STEP.5 金を稼ごう。
「え、どして……?」
誰かの呟きが漏れる。
唐突に、全プレイヤーが大広場に集められる。
その大広場の周りは見えない壁に囲まれていて出ることが出来ない。
その中心にはこのゲームの開発チームの誰かである『GM』が甲冑武者の姿で立っている。
そんな不思議な状態に出くわせば、誰だってそんな声を漏らすだろう。クウだって、そんな声が耳に入ってこなければ、そう漏らしたはずだ。
「えっと、それじゃあ話を始めようか。いいか、お前ら?」
集められたプレイヤー全員が目をパチクリさせて狼狽していると、甲冑武者は喋り始めた。
「ワイワイガヤガヤ騒いでも別に問題はないから安心しろ。この音声はこのキャラからじゃなくて、プログラムでお前らに発信しているから。んじゃ、俺は他のチームメンバーとは違って、冒頭語りを長くしたりするタイプではないからさっさと簡潔に、簡易的に簡略的に、無知なお前らでも分かるように、小学生や幼稚園児に難しい事を体感的に理解できるように説明するように、分かりやすく教えてやろう。いいかよく聞くんだぜ? 俺は大事なことは一回しか言わない主義だからな……まあ俺らGM、つまり、よっぽどの事がない限り姿を現さないゲームの開発チームが現れた時点でお前らも理解できただろうけれど、そのよっぽどな事が起きたという訳だ。そのよっぽどな事というのは、まああれだ。四つの国別のクラウン所有数が今さっき『ミクトロジア』八個、『ワノクニ』八個、『エーテルシス』八個、『NLC』八個。つまり全ての国の所有数が同じになった。よって俺たちGMはゲームスタート当初より準備していたイベントを開始させてもらうことにした……ん、おっと、気を付けていたのに冒頭語りが長くなってしまった。いやはや、他のメンバーにもよく言われるんだけどさ、俺は勿体ぶらせる癖があるらしいんだよ。とはいえ、そんな事をいってくる奴は単刀直入タイプで前振りなにもなく、本当に唐突に本題にはいるような輩だからな、そいつが言うことも素直に受け止められないっつーか、いやそれ、お前がくっそ短いだけじゃね? みたいな、俺自身の勿体ぶらせというか、前振りというか、冒頭語りは至って普通の長さでおかしいのはお前の方だと、俺は猛抗議したいところなんだけどさ……あれ、また話が逸れた。いやー、しまったしまった勿体ぶらせ以外にも俺は──」
「なげぇよ!!」
誰かが尤もなことを叫びながらゴミをGMに投げつけた。アイテム名『ゴミ』。金にもならない、本当にどこまで行ってもゴミでしかない、文字通りゴミアイテムを『加速』させて『投擲』した。
ゴミとは言え、『加速』と『投擲』の相乗効果でそれなりの威力が込められたそれは、GMの兜にぶつかってそのまま、キィン、と弾かれた。
「ん? 誰だよ今ゴミ投げたの。教えてやるけど、GMへの攻撃はルール違反で垢BANになるぞ。まあ今回は一々そう言うことをするのも面倒だし、厳重注意だけに済ましておいてやろう。ただし次やったらそいつは垢BANだから気を付けろよな。えっと、どこまで話したっけ?
そうそう、イベントについて話すんだっけな。冒頭語りは短めにしないとそろそろお前ら全員が武器を振り回して襲いかかってきそうだし、本題に行くとするよ──ログアウト、不可能になったぞ」
『はあぁぁ!?』
長い長い冒頭語りの果てに、GMはそんな事をさらりと言い放った。焦ったプレイヤーたちは急いでメニュー画面を開いて、ログアウトを選択した。
結論だけを言うならば、ログアウト出来なかった。何度選択してもログアウト出来なかった。
「なん……でだよ……」
「なんでだよって、そりゃあそういうイベントだからだよ」
誰かの震える声に反応して、GMは至って気楽そうに、そう答えた。
「イベント……?」
「そうイベント。イベント名は『国別クラウン争奪戦』。ログアウト不可の状態で四つの国に商品を餌に争ってもらう。これはそういうイベントなんだよ」
仮面でよく見えないが、恐らく仮面の奥でGMのアバターはへらへらと軽薄に、なおかつ面白そうに笑っているのだろう。それが理解できるぐらいに、GMの声は少しばかり震えていて、肩が震えて甲冑が擦れあってガチャガチャ音を鳴らしていた。
そんなGMをよそにクウは考える。
確かにさっきあいつは『イベントを開始させてもらうことにした』とかなんとか言っていた。口走っていた。つまりこれは、ログアウト出来なくなっているのはそのイベントに関する要素……という事なのだろうか。
「イベント名『国別クラウン争奪戦』。期間はこれより三年。内容は……まあ簡単に言えば、国同士のクラウンの奪い合いだな。終了条件はマップ内に設置された新たなイベント、新たなダンジョンで手にはいるクラウンの上位互換『マジッククラウン』を全て発見すること。または三年を終える。終了時に多くのクラウンを持っていた国の勝利だ。イベントの勝利国への商品は……現金だ!」
「げ、現金……ッッッ!?」
クウは声を荒げた。それはもう、大広場全体に響き渡るぐらいに。大広場にいたプレイヤーの視線が一気に集まり、あずきは少し恥ずかしそうに顔を下げた。
しかしそんな事をクウは気にする体も見せず、ずかずかと人混みを掻き分けながらGMの元まで進み、GMを睨み付ける。
「ホントだろうな、そんな事言っておいて実は嘘でしたーっていうのは無しだぞ。今日はエイプリルフールじゃないんだ」
睨み付けてくるクウを仮面の奥に光る目で見るGMは豪快に笑うと、両手を広げて大広場にいる全員に訴えかけるように、叫んだ。
「そう、嘘じゃない。事実だ。このイベントの勝者にはゲーム内で貯めた金を現金化してプレゼントだ! 一攫千金!
大金持ちになるチャンスが、お前ら全員に、ある!!」
大広場は絶叫の渦に呑まれた。
たかがゲーム。されどゲーム。
ゲームの中では上手くやれば幾らでも儲けられることぐらい、プレイヤーたちは皆知っているのだ。それこそ、一生二生働かなくとも遊んで暮らせる程度の金ぐらい、稼ぐことが出来ることを。
さっきまでログアウトが出来なくて狼狽していた様子はどこへやら、全員が歓喜の声を上げる。今までゲームにのめり込んでて良かったと快哉を叫ぶ。今ログインしていて良かったと神に喜びを打ち明ける。
クウも目を爛々と輝かせながら、牙を剥き出しに、とらぬ狸の皮算用を始める始末だ。
そんな様子を嬉しそうに眺めながらGMは、腰に据えていた脇差しを抜き、天高く掲げながら、イベントの開催を宣言する。
「とはいえ、俺たちだって出来れば金をムダに浪費したくない。だから色々仕掛けていくから覚悟しろよ!
第一回にして最終回。次などあるわけない一回こっきりの一攫千金億万長者になれる人生ゲーム。イベント『国別クラウン争奪戦』スタートだああぁぁぁッ!!」