3.犬の挑戦
あの屈辱の敗北から、俺は真面目に指南役の言うことを聞いている。
朝だって早く起きるようになった。
好き嫌いをするとすると強くなれないと言われたから、嫌いなものも残さず食べている。
全てはあのサウルエーレに勝つためだ。
国主である叔父にからかわれもしたし、子分からもなめられて散々だった。
もう二度とあんな思いはごめんだ。
ある日、母が帰って来るなり皇都に行きたいかと聞いてきた。
皇王様の即位記念式典が開かれるらしい。
今年は特別だとかどうでもいいことも聞かされる。
毎年行っていなかった叔父も、今年は参加しなければならないとか。
それについていって、皇都で修行してはどうかという話だった。
行きたいなら、自分で叔父に頼んでこいと言われた。
母は皇都なら腕の立つやつも多いし、誰か指南役として雇ってもいいとも言ってきた。
俺の指南役はそもそも本来はうちに仕える兵の一人だ。
任務があればいないことも多い。
学ぶなら名門のユノイェ家にたのむということだったので、行くことにした。
ふふん、今にみていろサウルエーレ。
出発は思ったよりもずっと早かった。
叔父が隣のイセルタの国主の出発を耳にしたらしい。
先に皇都に着くぞと大声を出したとか。
叔父はイセルタを目の敵にしている。
なんでなのかは興味がないから知らない。
ライバルにするならそんなじじいより、アヌートの国主の方が年が近いのにな。
皇都に行く途中になんかの拍子に叔父に言ったら、答えが返ってきた。
アヌートの国主は剣士だからいいらしい。
叔父は強くないやつがえらそうにしているのが嫌いみたいだ。
こざかしい考えでまるめこまれてばっかだからだろうって他の兵が噂していた。
叔父に伝えたら、次の日からそいつを見かけなくなった。
アヌートの国主って、おとこおんななのに強いらしい。
意外だ。
叔父が認めるならすごく強いのかもしれない。
そういえば、サウルエーレはアヌートの国主に剣を習っているんだっけ。
俺も教えるやつがもっと強いなら強くなれるはずだ。
叔父はイセルタの国主より早く着いて喜んでいた。
俺も早く剣を習えるから満足だ。
ユノイェ家は皇国ができる頃からある名門だ。
伝説では皇王様の先祖がこの国に来た時に持っていた三つの剣の一つからできたらしい。
そんな話が伝わっているだけあって、習っているやつも教えているやつも強かった。
剣をしっかり見ろとか、適当に振るなとか、厳しいこともたくさん言われた。
でも、サウルエーレに勝つためならどんなことだって我慢できた。
何日も通っていたら、周りの話を聞ける余裕が出てきた。
今年の式典の剣大会は英雄様が出るのではと噂になっているらしい。
誰だ、英雄様って。
俺と同じように通っている貴族の子供に聞いてみたら、アヌートの国主らしい。
ケイサンは皇都から離れているからなのか。
そんな話は知らなかった。
アヌートの国主は何年か前の帝国との戦争で活躍して、皇都へ。
その時に将軍の子だと発覚。
ついでにアヌートの国主の地位も貰うという馬鹿げた流れだ。
そんなのおとぎ話だけじゃないのか。
あのおとこおんなの姿を思い浮かべると、ありそうだと思うけど。
少なくとも、父より軟弱な顔だが、母より美人だ。
おとぎ話から出てきてもおかしくない。
聞いた子供はそういう話をするが好きなのか、勝手に続けている。
将軍は子供が多いから、毎年のようにそんな子供の発見話があるとか。
将軍の母が傍流とはいえ皇族だから、下手な褒美をあげられなかったんじゃとか。
アヌートの国主はその時に皇都に来たきり、一度も来ていないらしい。
英雄と呼ばれているし、かつやくした話は聞くが、本当の腕を知るやつもいない。
だから、貴族の間では剣大会に招待しようと毎年のように話が出ていたらしい。
純粋に腕を見たいやつと、負けた姿を笑いたいやつがそんな話を後押ししているとか。
貴族でも下民でも、かなりのやつが今回の出場の噂を信じているようだ。
俺にその話をした子供も信じている側のようだ。
今回の式典では皇王様も貴族との歩み寄りたいはずだから、しんぴょうせいがある。
十分実現可能な範囲だ。
なんて、どこかで聞いてきた言葉をそのまま言うような感じで断言していた。
本当に強いんなら、俺も見てみたいと思った。
だが、剣大会とやらには俺も出るつもりだ。
子供向けと大人向けは同時に開かれるらしいから、見るのは無理だろう。
俺は決勝まで残るつもりだし。
数日後、いつものようにユノイェ家に来たら、目の前を見覚えのあるやつが横切った。
俺が見間違えるはずもない。
サウルエーレだ。
なんでここにと思って、呼びかけても無視しやがる。
名前を呼んでどなりつけてやったら、ようやくこっちを向いた。
前と変わらない生意気そうな顔。
やっぱりサウルエーレだ。
どうしてここにと思ったら、無礼にも向こうから聞いてきた。
「なんで、ヤシオコーグがテッラ様の家にいるんだよ」
すごく嫌そうな顔をしやがって。
叔父についてきたって教えてやって、そっちこそどうしているんだって聞いた。
サウルエーレは、かくどの姫団長に招待されてきたらしい。
そう言えば、将軍はユノイェの出だったっけ。
なら、将軍の子の姫団長はアヌートの国主と兄弟なのか。
サウルエーレは姫団長と友達だとか言うくせに、姫団長のこともよく知らないらしい。
本当にこいつは馬鹿だよな。
優しい俺は姫団長のことを教えてやった。
サウルエーレは馬鹿だけど強いからな。
俺のライバルにしてやってもいいと思う。
サウルエーレと話していたら、ユノイェのやつが来た。
俺達を見て、友達なら一緒にやるかと気を回してきた。
そうまで言われたらしかたない。
一緒にやってやってもいいと言おうとした。
なのに、サウルエーレは友達じゃないし、俺が弱いからいいと言ってきやがった。
さっさと走っていったサウルエーレを見て、俺は決意する。
剣大会で俺の強さを見せて驚かせてやる。
その時に友達にしてくれって頼んでも許さないからな。




