3.お墨付き犬
サウルエーレはずるい奴だ。
あんなに恵まれた環境にいる。
本人は全く理解していないのに、本当にずるい。
でも、同じくらいすごい奴だ。
あいつにも誰にも言ってやらないけどさ。
俺だってあれからずっと真面目に剣の修行している。
すぐに追いこせると思ったのに、剣大会ではもっと強くなっていた。
そうかと思えば、あんなに下手だった字も最近は見れるようになってきた。
相変わらず頭は悪そうだけどな。
手紙で勉強の進み具合を聞いて安心した。
サウルエーレが俺を頭で抜くことはなさそうだ。
でも、俺は頭なんかよりも剣でサウルエーレに勝たなくちゃいけないのに。
だって、頭がいい奴よりも強い奴の方がすごいんだ。
父は強かった。
叔父よりも誰よりも強かった。
周りの兵もいつだって、父のことをほめていた。
母は本当は俺に父のような騎士になってもらいたいんだろう。
俺だって、父のように先頭に立って敵を倒したい。
だけど、誰も言わないが俺の剣の才能なんて父には遠く及ばないのではないだろうか。
それが不安だ。
母はどう見てもサウルエーレのことを気に入っている気がする。
最近はアヌートから帰ってくるたびに、あいつの様子を教えてくる。
俺は聞いてもいないし、あいつのことなんて気にしてもいないのに。
手紙ですぐに連絡とれるしさ。
それにしても、アヌートの城の人間がたくさん増えたってなんだそれ。
俺は聞いてないぞ。
そういうときこそ怪しい奴が入り込みやすいってのに。
後で手紙で注意してやらないと。
サウルエーレは鈍そうだしな。
ある日、母がアヌートで剣を学ぶ気はないかと聞いてきた。
アヌートと仲よくしたいから、俺を使いたいらしい。
あいかわず、俺を道具みたいに使うばばあだ。
でも、今回は俺にも利益がある。
サウルエーレといつでも戦えるし、アヌートの国主に教えてもらえるかもしれない。
行ってやってもいいと言ったら、親に向かってなんて言葉遣いだと殴られた。
母はアヌート滞在を手伝ってやるかわりに一つ条件があると言ってきた。
俺は一度問題を起こしたから、ちゃんとできるところを見せろというのだ。
そんなこと、俺がやる気になればすぐにできるんだからな。
そう思っていたのに、母からお墨付きが出たのは思ったよりもずいぶん後だった。
いらいらするけど、俺だけじゃアヌートに行くなんて無理だ。
母の手を借りなくちゃいけないのが嫌だ。
早く大人になりたい。
大人になったら、何でも一人でやりたいことができるのに。
アヌートに着いてもすぐにサウルエーレに会えなかった。
母が仕事だと言って、さっさと俺を置いていったからだ。
勝手に歩き回ろうかと思ったけど、前を思い出してがまんした。
ここまで来て帰るはめになるなんてごめんだ。
そのかいあって、母が戻ってきたらあっさりと会えた。
アヌートの国主の所に行ったら、サウルエーレもいたんだ。
そう言えば、最近アヌートの国主にたくさん遊んでもらえるって手紙に書いてたっけ。
サウルエーレはこの間のひらひらした服じゃなかった。
まぁ、そうだよな。
あれは結婚式の服だもんな。
着てるわけなんてないよな。
早速、勝負を挑んでやった。
俺だってケイサンで何もしてなかったわけじゃない。
あいつが国主様国主様言ってる間に強くなったんだ。
そう思っていたのに、サウルエーレの動きなんてまったく見えなかった。
気が付いたら手の中の剣が消えて、あいつが得意そうに笑ってた。
俺の実力不足だというのは分かってるけど、なんか悔しい。
なんだよ、アヌートの国主にほめられたくらいで喜びやがって。
でも、これはチャンスだ。
俺がアヌートにいるためには、まずアヌートの国主に許してもらわなくちゃな。
だから、もっと強くなるために教えてくれって頼んだんだ。
「え、やだよ」
なのに、アヌートの国主じゃなくてサウルエーレに速攻で断られた。
なんでお前が答えるんだよ。
俺がいるのがそんなに嫌なのかよ……。
俺がちょっとひるんだら、母が助け船を出してきた。
アヌートの国主のほうを説得してくれるみたいだ。
すぐ殴ってくるろくでなしのばばあだけど、こういうときは頼りになる。
俺もやる気を取り戻して、サウルエーレを説得した。
俺に負けるのが怖いんだろってちょっと挑発してやったらすぐにのってくるんだもんな。
単純すぎて心配になるくらいだ。
母の方もアヌートの国主を言いくるめたから、俺はアヌートに滞在できることになった。
予定通り進んだのはいいんだけど、サウルエーレはずっと不満そうな顔だった。
だから、俺がいるのがそんなに嫌なのかよ……。




