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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と春迎祭
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2.姫団長は贈り物をする

皇都の祭には到底適わないが、賑やかな人の声に笛の音が響く。

こんなに素朴な祭に出たのは初めてだ。

幾らこの国に来ているとは言え、サエに誘われなければ来なかっただろう。

ギラントオーンは最初に挨拶をしたきり見ない。

皇子も城で大人しくしているから行ってくるがいいと言っていた。

祭に来たのは、私とサエとサエの近くにいつもいる男の三人だ。

隣のサエを見れば、地元民なのにやけに目を輝かせている。

まあ、子供ならそんなものだろうと思う。

私もいつになく楽しい気分だ。

弟や妹達と同じ位、サエが懐いてくれているからだろうか。

ただ、後ろにぴったりついてきている不穏な男が気に入らない。

どう見ても真っ当な騎士ではないあの男はサエの護衛騎士らしい。

確かに正規兵に護衛を任せるには、此処の兵は練度が低い。

でもこんな暗殺者感満載の男しかいなかったのだろうか。

足音を立てないで歩かれると思わず斬り付けそうになる。

サエは随分と慕っている様だけれど。

帰る前に一度、ギラントオーンに言っておくべきだろうか。

もしかして、人手が足りないのだろうか。

ならば皇都から誰か送っても良い。

そこまで考えて、思わず笑みが零れる。

……そんな事を考える自分が妙に可笑しかった。

最初はまた面倒事に引っ張り込まれたと思ったが、今は皇子に感謝する気すらある。

勿論、サエにもだ。


もう二度とギラントオーンの前に出るまいと思っていた。

あれだけやらかしたのだから。

恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だった。

だが、そんな決意は当日にあっさり破られる事になってしまった。

皇子を迎えに行った先の部屋にはサエも居た。

どう考えても良い第一印象を持たれていないだろうとは思っていた。

皇子を回収してすぐに去ろうと思っていたのだが、サエは笑顔で迎えてくれたのだ。

そこでついつい話し込んでいる内に、ギラントオーンが部屋に戻ってきたのだった。

まさか、サエの部屋の隣がギラントオーンの部屋だったなんて。

夕食を一緒に食べようと顔を出した彼の顔が不自然に固まったのを見た時は驚いた。

不自然さではこちらも負けていなかっただろう。

私だって予想外の展開に固まった。

そんな私を見て、サエは私達の仲を取り持とうとしたのだった。

事情を知らないとは言え、子供の考える事って恐ろしいと思った。

お互いサエの悲しそうな顔に耐えられなかったのだ。

貼り付けた笑顔で話す内に、気にせず話せるようになっていた。

彼自身は好もしい人物だと思っていたのも関係しているだろう。

後で皇子がお菓子を餌に頼んだと聞いた時は、頭が痛くなったけれども。

この場合、どっちを注意したら良かったのだろうか。

悩んだ末に、とりあえずどっちも注意しておいた。

サエはあまり理解してないようなので非常に不安だ。

人懐っこすぎるのも問題な気がする。


残りの日数は皇子に希望があるのなら優先するつもりだったのだけれど、特に無いらしい。

私が行きたい所についていくと言っていた。

皇子は前半にあれだけ出歩いた事で満足したのだろうか。

サエと城の中で過ごしても、何の問題もないようだった。

なので、私は基本的に早朝は此処の兵達を鍛え直し、残りはほとんどサエと過ごした。

ギラントオーンの剣の腕は噂に違わぬ冴えだった。

ムルクの守護狼の二つ名に恥じぬ苛烈な剣だ。

先の戦争の折、灰氷狼ギネイオーンが人の身になったと噂になった訳も分かる。

まさしく狼の牙の様に襲う攻撃をさばき、反撃の手段を探すのは楽しかった。

皇都の修練と変わらぬ打ち合いが出来たのは思わぬ喜びだった。


どうせなら世界壁や大断崖も見てみたかったのだが、そちらの観光は諦めた。

ギラントオーンも忙しそうだったし、行って帰るだけで結構な日数がかかってしまう。

滞在できる期間があまり残っていない。

何より、護衛だ案内だとまたギラントオーンの手を煩わせてしまう。

そんな事情があって、断念したのだった。

サエは私達が帰ると知って寂しそうだった。

当然だろう。

この城にはサエと同じ年頃の子供が全く居ない。

遊び相手だってほとんど居ない。

思わず皇都に来ないかと誘ってみたが、断られてしまった。

やっぱり拾ってくれたギラントオーンに一番懐いている様だ。

そこで、帰った後も手紙でやり取りしようと約束した。

サエは手紙を誰かに送った事が無いらしい。

誰か配達員を雇おうかと考えていたら、国主様にお願いするよと言い出した。

サエの頭の中では、私と友達だから手紙をやり取りする。

私とギラントオーンも友達。

だから、私とギラントオーンも手紙をやり取りする。

の三段論法が出来上がっているらしい。

限りなく突っ込み所に溢れた考えだけれど、サエの純粋さに私は負けた。

サエは私達を普通の友達と思っているのだから、否定する事もできなかった。

こうして、何故かギラントオーンとも文通する事になってしまった。

お互いこの年になって文通からとは何とも言えない気分だった。

幸か不幸か、ギラントオーンも同じ気持ちの様だ。

複雑そうな顔をしている。

サエが間に居なければまず起こらなかった事態だろう。

当の本人はこの空気に気付かず、まだ練習中だから下手でもごめんねと言っていた。


祭の店はほとんどが作物の種子や家畜を売る店だった。

実に実用的な祭だ。

けれど、中には雑貨や食べ物を扱う屋台もあった。

私はサエと一緒に買い食いをしながら楽しんだ。

サエはその間中、ギラントオーンの踊りは格好いいんだと熱弁していた。

今回も踊ると思っていたのに無かった事が残念でならないらしい。

私は雑貨屋でプレゼントとして小さな羽ペンを買ってあげた。

私の小さな友達はこの贈り物を喜んでくれたようだった。


サエの手の温かさを感じながら、皇子とギラントオーンは祭も見ずに勿体ないと思った。

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