは忘れない!!だから私をこの世に置いて食べられてー!!」

後ろからジェルを竜へ突き出すアケミ。

「アケミお前!?死ね!!」

そんなやり取りをしている間に竜の顔はジェル頭上に迫ってきていた。

その時、カイルが丁度よく現れた。

カイルは竜の鼻先に剣をぴたりと付けて止まった。

「…なんだ、竜ではないか…」カイルはホッとしたように言う。


「なんだ!?俺らは食われそうになったんだぞ!?」


「うるさい。静かにしてみろ。」


『ワシの話しを聞けーーーーー!!』


「…お?これはなんだ?」早々にアケミは面白そうに言う。


「その老いた竜が私たちに話しかけているんだ。」

「…………」ジェルは不機嫌そうである。


『ここはワシの家じゃから静かにしろと言いたかったのに、この若いのときたらギャアギャア騒ぎよって…』


「スンません…」

「…………」なおも無言のジェル。


『これに懲りたら焦らず、騒がぬことじゃな。』


老いた竜は短く説教をして家、もとい洞穴の奥へ去って行った。

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