1.無防備な猫
今日はみんなでお出かけすることになったんだ。
ぼくと国主様と騎士さんとヒナさんと護衛の兵士さん四人の八人で。
ヒナさんと一緒に遠くにお出かけするのは初めてだからうれしいな。
でも、宰相様は留守番なんだって。
宰相様はいつも留守番ばっかで嫌にならないのかな。
気になったから聞いてみたけど、平気だから楽しんでおいでって言われちゃった。
ぼくは国主様と一緒にいられる方がうれしいんだけどな。
お出かけするなら苗の世話ができないかなって思ったけど、日帰りなんだって。
ちゃんと世話できそうだから良かったよ。
何日もかかるようなら、庭師さんに頼まなくちゃいけないもんね。
本当はぼく一人で育てたいけど、国主様と一緒にいられるほうが大事だもん。
今日行く所は竜遺跡だってヒナさんが言ってたよ。
お城から近い所にある大きい竜遺跡なんだって。
国主様に拾われる前は色々歩いたけど、全然水がないところだから行ったことないなぁ。
地図を見ても、周りには竜遺跡以外何もなさそうだった。
竜遺跡がどんなものなのかは前に騎士さんから聞いて知ってるよ。
昔、まだ竜がたくさんいた頃に作られた竜の家なんだって。
お城も元々は竜の家だって聞いた時は、竜って思ったよりも小さいんだなって思ったよ。
ぼく、もっともっと大きいと思ってた。
怒竜期の風を起こすくらいだから、この町くらいあるのかなって。
でも、そんなに大きかったらお城に入れないよね。
騎士さんに竜ってどれくらいなのって聞いてみたけど、分からないって言われちゃった。
城門や廊下を一杯に歩くくらい大きいなら、背中に乗せてもらいたいなぁ。
国主様に肩車してもらうよりもずっと眺めがいいと思うんだ。
竜はもういないんだよって言われたけど、ぼくは隠れてるだけって思ってるよ。
いつか外を出歩いてもいいよって言われたら、竜を探してみたいんだ。
そう言ったら騎士さんが困った顔をするからあんまり言わないけどさ。
でもヒナさんはいい夢ねって言ってくれたんだよ。
それに、竜の子孫もいるんだって教えてくれたんだ。
もしかしたら、竜の子孫の人には今日会えるかもしれないんだって。
人なのに竜の子孫って不思議だよね。
聞いたら教えてくれるのかな。
お出かけの日は朝の訓練をして苗に水やりをした後に、すぐ行く準備をしたんだ。
日帰りだから急がなくちゃね。
向こうで遊ぶ時間がなくなっちゃうもん。
普段はゆったりした服の国主様も動きやすそうな服に着替えてた。
びしっとしてるのを見ると剣が似合って格好いいなぁ。
ぼくも国主様の着てる服っぽいのにしてみちゃった。
本物の剣はまだダメだから、代わりにいつも訓練で使ってる木剣を持って行くんだ。
国主様によく似合ってるってほめられたんだよ。
騎士さんはいつもと同じ格好で、ヒナさんはちょっとおしゃれな格好だった。
礼儀作法の時のキラキラした服と、畑仕事の時の動きやすい服の中間くらい。
竜の子孫の人に、最低限失礼がないようにだって。
ぼくもヒナさんみたいな格好したほうがいいのかな。
そう思ってヒナさんに聞いてみたけど、大丈夫って言われたよ。
竜の子孫の人は貴族じゃないから、ぼくの格好でも問題ないんだって。
せっかく国主様っぽい服を着たんだから、ダメだって言われなくて良かったよ。
お出かけはいつもみたいに馬に乗っていくのかなって思ってたけど馬車だった。
あ、御者さんもいるから九人か。
馬車には、ぼくと国主様とヒナさんと騎士さんの四人で乗ったよ。
他の人は馬に乗って行くんだって。
騎士さんがすごく居心地悪そうにしてたし、ぼくも馬に乗るって言ったんだけどね。
ダメだって言われちゃった。
確かにぼくだけじゃ、まだあぶみに足が届かないけどさ。
騎士さんと一緒なら平気なのになぁ。
竜遺跡に着くまでは、たくさん話ができて楽しかったよ。
ずっと騎士さんがそわそわしてたけど、そんなに嫌だったのかな。
そう言えば、朝は一緒に食べないもんね。
もしかして騎士さんは宰相様だけじゃなく、国主様も苦手なのかも。
朝からずっと暗い顔をしていたのもそのせいなのかな。
そんなことを考えてたら、馬車が止まったんだ。
竜遺跡はお城みたいな所だった。
色とか模様とかがすごくそっくりなんだ。
でも、ぼろぼろだし、お城みたいに大きい建物が真ん中にあるわけじゃなかった。
四つの高い塔があって、その真ん中に小さい建物があったんだ。
神殿なんだって。
町にあった神殿よりもすごく広くて、お城の代わりに使えそうなくらいだったよ。
どうして今は使われてないんだろう。
ぼろぼろだからかな、それとも水が近くにないからなのかな。
ヒナさんはこういう建物が好きみたい。
すごくキラキラした顔であたりを見てるもん。
どっちかって言うと、ぼくは探検する所があればいいかなぁ。
お城は隠し通路とかたくさんあって面白かったもん。
ここには隠し通路とかってあるのかな。
もっと奥に行ってみようと走り出した時、国主様がぼくの名前を呼んだ気がしたんだ。
振り返ろうとして、何が起こったかわかんなかった。
気がついたら、騎士さんに抱えられてたんだ。
聞き覚えのある金属音とあせったような声が聞こえた。
目の前がキラキラと光っている。
騎士さんも剣を抜いているんだ。
「ノイ、クラウ、ソーイはサエとヒナを守って馬車に戻れ! ウルニ、ハリア、来い!」
みんな色々言ってる中で国主様の強い声だけがしっかり聞こえてきた。
でも、その後に国主様がどうなったのかはわからない。
ぼくは騎士さんに抱えられたまま、馬車の中に運ばれちゃったんだ。
馬車の中でも騎士さんは剣から手を離さなかった。
なんか嫌なことが起きてる気がする。
ぼくも剣を抜いた方がいいって思ったのに、全然体が動かなかった。
結局、すごく長い時間が経った後にもう大丈夫って言われるまで、何もできなかった。
ずっとヒナさんに抱きしめられてただけだったんだ。
国主様はいつの間にか戻ってきてた。
それで、お出かけは中止するって、ごめんって言ったんだ。
何が起こったのかとか、何も教えてくれなかった。
でも国主様がすごく怒ってたのはわかったよ。
あんなに怖い顔の国主様は初めて見たもん。
ヒナさんが言ったら、すぐにいつもの国主様の顔に戻ったけどさ。
でも、やっぱりなんかぴりぴりしてたもん。
楽しいお出かけになるはずだったのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろ。




