九話
会話のキャッチボールが何話か続く予定です。
二人は屋敷に帰るなりリビングに通された。
リビングにはジン・ルゥナ・ジェルが座って待っていた。
「これから、家族会議を始める。」
ジンは父として、貴族としての威厳・威圧感たっぷりに言った。
「宣言します。僕たちは、全ての質疑に嘘偽りなく答えることを誓います。」
ルゥナが言わされてる感たっぷりに言う。
状況のつかめないアケミは白目、カイルは口を開けていた。
「先ほども言ったが家族会議である。私が質問する内容に対し、全て嘘なく答えること、禁止事項・決定事項がある場合は必ずそのことに従うこと。それだけだ。では、有意義な時間を過ごそう。まず、サカルス・フォン・ヘドス。もとい、タナカ アケミ」
「は、はい!!」
裁判所・裁判官のような、あまりの威圧感の為、罪を犯したわけでもないのにビクビクとして立ってしまった。
「君は、異世界から来たという話しは本当かね?」
「はい。信じがたい話ですが。」
「悪意もないのだね?」
「はい。この家で異世界生活をエンジョイしたいです。」
「本名は?」
「田中 あけみです。」
「座ってよろしい。」
黙って座るアケミの内心はホッとしていた。罪を問いただされ、それが終わったような気さえした。
「たった今から、我が家スペンス家一同とそれに近しいものはこの娘、タナカ アケミを全面的に信用することとする。以上だ。」
まばらな拍手が起こる。
アケミ自身ルゥナたちの苗字を初めて聞いたことに驚いたこととこんなに簡単に信用されていいものかと思った。
まあ、いいんだよね…
アケミは深くは考えないことにした。
「次、ジェル。」
「はい。」ジェルも立ち上がる。
「…わ、私のことは…父として…好いているか?」
ジンは泣きそうな顔で見ている。
「もちろんです父さん。」ジンの目からは安堵が感じられた。
「…もう少し…聞かせてくれ…」
「はい。俺は、父さんが大好きです。本当は甘えたいし、遊びたいし、もっともっとわがままを言いたい。けど、父さんは忙しいから…我儘を言って困らせたくなかったし、嫌われたくなかったから、父さんの前でだけいい子になってました。」
「…そうだったのか?」ジンは本当にびっくりしたようで涙も引っ込んでいた。
「ええ。前に父さんに[友人はいるのか。]と聞かれたときに[たくさんいます。]と答えました。しかし、友人と呼べる友人なんて一人もいないです。父さんに心配をかけたくなくて嘘をついていました。ごめんなさい。」
ジェルは深々と謝る。
そんな息子の姿を見てまた涙をこらえるジン。
「…そんなにしてしまったのは私なんだな…すまない…これからは父さん…仕事もっと休むな…父さんも、ジェルのこと愛してるよ…最後に、家族みんなで仲良くやれるか?フォッカとアケミちゃんも入れて。」
「カイル以外とならできます。」
しばらくの沈黙。
「もう一度聞こう。みんなで仲良くできるか?」
「カイル以外なら。」
沈黙。
「…ルゥナは仲良くなれそうだし、アケミもいい友人になれそうだけど…カイルは無理。絶対無理。嫌だ。父さんでも強要したら嫌いになる位嫌だ。」
ジェル以外心の中でどんだけ嫌われてんだよカイル…と思ったことは言うまでもない。
「…なら、仕方がない。いいだろう。だが、嫌なら嫌なりにでも関わりなさい。関わらないというのは無しだ。実際関わってみたら良いやつかもしれないだろ?分かったな?」
「はい。父さん。」深く頷くジェル。
「座ってよろしい。次、カイル。」
「はい。」立つことが当たり前となっているのか、立ち上がるカイル。
「…いつも仕事で苦労かける…」
「そんな…まだまだです。」
「何を言うか、助かっているよ。ありがとうな。…カイルのことは信頼しているよ。もう20年も一緒だもんな。」
「…ええ。」
「お前はみなと仲良くできるか?」
「もちろんです。」
「うん。ならいい。座ってよし。ルゥナのことは私から言おう。みんなわかっていると思うが、ルゥナはヘビ族と人間の混合種で寂しがり屋だ。しかも心が読める。ルゥナはみんな一緒で温かい幸せを作りたいと言ってた。ルゥナには、人の心をむやみに覗くことを禁じた。あとはちゃんと自分からもしゃべるようにともいった。」
ジンは隣に座っているルゥナの髪をくしゃくしゃと撫でる。
「あとは…私だ。真実を言おう。私は君ら全員を愛している。これは変わらない事実だ。が、私は愛されていると思わなかった…嫌われていると思っていたんだ…つまりは、そんな男だ。マイナス思考でさっき分かった通り涙もろい。外見だけ見繕っても中身はこんなんなんだよ…」
ジンは悲しそうに笑いながら告白する。
「オジ様…私、オジ様のそういうギャップ好きです…」
うっとりとアケミは言う。
「ありがとう…ところでアケミちゃん。少し席を外してくれないか?フォッカ。盗み聞きしないように見張っててくれ。」
にこやかに御車にいいつけ、手を振ってアケミを見送るジン。御車はアケミを押し出す。
「ちょっ!?オジ様!?全然信用されてないじゃないか!!」
「…さてと…話そうか。彼女について。」ジンは微笑む。




