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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と菓子
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2.国主様の入れ知恵

ヒルトナーナ嬢が来てから数日。

ようやく落ち着く事が出来た。

何人来るんだと言いたい量の荷物も、使っていない部屋が多数あったので詰め込めた。

同じく、多すぎる使用人はヒルトナーナ嬢が自発的に必要な人間以外は返してくれた。

正直、どう切り出そうかと思っていたので助かった。

結婚まで婚前交渉はまかりならんと言いたげな老女が残ったのは気が重いが。

勿論手を出す気はないが、一緒にいる間中睨まれるのはどうにも気になる。

実の父がアレだから、そんなに信用が無いのだろうか。

イセルタ国主は皇都の貴族に嫁いだ長女から情報を得ているらしく事情通だった。

最初に会った時は将軍がどうのと言われて困った覚えがある。

私の身に流れる血を警戒して、あの老女を付けたのでも不思議ではない。

彼には皇国一の好色男なんて二つ名があるらしいので、分からなくもないが理不尽だ。


ヒルトナーナ嬢に会う時に、唯一老女の目が無いのが夜だ。

と言っても、別にやましい事をしているわけではない。

交流も兼ねて、サエの護衛騎士の報告に同席してもらっているだけだ。

日中になかなか纏まった時間が取れないのだから仕方がない。

彼女と一番仲が良いという侍女も居る。

ヒルトナーナ嬢も私と一対一よりは話しやすいだろう。

図書館や庭に良く居るという話も聞いた。

どうやら、図書館にはイセルタよりも多くの本があって飽きないらしい。

庭では乾燥に強い植物を試しに植えてみたりしているようだ。

その内、町や世界壁、大断崖、遺跡等にも行ってみたいと言っていた。

意外と彼女は活動的なようだ。

そろそろ怒竜期だが、明けて暇が出来たら行ってみるのも良いだろう。

因みに、報告の時間帯に老女が他の侍女に任せて別の仕事をしているのは偶然だ。

別にいい加減鬱陶しいから、老女の居ない時を狙っているわけではない。


そんなある日、彼女からサエに避けられているようだと言われた。

確かに一日の報告を聞いていても、彼女の名前が出て来ない。

食事の時にもあまり話していないと思っていた。

サエは人見知りしないと思ったんだがな。

ヒルトナーナ嬢よりも近寄りがたいテッサラーナさんとは仲良くなれたのに。

もしや、皇子のように繋ぐ役目の人間が居ないからか。

私も最初の紹介以外は特に何も言ってなかったしな。

私からサエに、ヒルトナーナ嬢と交流するように言ってみようかと提案してみた。

だが、護衛騎士が止めた方が良いと助言してくる。

サエは私をヒルトナーナ嬢に取られたという思いがあるのだろう。

だから、私が口を出すと余計傷付くと言うのだ。

そう言えば、私も妹が生まれた時は母を取られた気がしたものだ。

問題児な妹に付き合っている内に、そんな思いはいつの間にか霧散していたが。

ならば、ヒルトナーナ嬢とサエに接点でも作れば良いのか。

「菓子でも一緒に食べたらどうだ?」

不意に思い浮かんだのは、菓子に釣られたサエの姿だった。

後日、皇子から沢山の菓子を送られて喜んでいたはずだ。

好きな菓子でおびき寄せれば、案外すんなり仲良くなるのではなかろうか。


ヒルトナーナ嬢は少し考えた後に、イセルタの菓子を手作りしたいと言ってきた。

料理を作れるとは珍しい。

成る程、焼きたての匂いがすれば、探さなくてもサエも寄ってくるだろう。

料理長に話を通しておくと伝えた。

少々気難しい老人なので、私から一言無ければ追い出されてしまう。

実行したら詳細を報告してくれと告げて、その日の相談は終わった。


数日後、本格的に怒竜期が来て、再び忙しい時期がやってきた。

流石に去年よりは楽だが、引き籠もっている間に終わらせなければならない案件は多い。

書類を片付けていると、サエが元気良く飛び込んできた。

目を輝かせて、ヒルトナーナ嬢の作る菓子が凄くふわふわで美味しいと言ってくる。

そうかそうかと宥めていると、ヒルトナーナ嬢もやってきた。

菓子のお裾分けをしにきてくれたらしい。

ちらりと宰相を見れば、溜息を吐いたが止めはしなかった。

どうやら少しの休憩は許してくれるらしい。

政務を中断して、茶を入れてもらう。

イセルタの菓子は見た目は素朴な茶色で、中が鮮やかな黄色の菓子だった。

ふわふわと言っていたし、甘いパンの様な物かと思ったら、意外としっとりしている。

そう言えば、アヌートでよく食べられている物は固い菓子だ。

皇子が送ってきた菓子も、長期間の輸送に耐えられるようにしっかり焼いた物だった。

サエが柔らかい菓子を食べるのは、意外と初めてだったのかもしれない。

だからあんなにふわふわと言っていたのかと思い当たる。

あまりにも菓子の美味しさを熱心に語るので、半分はサエにあげる事にした。

最初は貰っても良いのかと悩んでいたが、誘惑には耐えられなかったようだ。

私から受け取るなり、喜んで食べていた。

嗜好品なので今までは日常的に食する事はなかったが、これからは考えてみようか。

サエは、「ヒナさんがもっと色々作れるんだって」と嬉しそうに言っていた。

菓子作りで二人の仲が良くなるのなら、食費の枠に製作分も確保しておくべきだろう。

その日のサエの日記には、ヒルトナーナ嬢が良い人だと書かれていた。

菓子が美味しかったとも。

どうやら、作戦は上手くいったようだ。


しかし、作戦成功を喜ぶよりもサエの釣られやすさに不安を覚えるべきだろうか。

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