STEP.12 チームを組もう。
「なあ、俺たちとさ、チーム組まないか?」
そんな風に話しかけられたのは、ネズミ小僧のイベントが終わり、先に死に戻っていたあずきと合流し、約束通り少し高い旅館に泊まった次の日の事だった。
これからどうしようか、新しく手に入れたクラウンの性能を調べようかとか、いかにしてあずきに金を渡さずに五万を自分の金にするかとか、逆にあずきはというと、どうやってその五万を手に入れて、なおかつクラウンも奪えないかなとか画策していたクウとあずきは、突然話しかけられて少し驚いたような反応を見せてから、振り返った。
そこにいたのは、二人のプレイヤーだった。
一人は上は作務衣にはかまを履いていて、男にしては長い方の黒髪を後ろで一本に纏めている、恐らくは『サムライ』の男。
その後ろには、おかっぱ頭の小柄な女子が隠れるように立っていた。胸にさらしを巻き、その上から上着を羽織っている女子。
前のボタンは止められていないから、盛り上がっているさらしとか素肌とか色々露になっていて、なんというか、どこを見ればいいのか分からない装備をしていた。
そんなクウの心が読めたのかどうかは分からないけれど、隣にいるあずきがクウの脇腹辺りを抓った。
「いってえ! なにすんだよ!」
「変な目でみてる空が悪い」
「変態」
ジト目で睨んでくるあずきに、クウは睨み返していると、おかっぱ頭の女子は、自分の体を腕で隠すようにしながら、端的に、そう言ってきた。
そのポージングがまた、体のパーツを更に強調していたりして、思春期なクウはつい食い入るように見てしまい、あずきは脇腹をさっきよりも強く抓った。というか、捩じ切った。
「いってえぇ!! なにすんだ、梓!!」
「ふーんだ、この女の敵め」
あっかんべーをするあずきに、クウは恨みったらしく睨みつけていると、サムライの男が「ははは」と笑った。
「どこを見ればいいのか困るだろうけど、これは決して、こいつが趣味で着てるわけじゃないから勘弁してくれないか?」
「当たり前……!」
話によると、この装備を着ていると、刀鍛の成功率が高くなるらしい。
このゲームでは、服装備は基本的にファッションである。
一応鎧と普通の服なら、鎧の方が防御力が高いが、まあそれは些細な違いであり、気にするほどのことでもない。
どんな服を着ていても、結局剣の攻撃は当たるし、体力ゲージは減る。ゲームとは、そんなものだ。
しかしそれが生産職の場合は話が変わる。彼らの装備に限り、最初から特殊効果がついている物が多い(たとえば『農夫』の装備なら、耕す速度が微上昇するとか)。
それにしてもだ。その露出の多い装備は、恥ずかしさを我慢して着るほどに、その特殊効果は魅力的なのだろうか。
どうしてそんな効果を、わざわざそんな装備につけたのかは分からないが、巫女の件といい、このゲームの制作陣は男の率が高いのだろうか。それとも変なこだわりをお持ちの方が多いのだろうか。
まあ、同じ男であるクウからすれば、ぶっちゃけ、サムズアップをして賞賛したいこだわりなのだけど。
男の種族は『剣士』の『ワノクニ』版である『サムライ』。
これが『ミクトロジア』の場合『騎士』となり、『NLC』の場合は『ナイフ使い』になるようだった。
おかっぱ頭の女子の種族は『刀匠』。
ここまで来ると誰しも突っ込みたくなるだろうが、やはり種族というよりは職業の方が正しいのではないのだろうか。
今のところ、種族らしい種族は『月人』だけなのだが……。まあ、それは、この国の特徴的に種族らしい種族が少ないだけなのだが。
「それで」
と、捩じ切られた脇腹を擦りながら、クウは言う。
「どうして俺らを誘うんだ? 普通に考えて、初心者をわざわざパーティーに招こうなんて考えないだろ」
「まあ、普通はな」
サムライの男は、腕を組みながら言う。
「けどお前はこの状態に――ログアウトが不可になってから、一番最初に発生したイベントをクリアして『ワノクニ』を一歩リードさせたプレイヤーだ。なら、今の内に声をかけておいても損はないだろ?」
「有益」
おかっぱ頭の女子も端的に続けた。
確かに他のプレイヤーからすれば、早くもクラウンを四つも獲得しているクウとあずきは、将来有望な戦力として今の内に唾をつけておきたい、友好関係を築いておきたいプレイヤーではある。
しかし。
「残念だけど、お前らが期待しているほど、新しく手に入れたクラウンは強くないぜ? というか、使えない」
クウは自分のプロフィール欄を開くと、二人にそれを見せた。
クラウン一覧の所には『恐ろしいほど不運な馬鹿』に続いて、新たなクラウンが三つほど追加されていた。
『スタートダッシュ』
初めての集団参加イベントで、それをクリアする。効果︰無し
『御用だ!』
イベント『ネズミ小僧を捕まえろ』をクリアする。効果︰プレイヤーを強制的に牢獄に送り込む権利(ただし一回のみ。使用後は、能力のみ消える)
『フルボッコ根性』
効果︰防御力が大幅ダウンする代わりに体力現象に伴い、防御力上昇。それが発動している時に限り、微回復追加。
「一番上の馬鹿は、まあ『ステート奪取』って言えば分かりやすいか? まあロック技だ。んで、二つ目は高価なし。三つ目は凶悪だけど、一回しか使えないから、使いどころに迷う。だから結局、新しく手に入ったやつで使えるのは一つだけなんだよな」
「弱」
おかっぱ頭の女子は、端的にそう言った。言い返すことの出来ないクウは、自虐的に笑う。
「けど、最後のは結構使えるだろ。えっと『フルボッコ根性』だっけ?」
「これは、紙装甲になる代わりに、体力が一定以下まで下がると防御力が上がって、微回復がつくみたいだな」
「格ゲーで言う根性値みたいなものか。この世界が格ゲーなら、重宝しそうなものだけどな」
「何故?」
「コンボとかめっぽう強くなるんだよ、硬くて微回復である程度のダメージは回復するから、コンボが上手く決まらない。ただ、高火力な相手だと、その紙装甲も相成って一瞬で溶けることになるだろうけどな、ああ、だからフルボッコか」
「詳しいんだな」
「まあ少しかじってる程度だけど、格ゲーもやってるからな。まあ、それがあるなら充分戦力として数えてもいいと思うぜ、なあ?」
「了承」
隣にいるおかっぱ頭に同意を得るように、サムライの男が尋ねると、彼女は端的に答えながら首を縦に振った。
「こっちはオーケーだ。それで、お前らはどうする?」
「どうするって……」
正直言って、断る理由が見当たらない。
ゲーム自体、初心者であるクウとあずきにとって、ゲームをやりこなしているゲーマーがフレンドにいることは、これからの攻略には必要なファクターではある。見たところ、というか話せば分かるが、この二人は自分たちよりも様々なゲームをこなしているゲーマーだ(片方にいたっては、なんか変なキャラ付けしてるし)。なら、協力を仰ぐのも当たり前だし、相手から来るのなら、喜んでそれを受け入れるべきだ。
しかしだからこそ、それゆえに、疑ってしまう。
話が良すぎるゆえに、なにか裏があるのではないかと、勘ぐってしまう。
勘ぐってしまうけど、しかしまあ、今は目先の利益を優先すべきか。
そう思ったクウは。
「もちろん、その話のった!」
サムライの男は、満足そうに頷くと。
「俺は『カガマ』。よろしくな」
「まゆり」
「俺はクウ。よろしく」
「私は、あずき。これからよろしく!」




