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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と北の隣国
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2.護衛騎士の恐怖

来客と聞くと、皇子と姫団長の騒乱を思い出して気が滅入る。

今度こそと思っていたが、小生意気そうなガキの顔を見た瞬間に思った。

あ、今回もろくな結果にならねぇ予感がするなってな。

国主様はサエと友達になれないだろうか、なんて言っていたが無理だろ。

身分が高くて、それを自分の力だと勘違いしている奴はサエが嫌いそうだ。

傲慢な貴族にも全く近付いて無いしなぁ。

流石に国主様派の温厚な貴族には挨拶するようになったが。

もっとも、合わないだろうという空気は国主様も感じ取ったようだった。

無理ですねとの思いを込めた目で見てみたら、無理だなと言いたげな視線が返ってきた。

良かった、これで国主様にどうにか機会を作れ、とか言われたら逃げ出す所だ。

俺も自己紹介もまともに出来ないガキとサエの仲を取り持つなんて嫌だしな。

自立ケイサンの宰相は躾が至らず申し訳ないとか言っていた。

親の方は最低限の常識はあるらしい。

こんな子供なら本来なら連れてきたくなかっただろうなぁ。

今回は国内外への言い訳の為に連れてきたらしいので仕方がないが。

それもこちらへの配慮なのだから、多少クソガキでも我慢しなければならない。


とにかく、さっさと国主様が二人を連れて行ってくれて何よりだ。

サエもつまらなそうにしていたので、早く自分の国に帰ってほしい。

何もイベントがない日々が一番平和で幸せだなと、最近しみじみと思う。

まぁ、今回は向こうがサエに興味を持っていたり、用があるわけではない。

会わないようにしていたら何事もなく過ぎるだろう。


そう思っていたのに、朝の鍛錬の後にうっかりばっちり出くわしてしまった。

いや、ある程度は向こうの予定を調べて避けようと思っていたが、これは予想外だろ。

国主様がお客と朝食を摂る為に向かったのって結構前だぞ。

眠そうな顔のガキを見るに、原因はあいつらしい。

サエを見習え。

だが、ガキは兵士達と談笑していたサエの姿に目が見開かせた。

確かに女が剣振っているだけで珍しいからなぁ。

でもお前の横の母親も同族の猛者だという事を忘れていないか。

ああ、もしかしたら自分と同じような年齢の女子がって所に驚いたのかもな。

変な興味を持たれないと良いが。


最近のサエは鍛錬の後に寝ないだけの体力が付いたので、鍛錬直後に勉強を始めている。

剣だろうと勉強だろうと、サエの向上心には感心する。

大好きな国主様の為というのが原動力になっているのだろう。

俺じゃとても真似できない。

最近では、俺の予習が追い付かなくなってきていて困っている程なんだから。

いい加減国主様ではなく、宰相に泣きつくしかないのだろうか。

ゴミを見るような目で淡々と罵倒されるのかと思うと、酷く気が進まないのだが。


そんな事を思っていたら、唐突に部屋の扉が開く。

反射的に武器を手に持ったが、そこに居たのは例の自立ケイサンの宰相のガキだった。

殺気に気付かないからおかしいとは思ったさ。

でも普通、ノックも無く乱暴に開け放つとか、火急の用か襲撃だろ?

問答無用で攻撃されても文句言えねぇぞ。

やったらやったで、大事になるのは目に見えているが。

おそらく、国主様と自立ケイサンの宰相は密会中。

国主様が城内を自由に見て回って良いとでも言ったんだな。

確かにこの城は古くて見所があるし、広いので時間潰しには最適だろう。

他人の部屋の扉をノックも無く豪快に開け放つガキに言ったんじゃなければ。

そもそも護衛はどうした。

もしや、撒いて来たのか。

どうしてこの部屋に来る招かれざる者は、ストッパーも一緒に持ってきてくれないんだ。

前に来た皇子も姫団長を撒いてきたじゃないか。


なんて思っている場合ではない。

無駄に身分が高いガキの対応とか知らねぇんだけど。

どうにか穏便にお帰り願えないだろうかと心底思う。

とりあえず、私室なので侵入は遠慮してもらえないかと言ってみたが無視された。

やんわりと言ったのが悪かったのか、身分が高い人間には俺は羽虫のような存在なのか。

ガキはサエの姿を認めてずかずか入ってくる。

そして、サエの勉強内容を見るなり、鼻で笑いやがった。

「こんな初歩をやってるなんて、馬鹿だな」

そもそも最近は俺の予習が間に合わないせいで意図的に遅らせているので、心に刺さる。

むっとした顔をしているが、サエが悪いんじゃない。

額面通りに受け取らないでくれ。

今晩こそ国主様と宰相に直談判しようと固く心に誓う。


生意気なガキはサエの名前を笑い、緑の貫く狗ヤシオコーグと名乗った。

……叩き出して良いだろうか。

偉大なる狗の神の息子の名前だとか言って威張っていたが、それは威張る事じゃない。

息子が偉大だとは言ってないだろう。

そもそも偉大なる狗の神って何だ。

古の開拓神の緑角狗ヤヌアコーグの事を言っているんだろうか。

狗の神は有名所が何柱か居たはずなんだが、威張るくせに名前も覚えていないんだろ。

こいつは犬っころで十分だな。

サエに偉そうに話しかけているが、これ以上居座られても良い事は無さそうだ。

後で俺が自立ケイサンの宰相から睨まれるのも覚悟の上で追い出すとするか。

そう思った直後、犬っころがサエの逆鱗に触れる発言をかましてくれた。

「下民風情を拾うとは国主も底が知れるな」

おまっ、国主様大好きっ子のサエにそんな事言うなよ……。

サエにとりあえず落ち着けと言ってみるが、案の定聞く耳を持たない。

勉強道具を放り出すと、思いっ切り犬っころの服に掴みかかった。

国主様を悪く言うんなら承知しないぞ、と威圧的に言い切った。

子犬のように震える相手に気付いていないんだろうか。

相手を凹ませる時は必要以上に追い詰めすぎないのが鉄則だろうが。

犬っころの方にもこの場を収めてくれないか言ってみたが、聞こえていないようだ。

きゃんきゃん鳴き喚く犬っころとにゃーにゃー言い返すサエ。

こうなったら仕方ない。

そう思って無理矢理、間に割って入ろうとしたら、サエに渾身の力で足を踏まれた。

痛ぇ! と思わず声に出したが、転げ回る事は踏みとどまった。

転げ回っている場合ではない。

走り出した一歩目の真下に偶々俺の足があっただけのようだが酷ぇ。

サエは俺に一瞥いちべつもくれず、犬っころを引きずって去っていってしまった。

さっき、剣がどうのと言っていたので、嫌な予感しかない。

俺もさっさと追いかけねば。


部屋を出て走る途中で、兵の一人にすれ違った。

呼び止めて、国主様への伝言を頼む。

怒髪天状態のサエを言葉で止めるのなんて、国主様しかできないだろう。

ついでに、外交問題という字も頭の中を駆け巡る。

やばさを理解したのか、兵も慌てて駆けだしていってくれた。


ようやく辿り着いた鍛錬場では、今まさに決闘が始まろうとしていたところだった。

数人の兵達が周りではやし立てている。

おまけに止めようとした俺を力尽くで押さえ込んでくる。

子供がやる事だからとか一回やり合った方が仲良くなるとか言っている場合じゃない。

この脳筋馬鹿共がっ!

よりにもよって、今日この時間に居る奴は残念な頭の奴しかいなかったようだ。

副団長あたりがいれば間違いなく止めているだろうに。


結局、俺の奮闘も空しく、サエは犬っころを完膚無きまでに叩き伏せた。

ボロ雑巾のような犬っころ……。

サエが嬉しそうだが、色々と終わった。

宰相に処分される俺の姿が容易に想像できる。

ばあさん済まないと思わず漏れる。

全然帰らないばかりか、俺のせいで道連れにされます。

崩れ落ちる俺の横で、馬鹿兵士共はやんややんやと喝采を上げている。

後でお前等も全員厳罰ものだ馬鹿。


そして、全てが終わった後で国主様が駆けつけた。

隣には自立ケイサンの宰相も一緒だ。

サエが犬っころを打ち倒した直後の現場に来るとはまた間の悪い。

サエは無表情になった国主様にも気付かずに、笑顔で駆け寄っていく。

だが、国主様はサエを叱りつけた。

「サエ、最初に教えた心得も忘れたのか。

 私は弱い者を叩き潰して喜ぶ為に剣を教えたわけではない」

大きな声だったわけではない。

だがそれだけで、騒がしかった鍛錬場が静まりかえる。

俺に言っているんじゃないと分かっていても、冷たい声色に背筋が凍った。

国主様はサエの頭を押さえて、自立ケイサンの宰相に頭を下げる。

そして、ご子息に怪我を負わせて申し訳ないと言うと、すぐに兵に医師の手配を命じた。

国主様は続けて、サエにも犬っころに謝るように言う。

だが、サエは押し黙ったままだった。

やべえ、泣く寸前だ。

国主様が強くサエ、と名前を呼ぶとサエは弾かれたように駆けだしていった。

俺はすぐさま後を追う。

本当は事情説明なりなんなりする必要があったのかもしれないが、まずはサエだ。

今のサエを一人にはできなかった。


追い付いた先は庭園だった。

最近はヒルトナーナ様が何やら手を加えていたはず。

あの場に居た俺を除いて、次に駆け込んだのがヒルトナーナ様とは。

まぁ、他の人は居場所が特定できない事も多いのだから当然か。

サエはヒルトナーナ様に抱きついて、わんわんと声を上げて泣いていた。

こんなに大声で泣くサエを見るのは初めてだ。

ヒルトナーナ様はサエを優しく撫でている。

大泣きするサエを前に狼狽する事しか出来ない俺に、ヒルトナーナ様が気付いたようだ。

彼女は笑みを絶やさずに問いかけてきた。

「サエさんをこんなに泣かせたのはどなたなのか、伺ってもよろしいですか?」


無表情の国主様より微笑んでいる彼女の方が怖いのは、気のせいではないだろう。

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