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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と平穏
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2.国主様の仕事

色々と問題はあったが、計画が順調に進んでいるのはありがたい。

問題を一つ片付けるたびに、国境で敵部隊を殲滅した時の気分になる。

未だに不慣れな事ばかりだが、目に見える成果が出たというだけでやる気が湧いてくる。

イセルタもチテラテに渡りをつけてくれたという連絡も入ってきた。

この分なら、今年中に一度集まれるかもしれない。

その時までには、蔓草貴族を含めた反対派の勢力をどうにかしておきたいものだ。

ケイサン宰相は手を切ると約束してくれたが、それで完全に動きを封じられるとは思えない。

此処しばらくは静かだが、機を伺っているだけだろう。

その内、どS宰相の知恵を借りなければならない。

問題は穏便に終わらせてくれるかどうかという所だ。

丁度切りの良い所まで終わらせた時に、執務室の扉が叩かれた。

扉の向こうからはサエが私を呼ぶ声が聞こえてくる。

そろそろ朝の鍛錬の時間らしい。

最近の朝の時間は私は政務、サエは勉強に充てている。

これまでは一人残されるサエが寂しいだろうと遠慮をしていた。

だが、例のケイサン宰相の息子との衝突が何やらサエの闘争心に火を着けたようだ。

朝の時間を使ってまで勉強をしているらしい。

子供の頃は勉強が苦手で必要最低限しかやってこなかった私とは大違いだ。

急かすサエの声に、書類を適当に整理して鍛錬へ向かう事にする。

サエは剣も熱心にやっている。

才能があるし素直なので飲み込みも早いので将来が楽しみだ。

力ではなく、技術と速度で圧倒するサエの剣なら、努力次第では大人にも勝つだろう。

今はまだまだだが、いずれ抜かされるかもしれないぞと兵に発破をかけておく。


どう考えても自分に向いていない仕事に囲まれる中で、朝の鍛錬は唯一の安らぎだ。

実の所、問題になるような凶悪な獣も居ないこの国ではそこまでの兵力は必要ない。

おまけに皇国内の戦争は基本的に禁止されているし、狙われる程の魅力も無い。

だが、宰相の心行くまでやれば良いという言葉を盾に好き勝手やってきた。

故郷の国境警備隊の練度に比べればまだまだだが、もうそろそろ使い物になりそうだ。

ただの道楽とはもう言わせない。

ケイサンへの害獣駆除の支援話もあったので、近いうちに役に立つ日も来るだろう。

もっとも、対人を想定した訓練しかやっていないのだが。

副団長とも相談して、今年の軍事演習の方針を変えた方が良さそうだ。

忘れない内に副団長に案を提出するように言っておく。


鍛錬が終われば、またすぐに政務に戻らなければならない。

計画が上手くいっているのは良いのだが、比例して仕事も増えるのはいただけない。

当初より作業処理速度も上がっているはずなのに、増加速度が圧倒的だ。

ヒルトナーナ嬢の助力が無ければとっくの昔にパンクしているに違いない。

ケイサン宰相親子の訪問は問題山積だったが、結果的に良かったのだろう。

私の無能さがついにばれたお陰で、前より積極的に頼めるし助けてくれるようになった。

宰相に頼る手もあるのだが、もう今までの負債が数え切れないので考えたくない。

頼る度に心を抉る一言が漏れなく付いてくるというだけで気力が削がれる。

あれは心労と引き替えに仕事を処理してもらう悪魔の契約だ。

同じ頼るなら、ヒルトナーナ嬢との歓談付きの方が良いに決まっている。

サエの事でも話が弾むので、彼女と書類を片付けながら話すのはいつも楽しい。

彼女にはサエの教師もしてもらっているので、午後からという制約はあるのだが。


病院の不足に関する報告書を読んでいると、皇都から使者がやってきた。

非常に面倒臭いが、身なりを整えて応対する事にする。

内容は皇王様の即位30年記念式典と第二皇子の皇太子指名を行う、との事だった。

よって今年の式典には全ての国主あるいは代理者が出席するようにと。

ついに皇太子が指名されるのかと驚いた。

皇王様は、人望もあり才気に溢れた第一皇子を流行病で失って以来、沈黙を貫いていた。

その為に第二皇子、第六皇子、第十二レアル皇子あたりを推す派閥があったはずだ。

「誠実と正妻の子に加えて、何故自分が担ぎ上げられるのか分からないのだよ」

非凡な才能を持つあの変人皇子が困ったように言っていた事を思い出す。

彼自身は第二皇子を皇太子にする為に色々動いていた。

ついに彼の努力が報われたというのは、私としても嬉しい。

彼の周囲を騒がせないのならば、友人として気軽に連絡を取れるようになるだろう。

今回の知らせは何よりだ。

これで国主に出席義務がなければなお嬉しいのだが。

思わず使者に確認してしまったが、当然聞き間違いなどではなかった。

今まで皇都の茶会も全て断ってきたが、今度ばかりは逃れられないらしい。

またあの好奇の目に晒されるのも嫌だが、この状態の国を放って行くのも嫌だ。

代理者でも可能という事は宰相に押し付けられないだろうか。

そう思ったのを見越したのだろう。

使者が退室した後で、宰相は自分が居なくなったら機能しないだろうと言ってきた。

まだ何も言っていないし、私だってそれは理解している。


その後、昼食の間に二人で相談した。

皇都に集まるのを機に、例の四ヶ国の計画を話し合ってはどうかというのだ。

式典には出席しなければならないが、四六時中行動を制限されるわけではない。

一度集まろうと思っていたのだから、渡りに船だ。

式典は夏というから、これから急いで調整すれば何とかなるだろう。

またやる事が増えるのかと思うと、枯れた笑いしか出なかった。


午後に手伝いに来てくれたヒルトナーナ嬢にも式典の事を告げる。

私一人では、貴族共に良いように手玉に取られてしまうだろう。

宰相も認める手腕の彼女が居てくれれば心強い。

おまけに前回の皇都滞在時同様、未婚の私に娘を押し付けてくる貴族が居るに違いない。

ヒルトナーナ嬢を連れて行って牽制するつもり満々なのだが、彼女は快諾してくれた。

唯一気になるのがサエだが、流石に式典に連れて行くわけにはいかない。

共に行っても私は忙しいのだから、一人寂しい思いをさせてしまうだけだろう。

それよりは知る者の多いアヌートに残していった方が良いはずだ。

近い内にサエにもまた留守にする事を告げなければいけない。

落ち込みながらも、私に心配をかけないと気丈に振る舞うサエの姿が容易に想像できる。

どうにも心が痛むがこればかりは仕方がない。


全ての仕事が終わる頃には、夜もすっかり更けていた。

護衛騎士から今日の報告を受ける。

今日もサエは一日走り回っていたらしい。

サエが元気にしているだけで、書類仕事での疲れも吹き飛んでいく気がする。

日記に書かれたダンスの文字に、ヒルトナーナ嬢はダンスが苦手だった事を思い出す。

式典では一度くらい踊らねばならないだろうが大丈夫なのか。

そう思って口に出してみると、悲痛な顔で練習しますと返ってきた。

命すら賭けそうなその顔に、無理そうならどうにかするから気にしないようにと言う。

いつも世話になっているのだから、こんな時くらい助けてやりたい。


報告が終わって寝る前に、サエの部屋を覗いてみた。

サエはよく眠っていて、私が来ても起きる様子は無い。

頭を撫でてやると、サエの顔が緩む。

寝ているはずなのだが、私だと気付いているのだろうか。

それとも他の誰かを思い浮かべているのか。

そう思っていたら、むにゃむにゃとサエが呟いた。

断片的にしか聞こえなかったが、私にお疲れ様と言ってくれている気がする。


私は小さくありがとうと返してみた。

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