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ゲームの世界でリアルマネーを荒稼ぎっ!  作者: 空伏空人
チュートリアル:ゲームを始めよう。
3/16

STEP.3 種族と武器を手にいれよう。

「お、おっと感動している場合じゃねえや。はやく梓と合流しねえと」

 逢見(おうみ)改めクウは、呆然としていた頭をふるって「コール、あずき」と言った。


 コールはこのゲームにある便利な機能の一つで、フレンド登録を済ましている相手同士とならどれだけ離れていても、連絡を取り合うことが出来る。

 ユーザー登録をした時についでにフレンド登録も済ましておいたはずなので繋がるはずだ。左耳を指で抑えながらプルプルプル、という音を聞きながら待っていると──プツッと切られた。


「……あれ?」

 今の音は繋がらなくて切れたのではなく、確実に切られた音だ。

 さっきとは別の意味で呆然と左手を見ていると、視界の端に「『あずき』さんからコールです」と表示され、クウはそれをおっかなびっくりしながら、受ける。


「空ゴ、ゴメン! 間違えて着信拒否しちゃった!!」


「い、いや分かってたよ。分かってるから」

 受けてみると、泣きそうな──というかもう泣いてそうな声色であずきが電話に出てきた。

 クウはそんなあずきを宥めながら、心中で胸を撫で下ろす。

「ログインしたんだけど、お前今どこにいる?」


「え、えっと……いや、私が行くよ。大広場の大寺の前にいるんだよね?」


「ああ、じゃあ待っとくな」


「分かった。じゃあ今すぐ行くね。あ、あの……ゴメンね空」


「怒ってねえから。電話を切られただけで怒る奴だと思われてる方が心外だよ」

 最後にまた小さく謝ってきたあずきに、クウは緩んだ笑みを浮かべながら、電話を切った。

 待ってる間ボーッとしているのもなんなので、クウは初期装備を貰うべく大寺の前に、ちょこんと出店を開いている老婆に話しかけた。


「ばあちゃん、店開いてる?」


「んあ?」

 クウが話しかけると老婆は、ゆっくりと顔を持ち上げた。

 顔のシワは笑い続けた幸せな人生の証だと誰かが言っていたような気もするけど、このお婆ちゃんの顔には沢山のシワが刻まれている。まあゲームのデータに象られた彼女に、今までの人生があったとは思えないけど。

 今も昔も、彼女は老婆のままで、今も昔も、彼女はここで出店を開く。

「なんじゃい、見ない顔だね。新入りかね?」


「ん、まあ、そうなるな」

 新入りというのがゲームを始めたばかりという意味だとクウは勝手に決め付けて老婆の質問に答える。すると老婆はそのシワに似つかわしい優しげな笑みを浮かべた。


「そうかいそうかい、ほいじゃあその祝いに何かプレゼントしてあげよう。さあどれがええ?」

 クウの前に半透明の青いウインドウが展開され、そこに沢山の武器の情報が映し出される。


 このイベントで手に入るのは『初期武器』と呼ばれる、性能に短所がなく長所もなく、器用貧乏な万能タイプの武器である。

 その万能性は攻略組上位陣の凡そ十分の一が使用しているほどだ。


 ……いや、一応は武器専用のスキルの上限である、スキルポケットが最大五個と、自分独自の武器に出来る。というくだらない長所があるが、やはりゲームを進めると手に入る『上位武器』の方が人気で、その存在はある意味ロマン武器として認識されている。


「ふむ……じゃあこれにするか」

 クウが選択したのは『大槌』。名前どおり巨大なハンマーで、でかい分攻撃力は高めだが、重たく動きが緩慢になる弱点がある。


「大槌かい。中々ええ武器を選ぶのう……そいや、あんた。種族はなんぞ?」


「種族?」

 大槌を老婆から受け取ると、老婆が思い出したようにそう言った。ウインドウに羅列されていた武器の情報が流されていき、今度は種族の情報が写される。


 種族によっては見た目が強制的に変えさせられたり、特殊スキルがついたりするらしいので、釘貫はしっかりと吟味しながら種族を選ぶ。最終的にクウは『ワノクニ』だけの専用種族『月人』を選択した。

 昔々、月からやってきたかぐや姫の末裔で、月にまつわるスキルを取得しやすい。との事だった。特殊スキルは『月の重み』。

 月の重力での動きに変更することが出来る。

 つまり、自身の体重を六分の一にする事が出来るという事だ。

「ほう、『月人』か。珍しいのう」


「ん、そうなのか?」


「ほうじゃほうじゃ、百人おればええ方じゃなかろうか?」

 老婆は思い出すように、首を傾げながら答える。このゲームをしている総人口は分からないが、この大広場だけでも百人は超えた人数が動いているだろう。そう考えると確かに少なく感じる。


「なんだ、それならサムライにしておけば良かった。居合い斬りとかしたかったぜ」

 クウは残念そうにそう愚痴る。

 しかし、ここでもう決定してしまった以上、変更する事は今の所出来ない。残念ながら受け入れるしかないようだ。


「あ、空いたー!」

 と、所謂チュートリアルのような物を終えると、まるでタイミングを見計らったかのように、東雲梓改め、あずきが人混みを掻き分けながら姿を現した。


 服装は主に赤と白を基調とした巫女装束。その巫女装束は、服と袖が分離しており、紐でくっつけて、肩が少し露出するデザインになっている。

 初期武器は薙刀を選んだのか、背中に背負う形で装備している。

 髪型はいつも通り一本結びのおさげ。顔もいじくってはおらず現実世界のままのようだった。

「その服装どうしたんだ?」


「種族を『巫女』にしたら、勝手にこうなったの。巫女って、種族なの?」

 くるくると回転して、巫女装束の調子を確かめながらあずきは言う。口調はなんか文句を言いたそうな感じだが、気に入ってはいるようだった。


 種族『巫女』

 あずきが突っ込んだように、巫女は決して種族ではない。職業だ。

 しかし開発グループにどうやら熱心な巫女さんファンがいたようで、いつのまにやら紛れ込んでいたらしい。

『ワノクニ』専用種族の一つで特殊スキルは『式神』

 本人の強さに見あった式神を使うことが出来る。


「まあ、神の使いなんだし、選ばれた者、人に近い別の種族……っていう考え方も出来なくもないが」


「ふうん……ねえ空。似合う?」


「わー似合う似合うちょーカワイー」


「わースゴい適当だー」


「いやいや、適当じゃねえよ。しっかり大真面目さ。いやー、こういうのを馬子にも衣装って言うんだろうな」


「それ悪口! ……でも一応、りっぱに見えるって事なんだから、誉められてはいるんだよね。けど、なんか素直に喜べないっ!」

 あずきは頭を抱えて喜ぶべきか怒るべきか混乱し始めた。


 まあ素直に言えば『似合ってる』なのだが、素直に言えないのが高校男子というものだ。

 クウは頬をぽりぽり掻きながら、彼女が混乱して目をぐるぐる回してるのを微笑ましく見つめる。


「幸せそうじゃのー」

 老婆のその意見に、クウは心中で同意した。

 とはいえ、このまま放っておいてもらちが空かないので、適当なタイミングで彼女を正気を取り戻させる。


「そろそろ良いか?」


「え、あ、うん。良いよ、全然良い」


「なら良かった。じゃあとりあえず、街を散策しようぜ。俺、スキルとか買いたいし」


「う、うん。分かったっ」

 本調子に戻ったあずきは体を大きく使って頷き、クウと一緒に大広場を出る。

 適当に大きな通りを歩きながら周囲を観察する。相も変わらず、適当でざっくらばんなニッポンのような風景。動きが妙に機械的なのがちらほら見える。

 試しに近くを歩いていた青年に話しかけてみる。頭の上にプレイヤーを示すマークが浮かんでいないし、NPCで間違いないだろう。


「よう」


「こんにちは。ここは『ワノクニ』の西にある街『サンヨウ』です」


「なるほど、スキルを買いたいんだけど、どこで買える?」


「こんにちは。ここは『ワノクニ』の西にある街『サンヨウ』です」


「……街の入り口にいる奴かよ」


 どうやらこのNPCはこれしか喋ることが出来ないらしい。

 それなら話しかけても無意味だし、クウとあずきは再び道なりに歩きだす。宿屋や武器屋、道具屋が立ち並ぶなか、時折空き家がや空き地が並んでいる。多分あの空き家にはプレイヤーが店を建てたり、ホームを建てたり出来るのだろう。

 物珍しさで見渡していると、ようやく、スキル屋を発見した。今更ながら、さっきの大広場の出店でも良かったんじゃないか、と思ったクウだったが、最初の基本的なスキルならどっしりと構えている店の方が良いだろう、ということで店の中に入る。


「いらっしゃい、なにか用かい?」

 NPCの店員がそんな事を言う。

「スキルを買いたい、初心者が重宝するような奴。後、大槌で使える武器用スキル」


「魔法系統はどうする」


「うーん、まあとりあえず無しの方向で」

 高そうだし、とクウは苦笑い。


「そうか、じゃあこれなんかどうだい?」

 店員はウインドウを開き、適当に商品を選ぶとクウに見せてきた。

『ジャンプ』ジャンプ力向上。

『ステップ』緊急回避行動等の補助。

『投擲』投擲のダメージ上乗せ。

『加速』速度上昇。

『硬化』防御力上昇。

『筋力』攻撃力上昇。


『パウンド』大槌の攻撃力上昇。

『ホームラン』相手が放った飛び道具を弾く事が出来る。

『麻痺』攻撃に麻痺属性をつけれる。


「ふむ、全部で幾ら?」


「通常スキルは計600G。武器スキルは1500G」

 初期の所持金が1000Gなので、通常スキルは買おうと思えば買えるのだが、そうするとポーションとかのアイテム代、回復の為の宿代などが無くなってしまう。

「たっけぇ……梓、お前も1000G貰ってるよな。あれ、幾らある?」


「もうないよ」


「……へ?」


「ない。全部使っちゃった」

 あずきは両手を開いて、顔の横でひらひらと動かす。彼女がよくやる、無一文であることの表現なのだが、まあ、今一番見たくない物だった。

「まじ、かよ……」

 彼女の浪費癖を忘れた訳じゃないが、それでも、この早さは想定外だった。

「なに買ったんだ?」


「長柄用スキルの『進槍』と、『加速』と『ジャンプ』と……後はこのりぼん?」

 あずきはクウの前でくるりと、半回転して後頭部を見せた。彼女のトレードマークとも言える一本結びのおさげが、見たことのない赤色のりぼんで結ばれていた。

「それで、全部使い果たしたと?」


「うんっ!」


「おっさん、二人の所持金を一つに纏める方法ってないか?」


「わー待って待って、ごめんなさい。久しぶりに好き勝手にお小遣い使えるから調子のっちゃいました!」


「プレイヤーホームを買ったら、PTを組んでる同士の所持金を纏めれる金庫があるぞ」


「まずプレイヤーホームを買わないとな」


「やだー! 好き勝手に買い物するためにゲームを頼んだのにー!」


「おまっ、その為だったのかよ……」


「いや、それ以外にも『クラウン集め』が面白そうっていのもあったけどさ……」

 呆然辟易とするクウを前に、あずきはあたふたとそんな言い訳を口にする。


 あんなにゲームを懇願していた理由が『自由に使えるお金欲しさ』という下劣な考えのもとだった事が判明して、クウは額を抱えて、呆れ果てる。いい加減、彼女を矯正させた方が良いのかもしれない。

 残金をゼロにしても仕方ないので、クウは『加速』と『ホームラン』だけ購入して後は初心者用ポーション三十本セット(150G)を購入。残りは150Gとなった。

 二人合わせて残額150G……さい先不安なスタートとなった。

 とはいえ、やってしまったものに文句を言っても仕方ない。

 こういったゲームで金を稼ぐには、モンスター退治に限る。

 クウとあずきは店を出て、近くの門から街の外に出ることにした。

 高さ八メートルほどの門の両脇に門番らしいいかにもNPCが二人立っている。


「でてもいいか?」


「はい、門が閉じるのは九時ですので、お気をつけて」

 門番二人の敬礼と共に、両開きの門がゆっくりと開く。

 クウとあずきの、初めてのモンスター退治が始まる。

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