3.姫団長が纏う激怒と不満
「赫怒の姫団長」、そんな不名誉な二つ名が付いたのはいつの頃なのか知らない。
皇都の将軍である父の七光りという声をはね除け、懸命に頑張って。
頑張って頑張って。
ようやく史上初の女性団長の座を自力で手に入れた。
そして気が付けば、私の騎士団どころか全ての騎士団で、そのあだ名は固定されていたのだった。
私だって、怒りたくて怒っている訳ではない。
ただ、私の周囲にいるのが適当な幼馴染みだったり、恋多き父だったり、|任務放棄する同僚だったり。
そう、周囲がどうしようもなく、だらしないせいなのだ。
皆できるのだから、もっとちゃんとしてくれれば良いのに。
護衛だ旅行だ方向音痴だ我を助けると思って云々。
口八丁手八丁で連れてこられたのは、アヌートという辺境の地だった。
先程まで、見知らぬ男と子供も居た部屋に静寂が訪れる。
子供を保護者から引き離し、追い出してしまったので、どうも後味が悪い。
無理に押し入ったのは此方側だと自覚しているので尚更だ。
けれど、私達の歪んだ関係を見知らぬ男や無垢な子供に聞かせるのは恥でしかない。
こんなことになったのは、私の隣にいるどうしようもなく、だらしなくて適当な馬鹿皇子のせいだった。
考え無しにペラペラ喋るな。
「テッラ、サエちゃん怯えていたじゃないか」
「すみませんが、これが普通でして」
思い切り不快な顔をしてみせるが、皇子はまるで気にした様子を見せない。
「サエちゃんはギオの家族だろう?
それなら言っても何の問題もないではないか。
追い出すこともなかったのではあるまいか!」
無駄に自信たっぷりに言っているその顔を蹴り飛ばしたくなる。
「サエにはまだ私の事は何も教えていないので」
ギラントオーンが頭を押さえてそう言った。
彼は数少ない真面目な人間だ。
赤の他人として出会っていたのなら、仲良くできただろうとは思う。
認められない私が悪い事は自覚しているのだけれど。
今回も、後で弁解しておきますとフォローしてくれた。
「ところで皇子、テッサラーナ様、手紙でお断りしたように、この国には余裕がありません。
精一杯歓待致しますが、至らぬ点があればご容赦願います」
「あっはっは、必要ないとも友よ。ただの避寒に来ただけだと思ってくれ。
適当に楽しむから気にしないでくれたまえ。
あ、寝る場所だけは借りたいな。君と私の仲だろう?」
どんな仲だ。
一方的に詰め寄っている姿しか見た覚えがない。
「私に様付けは結構です、コクシュサマ?
一介の騎士ごときに敬語も結構デス」
私も返答するが、どうしても気持ちと同じように違和感のある敬語になってしまう。
「テッサラーナ様はナーグの第三騎士団の団長ではないですか。
国境線の守備兵上がりの私ではとても及びません。
それに…」
続けようとした所で、ギラントオーンは口を閉じた。
私に否定される事が分かり切っていたからだろう。
重苦しい空気が場を支配しかけたところで皇子が騒ぎ立てる。
「我だってレアルと呼んでくれて構わないのだよ!
むしろ呼んでくれたまえ!」
「いい加減、迷惑を考えて下さい」
駄々っ子のようにねだる馬鹿を止めるが、少し感謝した事は確かだ。
もしかして、空気を読んでくれたのだろうか。
そう思ったところでこの馬鹿は爆弾発言をする。
「ところで、サエちゃんって妹君の代わりかい?」
むしろ、全く空気を読まなかった馬鹿の頭に今度こそ蹴りを叩き込んだ。




