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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と初訓練
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2.心配な国主様

ついにサエに剣を教える事になってしまった。

テッサラーナさんとの数度の手紙のやりとり、護衛騎士との相談の結果だ。

成長しても望むのなら、いつかは護身程度に、と考えていた。

まさかテッサラーナさんから圧力がかかるとは思わなかった。

私の故郷では女子が剣を習うという事は無かった。

わざわざ体に傷が残る事をやるなんてとんでもないと思っていたのだが。

だが、彼女の家の影響なのか皇都では普通なのか、偏見だと叱られてしまった。

このまま無視を通そうにも、彼女なら誰か送りこんできそうで怖い。

むしろ、彼女自身が乗り込んできそうで怖い。

手紙の文だけでも圧迫感を感じるというのに、本人が来られたら困る。

思えば、義父上も母上も妹も怒るとは無縁の人だった。

彼女に怒られるのが苦手なのは、慣れていないせいもあるのかもしれない。

勿論、サエに剣を教える決断をしたのは彼女の存在だけが原因ではない。

サエが私が困っている姿を見て、習わなくても良いと言ってきたからだ。

普段は年相応に子供らしいのに、サエは妙に聞き分けが良すぎる時がある。

自分の存在が迷惑をかけているという思いがあるのだろう。

私はサエに窮屈な思いをさせる為に拾ったのではない。

むしろサエが此処に居るのは、私の我が儘のせいだ。

護衛騎士の、憧れているだけなら辛ければ止めるのではとの言葉も後押しとなった。

やるからには一人前になるように叩き込むつもりでやる。

特別扱いはしないと言ったが、サエはやる気十分な様だ。

……本当に憧れだけなのだろうか。

いやいや、これはまだ体験していないから元気なだけだと信じたい。

騎士団長にも、次の日から朝の鍛錬にサエも参加させる事を伝えておいた。

嘘でしょうと言いたげな顔をしていたので、本当だと苦悩の表情で答えておいた。

私が対応すると言ったら明らかに安堵したが、気持ちは良く分かる。

しばらく、騎士達への対応が薄くなる事は詫びておいた。


次の日、いつも通りに起きて空を見る。

まだ薄暗い空の中に雲は浮かんでいなかった。

この時期は比較的雨が多いが、今日は晴れそうだった。

サエの初参加を祝福している様で、何とも言えない気持ちになる。

だが、いい加減腹をくくる事にした。

よく寝ているサエを起こすと、まだ眠そうにしながらもすぐに目を覚ました。

流石に慣れない早起きを一人でしろ、というのも意地悪すぎる。

サエがやる気を見せている限りは起こしてやろうと思う。

朝から激しい運動をする事になるので、朝食はしっかり摂らせる。

中には吐いてしまう者も居るが、そもそも栄養を摂らずに十分に動けるわけがない。

食後に休息の時間を置くようにして、体に負担がかからないようにする。

そんな事を話しながらだったが、良く考えるとサエと一緒の朝食は初めてだ。

私に合わせるのも可哀想だと思っていたが、一緒の朝食も良いものだなと思った。

普段は食後に幾つか書類を片付けるが、それではサエが可哀想だ。

折角なので、剣を持つ者の心得を語っておいた。

サエは良く分からないと言っていたが、いつかその意味が分かる日も来るだろう。

そうなる前に剣を止めてほしいという思いは心の片隅にしまっておいた。

少しでもそんな思いを感じさせれば、サエは自分から諦めてしまうだろう。


動きやすい服に着替えてサエと共に鍛錬場に出向けば、やはり周囲の視線が集まる。

ただ、明らかなざわつきは無かった。

騎士団長があらかじめ周知させておいてくれたようだ。

当番や体調不良、帰郷等で居ない者を除いた全員が揃っていた。

その隣に小さなサエが満面の笑みで並んでいる。

勿論、騎士達と全く同じ内容をするわけではない。

サエはまだ子供だし、体作りをする所から始めなくてはいけない。

どれ位動けるのか見極める事も必要だ。

軽く体を動かして準備運動をした後に、最初に走り込む。

自分の速度で良いと言ったが、サエは思った以上にするすると走り抜けていった。

そう言えば、いつも午後からは城の中や庭を色々動き回っていたなと思い出す。

流石に大人の体力には適わないようだが、私はサエの事を過小評価していたようだ。

走り込みが終わったら、基本の型を教えてやった。

サエは剣ではなく木剣を使う事に驚いていた。

流石に訓練用は刃が潰してあるとは言え、いきなり剣を使わせるのは危険すぎる。

護身用の小さな剣を模した物で、急遽サエ専用に作らせた物だ。

基本の型は単純な動作のものだ。

だが、この型をどんな時も寸分違わず出来るようになる、となると難しいどころではない。

騎士の剣は守る剣であり、見せる剣でもある。

まずはこれを出来るようにと言うと、サエはあれ?と首をかしげながらもうなずいた。

予想と違ったのだろう事は想像にかたくない。

小さいとはいえ、木剣はサエにとってはかなりの重さだ。

何度も型を繰り返す内に、次第に腕が落ちてくる。

体力が尽きる頃合いを見計らって、一度休憩を取るように言った。

しっかり水を飲んで、他の騎士の動きを見るように言っておく。

サエが休んでいる間に、騎士達を叩き直す。

打ち合いながら、動きや体勢の修正点を指摘していった。

サエが居るので、いつもより優しい言い方になってしまったが仕方ない。

意識してやったわけではなく、気が付いたらそうなっていたのだから。


ふと横を見てみると、護衛騎士も鍛錬に混ざっていた。

他の騎士達に引き擦り込まれた、が正しいようだが。

彼の戦い方は私達とは全く違うのだが、騎士の剣というのを覚えて損はないだろう。

フリだけでも身に付けておくに越したことはない。

一瞬向けられた救いを求める目を、私は見なかった事にした。


しばらく続けていると、城門を開ける鐘の音が鳴った。

この町の民の大体は、この鐘の音を一日の始まりとしている。

騎士達にとっては朝の鍛錬の終了の時間だ。

後は自主的に残る者を除いて全て各々の目的地へ去っていく。

サエがいつも起きているのもこの時間だったはずだ。

よく頑張ったなと言って頭を撫でると、サエは嬉しそうに笑った。

疲れた顔をしていたが、一日目を終えてもサエのやる気は満ちたままだった。

明日からも嬉々として参加するだろう姿が目に浮かぶ。

男ばかりの環境だからこんな性格になってしまったのだろうか。

いや、最初から好奇心旺盛で活動的だったはずだ。


身近にもっと女性がいれば、今からでもおしとやかになるだろうかと考えた。

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