STEP.9 銃弾の雨を掻い潜れ
『拳銃』スキルの一つ『乱射』は、総弾数全てを一気に吐きだす初級中の初級スキルなのだが『NLC』固有種族:ギャングスタが使う場合、その効果は微妙に変更される。
『総弾数全てを一気に吐きだす』から『総弾数を三倍にする代わりに、命中率を物凄く下げる』スキルに変更される。
総弾数が三倍になるとはいえ、命中率が著しく低下するため、殆どの『ギャングスタ』プレイヤーはレベルが低いうちには利用しないスキルなのだが、しかし、この至近距離。一歩二歩分あるかないか程の距離。命中率が低いとはいえ、三倍の物量をぶつけるとなると、必中率はほぼ百パーセントになる。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たるというやつだ。
それを見越して、この『ギャングスタ』は『乱射』を選択したのだろう。
目の前で唐突に引き金をひかれ、咄嗟に大槌を盾のように構えて、その陰に隠れたクウは、そんな事を考える暇もなかった。
そもそもゲーム初心者である彼が自分が持っていないスキルなぞ覚えているはずもなく、ただ『ゲームの中なんだから、物理法則を無視してもまあおかしくはないか』と、この多量の銃弾に対しては考えていた。
ともかく、防御用の武器ではない大槌。しかしその大きさは、人一人ならなんとか隠せるほどで、確かに盾としても有能ではあった。
しかし、武器を防御に利用しては攻撃に転ずることが出来ない。
迷ったクウだったがしかし、さすがに弾数無限の銃ではないようだし──。
「弾切れになった隙を狙って大槌で攻撃を仕掛けよう。とでも思ってんじゃねぇだろうなぁ?」
「……!?」
バレていた。
『ギャングスタ』は弾切れになった拳銃をポケットの中に戻すと同時に新たな拳銃を取り出して、再び発砲。
「アホか。なんのためのアイテムボックスだよ、拳銃の予備ぐらい幾らでも用意してあるに決まってんだろ」
「ごめんなさいね! 始めたばかりで金がなくてさ、予備を買う。なんて余裕もないんだよ!」
「ハハハ! 貧乏人は苦労するなぁ!」
銃声に紛れてよく聞こえないが声の近さからして『ギャングスタ』は『乱射』しながらゆっくりと近づいてきているようだ。
近づいて、盾の外からクウを狙い打とうという算段らしい。
一歩、二歩と近づき『ギャングスタ』とクウの間には、とうとう大槌一つ分の間合いしか無くなった。
武器が大槌一つのクウは、それを盾に使っていて逃げることも、動くことさえままならない。
対して『ギャングスタ』は拳銃ごと交換して、球数はほぼ無限。
さすがにあそこまで自慢しておいて、予備は三つしかない。とか、そんなマヌケな事はないはずだ。きっと、このイベントが始まる前から買い占めていたのだろう。
全く、つくづく初心者には優しくない設定のイベントである。
ともかく、ここで負けるわけにはいかない。
残り3Gと、はした金しか残っていないが、だからといって負けて2Gを失うなんてもったいないことが守銭奴で倹約家のクウにできるはずがない。
「殻に籠るなんて卑怯なやつだなぁ。男なら正面から向き合って勝負しろよなぁ!」
弾切れになった拳銃を投げ捨て、新しい拳銃をアイテムボックスから取り出しつつ『ギャングスタ』は、不敵な笑みを浮かべつつ、盾代わりに立てている大槌の上から腕を伸ばして、下にいるクウに銃弾が命中するように、銃口を下にして、構える。
二人の距離は、もはや大槌一つしかない。
もう何が起きても、物理的には避けようがない。
「じゃあ、正面から勝負してやるよ!」
瞬間。二人の距離が限りなくゼロに近づいたこの瞬間、『ギャングスタ』が引き金をひくよりも速く、クウは地面を蹴った。
蹴って、大槌ごと『ギャングスタ』へ体当たりを敢行した。
「う、おおぉぉぉ!?」
クウに止めをさそうとして、少しばかり油断していた『ギャングスタ』は、逃げることさえままならず、大槌の体当たりを直で喰らう。しかし、満タンだった体力ゲージが少し減った程度で、『ギャングスタ』は大槌とクウの体当たりを押し止める。
「アホか。いくら完全スキル制のゲームだからって、初心者が正面勝負で勝てる訳がないだろ」
「……正面からはダメか」
いたちの最後っ屁を止められたクウは、しかし落胆の表情を浮かべるわけでもなく、普通に息を吐いた。
「んじゃ、横槍をいれさせて貰う!」
「スキル『進槍』!」
茂みの中から、薙刀を突撃槍のように構えたあずきが飛び出した。
スキルの効果によって速度があがっているあずきは、薙刀の柄の先を強く握り、突きだす。
茂みの中に隠れていたからか、『ギャングスタ』は、あずきの存在に気づいていなかったらしく、突如現れたあずきの攻撃に対応することが出来ず、防御する間もなく、突きだされた薙刀が、『ギャングスタ』の頭を貫いた。
「二人……いたのかよ……」
『ギャングスタ』の体は青色の粒子にへと姿を変え弾けると、あずきのアイテムボックスに幾分かの金と、拳銃などのアイテムが追加された。
「えっと、なにこれ?」
「PKをしたら、相手が持っているアイテムと金の一部が貰えるらしいぞ」
「へー。このゲーム、他のプレイヤーを倒してもいいんだ」
「そりゃあ、四つの国が戦争をしているって設定だからな。他国を攻撃できなかったら、戦争が出来ないし、クラウンを奪うことが出来ないだろ……PKをすれば、効率よく金が稼げるかもしれないな……」
クウはそんな物騒な事を考えているが、PKをし続けると、ペナルティーが発生する事もあるので、それは余りオススメできる事ではない。
ともかく、クウはさっきまで『ネズミ小僧』がいた巨木の根本を見る。さすがにあんな長時間放っておけば、効果は切れるようで『ネズミ小僧』の姿はそこにはなかった。
「逃げられた……か。つうかこのイベント。てっきりネズミ小僧を捕まえるだけかと思ってたけども、『NLC』との戦争に近いイベントなのかもな。盗まれた『ワノクニ』対その共謀者である『NLC』」
クウがそんな事言っているその最中にも、森のあちこちで銃弾が飛び交っている。どうやら、共謀者は一人ではないらしい。そんな事を知らない二人は、騒がしくなってきた森の中で、参加プレイヤーが増えてきたのかな? と、軽く考えてもう一度『ネズミ小僧』を探しに向かった。