1.秘密猫
朝起きたら、騎士さんがいなかったんだ。
どうしたのかなって思ったら、騎士さんはちょっと用事があるんだって。
騎士さんがいないのも初めてだ。
皇都から帰ってきてから、今までにないことばっかりだよ。
代わりに別の人が来てくれたんだけど、ぼくは騎士さんの方がいいなぁ。
朝ご飯の時に、国主様とヒナさんが結婚するって聞いた時におめでとうって言ったよ。
剣の訓練でも国主様にほめられたんだよ。
勉強も今日はちゃんとできたんだよ。
でも、代わりの人はむっつり黙って立ってるだけだったんだ。
騎士さんなら何か言ってくれるのに。
それに、代わりの人は遅いんだ。
ぼくがお城の中をいつものように歩き回っても、全然ついてこれないんだもん。
どうしようかなって待ってたら、部屋から話し声が聞こえてきたんだ。
お部屋の手入れをしている人達みたい。
結婚するならぼくの部屋をヒナさんの部屋にするべきだって言ってた。
きっと、国主様の隣の部屋だからだよね。
ぼく、お部屋も取られちゃうのかな。
取られるって、国主様がくれたものなのにね。
国主様のためなら仕方ないんだろうけど、なんかいやだなぁ。
ぼくの方が先に部屋にいたのに。
わがまま言っちゃだめだって分かってるけどさ。
いやだって思うのはどうしようもないもん。
代わりの人がついてこられないなら、今日はあんまり探検できないなぁ。
どうしようかなって思ってたら、ぼくに手紙が届いてるよって連絡が来たんだ。
この間、書いたばっかりなのに早いなぁ。
誰かと思ったら、ヤシオコーグだった。
一番近いから早く返事が来たのかな。
さっそく読んでみたら、字が汚いとか堅苦しい書き方だとか駄目だしばっかだった。
でも、いやなことがあるなら、言った方がいいってアドバイスもくれたんだ。
大人は気が利かないから、こっちから言ってやらなくちゃいけないんだって。
確か、他のみんなと違ってあんまり書きたいことがなくて困ったなって思ったんだった。
それでぼくのことを書いたんだっけ。
こんなにまじめに返してくれると思わなかったなぁ。
ヤシオコーグはこう書いてくるぐらいだから、もやもやしっぱなしってないのかな。
ないっぽいよね。
ぼく、国主様にうまく言える自信ないんだけど。
「ヤシオコーグみたいになればいいのかなぁ」
あれくらい尊大になれば、ぼくも言えるかも。
騎士さんがいれば、相談できるのにな。
どこに行っちゃったんだろう。
代わりの人に聞いても教えてくれないし。
悩んでいてもどうしようもないから、とりあえず畑のお手伝いに行くことにしたんだ。
悩むのは夜でもできるけど、畑仕事は明るい内だけだからね。
代わりの人もお願いしたら手伝ってくれたんだ。
やっぱり大人って力があっていいなぁ。
お手伝いをしながら、庭師さんとも話したんだ。
今年の畑は全体的にあんまり上手くいかなかったんだって。
ぼくが買ってもらった苗みたいに、アヌートでも作られてるのはできたみたい。
でも、イセルタから送ってもらった苗はほとんどがうまく育たなかったんだってさ。
やっぱり、育てる場所が違うと大変なのかな。
来年は別の苗を植えてみたり、育て方を変えてみたりするんだって。
次は上手くできるといいねって話してたら、国主様が飛んできたんだ。
すごい真剣な顔で悩みはないかって聞かれたからびっくりしちゃった。
ぼく、まだ何も言ってないのになぁ。
やっぱりヤシオコーグの言ってることは間違ってるよ。
国主様は何も言わなくても、ぼくが悩んでること分かってくれたじゃないか。
それから、国主様と二人でお茶をしたんだ。
国主様とヒナさんと三人でっていうのはあったけど、国主様と二人では久しぶりだよ。
お仕事はいいのかなって思って聞いてみたけど、ぼくの方が大事って言ってくれたんだ。
国主様にそう言ってもらえると、すごくうれしいな。
最近はずっとお仕事ばっかりだったもんね。
ぼくのことを心配してもらえるなんて思わなかったよ。
『ヒナさんと結婚しちゃやだ』
『ぼくだけの国主様でいてよ』
『お仕事なんてしないで、もっと一緒にいてほしい』
国主様に言いたい言葉はたくさん浮かんできたよ。
全部、今までずっともやもやしてた言葉だった。
でも、どれも言っちゃ駄目だって分かってたよ。
ぼくのことを考えてくれる国主様に、これ以上迷惑かけるわけにいかないもんね。
この言葉は一生国主様に秘密にしようって決意したんだ。
だからね、国主様にはこう聞いたんだ。
「ヒナさんと結婚しても、ぼくはここにいてもいい?」
ぼく、わがまま言わないよ。
国主様の側にいられるなら、それでいいんだ。




