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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と恋愛事情
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3.護衛騎士の立ち聞き

皇都に行ってから、どことなくサエが落ち込んでいる気がする。

土産話を皆に聞かせている時なんかは楽しそうだが、ふとした時に暗い顔をする。

国主様はまだ忙しいのかなぁと呟くことさえある。

最近、国主様にほとんど構ってもらえなかったせいだろうか。

良く考えれば国主様は普段から忙しい。

ヒナ嬢が来てからは、仕事を手伝っている彼女の方がサエより多く一緒にいるだろう。

折角皇都まで一緒に行けたのに、滞在中は会議だなんだと忙しくてほぼいなかった。

そう言えば、剣大会の時もヒナ嬢が特別扱いされていたのは不満そうだった。

ヒナ嬢とは仲が良いはずなんだがな。

彼女は良い人だが今までサエが独占していた場所を取ったのには変わりない。

しかも婚約者なのだから、どうしてもサエよりも優先されてしまう。

サエもそれで複雑な気持ちなのかもしれない。

その割には食い物に釣られて喜んだりと、落ち込み続けることはないようだが。

子供だからなのか、元が脳天気だからなのかは知らないが、ずっと暗いよりは良い。

俺からも国主様にお願いしようかとも思ったが、ここの所忙しそうだ。

夜の報告も満足に時間を取ってもらえない所を見ると、どうにも言い出せない。

国主様ならサエのために無理しそうだしなぁ。

かと言って、サエが落ち込んだままでいるのも可哀想だ。

とりあえず、皇都旅行で作った友達に手紙でも書いてみたらどうだと勧めておいた。

俺みたいな年上よりは友達の方が悩みも話せるだろうし。

土産話に勉強に手紙に探検と、とにかく一日中予定を詰めまくる。

気が紛れることなら何でもやらせた方が良いだろう。


今進めている計画とやらが一段落つけば、国主様と遊ぶ時間も増えるはずだ。

しばらくの辛抱だと思っていると、手紙の宛名が目に入った。

緻密ローブクの子供や国主様の異母弟妹やらの名に紛れて、ヤシオコーグとある。

剣大会後にユノイェ家で開かれたパーティーに誘ったからか。

そう言えば友人にしてやってもいいとか言われて、サエが一度断っていたはずだ。

「え、別にわざわざ友達になんなくてもいいよ」

きょとんとした顔でそう言ったサエの姿がすぐに思い出せる。

断られると思っていなかったヤシオコーグが泣きそうになっていた。

周りから上から目線はやめて素直になれとアドバイスをされていたっけか。

最終的に、友達になってくれとお願いしたので、サエが良いよと言ったんだった。

どうにも奇妙な友達のなり方だったが、それでサエの中では友達枠になったらしい。

ヤシオコーグもサエに負けてから心を入れ替えたようだが、どうにも不安だ。

サエが影響されて他の子供をいじめるような子になったらどうしようか。

一度、医務室でそんな事を相談してみたら、薬師に立派なお父さんだねと感心された。

父親役は国主様の方だろう。

幼女嗜好なのかと思った時もあったが今は婚約者もいるし、疑似親子か。

結婚もまだなのに子持ちの悩みを抱えるとか冗談じゃない。

そう言い返したら、じゃあ乳母役かと返された。

色々と反論したかったが、なんかもう面倒になった。

胃薬を貰いに来た医務室で、これ以上傷口を広げたら本末転倒だ。

薬は効くのに、作る薬師の気は全く利かないってのはマジで勘弁してほしい。

治しに行っているのか、ダメージを負いに行っているのか分からなくなる。


皇都から戻ってからというものの、国主様は本当に忙しいらしい。

ヒナ嬢もサエに勉強を教える時間は確保してくれているが、前より余裕がなさそうだ。

朝の畑仕事の代わりに国主様の手伝いに行っている。

お陰で、勉強時間までは畑の世話は俺とサエと庭師の三人の役目だ。

収穫シーズンなのでやることが沢山あるので、畑も畑で人手が足りない。

サエは城の探索時間にまで手伝いに行っている。

今日も昼から、作物の収穫が終わった部分に雑草の種まきだ。

これで怒竜期に飛ぶ土の量を減らせないかという実験らしい。

乾燥した土地だからすぐに風で舞い上がりやすいし、無駄だとは思うのだが。

まぁ、ヒナ嬢がやってみたいと言うのだから試してみればいい。

繁殖力の強い雑草なら、これから怒竜期までのわずかな間にでも大きくなるのだそうだ。

この町周辺ならそれほど水が少ないわけでもない。

育つかどうかは分からんが、いっそ木を植えて森でも作った方が防げそうなんだけどな。

だが、ヒナ嬢は契約アヌートのどこでも使える方法を確立したいらしい。

契約アヌートでは草は育つが木が育たない地なんてありふれてるしな。

完全に趣味でやっているように見えて、この国のことを考えてるんだなぁ。

それが報われるのかどうかは分からんが。

鍬を支えに一息ついていると、サエが小玉スイカを持ってやってきた。

サエが一人で育てるはずだった苗はスイカの苗だったらしい。

みずみずしい果物だったはずだが、こんな乾燥地でも育つんだな。

かなりの豊作だったようで、あっちにも持ちきれないくらいあるんだと言ってきた。

国主様も喜んでくれるかなと呟いた健気な姿に、喜んでくれるさと返した。


差し入れすべく執務室へ行ったのだが、いたのは宰相だけだった。

思わず後ずさりする体を何とか止める。

どうやら国主様とヒナ嬢は休憩に行ったらしい。

まぁ、ここの所忙しそうだったし、息抜きは大事だよな。

国主様やヒナ嬢が自分から言うとは思えないし、もしかして宰相の気遣いだろうか。

悪逆非道な血も涙もない性格なのに、偶にこうして優しさを見せる。

それにサエには大体甘いしなぁ。

宰相の心の中がマジで分からん。

そもそも宰相一人で国とかどうにかできそうなのになぁ。

昔からの友人という話だが、国主様のどこが気に入ってるんだろうか。

俺がこの世の不思議について考えていると、サエが宰相の指輪を気にしたようだ。

宰相はなんてことないかのように、ケッコンしたんだと報告してきた。

ケッコン。

血痕。

いやいやいやいや。

俺の頭に残虐な想像が頭をかすめると同時に、宰相は結婚の方だと言ってきた。

考えを見透かされたようで肝が冷える。

だが、サエも同じことを考えていたようだ。

どもりながら、結婚の意味を知っているが宰相がするとは思わなかったと言い返した。

だよなと思わず笑い出したが、そう言えば宰相の眼前だった。

俺が見ると、宰相は意味ありげに俺に笑いかけてきた。

あ、これ死んだ。

いや、流石にこんなことで処分するような狭量な人間ではないはずだ。

宰相は後で話があると言ってきた。

うん、俺死んだな。


サエは繰り広げられている一方的な戦いに気付いていないようだ。

暢気に宰相の嫁がどんな姿なのか聞いている。

宰相はサエに似ていて、素直たんじゅん可愛あつかいやすいと言っていた。

存在しないはずの副音声が聞こえる時点で俺は汚れた大人なのだろうか。

いや、宰相が本当に考えていたことは副音声とそう違っていないと思う。

サエはスイカを結婚祝いに渡していたが、俺も何か渡した方が良いのだろうか。

むしろ奴隷と言った方が正しい扱いだが、一応は雇い主だ。

だが、指輪が結婚の証だとか、契約アヌートの文化とは違うようなんだよな。

何を渡せば良いのかさっぱり分からん。

そもそも宰相に何を渡しても、悪魔へ捧げ物をするイメージしか浮かばない。

供物を捧げて、自らの助命を嘆願するわけか。

どんな邪教崇拝だ。

そう言えば、騎士団には皇都出身もいたはずだな。

あとで兵の誰かに聞いてみようか。

向こうの文化で渡したら駄目なものもあるかもしれない。

どのみちに俺は外に行く暇もないから、誰かに頼むことになる。

その時についでに聞けばいいさ。

サエの護衛は嫌ではないが、自由時間がほぼ無いのが困る。

サエが寝た後だと、買い物に行こうにも店が閉まっているしなぁ。

国主様がサエの外出を許可してくれないだろうか。

そうしたら、ついでに買いに行くこともできるんだが。

もう反対派の勢力もかなり削がれたようだし、国主様に暇がある時に聞いてみよう。

サエも外に出られるなら喜ぶに違いない。


しばらく待っていたが、サエは二人を待つのを諦めたらしい。

晩飯に出してもらうように料理長に頼みに行くと言った。

俺はあの頑固じいさんも苦手なんだがな。

サエの怖い者知らずっぷりには驚かされる。

他の国の国主達とも平気で話していたしなぁ。

のんびりと歩いていると、サエが急に国主様だと言って走り始めた。

慌てて追いかけていくと、間が悪かったのだろう。

「ヒナ、結婚しよう」

丁度国主様がヒナ嬢に結婚を申し込む声が聞こえてきた。

ああ、宰相が妙に気を回すと思ったらそれだったのか。

確かにそろそろ結婚してもおかしくないよな。

サエはいつもの笑顔が嘘みたいに無表情になっている。

これは父子家庭の子供が新しい母親ができると知った場面か。

国主様の場合は政略結婚なんだが、そりゃ嫌だろうな。

俺に心配かけないとするサエの姿が心に刺さる。

サエは晩飯で出たスイカのできを国主様に褒められてもどこかぎこちない。

可哀想なサエの姿に、今日の夜にでも国主様に直談判に行ってやろうと心に決めた。

国主様が過労死しようが、俺くらいはサエを一番に行動してやってもいいだろう。

だが、その晩報告に向かった俺を待っていたのは、国主様ではなく宰相だった。

すまんサエ、俺はここまでのようだ。

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