表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と出発準備
60/83

3.老兵の後始末

ようやく慣れ親しんできたアヌート城が見えてほっとする。

老骨に鞭を打つような大仕事だった。

わしに任せる若様も若様だが、そもそもあの悪がきの策だ。

御屋形様の元から悪がきの元へ移ってからというものの、どうも老人使いが荒すぎる。

おまけに、若様に事情を知られないように手を貸すのもなかなかに気を遣う。

若様は御屋形様の事を好いてはおらぬようなのでこればっかりはどうしようもない。

まぁ、若様の母君の苦労を思えばうなずける。

御屋形様が援助を申し出た時も断ったというが、当然であろう。

必然、事情を知っている悪がきの策に巻き込まれてばかりなのもいただけない。

表向きは私兵として悪がきの傘下に入った連中も毎晩、文句を言っておる。

どうにか我が子の手助けをしたいという、御屋形様の願いで無ければ帰っておるわ。


あらかじめ分かっていたとは言え、何人もの壮健な連中を相手にするのは辛い。

しかも、直前で若様が命を絶たなかったのを見たのだから尚更だ。

斬り付けようとした剣を逸らしてまでの行動には意味がある。

恐らく、襲撃者が砂礫の民の者達だと気付いたのだろう。

他の騎士にも命を取らぬように注意を促した。

若様が言わなかったのは、危機でも命令を遵守する危惧をしていたからかもしらん。

だが、この程度を切り抜けられぬような柔な者は一人もおらん。

伊達に毎日若様に叩き上げられとるわけではない。

まぁ、万が一危機があった所で、わしの言なら自分の命を大切にしてくれるはずだ。

若様の人選は的確で、これ以上の口出しは必要無いようだった。

お陰でわしは目の前の敵に集中する事ができた。

念のためと持って行った毒消しを使わんですんだのは僥倖だ。


ようやく何事も無く終わったかと思えば、次は後始末を頼まれる。

砂礫の民の集落で、事情説明するのも一苦労だった。

もう一人の騎士に行かせようかとも思ったが、威圧感しか無いので仕方がない。

襲撃者達を逃がさぬように見張りを頼むと、一人で行く事にした。

砂礫の民の集落は近い。

本来の彼等は定住しない一族だが、最近の交渉の為に小さな集落を築いている。

それも簡単に移動できる作りのものでしかないが、いつもそこにあるのはありがたい。

使者を送るたびに、この広大な荒野を探し回らねばならない、なんて事もない。

集落に着くと、幾人もの砂礫の民が此方を見てきた。

走り出した数人は、それぞれの族長へ知らせに行ったのだろう。

武装解除をして、とにかく友好的な族長の名前を挙げて繋いでくれと頼み込む。

最終的に若様から預かった手紙のお陰で、何とか話を通す事ができた。

人を手配してもらって、襲撃者共を回収してからはまた大変だった。

後日、改めて使者を送ると言っているのに、根掘り葉掘り聞いてくる。

気持ちは分かるが、引き留められる方はたまったものではない。

その日の内に帰り着けるかと思ったのに、二日も三日も引き留められた。

あくまでもわし等は簡単な事情説明だけのはずだったのにえらい目に遭った。

何度、言ってもそこをどうかと聞きやしない。

当事者だったのだし、向こうの感情を思えば理解はできる。

城へ帰りが遅れるとの連絡は入れてもらったので、諦めてどっかりと腰を下ろす。

もう一人の騎士は隣でうんざりとした顔をしていたので、脇腹を小突いて注意した。

国家の方針に関わる他民族との接触なのだ。

印象は良いに越した事は無い。

話はなるべく事実だけを伝え、私情や憶測を挟まないように気を付ける。

合間合間に気の良い老人の姿を見せてやった為か、好感度の方は悪く無さそうだ。

ただ、出された乳酒の臭いと不味さには辟易した。

もう一人の騎士は平気そうな顔をしているが、この地方独特のこの種の酒は口に合わん。


帰ってきた後で、わし等は若様に労われた。

一本気な若様に心底笑顔で言われるのは気分が良い。

特に、若様の目元とその性根は御屋形様に良く似ておる。

剣の才だけが良く話題に上げられるが、昔から御屋形様に仕えておるわしには分かる。

御屋形様の悪癖には昔から随分と泣かされたが、若様のような子に会えるのは嬉しい。

特に姫様と同年くらいの異腹の若君達はわしから見ても、余り出来が良くない。

御屋形様の剣の才も受け継いでおらんかった。

二番目、三番目の尻拭いには、わしがどれだけ奔走した事か。

だが、全ては若様に会う為の苦労だと思えば許せる気持ちにもなるものだ。

骨をうずめる地としては少々暑すぎるが、若様のお側にいる為だ。

国を立て直そうと意欲に燃える若様の行く末を何処まで見届けられるのやら。


同じく悪がきからも笑顔で労われたが、どうにも此奴は胡散臭くていけない。

流石、小さい頃から問題児だと言われ続けただけの事はある。

わしから見ると小僧っ子が素直になれずに粋がっておるだけにしか見えないのだが。

本人がそれを自覚していて直す気がないのだから、たちが悪い。

振り回される若様も大変だろうて。

そう言ってやれば、向こうは若様の方が無自覚な分、たちが悪いと言い返してきおった。

まぁ、そう言う見方もあろうなとは思ったが、わしは若様派じゃ。

賛同はしてやらんかった。

悪がきは若様と婚約者と養い子を追い出した後に、また一人で無茶をするつもりらしい。

できれば若様と共に皇都に行って、久しぶりの故郷を味わいたいと思っておった。

特にこの国では水が少なくて、ろくに風呂も入れん。

皇都の大衆浴場の猥雑さと風呂上がりの麦酒の味が懐かしい。

だが、この様子じゃと悪がきの方がどうにも放っておけんだろう。

こんな奴でも若様の大切な友人なのだから。

溜息と共にわしにも一枚かませろと言っておく。

わしが此処に来たのは若様の為で、此奴の為では無いんだが。

御屋形様への報告は他の者に任せよう。

まったく、手のかかるひよっこだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ