STEP.2 ゲームを起動させてみよう。
「よし、これでユーザー登録完了っと」
ヘッドギアを抱えて家に帰った二人はさっそく《magic crown collection》の公式ホームページにアクセス。ユーザー登録を済ませた。
アバター作成はヘッドギアをつけて行うので、先に東雲がアバターをつくって、その間に逢見がユーザー登録をする運びとなった。
机の上に置かれた型遅れのノートパソコンから目を離し、回転するイスを回して東雲の様子を見てみると、まだアバター製作に時間を要しているのかヘッドギアをつけたまま、布団の上にねっころがっていた。
待ってる間もヒマなので、逢見は公式ホームページの設定を読んで待っている事にした。
曰く、様々な次元に存在していた様々国が突然一つの大陸に集められた。
中世ヨーロッパの趣のマジックと剣の国『ミクトロジア』
古き良き日本の趣のサムライと刀の国『ワノクニ』
近未来の世界の趣のビームと技術の国『エーテルシス』
ニューヨークのような趣のギャングと拳銃の国『NLC』
国によって使用できる種族とかスキルが微妙に違う程度で、基本スペックなどは変わりない。後は見た目が変わることもあるらしい。
例えば『ミクトロジア』に住めば耳がとんがるらしいし、『NLC』だとなんだかニューヨーカーみたいになるらしい。
逢見と東雲は厳正なるジャンケン勝負の結果『ワノクニ』でスタートする事になった。
この設定はランダムに発生する区に対抗イベント(例えば戦争や新大陸争奪戦とか)以外では、基本特に縛りが発生する設定ではないようだった。
このゲームは完全スキル制のゲームで、レベル制のゲームとは違ってキャラの強さにそこまで理不尽な差がつかないらしい。極端な例を言えばゲームを始めたばかりのプレイヤーでも挑もうと思えば高レベルダンジョンにも行く事が出来る。
行く事が出来るだけで、成功するとは限らないが。
持ち運べるメインスキルは計十個。使うことで熟練度があがり、スキルLV.があがるシステムとなっているとの事だ。
「う、うーん……」
そうこうしている内にアバターの設定が終わったのか、東雲がゆっくりと起き上がった。心底疲れきった表情で東雲はヘッドギアを外す。
「なんだ、それそんなに疲れるものなのか、それ」
「多分初めてだからだと思うけど……なんかヘッドギアからゾワッと何かが入ってくる感じがする」
東雲は疲れきった表情で、はきすてるように言った。そのゾワッとする感覚はその音の軽さと比べて、結構くるものらしい。
まだ体験していない逢見はそんな言葉を軽く流しながら。
「ふうん、まあそんなもんか。登録はすませておいたぞ。プレイヤーネームは『あずき』でよかったか?」
「うん、空のは?」
「俺は考えるのがめんどくさかったから『クウ』にした」
「まんまじゃん」
「読みは変えただろ。ほら、アバターの準備が出来たんだったら、先にゲーム始めてていいぞ」
「え、いいの!?」
ずっと楽しみに待っていたのか、うずうずしていた東雲はパアッ、と目を輝かせながら破顔した。
とても嬉しそうに顔を綻ばせた。
さっきまでの疲れきった表情はどこへやら。東雲は逢見の返事を聞くまでもなく、すぐにヘッドギアを装着するとすぐに電源を入れて、ゲームを起動する。
こいつ、どれだけ遊びたかったのか。
もしかして俺は、今までこいつを押さえ込んでいたのかもな、と逢見は少しばかり反省しながら東雲の隣に強いてある布団の上に寝転んでヘッドギアを被るとその電源をいれた。
ヘッドギアからなにかが頭の中に這入ってくるような、それこそ東雲が言っていたようなゾワッとした感覚に襲われる。
後で知った話だが、これはVR系によくある感覚で知らない人が体験すると気持ち悪くなるらしい。
例に漏れず逢見も気持ち悪くなったのだが、なんとか耐えきった。
それを耐えると逢見の視界はだんだんと歪んでいき、どんどんと溶けていき、次第に暗くなり……。
気づくと逢見は真っ暗な所に立っていた。
自分の体すら見えない真っ暗な場所──否、まるで真っ暗な世界に意識だけがぷかぷかと浮かんでいるような、そんな感覚のが近いか。
ともかく逢見は真っ暗な世界にいた。
その場で暫く待っていると、どこからともなく合成音声が聞こえてきた。感情の起伏が全く感じられない声である。
《アバターが未設定です。作成しますが現実の身体を基につくりますか?》
体格は現実に似せていたほうが動きやすいと取扱説明書に書いてあったので、逢見は「はい」を選択した。
すると。
《微弱な電気が流れます。身体の弱い方や心臓の弱い方、ペースメーカーなどを仕込んでいる方は中断を選んでください》
言ってから、横長のバーが視界に映る。左端から色が変わっていくバー。つまりこれが右端まで進んだら終了なんだろう。
長い時間待つことになると思ったら、ものの三十秒もしないうちに右端まで色が変わった。
視界を下に向けてみると、いつの間にか身体が出来上がっていた。
出来上がっていた。というのも、中々どうして変な言い回しではあるけれど、これが一番当てはまる。
《こちらがあなたの体になります。確認をお願いします》
声と共に一メートルほど先に鏡が現れ、逢見の身体がうつっていた。
若干きつい目つきに筋肉質の体は線が細く、腕も少し長い。
髪の毛などの毛は電気で探知できないのか、つるっぱげになっているが、確かに自分の体だった。
《髪の毛などの設定をお願いします》
手元に大量の髪の毛の写真が現れる。これの中から一つを選ぶらしい。逢見は少し迷ってから灰色の髪を短めに刈った髪型を選択。
目の色は変更しない。他にも体格だとか顔のパーツだとか色々変更できるようだが面倒なので変更はせずに、終了を選択。
《ではこれで登録を終了します。人物情報を登録なさいますか?》
人物情報? と首を傾げた逢見だったが、確かこれはデータが吹っ飛んでもいいようにバックアップを取っておいてくれるシステムだったような気がする。
念には念を入れて、逢見は『はい』を選択。
《保存しました。これにてメイキングは終了です。ゲームがインストールされていますが、そのまま遊びますか?》
これも『はい』を選択。
すると、真っ暗な世界にドアが一つ浮かんだ。逢見は真っ暗な世界を歩いて、両手でドアを開く。
途端に、暗い世界に光と音がはいりこみ、パンツ一丁だった逢見──クウの装備が、作業衣と袴に変更された。
そこは『ワノクニ』のログイン口である大寺前の大広場だった。
生産職の人たちが出店を開き、それに釣られるように、たくさんのプレイヤーたちが大広場に集まって、縦横無尽に歩き回っている。
国の雰囲気は平安時代と戦国時代と江戸時代を混ぜ合わせたような、なんというか、勘違いしている外人が思い浮かべたニッポンみたいな雰囲気だった。
一言で言うと、統一感がない。
逆に言えば、この風景はあまりにも非現実的で、ここがゲームなのだと視覚的に分かりやすく伝えてくれて、クウのテンションは自然に高まっていく。
《ようこそmagic crown collectionへ!!》
どこからともなく、そんな声がした。
自分はゲームの世界に入ったのだと、クウは気分を高揚させながら、ニヤリと笑った。