十話
「…さてと…話そうか。彼女について。」ジンは微笑む。
「アケミいい子。今日で分かったはずだよ。」ニコッと笑うルゥナ。
「まあ、変な女ではあるけど…悪いやつではないな…」
「ジェルに同意だ。」と、二人は言う。
「ところでルゥナ。あの馬車酔いみたいな感じで帰ったのは、あれ真実か?」ジェルが不思議そうに聞いてくる。
「あー…あれ、カイルと話して決めたこと。ジェルとアケミの距離が一番遠そうだったから、人数減らした方がいいかと思ってさ。事実、アケミと仲良くなれたでしょ?」ルゥナは肩をすくめた。ジェルは「やっぱりな…」とソファーへもたれかかった。ジンはそんな息子たちの会話をニコニコとみている。
「父さんはアケミのこと信じるんでしょ?」ジェルは何気なく聞いてみる。
「ん?もちろんだとも。ただ、みんな本当はどうなのかなって心配になってな。こうやって本音を聞こうかと…まあ、実際必要なかったみたいだな。みんなアケミちゃんに好意を持ってくれてて嬉しいよ。」
ジンは嬉しそうにしながら御車がサッと持ってきた茶を啜る。
「それはそうと、アケミちゃん可愛いよなぁー」いきなりの変態親父な発言に「おいっ」とツッコむカイル。
「いや、思わないか?アケミちゃん黒髪黒目が実に色っぽいし性格だってちょっとお転婆だが愛嬌がある。」何が言いたいんだ。とばかりに三人はジンを見つめる。
「可愛らしいから町へ一人で出すのは危ないんじゃないかと思ってな。彼女だって買い物を自由にしたいだろうが、あんなか弱い娘一人だと心配で…」
「つまり、彼女が一人で買い物行くときは誰かしらに尾行してほしいと?」カイルがかいつまんで話す。
「そういうことだ。」ジンは満足そうに微笑み、また茶を啜る。
「僕やるー。アケミと一緒に買い物行くー。」ルゥナは手を挙げて意気揚々と言う。他の2人も「そんなことか」と承諾した。
「まあ、みんな忙しいだろうし、各自暇な人が担当してくれ。と、なると大体はフォッカにまかせっきりになってしまうと思うが…いいかな?」フォッカは頷く。
「ん。よし。じゃ、解散だ。夕食を担当する奴は今から作らんと間に合わないぞー。」
「ほんとだ…」夕食担当はルゥナだったようですぐさまパタパタと台所へ走って行った。カイルたちはそのままリビングで夕食が出てくるまで会話をしていた。
なんでだよ!!どうして私だけ除け者なんだよ!!でも、家族団らんも大事だよね。家族間が良くなったら万々歳だしね。よし!!私は私でこの世界に馴染んで幸せに暮らすぞ~うひっ…
『へ、へんたいっ!!』
この声は美女さん?私寝てないよ?
『頭に語りかけるくらい何時でもできるわよ。それよりも、いきなり竜と遭遇するとは…運がいいのか悪いのか…大丈夫だった?』
あ、はい。竜が穏和で良かったです。みんなあんな感じなんですか?
『いいえ、あれは人慣れしているからよ。野生や竜人だと襲いかかってくる可能性があるわ。特に生物は何でもそうだけど繁殖期!!竜の繁殖期である冬には絶対に近づかない方がいいわ!!冬に竜は使わないし、竜人も気がたってて危ないわ。…色々と…だから注意してね。』
美女さんありがとう。心配して伝えに来てくれたのね?
『べ、別にそんなんじゃ…あ、か、カイルが来たわよ!!じゃあね。』
トントンとノック音が聞こえ、ドアを開ける。そこには美女さんの言うとおり、カイルがいた。「夕飯ができたぞ。」と言うカイル。私は頷いて、カイルの後ろをついていく。そんな時、ふと疑問が出てきた。
「ねえ、カイル。」
「どうした?」
「カイルとオジ様は血の繋がりがないけど夜会とか出るんでしょ?」
「…まあな。」血の繋がりは余計だったと反省しながら次の質問を投げかける。
「私も出ていいの?」その質問に対して「は?」と言う言葉しか返ってこなかったが、それだけで十分であった。一応私の立場はメイドであり、スペンス家の人間では無いということだ。
「…ドレスくらいなら買ってやれるけどな。夜会は無理だな。…そういえばそろそろルゥナにも出てもらわなければ…」二人はリビングに着いた。夕食のメニューはシチュー、パン、サラダ、何かの肉のステーキ、木の実の乗ったケーキ。美味しかった。
夕食後は何とジェルの提案でカードゲームをした(7並べてきな)。
「!!ダイヤの8止めてんの誰だよ!!」
「フフフフ…」
「…あれ?…出せない?」
「フフフフフフ…」アケミはほとんどのカードを止めて、止めすぎて負けた。ひとしきりゲームもし終わり、良い時間になったところで解散となった。私は部屋に戻って風呂に湯を溜めた。
このお屋敷のお風呂は大きく、いろんな入浴剤もあった。外国にありがちな(偏見)お風呂とトイレ一体型ではないのも嬉しい。ただ、お風呂が大きすぎて掃除をするのが大変である。
ちょっとだけ某アニメ映画の魔法使いの気持ちが分かった。カイル達曰く、このお屋敷にはいろんなものが有るらしい。
まだ案内が全て済んでいないらしいので見ていないものもあるが、ワインセラー、ミニ夜会場、図書室、植物のない温室。少々無駄な設備もあるが、こんな大きくて立派なお屋敷をオジ様が建てたというのだからすごい。
「ムッハ~」変な声を出しながら湯船につかる。置いてあった白い液体を入れてみる。湯船はみるみる白くなり、少し甘いような匂いがする。潜ったり泳いだりはしゃいでいると少しのぼせてしまった。
お風呂から出て、ネグリジェを着る。もっともこのネグリジェはオジ様の元カノの物だったらしく、ずっとオジ様の箪笥に放置されていたので男性特有の匂いがした。スーハー吸っていたのは内緒である。明日町へ出て私の物を買うらしいのでそれまでである。少し残念だ。
今夜は美女さん来るかな?なーんて考えながらベッドへ潜る。




