1.猫の嫌悪
お隣のケイサンって国からお客さんが来たんだ。
この国に遊びに来たんだって。
去年の今頃にテッラ様と皇子が来たけど、冬はお客さんが多いね。
ケイサンはお隣はお隣でも、ヒナさんの生まれたイセルタとは全然違うんだってさ。
騎士さんはケイサンにもイセルタにも行ったことがあるって言ってた。
ぼくは他の国に行ったことがないからうらやましいなぁ。
いつか、国主様が前に暮らしてたムルクってところに行ってみたいんだ。
お客さんはケイサンの宰相様とその子供だって。
宰相様って女の人でびっくりしちゃった。
すごくしっかりしてそうな人で、ヒナさんよりテッラ様に似てるかなぁ。
ケイサンの宰相様の子供はぼくと同じくらい。
しばらくお城にいるんだってさ。
国主様は仲良くしてって言ってたけど、舞の時の子みたいに避けられないといいなぁ。
ちゃんとヒナさんに会った時みたいに自己紹介できたよ。
でも、ケイサンの宰相の子供はすごく偉そうな子だったんだ。
ぼくが初めましてって言っても、そうかって返すだけだしさ。
敬語使わないだけでも失礼なのに。
名前も言わないなんて、もっと失礼だよ。
その日は国主様が二人を案内するって一緒に行っちゃうしさ。
お城のみんなも急がしそうだしさ。
なんかあんまり面白くない日だった。
次の日、朝の訓練が終わって部屋に戻ろうとしたら、その子に会った。
ケイサンの宰相様と一緒だから、多分鐘が鳴った後だったから朝食に行く途中かな。
ぼくが兵士の人達と歩いてくる姿を見て驚いてた。
何か変な物でもあったのかな?
後ろを振り返ってみたけどいつもと変わらなかった。
騎士団長さんは、女が剣を練習してたのが珍しかったのかもってさ。
そんなに珍しいことなのかな?
テッラ様だって剣を使えるのにね。
それから勉強をしていたら、その子がぼくの部屋に乗り込んできたんだ。
訓練の後の勉強は眠いなぁと思っていたら、ノックもせず急にだよ。
失礼ってレベルじゃないよね。
その子は一人だった。
ケイサンの宰相様はどこに行ったんだろう?
どうしたのって声をかけようとしたら、その子はぼくの勉強内容を見て笑ったんだ。
「こんな初歩をやってるなんて、ばかだな」
だって。
ぼく、勉強するの遅かったんだから仕方ないじゃん。
なんか嫌だなぁ。
勉強の邪魔だから出てってって言っても、にやにや笑ってるんだ。
その子はお前の名前はって聞いてきたんだ。
昨日も自己紹介したのにさ。
ばかなのはどっちだよ。
もう一回、サウルエーレだよって言ってあげたよ。
そうしたら、その子が俺はヤシオコーグだって名乗ったんだ。
偉大なる犬の神様の息子の名前なんだってさ。
それ、息子がすごいとは限らないんじゃないかな。
ヤシオコーグって奴はぼくの名前が変だって言ってきたんだ。
国主様が一生懸命考えてくれた名前を悪く言うなって言い返してやったよ。
ヤシオコーグはそれを聞いて、ぼくが国主様の子供なのかって聞いてきたんだ。
国主様は拾ってくれたけど違うよって言ったよ。
そうしたら、ヤシオコーグは偉そうな顔をして、だろうなって言ったんだ。
全然似てないんだから当然じゃん。
なのにヤシオコーグは、げみんふぜいを拾うとは国主も底が知れるなって言ったんだ。
意味はよく分かんなかったけど、国主様の悪口を言ったのは分かったよ。
騎士さんが止める声は聞こえてたけど、ぼくは思いっきりそいつにつかみかかったんだ。
ぼくは別に拾われる前から色々言われてきたけどさ。
国主様を悪く言うんなら承知しないぞ! って言ってやったよ。
ヤシオコーグなんかと比べものにならないくらい国主様はすごいんだから。
格好いいし! 強いし! 優しいし!
何も知らないやつに言われたくないよね。
ヤシオコーグは怖がってたよ。
気も小さいくせにいきがるからだ。
でも、ヤシオコーグは俺に手を出すならぼこぼこにしてやるぞって言ってきたんだ。
俺は剣を使えるんだぞって。
うそだよね。
足さばきを見ても、剣をろくに使えないのはすぐ分かるよ。
割り込もうとしてきた騎士さんを押しのけて、やってみろって言ってやったさ。
そのままそいつを訓練場まで引きずっていって、木剣を渡してやったよ。
訓練場にいた他の人達が、力ずくで止めようとする騎士さんを抑えてくれたんだ。
正々堂々、勝負さ。
怖いなら今の内に降参すればって言ったら、後悔させてやるって言って襲ってきたんだ。
でも、全然動きがなってなかったね。
返り討ちにしてやったよ。
舞の時の子達の方が、よっぽどいい動きをしてたね。
どうせ訓練さぼってるんでしょ、当然だねって言ってやったもん。
国主様の悪口を二度と言うなって言ったところに、国主様がやってきたんだ。
ほめてくれるかなって思ったよ。
でも、国主様はぼくを思いっきり怒ったんだ。
そんなことをするために剣を教えたんじゃないって。
ぼくの頭を押さえて、謝れって言うんだ。
国主様の悪口を言うあいつが悪いのに。
あいつは全然怒らないのに、ぼくばっかり。
なんかすごくいやな気分になって、逃げ出しちゃった。
庭でヒナさんにどうしたのって聞かれて、涙が止まらなくなっちゃった。
ぼく、国主様に嫌われちゃったかなぁ。




