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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と春迎祭
27/83

3.国主様は密会をする

最初の挨拶を終えて、私の本日の仕事は終了した。

宰相と蔓草貴族と民の三方から舞わないのかと言われたが、今度こそ断固拒否した。

三方が三方ともにやにやと笑っていたのが腹が立つ。

もう少し国主を敬おうという気は無いのだろうか。

サエの純粋な期待が一番痛かったのだが、私は心を鬼にした。

やるなら公開しないと言い張った末に、舞は本業に任せる事になった。

ごたごたした末にようやくここまでこぎ着けた。

これが本来の正しい姿だった気がすると思わず遠い目になる。

祭というよりもこれからに備えての取引が盛んな様だ。

もうすぐ一期の工事が終わる事もあり、これからの一年への期待も大きいようだ。

民の期待に応える為にも、今年も力を尽くさねばならない。


しばらく、民からの挨拶を受けていたが、途切れた時を見計らって席を立った。

今日の表向きの仕事は終わったが、まだ大事な用が残っている。

馴染みの酒場に顔を出すと、店主がもう来ていると知らせてくれた。

礼を言って、二階の角部屋へ向かう。

人払いは済んでいた。

もっとも、しなくても今日は祭に熱中していて人は少なかっただろう。

部屋の先客は三人だった。

一人は城に残ると言っていた皇子。

脇に控えているのは同じく城にいる事になっている宰相と見知らぬ男だ。

恐らく、男は宰相の私兵の一人だろう。

流石に護衛も無しで出歩くことはしなかったようだ。

私が到着すると、男は会釈をして部屋を出ていった。


待たせましたと言うと、皇子は気にしないでくれたまえと返す。

狭くて綺麗とも言えない部屋だが、皇子はなかなかにくつろいでいる様子だった。

軽食を摘みながら、遠くに見える祭の様子を楽しそうに眺めている。

無理を言って外集合にした甲斐があったなと呟いた。

それなら祭に参加すれば良かったのにと思ったが、すぐに思い直す。

こんな機会でもなければ、テッサラーナさんが側から離れなかっただろう。

どうやら皇子は彼女の前では不真面目で居たいらしいので仕方がない。

普通は逆なのではと思うのだが。

小さい頃からの付き合いという話なので甘えているのだろう。


皇子はテッサラーナさんと私の仲が良好な事を喜んでいた。

私の様子を見に来たとか色々理由を付けていたが、一番の目的はそれだったようだ。

私も彼女に嫌われていた訳では無いと知って安堵していた。

礼を言われたが、こちらこそ礼を言うべきだろう。

皇子の作戦が成功した見返りとして、幾つか支援の話が出る。

私がいいと断る前に、宰相が視線で黙れと命令してきた。

この国は猫の手も借りたい程の状況なので、宰相は嬉々として内容を調整していく。

交渉事は苦手だし、皇子も気にしていない様なので、宰相に任せる事にした。

最終的な確認にだけ同意する。

こうして見ていると戦時で見た聡明な皇子そのままなのだが、勿体ない。

彼の作戦で何度も命を救われたのは事実だ。

だが、彼を知る者にそれを言った所で信じる者は半数も居ないのではないか。

あの状況の時だって、彼は必要以上に自分の力を示すのを嫌がっていた。

彼なりの考えがあるのかもしれないが、私には理解出来そうもなかった。

しばらく話の内容を聞いていると、施慈院の人材の確保が適うらしい。

施慈院はサエのような孤児だけでなく、住処の無い者や病気の者などへの支援施設だ。

故郷では義父上が力を入れていたので、此処でも形にしたいと思っていた。

後は資金面の問題だが、案の幾つかを実行に移してみるしかないだろう。


ちらりと隣国からの見合いの話が頭を掠める。

裕福な隣国と関係が出来れば、今抱えている問題の半分は解決するだろう。

サエも人見知りしない子だし、来る分には問題が無い。

だが、その為だけに愛の無い結婚をするのは相手が可哀想だ。

何処の馬の骨ともしれない輩にどS宰相、引き取った孤児と敵対する貴族。

貧困と乾燥、貧乏に悩まされる領地事情までついてくる。

そうは思いつつもとりあえず、一度会ってみる位はしてみようかと考えておく。

不足は人を行動的にさせるのだなと妙に冷めた気持ちで思った。


一通り話が済んだ所で、皇子が友になりたいと思っているのは本当なのだよと呟いた。

私も勿論、その気持ちは知っていた。

だが、もう一度丁重に断った。

皇子が隠したい本性を引き擦り出す結果にしかならない気がするからだ。

ただでさえ、先の戦で彼は無能のレッテルを剥がされかけたのだ。

彼からの友情に私は報いる事が出来ない。

今回の支援だって、余計な噂を広げる結果にしかならないだろう。

全てを分かった上なのか、いいのだよと彼は言った。

それでも私はうなずく気にはなれなかった。


君は背伸びしすぎだとも、格好いいぞと皇子は満面の笑みで言った。

そんな事は無いと思う。

……テッサラーナさんに言った気持ちは嘘では無いとはいえ、確かに不満はあった。

妹を助けたいと思っていた。

皇国を、義父上の領地を守りたいと思っていた。

自由に国を渡ってみたいと思っていた。

剣で生きたいと思っていた。

いつか母上と義父上の様な愛し愛される相手を見付けたいと思っていた。

この国ではそのどれも適わないだろう。

でも、今はその全てに匹敵する程の夢や希望が此処には詰まっていると知っている。


ふと、皇子が思いついた様に訊ねてきた。

「ところで、君と宰相は昔なじみだろう。

 何故、他人行儀に国主様、宰相と呼び合うのだね」

「この国に最初に来た時に、勝負をしまして。

 公的な場で間違っていつもの様に親しげに名前を呼んだら負けなのです」

「……もう此処に来て二年では?」

「はい、公私区別無く名前呼びを止めた作戦が功を奏し、まだ続いています。

 こいつの罰ゲームは性格がねじ曲がっているので酷いんです。

 負ける訳にはいきません」

そう言えば、宰相にいい加減に諦めたらどうだと笑われる。

今度こそ負けないと言い返していたら、やっぱりさっきの無しでと皇子に言われた。

私も宰相も大真面目に勝負しているのだが、どうやら理解されなかったようだ。

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