3.見捨てられる護衛騎士
国主様から真剣な顔で相談を持ちかけられた時は、どうして俺なのかと問いたかった。
サエに剣を教えるかどうか、相談できるのが俺ぐらいだってのは分かる。
でも、経歴も怪しい男を重用しすぎじゃねぇかと思うんだよな。
サエの事に関して、国主様からの信頼が重過ぎて偶に怖い。
かといって、重さに比例して俺も真剣に応対するかというとそれはまた別だ。
元々、頭を使うのは得意な方じゃない。
すぐ止めるかもしれないし、一度やらせてみてはと脊髄反射で答えただけだった。
サエが剣を習っている間に勉強時間でも増えればいいかなと思っただけだ。
そんな適当な答えだったのに、国主様はそうだよなと納得してしまった。
すぐにサエ用の剣を作らせようと呟く国主様の顔は何処か嬉しそうにみえた。
心配はしてるんだろうけど、やっぱ国主様は剣士なんだなぁと思った。
なんだかんだ言って、サエが剣を習う事を歓迎しているじゃないか。
まぁ、本人は気付いて無さそうだが。
記念すべき初参加の日は今までに比べて早くから一日が始まった。
俺自身はいつもこの時間には起きているので何の問題もない。
サエと合流する時間が早くなっただけだ。
ほぼ一日中サエに張り付いている為、俺も城の中に部屋を与えられている。
最初はやけに良い部屋すぎて驚いたものだが、今ではすっかり慣れてしまった。
懐に入る小さな本を持つと、俺はすぐにサエの元へ向かった。
まだ眠そうなサエがふらふらと揺れながら国主様についていく。
そんなに剣を習いたいとは不思議だ。
朝食はいつものように俺の分も用意されていた。
普段はサエと俺の二人で朝食をとっている。
だが、折角二人が一緒に食べるというのに俺が居ては邪魔だろう。
隅の方でさっさと食べて壁際へと移動した。
食後は俺がする事もなさそうだ。
二人が話しているのを聞きながら本を開く。
最近は礼儀も教え始めているので勉強だ。
この間みたいに皇子や何かみたいなのには礼儀作法が必要だ。
唐突に来る可能性があると分かった以上、放置しておけない。
文字や一般常識と同時並行でそっちの授業も開始した。
でも、俺も知らないのに、本で学んでそのまま教えるというのは教師失格だよなぁ。
マジで国主様か宰相あたりが代わってくれねぇと、俺では間違いを教えそうなんだが。
宰相が何処からか用意している本で詰め込んで、ようやくどうにかしているだけだ。
国主様に訴えたのに何も反応が無い所を見ると、本当に人員不足なのだろう。
俺が一時しのぎ出来ている間に正式な教師を用意してほしいものだ。
鍛錬場にはすでに兵が集まっていた。
あくまで護衛としてついてきただけの俺は、すぐに壁際に陣取った。
よくよく見てみると、初めて軍事演習をした時よりも国主様と同じ髪型が増えている。
黒強竜信仰が多かったはずだが、国主様に感化されたようだ。
そう言えば、大分前に信者が急増しているという噂を小耳に挟んだ気がする。
冬厳式の後くらいだったから、国主様の舞が関係してそうだ。
黒歴史扱いしている本人に伝えるのもアレだが、あの舞は貴族にも評判だったのだ。
腕が立ち、見目も良い国主様、か。
その内、騎士団全員が横尻尾頭になりそうだなとどうでも良い事を考える。
あの髪型を維持するより、黒強竜の年一の捧げ物の方が楽そうだ。
そんな事を考える程度に信仰心が無い俺には、この光景が珍妙に見える。
サエあたりも絶対いつか真似するよな。
剣を習いたいと言ったのも、国主様がやっているからだろう。
ちょっと頑張って、怪我をしない内にやめてくれるのが理想なんだが。
サエの願いも国主様の願いも叶えられて、ついでに俺も勉強時間が手に入る。
毎日動き回っているので体力はあるだろうが、それと才能は別だろう。
どれくらい保つものかなと思った。
腰を下ろして本を開くと、目の前で本が奪われた。
顔を上げれば、数人の兵の笑顔に迎えられる。
嫌な予感しかしないと思う間も無く中央へ引っ張り込まれた。
一応抵抗してみるも、数人がかりで来られては、勝てるわけがない。
そいつらはサエの護衛の関係で顔見知りなだけだが、やけに親しげに話しかけてきた。
サエもやっているのにノラ君がやらない道理はない、とか。
鍛錬場で読書するな、とか。
仮にも騎士なら一緒に汗を流そう、とか。
むさ苦しいし、やかましいし、面倒臭いし、放っておいてほしい。
俺は元々正々堂々戦うガラじゃねぇんだ。
あとついでに俺は黒鳥じゃなくて黒馬だ。
剣を持たされて無理矢理打ち合いに参加させられる。
危ねぇと文句を言っても、姿勢が悪いだの持ち方が違うだのしか返ってこない。
言語が通じない野郎共に付き合わされていると、国主様と目が合った。
国主様もこの事態に気が付いたらしい。
ようやく助け船を出してもらえるとほっとする。
だが俺の期待も空しく、国主様はそのまま何事もなかったかのように目を逸らした。
いや、逸らしやがった。
見捨てられた俺は最後まで騎士共の悪ふざけから抜け出す事は出来なかった。
今まで適当に返事をしていたばちが当たったのかもしれない。
次からはもう少し真面目に答えようと、俺は深く反省した。




