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国主様と猫  作者: 灰波
国主様と猫と個別面談
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3.姫団長の対談

怒りで視界が真っ赤になった気がした。

一応護衛対象の皇子を放置する訳にもいかず、適当に掴んで走り出した。

「テッラ、我の首が絞まって苦しいんだけどなっ」

後ろで朗らかに皇子が喋る。

確かにこの持ち方では遅いと思ったので、そのまま抱え上げた気がする。

その後、ギラントオーンの執務室に着いてから、それをどうしたのかの記憶はない。


「いい加減にしなさい!

 こんな理不尽に黙っているつもりなの?」

執務室の扉を蹴破り、一喝する。

ギラントオーンのぎょっとした顔が見えた。

「テ、テッサラーナ様?何かお気に召さない事でもありましたか」

無駄に小綺麗な顔が腹立たしい。

彼の母親譲りの美麗な容姿。

穏和な性格に類い稀な剣の才。

どれだけ長所を盛る気なのかと思う。

彼の柔らかな灰の髪とは違って、私なんてぼさぼさの赤毛だ。

父上譲りの翡翠の眼だって鋭い眼光で誰も彼も怯えさせる。

お世辞にだって美人とは言えない。

剣しか才能が無い、癇癪持ちの堅物だって自分でも分かっている。

私よりも彼の方が父上の後継者に相応しいと。

そう声を表に出したのは少数だったとはいえ、誰だって腹の中では考えるだろう。

恋多き父上の子が見つかる事など珍しい事でもない。

正妻の子こそ私と弟の二人だが、引き取った数だけで二桁だ。

今更、血縁がどうのと言い出す輩など居る訳がない。

認めない態度を取る私の方が間違っているのだ。

「私じゃなくて貴方でしょう!」

胸倉を掴みあげて怒鳴れば、彼は自分が気にくわないと勘違いしたらしい。

出来るだけ顔を見せないようにすると言い出した。

そうじゃないと言ったのに、語調が強かったのか、明らかに顔が引き攣った。

どうしてこんな事態になっているのか、さっぱり分からないという顔だ。

「あの、…テッサラーナ様?」

「様付けはしないで結構。敬語もいらない。

 貴方ねぇ、はいはい言っていれば良いってもんじゃない!

 ムルクでゼーレ領を継ぐ事も、うちに来る事も出来たのに!

 なんで!こんな生まれと真反対の僻地に来て!

 からっからの大地と腐った貴族に囲まれて苦労してるの!

 先の戦争の報酬って何処が?

 嫌なら嫌って言いなさい!」

国や領地が欲しかったのなら、もっと良い所を手に入れる方法なんて幾らでもあった。

こんな環境も最悪な果ての国だなんて。

彼を疎む者からは厄介払い、彼を推す者からは褒美の良い訳にされただけだ。

彼がいらぬ苦労を背負い込む事なんて無いのに。


そんな私の思いをするっと無視して、彼は言った。

「…私はテッサラーナ…さんに嫌われているかと思っていました。

 気にかけていただいてありがとうございます。

 貴女の方こそ、お忙しいのにこんなに長く滞在していただいて大丈夫ですか?

 早く帰国できるように、私からも皇子に口添えいたしますか?」

聞きたいのはそれじゃない。

「っ信頼できる同僚に団は預けてきたから大丈夫です!

 じゃなくて!」

続く言葉をギラントオーンが制す。

「テッサラーナさん、私は元々ゼーレを継ぐ気はありませんでした。

 義父の血を引く妹が婿を迎えるのが道理でしょう。

 だからこそ国境守備隊に所属していました。

 私の方こそユノイェ家にはご迷惑をおかけしました。

 テッサラーナさんの武勇は国境にも届く程。

 一度の功ごときで私が並ぶなど恐れ多い事です。

 今の身分も過ぎたものだと思っていますよ」

私と血が繋がっているとは信じられない程、穏やかな口調だった。

「それに、此処は良い所ですよ。

 夏の暑さは確かに北育ちの私には辛いですが、人は優しく穏やかです。

 厳しい気候も乗り越えていけるだけの強さと懐の深さがあります。

 余所者の私もすぐに受け入れてくれました」

もう少し滞在されるなら、世界壁にもご案内しますよ、とまで言われた。

その頃にはようやく私の頭も冷えていた。

私は怒りに任せて何を言ったのだ。

何が出来る訳でもないのに偉そうな事を。

急に自分が恥ずかしくなった。

どうして私はいつもこうなのだ。

戦場での指揮ならどれだけ卑劣な目に遭おうと冷静に対処できるのに。

「…あと、テッサラーナさん、流石に敬語は許していただけませんか?」

困った様に問いかけてきたギラントオーンを前に、私は思わず逃げ出してしまった。


その時になって、ようやく皇子が居ない事に気が付いた。

護衛すら満足にできないのか、私は…!

「何処に行った、レアル…」

目の前が真っ暗になった時、その声を聞いた使用人が顔を上げる。

ギラントオーンが引き取った子供の部屋を聞いたらしい。

一人で何をうろうろしているのかと慌てて走り出す。

走っている間だけは、先程の失態を忘れられる気がした。

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