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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と剣大会
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3.皇子と戦友

灰狼ギオ言質げんちを取ったという報告を聞いたのは、彼が来た次の日でした。

皇王ちちうえが許可するなら、剣大会に参加するとのこと。

僕自らパーティーでも開いて焚き付けようと思っていたのですが、仕事が早いですね。

皇都では余計な敵も多いですが、有能な味方のお陰で楽ができるのはありがたいです。

このまま悠々自適に残りの式典までの日数を消化できたらどんなに良いことか。

ですが、僕が休めば兄上がしゃしゃり出て来てしまいますからね。

雑用なんて、手足ぼくたちに任せておいていただきたいものですが。

勤勉な上を持つと、サボれもしません。

灰狼ギオの相手を此方側の騎士にするように指示を出します。

流石にわざと負けろと命令したら、灰狼ギオに嫌われそうなので止めておきます。

まあ、灰狼ギオの腕ならそうそう問題はないでしょう。

対抗できそうな数人には、参加させないように対応済みですし。

将軍を含めて毎年出場していない人も多いので、不自然にならない程度の排除でしょう。

人事を尽くして天命を待つ。

後は結果が望むものになることを祈るだけですね。


剣大会の数日前、式典の準備で忙しいはずの父上から呼び出されました。

何かと思えば、僕も剣大会に行けと言うのです。

どうやら、気を回して皇族席に灰狼ギオの婚約者を招待したとのこと。

相変わらず、いらぬ気の回し方をする人ですねえ。

この間も僕に見合いの話を持ってきましたっけ。

良く見えるでしょうが、皇族と一緒だなんて落ち着けるわけがないでしょうに。

僕にフォローを頼むあたりが、分かってやっていそうで非常に嫌です。

適当に同腹の兄弟達に頼んで壁を作り、婚約者の相手は守りの鳥テッラに任せましょう。

顔見知りで一番安心できるでしょうし。

ああ、こんな急に話を持っていったら、また守りの鳥テッラに怒られそうです。

警備に支障が出ると怒鳴られる姿が目に浮かびますよ。

最近は青猫サエちゃん効果で幼い弟妹達からも怖がられなくなったと機嫌が良かったのに。

そりゃ、弟妹達にしたら、守りの鳥テッラは怖いでしょうね。

父親を家から叩き出す上に、年中怒っている姉なんですから。

あまり話をしたこともなければ、近付きたがりませんよ。


結局、烈火の如く怒られましたが、守りの鳥テッラに了承してもらいました。

皇王からの計らいだという一言が効いたようです。

その割に、折角作った貸しを消費しなければならなくなったのが痛いですけれども。

こういう所は妙にしっかりしているんですよね。

今度は絢爛ルクルタにでも行こうと思っていたのに。

剣大会では灰狼ギオが予想通り勝ち上がっているようで安心しました。

それに、守りの鳥テッラ灰狼ギオの活躍を見て、嬉しそうで何よりです。

この後どう転がるのであれ、これだけで苦労して場を作った甲斐がありましたね。

そう考えていたら、余所見をするなと妹に頬を引っ張られてしまいました。

いつも余り構ってあげられていませんからねえ。

決勝が終わるまでは、諦めて妹の相手に専念することにしました。


「我が剣は皇王陛下と皇太子殿下に、我が勝利はヒナに捧げます!」

思わず目を見開いたのは、僕だけではなかったでしょう。

何も事情を知らない者なら、話の一節から取っただけにしか聞こえないでしょう。

現に、妹は「『姫君と騎士』の騎士の台詞せりふよ!」とはしゃいでいますし。

けれど、兄上が皇太子に選ばれたばかりのこの時期に言うと意味が異なります。

明確に此方側だと宣言したようなもの。

騎士のように皇王ちちうえに忠誠を誓う程度を期待していたのですが。

灰狼ギオは分かってやっているのでしょうか。

深く政治に関わらせるつもりはなかったというのに。

とりあえず、この後のパーティーで場を設ける必要がありそうです。

喜ぶ妹をなだめて、部下に目配せをしておきました。

彼等に任せておけば、どうにか機会を作ってくれることでしょう。

それにしてもと横目に見ると、真っ赤になった彼の婚約者の姿。

灰狼ギオは腹立たしくなってくる程、女性を落とすのは上手いですよね。


パーティーに顔を出すのは、いつ以来でしたか。

道楽皇子として売っているんですから、もう少し頻繁に出ておくべきかもしれません。

普段のキャラでは顰蹙ひんしゅくものだというのは自覚しているんですが。

その方が、より印象づけられますしねえ。

害にならなそうな貴族数人を揶揄からかいつつ、予定の時間まで暇を潰すことにしました。

灰狼ギオの様子を窺えば、産出ホクシリ国主から妙に親しげに話しかけられています。

いつの間に知り合ったのでしょうか。

まあ、二人とも戦場で溌剌はつらつとするという性格からしても気が合いそうですが。

しばらくして部下が呼びに来たので、会場から抜け出すことにしました。


灰狼ギオが来るまでに時間がかかると思ったのですが、思ったより早くやってきました。

無駄に華美な格好をすると無駄に絵になりますね。

僕もあれくらい見目が良かったら、切れるカードも増えるのですが。

何の因果か戦馬鹿に行くとは、宝の持ち腐れですね。

「やあ灰狼ギオ、剣大会では随分楽しそうだったのだね」

極めて友好的に言ってみたのですが、とても機嫌の悪そうな顔をされました。

「皇子、何処から何処までが貴方の陰謀ですか」

間違っていないのですが、陰謀とは酷い言われようですね。

どうやら、ある程度は気付いていた様子です。

「君は踏み込む覚悟があって聞いているのかい」

「私の覚悟は大会で示したはずですよ」

ふむ、僕は意外と灰狼ギオを過小評価していたのかもしれません。

彼の思考は戦術方面でのみ最大限に発揮されるものかと思っていました。

一体、いつから気付いていたのかと問えば、大会参加の命が下ったあたりからとのこと。

あまりに早く命が出たので、いぶかしんだそうです。

ああ、これは僕の失態ですね。

灰狼ギオに気付かせたくなければ、慎重を期すべきでした。

「私を最初から大会に引き擦り込む気だったなら、どうしてなのかと考えました」

確かに、参加が決まってから考える時間は十分にありましたしね。

「それで、優勝後の皇王への奉剣が目的だと気付いたわけですか」

剣大会での優勝者は大抵が城勤めの騎士だということもあり、奉剣が慣例化しています。

既に剣を捧げた相手がいる騎士でしなかった者もいますし、必須ではありません。

それに灰狼ギオは国主であって騎士ではないので奉剣する必要もありません。

ただ、国主がするということは、大きな意味を持ちます。

建国の経緯から皇王は国主の上とされています。

けれど、実際に態度で示した者はそう多くないのですから。

契約国主わたしの姿勢を見せるということは、他の国主に叛意はんいがあるのですか」

灰狼ギオはそう聞いてきました。

「かなり前からの話だとも。本格化したのはそれ程昔ではないのだけれどね」


公にはされていませんが、皇国にこのまま尽くすことに不満がある国はあります。

契約アヌートのような貧しい国や城壁ムルクのような外敵の危機に晒される国。

そういった問題を抱えている国には基本的に食料品なり兵力なりの支援があります。

けれど、それは他の裕福な国からすると、無駄に搾り取られているだけとも言えます。

また、皇国内の国境は基本的に変化しませんし、国同士の戦争は禁じられています。

しかし、より多くの領土を所有したいという不満を持つ国もあるのです。

それを抑止するのが始原ナーグようする三剣二盾と騎士団という兵力な訳ですが。

それも、近年の帝国の苛烈な侵攻が切っ掛けとなって不満が噴出しています。

敵国との戦闘が続く中で、一歩間違えれば皇国の滅亡が待っているのは事実。

いつか来る全面戦争までには皇国内の統制を取らねばなりません。

できれば、我が戦友殿にはこれ以上の迷惑をかけたくなかったんですけれど。

ただでさえ、彼の血を言い訳に反皇太子派の連中の温床となっていた国へほうじましたし。

まあ、今回の回りくどいやり方はそれだけでなく、彼の宰相の意向も入ってますけれど。

流石、悪名高い家の生まれ。

灰狼ギオを試すとは人が悪い。

お陰で反皇太子派の連中の目は灰狼ギオにも向きましたよ。

あんな大仰なことを言わなければ、まだ皇家に良いように使われているていも取たのに。

噂を広げれば、民の間では灰狼ギオの人気につられて此方側の潜在支持層も上がるでしょう。

反皇太子派の連中が動きにくくなるのは大変助かります。


粗方説明し終えると、灰狼ギオには大きく溜息を吐かれました。

「宰相もそうですが、貴方達は言葉が足りなすぎるんです」

そして、力になりたいのに、察するのが大変だと叱られてしまいました。

貴方は協力してほしいと言われれば、すぐに頷いてくれるからこそ言えないのですよ。

自分が信じた相手ならば、どんなに苦境に立とうと助力を惜しまないのですから。

まあ、これは守りの鳥テッラにも言えることですね。

建国で最も皇王の力になったとされる、勝利の剣ユノイェトレクの血なんですかねえ。

「それもまた、我の愛なのだよ」

そう言ったら、引かれてしまいました。

ははは、失礼な。

「それで、私はこのまま契約アヌートに引っ込んでしまって問題ないのですか」

皇都で何かやることはないのかと聞く姿は、先の戦いを思い起こさせます。

ですが、今はこれ以上力を貸してもらうと、数人の味方から僕が刺されそうですね。

主に灰狼ギオの悪友とか父親とか戦友に。

ついでに事の次第を守りの鳥テッラが知れば、僕は跡形も残らないでしょう。

思わず嫌な想像をして悪寒を感じてしまいました。

守りの鳥テッラは昔から本気で怒らせると誰よりも恐ろしいですからね。

「ああ、むしろ契約アヌートの発展に力を注いでくれた方がありがたいのだよ。

 帝国の脅威が少ない皇国の南側に良からぬことを考える国は多いからね。

 今、君達が企てている四ヶ国の計画もありがたいとも」

覚悟を決めた表情が、僕の言葉にふっと緩みました。

本音では、結婚も控え、青猫サエちゃんがいる今は動きたくないですよねえ。

灰狼ギオ、我はいずれ大きな戦が起きると思うのだよ。

 それが何年後なのかは今はまだ分からないのだけれどね。

 いつかきっと、とどめきれなくなるだろう。

 その時までに皇国われらの為に牙を研いでおいてくれたまえ」

「勿論です、赤い風レアル皇子」

格好付けてみてから、どうもむず痒くなってきてみました。

「あー、もうやめやめ! 堅っ苦しい話は我の性に合わないのだよ。

 我の名にかけてしばらく平和は維持してみせるとも。

 君は適当に婚約者や青猫サエちゃんとたわむれていればいいのさ。

 時々来る刺客や陰謀だって、君にはスパイスみたいなものだろう」

勝手に呼び込んだのは灰狼ギオですからね。

その分、僕が皇都で動きやすいのは事実ですけれど。

「当然、『我等、皇国の為の牙であれ』、ですよ」

かつて戦場で共に高らかに歌い上げた一文を言って、灰狼ギオは笑っています。

その姿を見て、僕は今回の戦いもまた勝てるだろうと勇気づけられたのでした。

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