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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と出発準備
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2.国主様の戦い

襲撃の後で、城に戻ってすぐに宰相の所へ乗り込んだ。

すると宰相はさも全てお見通しだと言いたげに笑って、殺したのかと聞いてきた。

舌打ちしながら殺すかと返してやったが、宰相はだろうなと言っただけだった。

別に宰相の悪辣な策に巻き込まれようとも、今更なので私は構わない。

だが、他の人間を巻き込むのは賛同できない。

サエもヒルトナーナ嬢もこれくらいでは平気な顔をしているだろう。

襲撃者達も連れて行った護衛で対応可能だった。

厄介な毒を仕込んでいたという事も無い。

襲撃されたとはいえ、致命的な被害は何も無かった。

その点においては、宰相の策謀を信用している。

今までだってそうだった。

だが、一歩間違えばどうなっていたかは分からなかったのも事実だ。

ヒルトナーナ嬢も不必要に怖い目に遭わせてしまったし、何よりサエの教育に悪い。

宰相は、それらを無視できる程にこの計画に益があると見込んだのだろう。

私はそれを許すわけにはいかない。

利益よりも二人の平穏の方が大事だ。

そう思って舌戦に挑んだが、早々に完膚無きまでに叩きのめされてしまった。

義は私にあるはずなのに、何故勝てない……。


悄然として執務室に戻った私を迎えたのは、ヒルトナーナ嬢だった。

サエは居なかった。

何が起きたのか聞きたがっていたので待っているかと思ったのだが。

私が居ない間にヒルトナーナ嬢が説得して部屋に帰してくれたようだ。

そういう細やかな気遣いは本当に助かる。

私は二人を置いて宰相の所へ走り去ってしまったのだから尚更だ。

先程、宰相に部屋から追い出された時も、そんな事を指摘されてしまった。

どうも頭に血が上りすぎていたようだと反省する。

とりあえず後で、もう大丈夫だとサエに言っておこう。

ヒルトナーナ嬢にも面倒に巻き込んですまなかったと謝った。

そして、不安があるなら婚約を解消して構わないと告げる。

半分以上、ヒルトナーナ嬢なら首を縦に振らないと思ってはいる。

だが、危険に晒してしまった以上、尋ねるのが礼儀だろう。

ヒルトナーナ嬢はやはり小さく笑ってまさかと言った。

「もし次があったとしても、国主様が守ってくださるのでしょう」

そう問われて、当然だと強く肯定する。

戦えない者を守るのは騎士の務めだ。

それが婚約者で可憐な女性ならなおのことだ。

ヒルトナーナ嬢の手を取ってそう言ってみたのだが、反応は鈍かった。

どうもこういう言い慣れない言葉の受けが良くない気がする。

出来る限り頑張ってみているのだが、私には無理だという事だろうか。

しかも、すぐに別の話題を出されてしまった。

ヒルトナーナ嬢に、あの時はヒナと呼んでくださいましたね、と言われたのだ。

非常事態で礼を失していた事に、今更気付く。

だが、私が謝る前にヒルトナーナ嬢は、いつもそう呼んで構わないのですよと続けた。

そう言えば、私は礼儀ばかり気にしすぎていたのかもしれない。

もっとも、それはヒルトナーナ嬢にも言える事だ。

お返しに、私もギオと呼んで構わないと告げてやった。

この時から、私とヒナはお互いを名前で呼ぶ事になった。

脳裏に宰相の不敵な笑みがよぎったが、これは断じてあいつの計算では無いと思う。


その後、砂礫の民へ使者を送らなければと思っていた。

だが、此方が送る前に向こうから使者がやってきた。

使者は族長の代表と、襲撃者が出た族の族長達からの言葉を携えていた。

長々とした挨拶の後に告げられたのは、自らの民の不始末を詫びるものだった。

それと、襲撃者とはいえ砂礫の民の命を奪わなかった事への礼だ。

ようやく会談まで漕ぎ着けた矢先の事だったので、向こうも相当驚いたのだろう。

今までに一つ文を書く度に、何日も待たされたのが嘘のような早さだった。

特に襲撃者の出身の族は和解には反対派だった。

賛成派から、暴力で押し通そうとしたのでは無いと追求されたらしい。

反対ではあるが、そのような事を画策した事実は無いと必死の弁明をしていた。

彼等の中でも今回のような行いは卑劣だと見られているようだ。

このような不祥事を招いた以上、族長間であの族の発言力は弱まるだろう。

これで膠着状態だった会談も進展しそうだった。

上手くいけば出発までに一定の成果が見られるのかもしれない。

再び宰相の高笑いがよぎったが、頭を振り払って追い出しておく。


やはり、あの悪逆非道な宰相の下にサエを残しておくのは不安だ。

悩んだ末に、私はサエも皇都に連れて行く事にした。

連れて行けば連れて行ったで、他の貴族連中から口さがない噂話をされるかもしれない。

私はかなり気が進まないが、テッサラーナさんに助けを求める事にした。

彼女の家、ユノイェトレクは皇国の守護の剣だ。

伝手さえあれば、剣の才があるものを積極的に向かい入れる家でもある。

テッサラーナさんがサエを呼んだという形にすれば、波風も立たないだろう。

勿論、顛末てんまつを話せと返信が来たので、全て知らせる事になった。

そして、いつもの剣幕で怒られた。

いや、むしろいつもの三倍の長さだった。

ついでに宰相宛にも手紙が来た。

私と同じくらいの長さだった。

読んで苦い顔をしていたので、いい気味だと思った。

宰相に一泡吹かせられて、サエの件も了承してもらえたのだから感謝の一言に尽きる。

サエにも喜んでもらえるかと思ったのだが、それよりも気になった事があったらしい。

宰相は一緒に行かなくて良いのかと聞かれてしまった。

あのどSを何故サエが気にするのか、まるで分からない。

サエは宰相の事を嫌いでは無いようだし。

思わず優しくするなと言ってしまった。

護衛騎士も賛同していたが、サエには納得してもらえなかった。

ちょっと首をかしげた後で、早く宰相と仲直りするように言われてしまった。

サエにかかると私と宰相の今の関係は喧嘩らしい。

明らかに向こうに非がある気がするが、喧嘩と聞くと子供のようで馬鹿らしく思える。

なんだか気が抜けてしまった。


それからは書類に会談にと出発の日までは忙殺の日々だった。

サエはいつもと変わらなかったが、ヒナの生傷がどんどん増えていくのが気になる。

話を聞けば、ダンスの練習で付いたらしい。

ダンスの練習ってそんなに過酷な修行だっただろうか。

心配で口を出してみたが、本番までには怪我は治るから大丈夫だと言われてしまった。

言いたいのはそう言う事じゃない。

だが何度言っても止める様子が無かったので、終いには諦めた。

ヒナがそれで良いのなら、もう私が言う事は何も無い。


ヒナの必死さを見て、私も忙しい合間にダンスを練習しておく事にした。

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