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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫とお留守番
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2.護衛騎士の遭遇

それは朝から無駄に鍛錬に引っ張り込まれるのも慣れてきた頃の事だった。

国主様の享受イセルタ行きが決まったらしい。

前々からそんな話は聞いていたが、何も知らないサエは驚くだろうな。

今までは出かける所は全て国内だったから、サエも一緒に連れて行っていた。

だが、今回ばかりはそうもいかない。

流石に国主様のお気に入りでも、サエはまだ、ただの孤児だしな。

その内、養子にでもするんだろうか。

話を聞かされたサエは、明らかにショックを受けた顔をしていた。

城に住むようになってから国主様と離れるのは初めてだしな。

嫌がるかと思ったが、サエは国主様に気を付けて行ってきてねと言って笑顔を見せた。

こういう所は妙に聞き分けが良いんだよなぁ。

普段は我慢するなと言う国主様も、今回ばかりは何も言わなかった。

言った所で享受イセルタ行きを取り消す事は出来ないのだから仕方ない。

まぁ、享受イセルタは領地は小さいが豊かな所だ。

享受イセルタ国主は国主様を気に入っているみたいだし、危険は無い。

すぐに帰ってくるさと慰めておいた。


国主様が居なくなっても、サエの一日はあまり変わらない。

朝は俺が起こせばきちんと鍛錬所に向かうし、勉強も熱心にしている。

ただ執務室に行く回数は明らかに減った。

国主様が居ないから遠慮しているのかもしれない。

どうせ行っても宰相しか居ないから、俺としてはありがたい。

今までと変わらないのは確かだが、偶に寂しそうにしているのは分かっている。

サエの姿を見ていると、さっさと帰ってきてほしいなぁと思う。


サエに今日はどうするのかと聞いたら、探検に行くと返ってきた。

お転婆なサエは探検がお気に入りだ。

偶に隠し通路を発見したりする所を見ると、無駄に探索の才能がありそうだ。

一度執務室までの隠し通路を見つけた時は驚いたが。

国主様も宰相も把握していなかったようで、二人も驚いていたっけ。

後で宰相から悪用するなと脅されたな。

命を握られているのに、余計な真似をする気はないんだが。

今の仕事に不満も無いし。


サエは小柄で身軽なのを十二分に使って、狭い所だろうと何処だろうと入っていく。

ついていくのは大変だが、サエは運動神経が良いので大体は安心して見ていられる。

流石に禁止区域に入ろうとしたら止めるが。

この城は大分古いらしいので、崩れかかっている所もあるからな。

補修の優先順位が低いというのは実利優先の国主様らしいと思う。

まぁ、今日は特に目新しい発見も無く終わった。

そんなにぽんぽんあるものでもないので、当然だろう。

サエも歩く事が楽しいみたいなので、それで満足だったようだ。

終わると、お気に入りの窓の上で昼寝を始めてしまった。

この国は日差しが強いので、窓の上にひさしがある。

その中でもひさしに幅があって、上の階から降りられる窓がサエのお気に入りだ。

バルコニーになっているので、その分ひさしも大きいのだろう。

丁度、この時間には建物の構造上、ひさしの上も日陰になるので寝やすいらしい。

割と何処からも見えにくいらしく、今までに気付かれた事は無い。

すやすやと静かに眠るサエを見ていると平和だなぁとしみじみと思う。

最近は命を賭けて貴族の館に潜入する事も無いし、陰謀とは無縁だ。

幸運を運んでくれたサエには幸せになってもらいたい。


サエも寝てしまったので、俺は時間が出来た時の恒例となっている本を開く。

テーブルマナーだの挨拶だの、まだるっこしくて仕方がない。

どうでも良い血縁関係も頭に入れておかなければならないらしい。

貴族連中は毎回こんな事をやって、嫌にならないのだろうか。

ご丁寧につけられた最新版家系図を見ていると、見覚えがある名前があった。

どうやら宰相も始原ナーグの良い所の出だったらしい。

まぁ、そうであっても不思議ではないなと傲岸不遜な態度を思い出して納得した。

俺もこの家系図を覚えなくちゃいけねぇのかなぁ面倒臭ぇ。

なんて思っていると、下の窓が開いた音がした。

下から聞こえた覚えのある声に、どっと冷や汗が流れ落ちた。

今でこそほぼ接触が無くなったが、この仕事を任される間に何度も聞いた声だ。

国主様の反対派の貴族。

その筆頭の蔓草の紋章の禿頭だ。

もう一人も反対派の貴族だったはずだ。

二人は誰も居ないのを確認してから、ぼそぼそと話し始めた。

上に俺とサエが居るから、陰謀は別の所でやってほしい。

思わず横を見ると、サエはまだ静かに眠っている。

今、起きてくれるなよと思わず願った。

此処で静かにしている分には気付かれる事も無いはずだ。

流石に此処で居るんですと告げる状況では無い。

気付かれること無くスルーして、後で宰相に報告がベストだ。

どうやら、国主様が居ない間に反乱を起こす計画らしい。

狙いは宰相のようだ。

宰相が居なければ、国が回らない事を良く理解しているようだ。

国主様はカリスマもあるし、別に馬鹿じゃない。

だが、頭脳労働は宰相に頼っている部分が大きいのも事実だ。

と言うか、裏で宰相がありとあらゆる手段でどうにかしているからこその平和だ。

裏で何をしているのか知っているからこそ、良く分かる。

たとえ命を取れなくとも、宰相がしばらく活動できなくなるだけで影響は大きい。

彼等が狙う理由も分かる。


今回の陰謀には隣国の一つ、自立ケイサンが関わっているようだ。

自立ケイサン契約アヌートの北で享受イセルタの西隣だ。

元々、腐敗した貴族連中が支配していた時代はこの国と結びつきが強かった。

自立ケイサン享受イセルタと仲が悪くて、何度か小競り合い程度ならやっていた。

契約アヌートと組んで圧迫しようとしていた所に国主様が来て状況が変わってしまったはずだ。

あの国がまた元の関係を望んで力を貸すというのも納得だ。


だが俺からすると、国主様が居ない時期に反乱の計画とかマジで止めてくれよと思う。

って言うか、城で相談するな、自分の家でやれよ。

まぁ、彼等の家には宰相が俺の代わりを送り込んでるんだろうけどさぁ。


結局、二人は一瞬で俺の平和をぶち壊してくれた事にも気付かずに相談を続けた。

そしてやっぱり最後まで気付く事も無く去っていった。

サエもまだ眠っている。

今、下でどんな話があったかも知らずに熟睡中だ。

再び平穏な時間が戻ったはずなのに、気が重い。

そんな計画があるとなると、一瞬でもサエの側から離れるのは危険だしなぁ。

誰かに伝言できる内容でも無い。

信頼できる人間にサエの護衛を頼むか、宰相にサエが寝た後に部屋まで来いと言うか。

うん、後者が出来るわけ無いな。

とにかく、早急にどうにかしなくちゃいけないようだ。

あの禿親父め、直接関係なくなってもろくな事しねぇな。


俺はそれから本を開く気にもなれずに、頭を抱えたのだった。

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