1.猫の屈辱
ヤシオコーグはなんでぼくにつっかかってくるんだろう。
訓練でも勉強でもすぐにぼくと比べようとするんだ。
訓練は叩きのめせるから気にならないけど、勉強で偉そうにしてくるのは嫌だな。
この間、軍事演習に行った時も勝手に一緒に来て、知ってる事をずっと自慢してたし。
ちょっといらっときて殴ったら、取っ組み合いになったんだ。
その後で騎士さんに怒られちゃった。
全部ヤシオコーグのせいだよ。
ぼくは喧嘩売ってないもん、向こうから売ってきたんだもん。
どうにかぎゃふんと言わせてやりたいなってずっと考えてたんだ。
そうしたら、兵士さん達が勝負したらどうだって言ってくれたんだよ。
ぼくもヤシオコーグも納得したから、勝負で決着をつけることにしたんだ。
ぼくが勝ったら比べようとしない、ヤシオコーグが勝ったらもう文句言わない。
内容は公平になるように騎士さんに決めてもらう事になったんだ。
それからしばらくして勝負の日になったんだ。
勝負は試験と戦いの二つだって。
勉強は苦手なんだけどなぁ。
公平になるようにって決めたんだから仕方ないよね。
最初に試験をやったんだ。
全然分からないかなって思ってたけど、結構書けたかな。
計算とかは時間が足りなかったんだけどね。
でも、今までに習ったところばっかりだったからよかったよ。
採点が終わってみたら、ぼくの方がちょっとだけ上だったんだ。
思わずやったあって叫んじゃった。
ヤシオコーグは騎士さんに文句言ってたけど、説得されて納得してた。
ふふん、当然だよね。
次の戦いは、一対一じゃなかったんだ。
それぞれ四人ずつ他の兵士さんが仲間になって、五対五でやるんだって。
ぼく達が軍事演習の時に複数で動くのも見てるから、こんなのにしたのかな。
そうは言っても、国主様の事をずっと見てたからあんまり覚えてないよ。
でも、騎士さんが決めたんだもんね。
しかもこっちの方が有利だし。
一緒に戦ってくれる兵士さん達の強さはお互い同じくらいだからね。
ヤシオコーグとぼくの力の差だけこっちの方が強いもん。
あとは兵士さん達は助言しないとか、手を抜かないとか条件も教えてもらったよ。
騎士団長さんが審判で、致命的な一撃をもらった人は脱落。
最後まで誰か残ってた方の勝ちだって。
でも、ヤシオコーグがみんなぼくに勝たせるんじゃないかって文句つけてきたんだ。
そんなことする人なんていないのに、ひがいもうそうだよね。
騎士さんはそう言われる事も予想していたみたい。
勝った方の希望者には国主様から特別訓練を受けられるって言ったんだ。
もっと早く言ってほしかったよ。
今日の朝の訓練だって、もっと一生懸命やったのに。
騎士さんがそう言ったから、ぼくもみんなもすっごくやる気になったんだ。
国主様の特別訓練なんだもん、当然だよね。
兵士さん達にはそれぞれ自分と同じくらいの強さの人と戦ってって言ったんだ。
ぼくがヤシオコーグを片付けたら、こっちの方が動ける人数が多くなるもんね。
多対一ならすぐに勝てるよ。
なのに、みんなから何か言いたげな顔をされちゃった。
なんだろうって考えてたら、騎士さんから無言の訴えも禁止だって言われちゃった。
それに、勝手にぼくのお願い以外の行動をしたら、勝っても特別訓練はなしだって。
騎士さん、ちょっと厳しいよ。
みんなは何か教えようとしてくれたのかな。
でも、なんなのか思いつく前に作戦時間が終わっちゃった。
ヤシオコーグは時間のぎりぎりまでお話してたみたい。
そんなに話す事あるのかなぁ。
いざ始まってみたら、ヤシオコーグは全然前に出てこなかったんだよ。
後ろからあっち行けだのこっち来いだの指図しているだけでさ。
さっさと片付けようと思ったのに、他の兵士さんが通せんぼするんだもん。
先に目の前の兵士さんと戦うしかないみたい。
勝てるかなぁ。
向こうもこっちも援軍が来なくて、一対一なのは分かりやすいんだけどね。
よく考えたら、大人と本気で戦うのって初めてかも。
でも、テッラ様がぼくの戦い方なら、大人相手でも勝てるって言ってたんだもん。
長引かせない事と力比べをしない事って教えてもらったっけ。
まずは一歩、思いっきり踏み込んでみる。
振り下ろす剣は当然、ヤシオコーグのよりもずっと速い。
でも、国主様よりも騎士さんよりもずっと遅いけど。
きっと訓練をさぼってるんだね。
転がるようによけて一撃を叩き込んでみたけど、これはあっさりかわされちゃった。
うーん、難しい。
ぼくが大きくよけるから、もう一撃入れるまでに余裕ができちゃうのかな。
もっと隙を作らないと。
テッラ様は国主様と戦う時にどう動いてたっけ。
懐に入り込もうとしてたっけ。
できる限り引きつけて、最小限の動きでよけるんだ。
途中でちょっとよけそこねてかすっちゃったけど、まだ大丈夫。
騎士団長さんから止められてないもん。
一つよけると、一つ強くなった気がしてくる。
通り過ぎる途中でわきを狙って打ち込んだけど浅い。
でも、当たるようになってきた。
兵士さんはきっと焦ってきてるんだ。
だんだん、大振りになってきたんだもん。
思い切って右に動くふりをしてみたら、兵士さんはつられて剣を振り下ろしてきた。
頭のぎりぎりを剣が通る音がしたのはちょっと怖かったよ。
でも、そのまま思いっきりお腹に剣を叩きつけたんだ。
騎士団長さんが兵士さんに退場って言ってたから、勝てたんだってわかったよ。
すごくうれしかったんだけど、喜ぶ前に頭にごつんって何か当たったんだ。
後ろを振り向いたら、ヤシオコーグがにやにやしてた。
他の兵士さん達も次々に討ち取られていくしさ。
結局、ぼくは負けちゃったんだ。
戦いの方がすごく自信があったのに、負けるなんて思わなかったよ。
ヤシオコーグは一勝一敗だから引き分けだって言ってきたけどさ。
なんか勝負に負けた気分だよ。
騎士さんが実は特別訓練は戦いに参加したみんなができるよって言ってたけどさ。
すっごく悔しいよ。
いつのまにか負けてたみたいで全然よく分からなかったし。
また偉そうにしそうで嫌だなぁって思ったけど、ヤシオコーグに聞いてみた。
どんな事をしたのって。
ヤシオコーグはもっとみんなをちゃんと使えよって言って教えてくれたんだ。
一対一じゃなくて、協力して戦うと個人個人の戦力差も埋められるんだって。
偉そうにもしなかったし、すごく分かりやすかった。
今度は負けないよって言ったら、ヤシオコーグも次は完全勝利するって言ってきたんだ。
その後から、ヤシオコーグはあんまり嫌な言い方はしなくなったんだ。
でもよく偉そうにはしてるから、そういう性格なのかなって思ったよ。




