三話
屋敷に着くまでに軽い…か、か、軽い…自己紹介をされた。
ジン(オジ様)は公爵様で45歳。あんまり家にいないし家にいても仕事ばかりなんだと教えてくれた。
灰髪の美丈夫はカイルというらしい26歳。20年前に屋敷の前に捨てられていたのを拾われて今ではオジ様の仕事を手伝っているらしい。文武両道優れている自慢の息子だと紹介された。
くり髪の美人。片目隠しはルゥナというらしい18歳。1年前に森でさまよっているのを見つけて保護したらしい。最初から剣術の知恵、マナーは身についていたらしい。彼は絶対片目を見せてくれないんだと悲しそうに話していた。
暗い青髪の少年はジェルというらしい12歳。5年前木にくくりつけられているところを保護したらしい。勉強優秀、12にしてマナーは完璧だが、剣術はまだまだ発展途上中で毎日頑張っているとか。早く社交界に出すのが楽しみだと話していた。
最後に御車さんは半年前くらいに上司の御車に虐げられているのを見て保護、以来御車を雇う金を節約できたと冗談交じりに話してくれた。
4人のことを自慢げに話すオジ様はとても嬉しそうに見えたが、同時になぜかおびえているようにも見えた。とりあえず、私も半分嘘半分本当みたいなことを話す。
いきなり見知らぬ土地に来て、ここがどこかもわからず空腹で倒れ、保護されたということにした。
前後の記憶はあいまいという都合のいいことにもしておいた。が、ルゥナに
「本当?」と聞かれてしまった。
内心ビクビクしながら私はあいまいに笑い返すしかなかった。
屋敷は森の中に忽然と現れた。とても大きなお屋敷だ。
部屋なんていくつ有るかわかったもんじゃない。屋敷に入るとオジ様が調理場に行き夕食を作るようだ。私はその間に屋敷をルゥナに案内してもらうことにした。
「…タナカアケミ…どうして嘘をつくの?」ルゥナの発言にギクッと…というか普通に本名で呼ばれてしまった…
「な、なぁ~んのことかなぁ~」
構わず進もうとする私の手をルゥナの白い美しい細腕が引いた。
「サカルス…偽名でしょ?本名はタナカアケミ」
何故ばれているのだろうか?ヤダ…私口にしてたかしら?歳って怖い!!
「……僕、心読めるの…」
心を読める?…それって美女様が言ってた特殊能力…
「ルゥナ、なんかの部族?」ルゥナの目が開かれた。
「んでもって目の色が違う…とか?」堪らん設定ににやにやと聞いてみる。
目が開かれたままルゥナの腕にも力が入る。
男性だから力が強いなぁ~とか思ったりして……
思ったとたんにルゥナは手を放してくれた。
「…ごめん…」「平気よ」とすぐ返し、私は微笑んだ。
その後私は謝った。
「私こそごめんなさい。嘘ついて…だって、別世界で一回死んだとか、別世界から来たとか、美女の使者にあったとか信じてくれないと思ったから…」
ルゥナは大真面目にうなずいた。
「僕、今そういわれても信じられないよ。」
「やっぱりね!!」アケミは泣き真似をした。
「でも、嘘をついていないことはわかるよ…それに、どうして僕がどこかの部族だってわかったの?あと眼のことも…」
「部族のことはねぇ~美女の使者に聞いたからそうかなってね。瞳は漫画とか小説読んでたら鉄則と言っていいような設定だからわかったよ。」
ものすごくうれしそうなアケミ。
「僕の部族はヘビ族だったんだ…ヘビ族は金色の瞳なんだけど、僕は、人間との混合種で、異端だから追い出されたんだ…」
ルゥナは悲しそうに顔を伏せた。
「ある程度の年齢になったから追い出されて、今に至ると…成程…そして、混合種だから瞳の色が片方違うと…ちょっと見せてもらってもいい?」
ワクワクし過ぎて鼻の穴が広がるアケミ。
ルゥナはその気迫に負けて片目を見せる。アケミの心情が気になり読む。
すると、今までの人々の反応にはなかったものであった。
いつもは気持ち悪い、異端者だ、奇妙、売れるか?等のルゥナにとって負の好奇心しか見られたことがなかったが、今目の前に居るアケミという子は、
オッドアイキター!!、綺麗、素敵、美しい!!、いいなぁ取り替えてほしい!!いーなーいーなー
等の好意であった。ルゥナの瞳を見て美しいなど思ってくれる人はいなかった。ルゥナは心の読める人生の営みの中、今この瞬間が一番うれしかった。
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私はうっとりとルゥナの顔を見つめていた。金色の瞳と赤色の瞳、透き通るような白い肌、中性的な彼の顔はとても美しかった。
「美しか~」ほぅっと眺める私。
「あ、ありがと…」恥ずかしがってささっと眼を髪で隠すルゥナ。
可愛い…。
「可愛く…ない!!」だんだんと心を許してくれているようでアケミは嬉しく、自然と微笑んだ。
ルゥナの心を読むということはオンとオフができるらしい。
習得するのに大分時間がかかったという。
私の部屋はルゥナとカイルの間の部屋にしてもらった。ちなみにジェルは私のお向かいさん、オジ様は私の右斜め前、御車さんは左前である。
大きなお屋敷なのに人のいるところが偏りまくっている屋敷である。
部屋にはそれぞれ風呂があり、
え?誰かの入った後なの?ドキドキ…なんて展開にならないで助かる。
また、部屋一つ一つ違う鍵でセキュリティも万全である。
二人は部屋を回り、リビングへ戻ってきた。リビングにはもうカイルとジェルが待っていて、すぐに夕食となった。
パン、スープ、サラダ、白身魚、ムースと普通の家庭料理が出てきて安心して食べた。今日皿を洗うのは私の仕事になっていてウキウキ気分で洗っていた。
「い、い、い、いせかいとりっぷるんたったー♪」ヘンテコな歌を歌いながら洗っていると後ろから抱きしめられた。
「わっ!?ルゥナ!?どうしたの?」長身のルゥナはもそもそと自分より小さいオトハの背中にほおずりをし、抱きしめる力を強くする。
「もそもそぉ……もそぉ…」明らかに様子がおかしかった。
「どうしたの?」私は作業を止めずに子供に語りかけるような優しい声で言った。
暫くの沈黙。
「……寂しい…」どうして?と聞くと「…誰も、リビングにいない…3人とも、部屋にこもるんだ…家族のはずなのに…遠い…さみしい…」
ルゥナのすすり泣く声が聞こえる。
自分よりも年上で、身長だって大きいのに、か弱いルゥナを可愛いと思った。私は作業を中断してルゥナを抱きしめた。
背中をポンポンと叩いてあげる。
「家族みんなで、仲良くできるといいね…ルゥナは前の家族からも疎まれてたから余計寂しいんだよね?…仲良くするためにも親睦会とか、会議とかできるといいんだけど…」
「…僕、家族の心は覗かないようにしてるの…」
ルゥナは裾で涙をぬぐいながら言う。
「でも、さっきの馬車の中で、カイルは同じこと考えてたよ…偶然覗いちゃったの…」
付け足すようにルゥナは言った。
私は指を鳴らし、
「さぁ、カイルの部屋へ行こうではないか!!」と張り切って言った。