1.ひきこもり猫
起きたら、もう夕方だった。
ぼく、寝ちゃってたみたい。
いつの間にか部屋に来てたけど、寝た後に騎士さんが連れてきてくれたのかな。
こんなに泣いたの初めてだよ。
頭痛いし、目も痛いし、泣くのって嫌だなぁ。
騎士さんがお湯を持ってきてくれたから洗ったけど、まだ変な感じがするし。
それに、どうして泣いたのかも思い出しちゃった。
言う事聞かないで逃げてきちゃったし、きっと国主様怒ってるよね。
このまま部屋に居たら、夜には国主様がお仕事終わらせて戻ってきちゃう。
そうしたら、国主様と顔を合わせなくちゃいけないよね。
でも、また怒られるかもしれないし、出てけって言われちゃうかも。
なんか会いたくないな。
そう思ったら、なんとなく部屋を出てきちゃったんだ。
騎士さんはちょっと溜息をついてたけど、怒ったりしないでついてきてくれた。
いつもはこんな時間に部屋を出て行くことなんてないから、なんかわくわくする。
でも、すぐにどこに行こうって思ったんだ。
何人も思い浮かんだけど、ぼくが今行っても迷惑だよね。
国主様が怒ってるかもしれないし、おまけにこんな時間に出てきちゃったし。
そのまま部屋に戻った方がいいのかなって思ったことは思ったんだよ。
思ったんだけど、ぼくは部屋じゃなくて図書館に逃げ込んだんだ。
図書館は大好き。
まだ読めない文字とか意味が分からない言葉もあるけど、本を読むのは楽しいし。
……それに、図書館には誰もいないしね。
図書館で火をつけるわけにいかないから寒いのが困るけど。
特に今の季節はね。
でも、図書室から出ていったりはしなかったよ。
ぼくがくしゃみをしたら、騎士さんが毛布をどこからか出してきてくれたしね。
もこもこの毛布にくるまったら、とっても暖かいんだ。
ぼく、国主様に追い出されても、このまま図書館に住んだりできないかなぁ。
やっぱお城から出ていかないとだめかなぁ。
騎士さんに聞いてみたら、追い出されたりしないから大丈夫だよって言ってくれたんだ。
それに、もし追い出されても騎士さんの生まれた村に行けばいいよって。
騎士さんのおばあちゃんは子供が好きだから、きっと優しくしてもらえるってさ。
そう言ってくれたから、ちょっと安心しちゃった。
安心したら、ヤシオコーグの姿が思い浮かんできたんだ。
あの時は頭に血が上ってぼこぼこにしちゃったけど、あれってすごく痛かったよね。
国主様が怒るのも当然なのかも。
国主様はぼくよりも兵のみんなよりもずっと強い。
でも、国主様がぼくをあのヤシオコーグみたいにぼこぼこにしたことなんてなかった。
ぼくもヤシオコーグが失礼なことを言ったからって、我慢すればよかったんだ。
国主様みたいに強いんだぞって腕の差を見せつけるだけで十分だったんだ。
最初に国主様に、いっぱい教えてもらったのに。
「ぼく、やっちゃいけないことしちゃったんだ」
また涙が溢れてくる。
「分かってるなら大丈夫だ。次はもうこんなことしないだろ?」
騎士さんがそう言ってくれたから、ぼくは思いっきりうなずいた。
ぼくはそのまま部屋に帰らずに、図書館で騎士さんとお話ししてたんだ。
もう遅いかもしれないけど、明日は国主様に会って、ちゃんと謝ろう。
いやだけど、ヤシオコーグにも謝ろう。
今日はちょっとだけ勇気が持てないんだ。
でも、国主様はそんなぼくのことを分かってたのかも。
ぼくのお腹が鳴りだす頃に、国主様が図書館にやってきたんだ。
ぼく、誰にも言ってないのにどうしてここにいるって分かったんだろう。
もしかしてぼくを探してくれたのかな。
国主様はすごく疲れてるみたいだった。
そこですぐごめんなさいって言えば良かったのかも。
でも、急に来たからびっくりして本棚の陰に隠れちゃったんだ。
そうしたら、国主様は怒ってないから出ておいでって言ったんだ。
せっかくの暖かいご飯も冷めちゃうよって。
国主様は美味しそうなご飯を持ってた。
ちらっと見たら湯気が出てるし、良い匂いもしてくる。
図書館には食べ物持って来ちゃだめなんだよって言ったら、今日は特別だってさ。
でも、本にかかったら危ないから、こっちで食べようって入り口付近で手招きしてる。
むむむ。
ぼくは大人しく、本棚の陰から出ていくことにした。
国主様がもう怒ってないってくり返したからだよ。
今日はデザートも付いてるのにって言葉につられたわけじゃないよ。
おいでって言ってくれたから、国主様の座っている所にすっぽり入ってみる。
国主様の顔が見えないけど抱えられているとなんだか安心するよね。
一緒にご飯を食べながら、国主様にごめんなさいってちゃんと言えたよ。
明日、ヤシオコーグにも言えるかって聞かれたから、言えるよって言ったんだ。
それとね、どうしてあんなことしちゃったのかっていうのも言ってみた。
国主様は、私のために怒ってくれたのはうれしいって言ってくれた。
けど、次にあったら怒るのをちょっと我慢して、すぐに教えてだって。
ぼくは分かったってすぐにうなずいたよ。
もう、国主様に嫌われたかもって思うのは嫌だよ。
次の日、湿布とか包帯まみれのヤシオコーグにちゃんとごめんなさいって言ったよ。
ヤシオコーグも言い過ぎたって言ってくれたのはびっくりだね。
すごく態度が悪かったけど。
その後でケイサンの宰相様に叩かれてたから、昨日怒られたのかな。
それからヤシオコーグが帰るまで、また会うことはなかったんだ。
もし次に会った時は、ばかだって言われないようにしようって思ったよ。
ぼくがもうちょっと勉強できてたら、ヤシオコーグが悪口言うこともなかったかもだし。
そんなことを国主様に言ったら、ヒナさんが勉強を教えてくれることになったんだ。
礼儀作法とか、覚えなくちゃいけないこととか、騎士さんよりも詳しいんだって。
騎士さんに教えてもらえないのは寂しいけど、ヤシオコーグを見返すためだもんね。




