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第四章 出動

この小説は、以前投稿した「西銀河物語 第一巻 ミルファクとリギル 第四章 出動」の再投稿です

ミルファク評議会は、ミールワッツ星系の鉱床探査を継続して行うべく武力にてリギル星系を説得しようと考え、既に鉱床探査を継続中の第一九艦隊に加え、第18艦隊と帰還したばかりの第一七艦隊にミールワッツ星系への派遣を命じた。同じ頃、リギル星系でも同盟連合体ユニオンがミールワッツ星系におけるミルファク星系の鉱床探査を阻止させるべく、第一艦隊と第三艦隊そして帰還したばかりの第二艦隊にも出動を要請した。当初、両星系とも衝突はせずに艦隊が対峙したままで交渉再開を望んだが、ペルリオン星系軍の動きにより事態は別の方向へ動いた。

第四章 出動


WGC3045 11・26 0400

ミルファク星系軍事衛星“アルテミス9”の三層ある宙港全てで、今回の遠征に派遣される将兵とその家族で賑わっていた。そしてエアロックの効いたドック内に入港している航宙艦が外半径一五キロに渡りその雄姿を見渡す限り見せていた。

その中で“アルテミス9”の最上部宙港では、アガメムノン級航宙戦艦第一七艦隊旗艦“アルテミッツ”が静かに出港を待っていた。

“アルテミッツ”と同じアガメムノン級航宙戦艦三二隻が、全長六〇〇メートル、幅二〇〇メートル、高さ一二〇メートルの外形と前部二〇メートルのメガ粒子砲四門、後部一六メガ粒子砲三門、長距離ミサイル発射管一二門、近距離ミサイル発射管二四門、アンチミサイル発射管二四門、レーザパルス砲一〇門、大型核融合エンジン四基を持つ巨体を並べていた。

”アルテミッツ”は、航宙戦艦ドックの一番ゲートある。その前に立っているキャンベル星系評議会代表は、ウッドランド大将に

「いつも見てもすごい威圧感ですね。壮感という言葉を超えています」

そう言うと

「私もそう思います」

と言ったが、とても感激をしている気持にはならなかった。

既にヘンダーソン中将は“アルテミッツ”の艦橋で艦長のシュティール・アイゼル大佐と出港前の打合せをしていた。

そして“アルテミッツ”にいる一番ゲートから七キロ離れた五〇番ドックでは、アルテミス級航宙空母”ライン”の前にある休憩所“かだん”でカワイ中佐とオカダ少尉は出港前の時間を過ごしていた。

「ユーイチ。ちょっと嫌な噂を聞いたの。今回の遠征は、表向き一九艦隊の交代で一七艦隊は、その護衛で付いていくという事になっているらしいけど、本当の目的はリギル星系軍との戦闘だと聞いたわ」

「しっ。どこでそれを」

カワイ中佐は、マイの言葉に少なからず驚いた。マイは少し顔を赤くし、下を向いて黙っていたが、小さな声で話し始めた。

「この前、用事があって軍本部の主計局に行ったのだけどその帰りにちょっとお腹が痛くなってトイレに行ったの。コンパートの中に入っていたら、外で声がして、誰かが話していたのを聞いてしまったの。今回の遠征の本当の目的はリギル星系軍との戦闘だって。ユーイチ、心配。」

カワイ中佐は、マイの言葉に静かに頷くと

「今のことはマイの胸の中に仕舞っておきなさい」

そういうとマイの手を両手でそっと包んだ。

「そろそろ行こうか。マイ」

そう言うとカワイはポケットからクレジットカードを出し、テーブルの横にある非タッチ式のチェックパネルに軽く付けるとパネルがグレイからブルーに変わり支払いが終わったことを示した。

二人は“かだん”を出て自走エアカーの走路を高架で横断する道路を歩いた。少し行って高架の一番高いところに来ると、自分たちが乗艦するアルテミス級航宙空母”ライン”の姿が見えていた。

全長六〇〇メートル、幅一五〇メートル、高さ八〇メートル、前部両弦に一〇メートル粒子砲四門、側部両弦に自衛用パルスレーザ砲一〇門、アンチミサイル発射管一二門を備え、後部に核融合エンジン四基を搭載している。また一隻当り艦載機スパルタカスを一一二機、常用九六機、補用一六機を搭載する航宙空母である。

航宙空母は艦首を出口側に向けている為、二人からは、後部が見える。両脇に巨大な推進ノズルが二基ずつある。その推進ノズルの内側が少し上に窪んだ底の広い逆U形をしていてスパルカスの発着ポートが横に八個一〇メートル間隔で並んでいる。縦には六機分ずつ並んでいるが後ろからは見えない。

スパルタカスの発着ポートの口は全てエアロックされ、すっきりした艦底を見せていた。

その“ライン”に二人は向かって行った。

ラインのエアロックゲートの前に着くといくつもの誘導路があり、カワイ中佐とオカダ少尉は二人で見つめ合うと軽く頷き、マイは艦橋前部にある戦闘機発着管制室へ行く為に巨大な航宙空母の一番右側の誘導路に乗った。カワイは、宙戦隊指令室のある一番左側の誘導路に乗った。


「では、行ってきます」

ミルファク航宙軍式の敬礼をキャンベル星系評議会代表にするとウッドランド大将は、アルテミッツのエアロックゲートに並ぶ誘導路の一番右側に乗った。

二〇〇メートル程行くと誘導路から降りて、推進エンジンの一番前をほんの少し行ったところから”アルテミッツ”の上部艦橋に続く高さ二〇メートルのエスカレータに乗った。

・・推進エンジンの最上部が誘導路と同じ高さになっている・・

 エスカレータを降り、アルテミッツの艦内に入ると艦内誘導路がある。これに乗りまっすぐ三〇メートル程進むと、最上部にある艦橋に通じるエレベータがある。

誘導路を降りてエレベータに乗り、艦橋のボタンを押すと“スーッ”上昇し、少しショックがあった後、ドアが静かに開いた。誘導路があり、右方向に少し進むと艦橋の入り口がある。ドアを開き中に入ると全容が見えた。

艦橋内部では、各担当者が自分の担当席で一生懸命パネルに映る各部データとその確認に当たっている。

ウッドランドは正面を向くと前方と左右両面に多元スペクトルスコープビジョンが見えた。呼び方が長いので通称スコープビジョンと呼んでいる。通常航宙中は、多元スペクトル分析により艦の周りの映像が半径七光時に渡って見える。

スコープビジョンに映る全ての映像は、光時とアルファ、ベータ、ガンマの位置が自艦を中心として全て表示される。

但し、光学レーダー範囲内に見える映像は位置表示されない。敵との戦闘時には前と左右が見渡せ、四次元レーダーパネルとの共用で艦隊の位置がまさに手に取るように解るが、エアロック内にいる時は、真っ白で何も見えない。

スコープビジョンの手前一階管制官フロアには、正面がメガ粒子砲管制パネルと管制員席、右横がミサイル管制パネルと管制員席、左がパルスレーザ砲管制パネルと管制員席、一階から二階へは、二階両脇の階段で行ける。

二階管制官フロアには各象限毎のレーダー管制パネルと管制員席が並んでいる。その後ろに四象限レーダーパネルの球体がありその上に三階の艦長を含めた司令フロアがあるが、二階からは通じていない。

三階の司令フロアは、前方一段下りたところ、中央に艦長席、一段上がったところ左側に艦隊司令長官席、少し前の右に主席参謀席、副参謀席がある。司令の後ろ少し右にずれた所にオブザーバ席がある。

今回ウッドランド大将は、オブザーバ席に座る・・と言っても今回の派遣艦隊の総司令長官だが・・

ウッドランドは、軍事統括になって以来、本部勤務になり、久々に見た艦橋の各部署を見ていると、ヘンダーソン中将が、

「ウッドランド総司令官、第一七艦隊にようこそいらっしゃいました。全クルー喜んでお迎えします」

と言って航宙軍式敬礼を行った。既に主席参謀ウオッカー大佐、副参謀ホフマン中佐、副参謀アッテンボロー中佐、艦長のハウゼー大佐が、同じように敬礼している。

ウッドランドは、答礼するとヘンダーソン中将の顔を見た。ヘンダーソンは、ウッドランド提督の意図を察して

「ウッドランド総司令官、現在第一八艦隊の出港が始まっています。第一七艦隊は後二時間で出港します」

と答えた。

第一七艦隊の宙港の反対側、つまり“アルテミス9”の円盤状の反対側では、第一八艦隊の出港が始まっていた。

第三層ではホタル級哨戒艦“アンテ”を先頭に一九二隻が続く。同時にヘルメース級航宙駆逐艦“ヘレネ”を先頭に一九二隻が続く。

同時に第三層の反対側では、ワイナー級航宙軽巡航艦“ディオネ”を先頭に一二八隻が続いて出港した。

第二層でもアテナ級航宙重巡航艦六四隻、ポセイドン級巡航戦艦三二隻が、順次出港している。

そして第一層でも第一八艦隊司令チャン・ギヨン中将が乗艦するアガメムノン級航宙戦艦旗艦“アマルテア”が出港していった。

第一八艦隊だけでも戦闘艦六八八隻、補給及び強襲揚陸艦を含む補助艦艇八四隻が出港する。


二時間後、第一七艦隊の出港が始まった。

「アルテミス9宙港管制センター。こちら第一七艦隊旗艦“アルテミッツ”。全艦出港準備完了」

航路担当官が緊張した声で自分のコムに向かって言うと

「こちらアルテミス9宙港第一層管制センター。全艦の出港準備完了確認。第一層一番ゲートより順次エアロック解除。エアロック解除を確認後、順次出港せよ」

同じような会話が第二層、第三層でも行われているはずだ。そう考えながら、前を見ていると航路担当官が

「エアロック解除確認。ランチャーロック解除。出港します」

艦橋に通る透き通った声で言うと、アガメムノン級航宙戦艦は、少し下がった後、ゆっくりと前進を始めた。

誘導路をゆっくりと通ると、やがてアルテミス9の外に出た。スコープビジョンが艦の前と左右を映し出すと、アルテミッツの右側から一通路おきにアガメムノン級航宙戦艦が出港し始めたのが見えた。

衝突を避けるため、奇数番ゲート、偶数番ゲートの順で出港する。前方には、既に出港したワイナー級航宙軽巡洋艦やヘルメース級航宙駆逐艦、ホタル級哨戒艦が見える。

アルテミッツは指定航路に沿って、艦隊集合場所に動く。ヘンダーソンは、艦隊司令官席の前にあるスクリーンパネルを見ながら、第一七艦隊全艦六二一隻が出港するのを待っていた。


一時間後、第一七艦隊の全艦艇が“アルテミス9”から離れたのを確認すると自分のヘッドセットの上にあげてあったコムを口元に下ろし

「全艦に告ぐ。私は第一七艦隊司令官ヘンダーソン中将だ。今回はミールワッツ星系派遣第一九艦隊の交代となる第一八艦隊の後方支援の為、出動する。跳躍点まで標準航宙隊形を維持。全艦〇.〇五光速にて前進」

そう言うとコムを上げた。

やがて、スコープビジョンに映るグリーンマークになっていた先頭艦艇がブルーマークになり動き出した。順次後方の艦がブルーマークになっていく。標準航宙隊形は、戦闘がない宙域において艦隊を動かす為の隊形だ。

正面から見ると十字型になり、各十字の先端部から中心部の前面にかけてレーダー機能が強力なホタル級哨戒艦、後ろにヘルメース級航宙駆逐艦を配置する。

その十字の後に二等辺三角形の形に前部にワイナー級航宙軽巡航艦、二等辺の両脇にアテナ級航宙重巡航艦、ポセイドン級航宙巡航戦艦と並び、二等辺三角形の中心にアルテミス級航宙母艦、タイタン級高速補給艦そして最後部にアガメムノン級航宙戦艦が並ぶ。艦速はタイタン級高速補給艦に合わせている。

既に第一八艦隊は、一〇光分先行している。ミールワッツ星系まで三〇日の行程である。艦隊が前進を開始すると右舷側に見えていた“アルテミス9”が次第と遠ざかり首都星メンケントの周りを回る軍事衛星と商業衛星が少しずつ小さくなって行った。

やがて、メンケントもミルファク恒星を一つ回る一つの惑星となり始めたころ、艦隊はミルファク恒星を右に見て右舷一二〇度、下方三〇度に進路を変更し、跳躍点方面に向かった。跳躍点まで六光時である。ウッドランドは二年ぶりに見る外宇宙に向けた空間の映像に見入っていた。

ヘンダーソンはウッドランド大将に

「少し自室でお休みになられたらいかがでしょうか。跳躍点に着くまで、何もする事はありません」

と言うとウッドランドは

「まだ休憩はいい。出航したばかりだ。それに航宙戦艦で外宇宙に出るのは久しぶりだ。少しここで景色を見ていたい」

と言った。

ウッドランドの言う通り、スコープビジョンは、外宇宙の深遠を多元スペクトラム分析によって、きれいに映し出している。「戦争など無かったら、これを観光に使えるのでは」と心の中でヘンダーソンは思った。

しかし、艦隊総司令がここにいては、艦橋の士官が休まらない。「どこかで休んでいてほしいのだが」と考えた。ウッドランドは、ヘンダーソンの気持ちを読み取ったように

「そうだな、少し艦内を見てみたい。誰か適当な人はいないか」

そういうとヘンダーソン提督の顔を見た。それを聞いていた艦長のハウゼー大佐が、

「分かりました。適任者を見つけ、案内させます」

そう言って、あたかも既に候補者を絞ってあるかのようにスクリーンパネルに指示を打ち込んだ。


「ハウゼー艦長、ADSM24への跳躍点まで後三時間です」

ADSM24は、ミルファク星系からミールワッツ星系に行く為に航路局が調査した星系である。資源探査は終わっており、現在開発の為、入植中である。

本来、新しい星系を発見し、自星系のものとする為には、西銀河連邦に星系の位置、恒星の大きさ、惑星数、自星系から発見した星系までの航路等を申請しなければならない。

西銀河連邦は申請内容を確認の上、星系登録番号として星系番号、ADSWGCを付ける。これに後から発見した星系が独自の名前を付けるのである。

第一七艦隊がこれから跳躍するADSM24は、西銀河連邦に秘匿した航路とする為に独自の星系番号ADSMを付けているのである。

航路担当からの報告にハウゼーは、後ろ上方を振り向き、

「ヘンダーソン司令、ADSM24への跳躍点まで後三時間です」

本来、ウッドランド大将が総指揮を取る立場にあるが、ウッドランド大将の役目は、第一七艦隊、第一八艦隊、第一九艦内の総司令であり、一個艦隊である第一七艦隊の司令ではない。第一七艦隊司令であるヘンダーソン中将が指揮を取る。ヘンダーソンは、ハウゼー艦長からの報告を聞くと、コムを口元に下げ、

「第一七艦隊全艦に次ぐ、後三時間でADSM24星系の跳躍点に着く。標準戦闘隊形を取れ」

この命令を受けるとスコープビジョンに映る、大きく十字に広がっていたホタル級哨戒艦、ヘルメース級航宙駆逐艦が減速を始めた。艦の前方に着いている制御スラスタを吹かしながら、本体から見て上方に有った艦は、下方に、下方にあった艦は上方に、左右にあった艦はそれぞれ本隊方向に動いた。

本隊先頭にいたワイナー級軽巡航艦が一度、上下左右に開き減速しつつ、迫ってきた哨戒艦と駆逐艦の後ろに付いた。

更にその後ろにアテナ級重巡航艦が付くと、その後ろにアルテミス級航宙母艦とタイタン級高速補給艦そしてそれを取り巻くようにアガメムノン級航宙戦艦、ポセイドン級航宙巡航艦が位置に付いた。

旗艦”アルテミッツ”は、航宙母艦”ライン”の直ぐ右に位置した。

それを見ていたヘンダーソンは、「全艦、艦速〇.一光速」そう告げた。先頭の艦が、徐々に速度を上げるとそれに追随するように後方の艦も速度を上げていった。全体が大きな筒状になっている。

そして三時間後、

「全艦、跳躍」

ヘンダーソン司令の命令を各艦が受けるとスコープビジョンに映る艦の姿が先頭から徐々に消えて行った。スコープビジョンは、星々の映像が消え重い灰色の映像を映し出した。まるでそこに大きな壁ができたようである。

ヘンダーソンは艦隊司令席を立って、左後ろに振り向くと一度敬礼をし、

「ウッドランド提督、星系ADSM24への跳躍に入りました。四日間の行程です」

そう言うと少し笑顔になり

「久々の航宙です。少しお疲れになったのではないですか」

と言った。ミルファク星系首都星メンケントを出て既に三日、艦橋の艦隊総司令席代りとなっているオブザーバ席に座って外の景色しか見ていないと疲れると思ったのだろう。その言葉を聞いたウッドランドは、

「オブザーバ席は、軍用席と違って座り心地が良い。一年ぶりの外の景色はいいものだ」

そう言ってヘンダーソン中将に笑顔で返した。

ウッドランドがミルファク航宙軍士官学校を卒業した時、まだスペクトラムスコープビジョンは、最新鋭の戦艦か巡航戦艦にしか備えておらず、大半の航宙艦は、外を見れる窓はあったものの、ただ暗闇の中を四象限レーダー頼りに航宙していた。それを思い出せば天国だ。ウッドランドは改めて感じていた。

跳躍中は何も見えない。そもそも位相慣性航法による航法は理論的には光のスピードを上回るスピードで星系間をつなぐ。人の目で物が捉えられる道理もない。重重力磁場に光の一〇分の一のスピードで突入した艦は、底知れない滝に落ちる水に乗る魚と同じである。 

その滝に流れ落ちる魚が自身の泳ぐ速さより早い様に、理論的には光速を上回るという光速版スイングバイの様なものだという。

航宙軍士官学校の航路学で難しい公式や理論を習ったが、要約すればそういうことらしい。頭の中でウッドランドは思い出しながら、この航法を初めて経験したクルーはどんな思いだったのだろうと思った。

「ウッドランド提督。艦内時間一八〇〇です。艦内食堂で食事を取ってください。」

ハウザー艦長がそう言うと「解った」という視線で頷きウッドランドを見ているヘンダーソンに

「ヘンダーソン提督、君も一緒にどうだ」そう言って同行を促した。

ヘンダーソンもそろそろと思っていたのだろう

「解りました」

と言うと

「ハウゼー艦長、君も一緒にどうだね」

と誘ったが、ハウゼーは

「艦のクルーの交代休憩の指示を出した後、伺います」

と言った。

ヘンダーソンはウッドランド大将の少し左後ろを位置しながら歩いた。艦橋から少し歩くと左手にいくつかのエレベータがある。

手間が居住区と食堂へ降りるエレベータ、次が艦の中央と後部に付いているハッチへのエレベータ。そして三つ目が、推進エンジンルーム、資材庫、主砲室へ行くエレベータである。その中間にある階には、タラップを利用する。

その一番手前の居住区、食堂へ通じるエレベータに乗るとヘンダーソンは行き先ボタンを押した。やがてエレベータが静かに停まるとエレベータを出て左に行く誘導路へ乗った。

右は上級士官用居住区である。居住区と言っても艦長、艦隊司令、オブザーバのそれは、艦橋と同じ三段構造の最上部にある。艦橋にすぐに行けるようにする為だ。

食堂は佐官以上の高級士官用食堂、尉官レベルの士官用食堂そして兵士用食堂の3つにわかれている。これは差別からではなく、食事中に会議室代り軍機事項や作戦事項を話す為である。食事の中身も違うが・・

ヘンダーソンはウッドランドが座るのを待って向かいの席に座った。跳躍中は何も起きる心配はないのでウッドランドは、給仕にボルドー星系のサンテミリオン惑星にあるお気に入りのワインを注文するとヘンダーソンに

「今回の派遣で一つ心配事がある。星系評議会は星系交渉部の返事を待って作戦行動に出ると言っているが、高位次元連絡網を使ってもメンケントからミールワッツ星系に届くには二週間を要する。万が一、いや多分そうなるだろうが、交渉が決裂した場合、我々は連絡がないままにリギル星系軍は行動を起こすだろう」

そこまで言うと一瞬、間をおいて

「心配しているのは、それをリギルがフェイクで行動し、我々を戦闘に誘い込むのではないか。そしてそれをペルリオン星系軍とアンドリュー星系軍見せてこの戦闘は明らかにこちらがしかけたという風にされないかということだ」

そこまで話すとウッドランドは、運ばれてきたワインを口に入れヘンダーソンの顔を見た。ヘンダーソンは、ウッドランド大将の質問に手に持った自分のワイングラスのワインを見ながら

「私に考えがあります」

と言うとワイングラスを白いクロスがかかっているテーブルに置きウッドランド大将の目を見て、

「ウッドランド提督、フェイクにはフェイクで答えましょう」そう言うとヘンダーソンはワインを口に運んだ。


リギル星系ムリファン惑星上空五〇〇キロ。ノースサウス衛星と同軌道を回る第二軍事衛星の宙港にリギル星系評議会代表クロイツ・ハインケル、星系連合体ユニオン議長タミル・ファイツアー、軍事統括ユアン・ファイツアー大将そして第二艦隊司令長官デリル・シャイン中将の姿があった。ファイアー議長は、ファイツアー大将に

「残念ながら星系交渉部の結果は望まない方向に動いた。ミールワッツ星系よりミルファク星系軍を追出し、戦線を決して拡大せずにアンドリュー星系軍、ペルリオン星系軍と一緒にミルファク星系軍と対峙してくれれば良い。後は再度、星系交渉部にミルファク星系との和解を探らせる。頼むぞ。今回の結果次第では、同盟星系間に歪が生じかねない」

そう言うと少し目元に皺を寄せて

「ユアン、無理を頼んで申し訳ない」

再度そう言って、ファイツアー議長は甥のファイツアー大将の手を握った。

ファイツアー大将は、後ろに控えているシャイン中将と一緒にリギル式敬礼を行うと

「微力を尽くします」

と言ってシャルンホルスト級航宙戦艦旗艦“ベルムストレン”の待つドックヤードへ歩いて行った。両脇には数キロにわたり、航宙戦艦がドックヤードに並んでいる。そうそうたる風景であった。

ドックヤードから航宙戦艦に乗艦する為の誘導路に乗るとファイツアーとシャインは振り向いて再度敬礼をした。

シャルンホルスト級航宙戦艦、全長五五〇メートル、全幅一八〇メートル、全高一〇〇メートル。形状は曲面が緩やかな直方体に上部艦橋を持ち、艦先頭部分に口径一六メートルメガ粒子砲六門、艦の両脇に大きく出ている長距離ミサイル発射管一六門、艦下部に中距離ミサイル発射管一六門そして艦橋の両側にアンチミサイル発射管一六門、パルスレーザ砲一〇門を装備し、艦後部に核融合エンジン四基を備えている。連絡艇のハッチは舷側後方に付いている。

ファイツアーとシャインは、カバーで覆われたエスカレータの前に来ると誘導路を降り、艦の中ほどまで続いているエスカレータに乗った。航宙戦艦は誘導路の面に対して三分の一程度ドックヤードの中に沈む形で係留されている。

エスカレータを降りると艦の中に入る通路につながっていた。二人は通路を真直ぐに三〇メートル程行くと左手にあるエレベータに乗った。

艦橋へ行くエレベータである。エレベータを降りて右手に曲がり少し歩くと艦橋の入口がある。二人が中に入ると、旗艦「ベルムストレン」艦長ジョン・アダムスコット大佐が、敬礼をして

「ファイツアー大将、ベルムストレンへ、ようこそいらっしゃいました」

そう言って笑顔を見せた。二人は答礼をし、ファイツアー大将は

「よろしく頼む」

と言って艦橋を見た。ここ数年衛星上の勤務になっているため、ファイツアーにとっては久々の艦橋である。艦橋の中では各管制担当官が最後の調整に慌しく動いていた。

艦隊司令長官席から見ると前面と左右側面に多元スペクトラムスコープビジョンが、まだ映像を映さないまま白くなっている。

その手間には、メガ粒子砲管制官席、右に右舷パルスレーザ砲管制官席、右舷ミサイル管制官席、左に左舷パルスレーザ砲管制官席、左舷ミサイル管制官席があり、その中央にレーダー管制官席がある。

そして少し高くなっているフロアの前部に艦長席、右後部に艦隊司令長官席、主席参謀席、副参謀席があり、一番左側にオブザーバ席があった。第二艦隊司令官はシャイン中将であり、ファイツアーの今回の派遣艦隊への参加は全艦隊総司令としている為、オブザーバ席に座った。

自分の役割は全艦隊総司令としての判断が必要な時、ユニオン連合派遣艦隊としての判断が必要な時であり、実際の指揮は先に戦闘でも優秀な戦いを見せたシャイン中将に頼むつもりであった。


WGC3045 12・20 0800、第二軍事衛星より次々と航宙艦がドックを離れて行った。

先頭を進むのは、第二層宙港より出航したビーンズ級哨戒艦、前部及び両舷に直径三〇メートルのレーダーを持ち半径七光時の全象限を索敵範囲に持つ。自星系の為の警戒態勢はとっていない。

次に進むのが第三宙港より出航したヘーメラー級航宙駆逐艦、全長二五〇メートル、全幅五〇メートル、全高五〇メートルと細身ながら艦前方にレールキャノン八門、艦本体両脇上部にパルスレーザ砲六門、パルスレーザ砲の下部には両舷側に半筒状の近距離ミサイル発射管六門ずつ一二門装備され、その俊敏な動きは、重装備の航宙戦艦も脅威となる。

続いているのが、ハインリヒ級航宙軽巡航艦、ロックウッド級航宙重巡航艦と同じ独特の形状をもつ全長三一〇メートル、全幅二〇〇メートル、全高八〇メートル、両舷のミサイル発射管は、片舷一〇門同時に二〇本の中距離ミサイルを発射でき、艦前部には八メートル粒子砲六門、前部両脇にレールキャノン一二門、艦上部に近距離ミサイル発射管一〇門、アンチミサイル発射管一二門を備えている。

第二層宙港よりロックウッド級航宙重巡航艦、テルマー級巡航戦艦が出航した。

ロックウッド級航宙重巡航艦は全長三四〇メートル、艦本体は一二〇メートルながら全幅二六〇メートル、全高一二〇メートル、全長は航宙戦艦より短いが、艦本体の両脇に腕を出しながら長距離ミサイル発射管を持っているような独特な形状を持つ。

ミサイル発射管は片舷一六門、両舷同時に三二本の長距離ミサイルを発射することが可能なで更に艦前部には一〇メートル粒子砲六門、前部両脇にレールキャノン一二門、艦上部に近距離ミサイル発射管一〇門、アンチミサイル発射管一六門備えるまさに重装備の巡航艦である。

テルマー級巡航戦艦は、形状は航宙戦艦と同じだが、全長五〇〇メートル、全幅一七〇メートル、全高一〇〇メートルと一回り小さい。前部一六メートルメガ粒子砲四門、後部一〇メートル粒子砲三門、長距離ミサイル発射管一二門、近距離ミサイル発射管二四門、アンチミサイル発射管二四門、パルスレーザ砲一〇門を装備し、半径四光時のレーダー捜査範囲を持つ。

同じ時刻、出航の準備が第一層宙港に係留されているシャルンホルスト級航宙戦艦旗艦“ベルムストレン”と宙港管理センターとの間で行われていた。

「第一層宙港管理センター。こちらドック番号四〇、第二艦隊旗艦“ベルムストレン”出港準備完了」

「こちら第一層宙港管制センター。ドック番号四〇、エアロック解除します。第四〇航路に沿って出航してください」

管制官からの連絡と同時に“ベルムストレン”を覆っていたドームの前方が大きく両脇に開いた。

“ベルムストレン”をつなぎ止めていたランチャーロックが解除されゆっくりと誘導ビームにしたがって進み始めた。

艦橋では同時に多元スペクトルスコープビジョンが、真っ白な色から星系内の映像を瞬時に映し出した。前方には先に出航し、所定の発進位置に着こうとしている第二艦隊の雄姿があった。航法管制官が

「艦長、後二分で誘導ビーム出ます。第四〇航路進行後、所定の位置に着きます」

「了解」

アダムスコット艦長が返答した。自星系内は、第二級航宙隊形で進む為、宙港を出航後、各艦は所定の位置に着くのである。最後にエリザベート級航宙母艦が発進した。航宙母艦“フランシスコ”を基点に隊形を整えつつある。

第二艦隊旗艦“ベルムストレン”に各戦隊司令から発進準備完了の報告が届くとアダムスコット艦長は、

「シャイン中将、全艦発進準備完了しました」

そう告げた。シャインは、自分のヘッドセットにあるコムを口元に下ろすと

「こちら第二艦隊司令長官シャイン中将だ。第二艦隊全艦に告ぐ。本星系内は第二級航宙隊形で航宙する。本星系離脱前に次の航宙隊形を連絡する」

シャインは、自分の言葉が全艦に届くタイムラグを考慮し、一呼吸置くと

「全艦発進」

と命じた。

自艦から第二艦隊の先頭の艦まで三万キロ、一呼吸おいて丁度いい。

シャインの命令が先頭のビーンズ級哨戒艦“パネレ”の元に届くと第二級航宙速度〇.一光速に加速し始めた。後続に続く艦が順次加速し始める。旗艦のスコープビジョンでは、艦隊の先頭の艦から順次色がグリーンからブルーに変わって行くのが映し出された。

シャインは、前方に広がるスコープビジョンからそれを確認すると

「ファイツアー総司令、発進しました。ミールワッツ星系跳躍点まで五日間の行程です」

そう言うとシャインはファイツアーと目を合わせ頷いた。

シャインは左少し前に座る主席参謀グラドウ大佐、副参謀ライアン中佐の顔を“チラッ”と見ると二人とも少し高揚した顔でスコープビジョンに映る艦隊の姿を見ていた。

「発進直後のこの光景を見ると、誰だって高揚するものだ。事実私も例外ではない」

頭の中で思いながら、艦隊が徐々に速度を上げて行く姿を見ていた。


ADSM82星系のミルファク星系側跳躍点より艦艇が現れ始めた。先行する哨戒艦のグループを先頭に駆逐艦、軽巡航艦、重巡航艦、巡航戦艦とおびただしい数の艦艇が跳躍点から出てきた。

そして最後に旗艦”アルテミッツ”を中心にアガメムノン級航宙戦艦三二艦が現れた。

「ヘンダーソン司令、ADSM82星系に出ました」

ヘンダーソンは、スコープビジョンに次々と映し出される映像に注目していた。恒星を中心に七つの惑星が公転している。

「ミルファク星系がミールワッツ星系からの資源を取得できるようになれば、ここも人類が住むことになるだろう」そう思いながら映し出される映像を見ていた。

恒星の近くにある二つの惑星は高温状態でとても人類は住めない。恒星から三番目の惑星と四番目の惑星が大気もありそうだ。第五惑星は、恒星から遠く冷えてとても住めそうにない。第六、第七惑星は、典型的なガス惑星だ。そう思いながらヘンダーソンは、ハウゼー艦長に

「艦長、至急この星系の大気分布と濃度、各惑星の状態を調べてくれ」

「解りました」

ハウゼーはそう言うと

「レーダー管制官、至急レーダー担当官に連絡し、この星系の大気分布と濃度、各惑星の状態を調べ報告させてくれ」

レーダー管制官は、すぐに復唱すると担当官へ指示を出した。それを確認したハウゼーは

「ヘンダーソン司令、第一八艦隊がミールワッツ星系跳躍点方向三〇光分の位置にいます。予定通りです」

「今のところ、第一八艦隊チャン・ギヨン中将は、予定通りの航宙を行っているようだ。今回の遠征に気を入れているから心配していたが、ミールワッツ星系に着くまでは、大丈夫そうだな」そう思うとオブザーバ席に座っているウッドランド大将の顔を見た。

ウッドランド大将も同じことを思ったらしく、目を合わせると顎を引いて「大丈夫だ」という仕草をした。

「艦長、本星系の分析が終了しました。本星系の恒星の大きさは、三〇〇万キロ、ミルファク恒星の五倍の大きさです。公転惑星は七つ。恒星より順に第一惑星、第二惑星は大気がありません。第三惑星、第四惑星は大気があり濃度は人類の生存許容です。但し第三惑星は、地表温度が二〇度ですが、第四惑星は地表温度が五度と非常に寒いです。住めないレベルではないようです。第五惑星は大気がありません。第六、第七惑星はガス惑星です。公転半径は、第四惑星までは恒星から一〇光分程度ですが、第五惑星が二〇光分、第六惑星は一光時、第七惑星は三光時離れています。以上です」

ハウゼー艦長が「ご苦労」と言うとそれを聞いていたヘンダーソンは

「まず典型的な移住可能星系だな。リギルはミールワッツ星系を超えてこちらには来なかったのだろうか。移住させてもよさそうなものだが」そう思いつつ左舷に見える恒星を眺めていた。

ハウゼー艦長は

「ヘンダーソン司令、ミールワッツ星系方面跳躍点まで三日の行程です」

「分かった」ヘンダーソンはそう言うとウッドランド大将の顔を見て

「ウッドランド総司令官。第一八艦隊チャン・ギヨン司令とミールワッツ星系に着いてからの行動の最終確認をしたいと思います。総司令官よりギヨン司令にご指示頂けますでしょうか」

本来、このような事は上官であるウッドランド大将に言うべき事ではないが、ミールワッツ星系到着後、いきなり戦線が開いた場合の猪突猛進を押させておかないと面倒になる。 

かの宙域では第一九艦隊が、鉱床探査の最終状態のはずだ。戦闘に巻き込まれ大事なデータが無くなっては、何の為の遠征か解らなくなってしまう。

キム・ドンファン司令は冷静な人間だ。戦闘が始まっても馬鹿な事はしないだろう。そう思いながらヘンダーソンはウッドランド大将の言葉を待った。

「ヘンダーソン司令。一時間後に君の司令長官室でギヨン司令と話そう。準備をしてくれ」

通常連絡では三〇光分先にいる第一八艦隊とは三〇分のタイムラグで話す事になる。今ウッドランドがヘンダーソンに依頼したのは、HDGRID(高位次元連絡網)をミニチュア版にしたもので星系間連絡を取るためのネットワークをPTPピアツウピアの交信艦同士で結ばせるという特別な通信方法だ。これによりタイムラグは三〇光分ならば〇.五秒差しかでない。

通常連絡では会話依頼する為に三〇分、このネットワークの構築のために一〇分必要だ。ウッドランドが一時間後と言ったのは余裕を持ってのことだろう。

一時間後、二人は旗艦アルテミッツの司令長官室にいた。スクリーンパネルに映るギヨン司令は、ミルファク航宙艦隊式敬礼をするとウッドランドも答礼した。3D映像でも映せるが会議に3Dは意味が無い。

「ギヨン司令。先に送った資料に書かれている通り、我々はADSM82星系跳躍点からミールワッツ星系に出たら、第一八艦隊は、第一九艦隊が駐留している第三惑星方面へ向かってもらう。それと同時に第一九艦隊ドンファン司令と連絡を取り現状を把握してくれ。行動指針として三つだ」

「第一が最悪の場合だ。リギル星系軍が第一九艦隊と交戦状態に入っている場合、速やかに交戦宙域急行し、第一九艦隊と共にリギル星系軍に応戦してくれ。但し、戦線は拡大するな」

「第二に第一九艦隊がリギル星系軍に追跡されていた場合、第一九艦隊と共同でリギル星系軍と対峙してくれ。戦線を開く事は避けるように」

「最後は・・この状態を望むのだが・・リギル星系軍が現れておらず、第一九艦隊が駐留を続けていた場合、所定の手続きに沿って鉱床探査を引き継いでくれ」

「第一七艦隊はADSM82方面跳躍点から出た後、ペルリオン星系からの跳躍点に向かう。ペルリオン星系軍を牽制する為だ。もしペルリオン星系軍が現れていた場合は、第一八艦隊と同様に駐留宙域へ急行する。ペルリオン星系軍が後から現れた場合、予定の行動を取る。今回は武力衝突が目的ではない。鉱床探査をリギル星系に認めさせる事だ。不必要な戦闘は絶対に避けなければいけない」

そう言うとウッドランドはギヨンの顔を見た。

「ウッドランド総司令、了解しました。何点か質問がありますが宜しいでしょうか」

「質問を許可する」

「第一のケースの場合、既に戦闘状態になっています。戦線の拡大は避けるにしてもリギル星系軍が手を抜いてくれるとは思いません。正面戦闘になると思いますが、いかがでしょうか」

「第一九艦隊は、数の上で不利になっている可能性が高い。第一九艦隊を支援しつつリギル星系軍の攻撃を流してくれ。向こうも好きで戦闘行為に入るとは思えない」

とウッドランドが答えると少しのタイムラグがあった後、

「第一、第二のケースも含めてですが、リギル星系軍が仕掛けてきた場合いかがしますか。受け流すだけでは、我方の損害が大きくなるばかりです」

ウッドランドは

「第一のケースの場合は仕方ない応戦してくれ。第二の場合、出来ればリギル星系軍に戦闘行為に入らないよう交渉してくれ。無理な場合は第一九艦隊と一緒にリギル星系軍に応戦してくれ」

「解りました」

ギヨンが答えるとギヨンの隣にいたボールドウィン主席参謀が

「総司令、質問して宜しいでしょうか」

ウッドランドは軽く頷くとボールドウィンは、

「アンドリュー星系軍は考慮しなくて宜しいでしょうか」と言った。ボールドウィンの顔を見ながら

「アンドリュー星系軍は情報部からの報告によるとミールワッツ星系に到着するのは二週間後だそうだ。考慮しなくて良いだろう」

ウッドランドはギヨンに「ギヨンは伝えていないのか」そう言う目をしてボールドウィンの顔を見た。ウッドランドの態度にギヨンは

「総司令。ミールワッツ星系における我艦隊の行動は解りました。第一七艦隊はペルリオン星系軍対応と言う事ですが、艦数も少ないので万一不利な戦況になった場合、我々は第一七艦隊の支援に回りますか。それともリギル星系軍に対応しておいて宜しいでしょうか」  

それを聞いたヘンダーソンは頭の中がカッとして「スクリーンのなかでなかったらその太った体を恒星の中に突っ込んでやる」と一瞬思ったが、ボールドウィンから話をそらす為のギヨンのいつもの見えだとすぐに分かると一呼吸於いて

「ギヨン司令、我々の艦隊の心配はしなくて宜しい。ご自身の艦隊をまず先に考えてください。我々も第一八艦隊がリギル星系軍に苦戦していても助けに行くには時間がかかりますからな」そう言った。

「実際、ペルリオン星系からの跳躍点から第三惑星まで最大艦速でも二日かかる。応援に行く前に決着がついているだろう。それにリギル星系軍は例の司令官が出てくる可能性がある」ヘンダーソンは自分の思考を切って、ギヨンも顔を見ると顔を真っ赤にしていた。ウッドランドは二人のやり取りを聞いていたが、

「二人ともその思いはリギル星系軍に向けてくれ。以上だ。終わりにする」

そう言うとギヨン司令と参謀たちは敬礼をしてスクリーンから消えた。ウッドランドは参謀たちを退席させるとヘンダーソンに

「ミルファク星系を出る前に話していた事だが、ペルリオン星系軍とリギル星系軍が既に第一九艦隊の駐留域に到着しており、鉱床探査を中止させる目的・・表向きだが・・実際は第一九艦隊に仕掛けさせる目的で攻撃を仕掛けてきたらどうする」

ウッドランドの質問にヘンダーソンは

「第一九艦隊司令ドンファン中将は冷静な人間です。戦闘になれば強いですが、無為な行動を起こす人ではありません。総司令の命令通りにしてくれると信じています」

「ケース二か」ウッドランドはそう言って既に消えているスクリーンを見つめた。

三日後、第一八艦隊七一二隻の艦艇と強襲揚陸間六〇隻、第一七艦隊六一二隻の艦艇がミールワッツ星系に通じる跳躍点に消えた。



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