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第二章 ミルファク

この小説は、以前投稿した「西銀河物語 第一巻 ミルファクとリギル 第二章 ミルファク」の再投稿です。


リギル星系軍との予期せぬ戦闘に痛手を負ったミルファク星系軍第一七艦隊は、ミルファク星系に帰還した。軍事統括ジェームズ・ウッドランド大将は、第一七艦隊司令長官チャールズ・ヘンダーソン中将を呼び出し、その状況を説明させた。星系評議会代表ナオミ・キャンベルは星系交渉部を通してリギル星系にミールワッツ星系に共同探査を呼びかけたが、評議会の結論は思わぬ方向へ動いた。

銀河系の西に位置するアルファ宙域からベータ宙域に伸びる宙域にある“ミルファク星系”

 太陽系からは、二〇〇〇光年離れた宙域に位置する星系。ミルファク星系は、銀河系中心部方向に広大な航宙不可能な宙域・・星が一つもなくただ闇に包まれた空間・・があり、銀河系中心部方向へ行くには、時計回りの左航路と反時計回りの右航路を利用しなければならない。

どちらも西銀河航路チャート利用した航行が可能であるが、両航路とも更に一回り遠い宙域では、未知の星系が多く存在していた。

ミルファク星系は、ミルファク恒星を中心に八つの惑星があり、今から三〇〇年前に恒星から少し離れた人類生存帯域にある第四惑星“メンケント”と第五惑星“バーダン”に人類が移住した。

 ミルファク星系を統治する星系評議会が、第四惑星“メンケント”を首都星と定め政治と軍事の両方から星系を統治している。今回のミールワッツ星系への派遣も星系評議会の決定事項として実施された。

当初はミールワッツ星系の鉱床の探査を行い有望な鉱床であれば、星系連合体ユニオンと共同開発か、分割開発の方向で考えていたのである。よって今回の派遣は、星系連合体ユニオンには未通知事項として密かに行う予定であった。

ところが、その派遣はだれもが考えていなかった予想外の方向に動いたのである。


「キャンベル代表、ミールワッツ星系から帰還したヘンダーソン中将の報告を読みましたか」

軍事を統括するウッドランド大将は、目の前にあるスクリーンパネルからナオミ・キャンベル星系評議会代表に声をかけた。

「ええ読みました。全く予定外の行動があったようですね」

シェルスターの自分のオフィスでウッドランド大将より連絡を受けたナオミ・キャンベル星系評議会代表はそう答えた。


シェルスター・・ミルファク星系は首都星を第四惑星メンケントに定めている。その上空五〇〇キロに浮かぶ人口衛星である。

治安維持や政治組織が惑星内だけであった時代、宇宙との往来は、軌道エレベータによって行われていた。しかし人口の増加と星間同士の流通の増加などにより軌道エレベータがネックとなっていった。

今から五〇年前、星系の政治、経済、軍事の機能維持を目的とした人口衛星を建設した。最大長二〇キロ、最短長一五キロ、厚さ三キロの二枚貝の形状を持ち扇方に広がった形の衛星である。

扇方の先が航宙艦の港、三層に分かれ、最上部が星系間連絡艦、中間が星間連絡艦、最下部が首都星や衛星と往来する連絡艇の港になっている。

中心部に向かって港のすぐ手前に資材ヤード、工業地区、次のブロックに中央部が商用地区、その両脇がシェルスターで働く人々の居住区、貝の中心部のすぐ手前が政治、経済、軍事関係者の居住区。

そして円形状の中心部に政治、経済、軍事、警察の建物があり港から中心部向けて幾本もの幹線道路とそれを交差する環状線が走っている。

しかし、これらはすべて衛星の内部にあり、衛星の表面に位置するところは大型の強化軽合金クリスタルカバーで覆われた四〇キロ平方に渡る「ミドリプラント」と呼ばれる牧草地、田園風景が広がる巨大な人口衛星である。

衛星のその姿から「シェルスター」と名付けられ、政治、経済、軍事、警察の中枢として機能している。軍艦艇を収容する衛星は軍事衛星として別途存在する。

キャンベル星系評議会代表のオフィスとウッドランド大将のオフィスは、その中枢地区の中にある。


「今回の件で、イエン委員などがこれを機にリギル星系を奪取しろとふざけたことをいっています。今、そんな行動に出てみなさい。西銀河連邦がこれを良い機会だとして一気に西銀河連邦治安維持星系の対象にしてしまいます」

キャンベル代表の強い口調を聞きながらウッドランドは、頭の中で考えていた。

西銀河連邦は軍事、経済の強力な星系同士が集まってできた組織だ。軍事力だけでも三〇〇倍、経済力にして五〇〇倍の差がある。

西銀河連邦は、各有力星系同士が牽制し合い、その領土拡大ができないでいる。故に危険分子と判断された星系や独自に治安維持ができない星系等を吸収し、自分たちの星系体に組込もうと虎視眈々としているのだ。

今回は遭遇戦だ。構えて戦闘を行ったわけではない。

「連邦への言い訳は考えておかなくてはなりません。これは、何とかなるとしても、リギルとの今回の騒動の収拾に向けた交渉の糸口を見つけるのはちょっと大変です。向こうとしても一個艦隊の大半を失いました。お互い運が悪かったではすまないと思います。いずれにしろ、至急評議会を開催して、事の収拾にあたらなければなりません。協力をお願いします。詳細については後ほど連絡します」

「はっ、承知致しました」

ウッドランドがスクリーンパネルの前でミルファク航宙軍式の敬礼を行うとキャンベルの映像が消えた。ウッドランドはキャンベル代表との会話が終わると

「ヘンダーソン中将に私のオフィスに来るよう伝えてくれ」スクリーンパネルのセクレタリボタンを押しながらそういうと窓の向こうに目をやった。

チャールズ・ヘンダーソン中将、資源探査の為にミールワッツ星系に派遣された第一七艦隊司令官である。そのヘンダーソン中将のオフィスは、シェルスターと同一軌道上にある軍事衛星“アルテミス9”にある。


軍事衛星アルテミス9・・・第一七艦隊と第一八艦隊の衛星基地。直径一〇キロ、厚さ四キロの円盤形をしており、上下に円盤を二キロで区切り上半分が第一七艦隊基地、下半分が第一八艦隊基地である。

円盤の上部外側は特殊軽合金クリスタルパネルで覆われておりその中に衛星に住む人々の空気、水、食料をまかなってくれる六四キロ平方にも渡る広大な牧草地帯、田園風景が広がっている。

軍艦艇は円盤の外側(正確には上部の内側)から順に戦艦、戦闘母艦が第一層、巡航戦艦、重巡航艦が第二層、軽巡航艦、駆逐艦が第三層、四層そして第五層、六層が哨戒艦、特設艦、工作艦、輸送艦、強襲揚陸艦のドックヤードになっている。

ドックヤードは円盤の外周部から内部に二キロまでとなっており、その内側直系六キロを円盤の上部から移住地区、商用地区、工業地区、資材地区と順に中心部に向かっている。 居住区が一番外側なのは、円盤の外にある田園地区が居住者の公園兼用しているのは言うまでもない。

そして円盤の中心分にこの軍事衛星の心臓部とも呼ぶエネルギープラントがある。核融合エネルギーによって生み出されるエネルギーは半永久的に運用でき、この衛星が完全な自給自足の衛星であることを物語っている。

この軍事衛星アルテミスが一〇基、シェルスターと同一軌道上を回っており、惑星メンケントからは静止衛星となっている。


この“アルテミス9”の第一層の奥、移住区の港側にチャールズ・ヘンダーソン中将のオフィスがあった。

「ヘンダーソン中将、ウッドランド大将より連絡が入っています」

着信音と共にスクリーンパネルにシノダ中尉の顔が現れ、そう報告を受けると、すぐにつないでくれとヘンダーソンが応答した。

スクリーンパネルにウッドランドの姿が現れるとヘンダーソンは、ミルファク航宙軍式敬礼をするとスクリーンパネルに映るウッドランドも答礼をした。

「ヘンダーソン中将、報告書は読んだ。今回は大変だったな。偵察隊は予想範囲内だったが、まさかリギル星系の正規艦隊が現れるとはだれも予想していなかったことだ。今回の件で評議会の委員たちがにぎやかになっている。詳しく話を聞きたいので私のオフィスに来てくれ」

「了解しました。すぐに伺います」そう言うとスクリーンパネルからウッドランドの姿が消えた。

スクリーンパネルのセクレタリボタンを押すと

「シノダ中尉、ウッドランド大将のオフィスに行く。シェルスターへの連絡艇を手配してくれ」と言った。

連絡艇は、“アルテミス9”第一層の軍艦艇がある円の反対側から出る。そこまでは自走エアカーが走っている。

ヘンダーソンはミルファク航宙軍士官が着る紺色の制服を着ると鏡の前で乱れを直した。

中将の肩章は金板に星二つ、胸には航宙軍を現すミルファクスターが光っていた。

オフィスのドアを出て、自走エアカーが走っている道路まで歩いて二分。既にシノダ中尉は、エアカーの前で待っていた。エアカーのガルウイングが上がり、後部座席にヘンダーソン中将が乗り込むと続いて前部座席にシノダ中尉が乗った。

「中将、連絡艇は、五六番ゲートです」

ヘンダーソンは頷くとシノダは自走エアカーを始動した。少し浮き上がると軽いマグネット音とともにスーっと前に動き出した。

あとは交通管制システムに組み込まれた情報を元にエアカーが五六番ゲートまで連れて行ってくれる。エアカーのシートは固めだが、走行路に接地していないので全く振動がない。大きく開かれた窓は搭乗者の都合でスモークにもクリアにも出来る。

時計回りに右方向に走っていくとやがて港に行く検問所が見えてきた。自分たちが来た側は軍艦艇及び軍関係者のみが住んでいるが、連絡艇のある港側の移住区は民間人も住んでいる為、出入りに検問所が設けられている。

検問所に近づくと、既に連絡が入っているのか衛兵が直立の姿勢で敬礼をしていた。

シノダ中尉は一度エアカーを止めると、窓を開け、

「ヘンダーソン中将がシェルスターに行かれます」だけ言うと衛兵は、

「どうぞお通り下さい」と言ってほぼ金属の塊に近いゲート開けた。ヘンダーソンは衛兵に答礼しながら、頭の中で「仕方ないことだが、この鉄の塊のゲートはもう少しましなものにならないかと」考えていた。

外部侵入者が強行突破できないよう、二〇ミリ携帯レーザーキャノンでも壊れない厚さ二メートルの重合金ゲートだ。

やがて宙港が見えてきた。こちらは、首都星連絡艇、衛星間連絡艇の他、軍事資材や民間物資を輸送する輸送艦も出入りする。連絡艇の周りには、宙港で働く人々や衛星に移動する民間人、軍人でにぎわっていた。

自走エアカーの走る右手には、簡単な食事スペースや夜のバーになるだろうお店が多く並んでいる。そんな中をヘンダーソンの乗るエアカーは、やがて五六番ゲート前に着いた。

停まる瞬間、ほんの少し走行路に着地するショックがあるが気にするほどではない。シノダ中尉が、ガルウイングのドアを開けるとヘンダーソンは、エアカーを降りて周りを見た。

半円周で三一.四キロの内、連絡艇のゲートとして使用されているのは、約半分の一五キロ。大小の連絡艇ゲートが二〇〇ある。以外は輸送艦用と修理ドックになっている。五六番ゲートは時計回り方向に五六番目にあるゲートだ。

シノダ中尉はエアカーの走行路から一〇〇メートル先にあるゲート入り口に小走りに向かうと、ゲート内の状態ランプがグリーンになっていることを確認して搭乗側エアロックを開けた。

中には、長さ七〇メートル、幅三〇メートル、高さ六メートル、先端を丸くした蒲鉾形のシルエットとエターナル推進エンジンを持つ中型連絡艇が待っていた。既にドアが開かれ、客人の到来を待っているようだった。

シノダ中尉が搭乗側エアロックを開けたのを待ってパイロットが連絡艇の入り口に出てきていた。

ヘンダーソン提督が近づくと航宙軍式敬礼で

「提督お待ちしておりました。提督が御乗艇次第発進します」

ヘンダーソンは、答礼しながら、連絡艇の中に入ると縦横二〇メートルの正方形の客室の中に簡単なカウンターバーとゆったりとした椅子が置かれていた。

将官か星系評議会の高官だけが乗ることのできる連絡艇である。ヘンダーソンがゆっくりと椅子に座るとシノダ中尉が少し離れた後ろの椅子に座った。それを確認したパイロットは連絡艇のドアを閉め、内側からのロックボタンを押すと、パイロットルームへ移動した。

「宙港管制センター、こちら第五六番ゲート、B一〇四連絡艇、発進準備完了」パイロットが告げると

「こちら宙港管制センター。第五六番ゲート、エアロック解除」数秒後、

「エアロック解除完了。進路クリア。B104連絡艇発進許可。第一二航路を利用して下さい」

「B一〇四連絡艇。了解」

パイロットは宙港管制センターからの発進許可が出ると進行側ゲート内側にあるエアロックランプがグリーンになっているのを確認して、ランチャーロック解除ボタンを押した。

連絡艇を包んでいたゲートの正面が両サイドに開くと連絡艇の下にあったランチャーロックが外れ、連絡艇がガクンと軽く下に動いた。そのまま下に少し動くとやがてゆっくりと前進し始めた。

宇宙に出るまでに宙港のゲートから六〇〇メートル。これは輸送艦のゲートとの関係もあり、この長さになっている。

ゲート内進行中は誘導ビームに乗っているので、極めてゆっくりと前進する。やがて、ゲートを離れるとパイロットは、右側にあるレバーを一目盛りゆっくりと前に倒した。エターナル推進剤がエンジンに投入され、連絡艇が押される。

ヘンダーソンは、少し椅子に背中が押されるのを感じながら、「ゲートを出たな」と感じた。

連絡艇の客室は、強化クリスタルパネルで覆われている。スモークにもクリアにも出来る。

“アルテミス9”を出ると、ヘンダーソンはクリスタルパネルを淡いクリアにして左手に“アルテミス9”の姿を見ながら、これからウッドランド大将と話すことになるだろう事を考えていた。


四〇分後、B一〇四連絡艇は、シェルスターの第三層にある、衛星間連絡ゲートに着いていた。

シノダ中尉はヘンダーソン提督が自走エアカーに乗りこむのを待って、自分も前に乗り込みスクリーンパネルにある、ウッドランド大将の待つ中枢区へ行くボタンにタッチした。

ゲートを離れると第三層から第一層の中枢区へ行く各層間をつなぐ環状線に乗った。周りの景色がゆっくりと流れながら第一層に着くと今度は港から中枢区に伸びる幹線道路に乗る。工業地区、商業地区、政府関係者居住区を抜けると中枢区が見えてきた。

中枢区にある外側の環状に乗り左手に中枢区を見ながら少し走ると高級士官のオフィスがある建物の前で自走エアカーは停止した。

シノダ中尉は走行路に接地したことを体で感じるとガルウイングを開けるスイッチを押した。ヘンダーソンはシノダ中尉に建物の中にある待合室で待つように指示をすると自分は、ウッドランド提督のオフィスへと向かった。

ウッドランド大将のオフィスの前に着くと、ヘンダーソンは胸に着けていたIDをドアの右側にある非タッチ式ボードにかざすとやがてドアが開いた。

ヘンダーソンが部屋に入りすぐに航宙軍式敬礼をするとウッドランドは、答礼し、

「ごくろう。椅子に座りたまえ」大きなテーブルの前にある椅子の一つを勧めた。ヘンダーソン中将が座るのを確認するとウッドランドは、自分のデスクにあるスクリーンパネルのセクレタリボタンを押すと入口に近いドアが開きアルト・ナカタニ中尉が現れた。

「中尉はじめてくれ」

部屋が暗くなり、大きなテーブルと思っていた上に三次元の映像が現れた。ミルファク星系とその近辺の星系。その航路が星系間にブルーの光となって走る。重重力磁場を利用した公式な航路チャートだ。

やがて銀河系の中心に向けてミルファク星系の前方にある航行不能宙域を大きく左に迂回するように緑色の光点が未開拓の星系をつないでいく。これらの星系はミルファク遠征艦隊が調査し、人類が住んでいない未開の星系をつなぐ重重力磁場を利用した非公式なチャートである。

その光点は、一つの星系で停まった。ミールワッツ星系である。星系が拡大され現在駐留している第一九艦隊の布陣が現れた。

ウッドランドが、ナカタニ中尉を見て促すと今度は、第一九艦隊が消えて第一七艦隊が第二、第三惑星付近に展開している様子が映し出される。

第三象限からリギル星系軍が現れるとすぐに消えた。そして第一七艦隊が第三象限側に集まると、いくつかの光点が、リギル星系軍が現れた方向に進み赤い点をまき始める。宇宙機雷である。

少し時間がたつとリギル星系軍が現れ、戦闘の様子が次々と表現されていった。最後にミルファク星系第一九艦隊の到来とともにリギル星系軍の左翼が崩れ始めると右に押され始め機雷源に近づき始めた。

数隻が機雷に攻撃されるとリギル星系軍が第一七艦隊と宇宙機雷の中間点を下に抜けるようにミールワッツ恒星方面に移動した。

ここまで三次元映像が映し出されると、やがて映像は、また第一九艦隊の布陣の映像に戻った。

「リギル星系軍の艦隊司令官の手腕、たいしたものだ。中将が第三惑星を後ろに防戦の隊形で構えたことを利用して艦隊を包むように展開してくるとはな」そういうとウッドランドはヘンダーソンの顔を見た。

「申し訳ありません。惑星上には、まだ、探査資材を残してあり、惑星の後ろには、輸送艦など非戦闘艦を置いていましたので、積極的な戦術に出れませんでした。A2Gのマイケル・キャンベル少将の部隊が善戦してくれたおかげで何とか第一九艦隊が来るまで持ちこたえられました」

ヘンダーソンがそう言うと

「今回は仕方ない。正規編成で無いからな。探査資材を積んでいる輸送艦と強襲揚陸艦付だ。第二、第三惑星の探査が無事終了した事を思えば、作戦は成功したと見なしていいだろう。問題はこれからだ。現在第一九艦隊が探査を引き継いでいてくれるが、リギル星系がこのまま黙っていまい。現在、星系外交部を通じてリギル星系にミールワッツ星系の領有権と和平調停をしてもらっているが、うまくいくとは思えない。向こうは一個艦隊の半数を失ったからな。第一九艦隊のキム・ドンファン中将からも両星系間の状況について教えてくれるよう催促が来ている。ところでヘンダーソン中将、今後の対応について君の意見を聞きたい」

そう言ってウッドランドは、ナカタニ中尉に三次元ディスプレイをそのままにして部屋に下がるように指示した。

「ウッドランド大将、リギル星系は、ミールワッツ星系の放棄と今回受けた艦隊の賠償を求めてくると思います。最終的な落とし所はミールワッツ星系の放棄というところだと思います。もし我星系がミールワッツ星系の駐留を止めない場合、第一九艦隊を武力で排除しようするでしょう。我星系がミールワッツを領有するとなればリギル星系としては、隣に仲の悪い隣人を置いておくことになります。ここは引かないでしょう」

ヘンダーソンがそう言うと

「それは、飲めない相談だな。軍人は政治に口を出さないが、外交で決着をつけることができないものだろうか」

ウッドランドは、一五〇〇光年も離れた先で戦闘が始まれば、その補給面で不利になっていくことを懸念した。軍事力からいっても負けないだろうが、必ずしも勝てる保証もない。今回もあの司令官が出てくるようだとまずいことになりそうだ。

「ヘンダーソン提督、いずれにしろ、第一九艦隊と交代する必要がある。交代は第一八艦隊のチャン・ギヨン中将に行ってもらうが、万一のこともあるので、君も行く準備をしておいてくれ。損傷した艦の修復と補充については、連絡する」

ウッドランド提督の言葉にヘンダーソンは直立して敬礼するとオフィス出て行った。

ウッドランドは、ヘンダーソン提督がオフィスを出るのを待ってキャンベル星系評議会代表に連絡を取った。

ヘンダーソンは、オフィスに戻りながら「リギル星系とあの艦隊の司令官の事調べておく必要がありそうだ」そう思いながら近づいてくる“アルテミス9”の姿を見つめていた。


翌日、星系評議会代表部の会議室にキャンベル星系代表、ラオ・イエン星系評議会議員、ダン・セイレン星系評議会議員、軍事統括としてウッドランド大将が集まった。

キャンベル代表が最初に全員の顔を見渡すと

「今日、皆さんに集まって頂いたのは、ミールワッツ星系で発生した第一七艦隊とリギル星系軍の戦闘の後処理についてです。現在、ミールワッツ星系では、第一九艦隊が第一七艦隊の後を継いで鉱床の調査に当たっていますが、リギル星系がこのまま何もしないで見ているということはないでしょう」

そこまで言うと一呼吸置き、議員たちの反応を見た。誰もまだ話そうとしない。そこでキャンベルは、

「皆さんの意見を聞いて星系評議会として今後の方針を決めたいと考えています」

そこまで言った時、

「リギル星系軍は、第一九艦隊の猛攻を受けて、散々たる体で逃げたというではないか。これを機に一気にリギル星系に対して攻勢に出て、ミールワッツ星系を我星系領としようではないか。その後にリギル星系と交渉すればいい。ウッドランド提督、勝算はあるのだろう。」

イエン議員に突然名前を出されたウッドランドが、眉間に皺を寄せた時、キャンベルは、「まったく、状況が分かっていない。簡単に事が運ぶなら苦労はしない」と考えながらも

「イエン議員、リギル星系との戦闘の拡大は、わが星系にとっても負担です。一五〇〇光年先の星系に戦いを仕掛けて、無傷で済むと思っているのですか」

とキャンベルは言い返したが、イエンは、セイレン議員の顔をちらりと見ると

「それは、星系軍の仕事だ。うまくやるのが、彼らの仕事だろう。」

と言った。

ウッドランドは、腹の中が燃え上がるような気持ちで「だったら、自分一人で行って来い。自分たちは手を汚さず、後方で高みの見物をして、重荷は軍に回す」と頭の中で考えながらイエン議員とキャンベル代表の顔を見た。

そこにセイレン議員が、イエン議員に向かって

「ではイエン議員。あなたも顧問として一緒に行ったらどうだね。その目で良く見れるぞ。あなたの希望している状況が。そういえば、あなたの御子息は、後方の補給部隊だそうだね。一緒に行ったらどうかね」

セイレン議員の言葉に真っ赤な顔になったイエンは、

「私は、議員としての職務がある。そんなところに行っている暇はない。それに私の息子は志願して兵役に就いたのだ」

本当は、形だけの兵役に就かせ、周りに体裁を作っただけであった。「前線や調査派遣などさせたら、何が起こるか分からない。ふざけるな」そう思いながら、立場が悪くなったイエンは、口を開けるのをやめた。セイレンは、

「ここは、星系外交部を通じて和平交渉に持っていくのが、妥当だろう。無理して傷口を拡げるより、終息に向けた取り組みをした方がよいと私は思う」

「おかしいな。軍需産業のトップであるセイレンが、いつもと違った意見をいっている。普段は軍の資材の消耗を望んでいるセイレン議員が、和平交渉を望むなど考えられない」そう思いつつキャンベルは、

「私も、まだリギル星系とは和平交渉の余地があると考えています。ウッドランド提督からの報告でもあくまで遭遇戦であり、わが軍も撤退するリギル星系軍を追うようなことはしていないと聞いています。今は、星系外交部の手腕にかけてみましょう」

「しかし、交渉が決裂した場合はどうします。評議会として中途半端に状況を先延ばし出来ないでしょう。もし、リギル星系軍が、第一九艦隊に攻撃を仕掛けてきた場合どうします。我星系としてミールワッツ星系を見捨てるということは、今まで投資した責任をだれかが取らなければなりません。ミールワッツ星系を失うわけには行きません。交渉が決裂した時の場合に備えて星系軍にも派遣の準備をして頂いた方が宜しいのではないでしょうか。交渉がうまくいけばそれに越したことはないが」

セイレン議員のうって変わった言葉に「やはり思い違いか。今回の調査派遣でずいぶん援助しているからな。自企業の利益をしか考えないやつが、きれいなことを言うのはおかしいと思った」そう思いながらウッドランドは、思いはおくびにも出さず三人の話を聞いていた。

イエンは、何か言いたそうな気持が顔に出ていたが、流れが自分に不利と悟ったのだろう。何も言わず黙っていた。

ウッドランドは、

「艦隊を派遣するとしても編成と時期は如何します。第一七艦隊は修復中です。艦隊の派遣準備を開始すれば、いたずらに星系に緊張をもたらすだけです。ここは慎重に事を勧めたほうがよいのではないですか」

そう言うとセイレン議員の顔を見た。

「艦隊派遣は第一八艦隊に行ってもらえばよい。表向きは第一九艦隊との交代です。チャン・ギヨン中将もやる気十分と聞いています」とイエン議員からの口が出ると

それを聞いたウッドランドは「ギヨン中将か、イエン議員と組んで次期星系評議会代表の座を我がものにしようとしているやからだ。しかし第一八艦隊だけでいいのか。第一九艦隊のキム・ドンファン中将は堅実な軍人だが、艦隊戦の経験は少ない。航路調査と資源探査で名をあげたような人間だ。やはり第一七艦隊も出さざるをえないようだ」そう頭の中で考え、

「第一九艦隊は鉱床探査の引継ぎもあり、艦隊編成に調査要員を同行させます。万一戦闘になった場合、鉱床調査の民間人も守って頂けなければならない。万一民間人に犠牲者が出た場合、ギヨン中将にも責任が発生する。ここは第一七艦隊も一緒に出動してもらいます。なお、第一七艦隊は中波以下の戦闘艦の修復と予備艦艇の補充を行った編成とします」

ウッドランドは強い口調でイエン議員とセイレン議員の顔を見ながら言った。

ウッドランド提督に睨まれたイエン議員は、顔をこわばらせながら

「それはいい考えだ。ここは星系外交部の交渉結果を待つ間、第一七艦隊の修復と整備を行って貰いましょう」と言った。

「それでは皆さん、今日はこれまでにして星系外交部からの連絡を待ちましょう。」

そう言うとキャンベルは評議会を閉会させた。

キャンベルは、イエン議員とセイレン議員が並んで評議会会議室を出るのを待って、ウッドランドに

「今回の評議会は、和平の方向で進めると決まりましたが、まだ予断は許しません。提督もとりあえず、今は待ちの体制でお願いします」


数日後、ウッドランドは、キャンベル星系代表にスクリーンパネルから話しかけた。

「やはり、リギル星系外交部から連絡がありましたか。要求は予想通り、ミールワッツからの撤退と損害賠償請求ですか」

「その通りです。リギル星系側は、帰還中の艦隊を一方的に攻撃して来たミルファク星系の横暴だ」

と言うことです。キャンベルの言葉にウッドランドは、

「そうですか。星系評議会は、どのように対応するつもりですか」

「現在、星系外交部が交渉に当たっていますが、進展はありません。評議会としては予定通り外交部の最終結果を待って判断します」

キャンベルはそう言うと

「では、我々は当面は、動かなくて良いという事ですか」

ウッドランドの言葉に

「いえ、我星系の希望に沿う結果は得られないでしょう。但しイエン議員のように強行的な行動を行うつもりはありません。評議会としては、戦闘行為に入るのだけは避けたいと考えていますが、万一の場合に備えて艦隊の整備をしておいて下さい」

「了解しました」

とキャンベルに答えるとキャンベルの映像がスクリーンパネルから消えた。ウッドランドは「艦隊の整備か。艦隊の整備は、キャンベル代表に言われることではない。出動の準備をしておけと言うことではないか。星系評議会は、力ずくでミールワッツ星系を我星系に組み込もうとしている」そう考えると少し、左の脇腹にしこりが出来たように重く詰まるものがあった。


“アルテミス9”の居住区の一角。軍艦艇の宙港から中心部に延びるF2A幹線走行路から少し入ったところに第一七艦隊A3G宙戦隊長ユーイチ・カワイ中佐の官舎がある。 

そしてもう一人、肩まで伸びるきれいな髪をポニーテールにして、切れ長の目にすっと通った鼻。少し小さめの唇が面長の顔にバランスよく配置された若い女性がいた。

「今回の派遣は本当に怖かったわ。“マザーテイル”が撃沈されたときは、もうだめと思ったわ。でもあなたが帰還した時、ほっとして涙が出そうになった」

「大丈夫だよ。僕も“マザーテイル”が撃沈されたと聞いたとき、驚いたけど、航宙空母は防御力が戦艦並みだし、簡単には、撃沈しないよ。“マザーテイル”は、布陣の一番敵側に近かったからだろう。それにたとえどんな事がってもマイは必ず僕が守ってみせる」

「“マザーテイル”は、航宙戦艦の内側にいた。“シューベルト”が被弾した時だ。敵の戦闘艦が、側面をすごい力で突いてきた。たぶんあの時やられたのだろう」そう考えた後、意識を振り払い、マイが入れてくれたコーヒーをユーイチはおいしそうに飲んだ。


オカダ少尉は、一年半前に士官学校を卒業し、カワイ中佐と同じ第一七艦隊航宙空母「ライン」の戦闘機発着管制官として配属された。知り合ったきっかけは、航宙母艦“ライン”のコンパである。

航宙軍人はほとんどの時間を派遣宙域の艦の中で過ごす。故に民間人と接することがほとんど無い中で、軍に入って一〇年未満の連中が年に何回か“合同演習”という名目で・・本来の意味とはだいぶ違うが・・違った時間を過ごす。いわゆるコンパである。

一年前、カワイ中佐は戦闘機スパルタカスのシミュレーション演習が長引き、シェルスターの商用区にあるレストラン“れもん”で開かれた“合同演習”に遅れそうになった。

自走エアカーから降りたカワイ中佐は走行路からそんなに遠くないレストラン“れもん”の入り口に走って行ったとき、靴のかかとが自走エアカー走行路の電磁路に引っかかり困っている女性を見つけた。

「遅れている」と思いつつ、その女性の靴を電磁路から取ろうとしたが抜けない。

「大丈夫です」という女性の忠告を振り切り、強引に引き抜いたとき、“ポッコン”と音がして、ヒールが靴の底から取れてしまったのである。

しきりに謝るカワイ中佐に「いいです」と言ってバランスの取れない靴を履きながらオカダ中尉は歩き出した。仕方なくカワイ中佐も“れもん”の入り口に向かって歩き出したが、その女性も同じ方向に歩くのである。

一〇メートル程歩いたところ、ちょうど“れもん”の入り口から五メートル程のところで、いきなりその女性は振り向き

「もういいって言ったでしょ」とキッとした顔で怒ったのである。

その女性の顔を見てかわいいなと思いつつ

「いえっ、自分も行く方向が同じなので」

と言ったのだが、何を間違えたかオカダ少尉は、カワイ中佐に近づいてきて、いきなりカワイ中佐の頬を平手打ち。

普段格闘技を教練として行っているカワイ中佐もまさかこんなかわいい女の子がと思ったスキにやられたのである。

挙句大きな声で「私はミルファク星系軍第一七艦隊所属の少尉です」と言ったものだから、何をどう言っていいのやら。

周りを見ると見物人が、カワイ中佐に向かって“ひそひそ、ぼそぼそ”。最悪だと思ったところに、声を聞きつけたのか

「マイ、なにやっての。遅れているから心配したのよ」

とオカダ少尉の知り合いだろう女性たちが二、三人、“れもん”の入り口から出てきた。そこへ、女性たちの後ろから

「カワイ中佐、何やってんですか。遅いじゃないすか」

中隊の連中が、またまた“れもん”から出てきた。

それを聞いたオカダ少尉は、「中佐・・・」

頬が赤くなった中佐殿を見て、どうしていいのやら・・

それ以来、ライン所属の連中から、勝手なうわさを立てまくられ、そんなことはどうでもと思いつつ、それは世の常、結局、今に至っている。

「今回の出動は、表向き第一九艦隊との交代となっているが、実際には、リギル星系軍との戦闘も想定されているらしい。出来れば、マイには行ってほしくない」

「無理言わないで。同じラインに所属する軍人として行かない訳にはいきません。それにユーイチが行くんだから・・」

そう言うとマイは、ユーイチのぬくもりが残るベッドに座った。

そばに来たマイの肩を抱きながら

「出動まで後一週間だ。いろいろ忙しくなる。マイとこうしていられるのも後二日だ・・」そう言うとカワイは自分の持っているコーヒーカップをサイドテーブルに置いた


数日後ウッドランドは、中枢区にあるミルファク星系航宙軍作戦会議室に第一七艦隊司令チャールズ・ヘンダーソン中将、同艦隊A2G司令マイケル・キャンベル少将、同艦隊主席参謀ヘラルド・ウオッカー大佐、同艦隊副参謀ダスティ・ホフマン中佐、同艦隊副参謀ガイル・アッテンボロー中佐、第一八艦隊司令チャン・ギヨン中将、同艦隊主席参謀イアン・ボールドウィン大佐、同艦隊副参謀ミル・ラムジー中佐、ロイ・ウエダ中佐を呼んだ。

「諸君らに集まってもらったのは、ミールワッツ星系に駐留している第一九艦隊の交代を行う為だ。もちろんこれは表向きの言い方だ。本当の目的は、ミールワッツ星系の永続的な駐留を確固たるものにする為、予想されるリギル星系軍の攻撃を撃破することにある。それを持ってリギル星系軍と優位に交渉しようというのが星系評議会の意向だ。そこで交代艦隊の第一八艦隊だけでなく、第一七艦隊も一緒に派遣することになった。リギル星系軍は本星系艦隊ばかりでなく、ユニオン同盟のアンドリュー星系軍、ペルリオン星系軍も出てくることが予想される。よって諸君はミールワッツ星系に駐留している第一九艦隊と共にこれを撃破し、第一八艦隊が継続してミールワッツ星系に駐留できるようしてくれ」

ウッドランドがそう言うとイアン・ボールドウィン主席参謀は、少し眉上げ、ウッドランド大将の顔を見た。そして

「我艦隊が戦闘で被害が大きかった場合、継続して駐留することが困難な状況になることが予想されます。その場合どのように行動すれば宜しいでしょうか」

「主席参謀、ユニオン同盟軍は、宙賊退治がやっとの素人の集まりだ。わが軍だけでも十分と思うぞ。第一七艦隊には、後ろでのんびり休んでいてもらってもよいと考えている。評議会代表は、心配症なのだろう」

チャン・ギヨン中将はそう言うと「リギルの腰ぬけどもにやられるとは第一七艦隊も情けないものだ」腹の中でそう言いつつ、ヘンダーソン中将の顔を見た。

「チャン・ギヨンは猪突猛進的な戦闘で自軍に多大の被害を出しながらも、敵に対しても多くの損害を与えてきた。その功績で中将までなった男だ。戦術もない昔ながらのぶつかり合いだけの時代ならばそれでいいだろうが、今回も同じ風に行くかな。ボールドウィン主席参謀のせっかくのプラン提示チャンスもこの提督の下では役に立たないな」そう腹の中で考えながらヘンダーソンはギヨンの顔を見返した。

そんな二人の腹の中を知ってかウッドランドは、話を戦術面に持って行った。

「今回は第一八艦隊が左翼を中央が第一九艦隊、第一七艦隊を右翼に持ってくる。第一九艦隊は無傷の状態だが、第一七艦隊は、先の戦闘で艦艇数も少ない。第一九艦隊は駐留で疲れているだろう。今回は、第一八艦隊が先鋒となり、ユニオン同盟軍を叩いてくれ」

ウッドランド大将の言葉にギヨン中将は、満足そうな顔をして

「当然の布陣です。第一七艦隊と第一九艦隊には休んで頂きましょう。お疲れでしょうからな」

自慢げにそう答えるとウッドランド大将の顔を見た。

ウッドランドは、ヘンダーソン中将とギヨン中将の二人の顔を見ると、シノダ中尉に

「はじめてくれ」

と言った。

全員が座っているテーブルの前にミールワッツ恒星を主星とするミールワッツ星系が現れた。続いて、第二、第三惑星付近に駐留する第一九艦隊が現れた。

第一九艦隊は、主力艦をリギル星系方面に防御隊形である台形型で布陣し、補助艦艇を第二、第三惑星付近に駐留させ、その周りを駆逐艦、軽巡航艦で固めている。哨戒艦は星系各方面に展開している。

「諸君、ユニオン同盟軍はどう出てくると思う」

ウッドランドの質問に第一七艦隊主席参謀ウオッカー大佐が答えた。

「普段単独行動をとっているリギル星系軍、ペルリオン星系軍、アンドリュー星系軍の艦隊が一つの艦隊として作戦行動をとることは難しいと考えます。更にリギル星系とペルリオン星系は四〇〇光年、リギル星系とアンドリュー星系は三〇〇光年、公式航路チャートでは、互いの連絡にそれぞれ七日と六日かかります。リギル星系に同盟艦隊が合流してミールワッツ星系に進行することは無いと考えます。ここは艦隊編成が少ないと考えられるペルリオン星系軍を先に叩き、次にリギル星系軍、アンドリュー星系軍の順で攻撃すれば各個撃破ができ、我星系軍の被害も少なくて済みます」

「理想ですが、“敵がミールワッツ星系に個別に派遣すれば“の話です。各個撃破されることが解っていて、その愚を犯すでしょうか。ここは、ユニオン同盟軍の全艦艇が一つのグループで動くと考えるのが上策かと思います」

ウオッカー主席参謀の考えに第一八艦隊主席参謀ボールドウィン大佐は、反論した。

「発言宜しいでしょうか」

主席参謀同士の会話に一応礼儀として聞いたホフマン中佐は、

「ユニオン同盟軍と言っても寄せ集めではありますが、主力と考えられるリギル星系軍は

正規艦隊として三個艦隊以上の軍事力を保有していると聞いています。先の戦闘で一個艦隊の大半を失ったとはいえ、二個艦隊が出てくると、十分それだけで脅威になります。アンドリュー星系軍、ペルリオン星系軍を補助数としても三個艦隊以上の脅威になります。まずリギル星系軍を先に叩くのがよいと小官は考えます。他の二星系軍は、艦艇数は整っていますが、それ程の力は出せないと思います。状況において対応できるのではないでしょうか」

「まず一番強い敵から叩く。戦術の常識だな。しかし、リギル星系軍が戦っている間、他の二星系軍が見ているわけでもあるまい。それはどうするのだ」

ホフマン副参謀の考えに第一八艦隊副参謀のウエダ中佐が聞くと

「リギル主力艦隊を第一八艦隊と第一九艦隊に対応して頂き、アンドリュー星系軍及びペルリオン星系軍を艦艇数の少ない第一七艦隊が対応するということではどうでしょうか」ホフマン中佐の言葉にギヨン中将は、にやりとして

「ホフマン副参謀の意見に賛成だ、ヘンダーソン中将どうかね」

自分自身が主役になった気持ちになっているギヨンは、ヘンダーソンの顔を見ながら自慢げに言った。

「ホフマン副参謀の考えでよいでしょう」

ヘンダーソンは答えながら、「この男は、リギル星系にあの司令官がいる事を知らない。とりあえずここは花を持たしておくか。しかしいつもながらホフマンは持って行き方がうまいな」と頭の中で考えていた。

ウッドランドはヘンダーソン中将とギヨン中将の意見の一致を見たと感じると

「それでは、先程話した布陣で行く。現場における判断は柔軟に行ってくれ」

そういうと、シノダ中尉に三次元ディスプレイを消して次の映像を出すよう指示した。

「艦隊編成は以下の通りだ」

続いて、テーブルに長方形型の透明なパネルがテーブル上に縦に現れると、各艦隊の編成表が映し出された。

第一七艦隊 艦隊司令 チャールズ・ヘンダーソン中将

アガメムノン級航宙戦艦二七隻

ポセイドン級航宙巡航戦艦四〇隻

アテナ級航宙重巡航艦五二隻

ワイナー級航宙軽巡航艦一一五隻

ヘルメース級航宙駆逐艦一六四隻

アンドロメダ級大型空母二七隻

ホタル級哨戒艦一六四隻

タイタン級高速補給艦三二隻

スパルタカス戦闘機三二七一機

艦艇数 六二一隻


第一八艦隊 艦隊司令 チャン・ギヨン中将

アガメムノン級航宙戦艦三二隻

ポセイドン級航宙巡洋戦艦四八隻

アテナ級航宙重巡洋艦六四隻

ワイナー級航宙軽巡洋艦一二八隻

ヘルメース級航宙駆逐艦一九二隻

アルテミス級航宙母艦三二隻

ホタル級哨戒艦一九二隻

タイタン級高速補給艦二四隻

スパルタカス戦闘機三五八四機

艦艇数 七一二隻 他に陸戦隊三〇〇〇名。強襲揚陸艦六〇隻

総艦艇数一三三三隻

「これに派遣中の第一九艦隊七一二隻が加わる。私は総司令官として第一七艦隊旗艦“アルテミッツ”に乗艦する」

ヘンダーソン中将とギヨン中将の顔見ながらウッドランドは、

「“アルテミッツ”は新鋭艦だ。通信能力に優れている。戦闘中に於ける状況変化を逐次受けながら対応するには、適切な艦だ」

そう言うと、ヘンダーソンの顔を見た。ヘンダーソンは「分かっています」という表情でウッドランドを見た。ギヨンは面白くないながらも大将の判断には口は出せない。

アガメムノン級航宙戦艦“アルテミッツ”、前部二〇メートルメガ粒子砲四門、後部一六メートルメガ粒子砲三門、長距離ミサイル発射管一二門、近距離ミサイル発射管二四門、アンチミサイル発射管二四門、パルスレーザ砲一〇門、大型核融合エンジン四基を持つ長さ六〇〇メートル、幅二〇〇メートル、高さ一二〇メートルの航宙戦艦である。特筆すべきは、レーダー機能で半径七光時の捜査範囲を持つ。

通常の航宙戦艦がレーダー捜査範囲四光時に比べると格段の能力である。また、防御力も強く、三〇万キロの至近からの二〇メートルメガ粒子砲を受け止めるシールドを前部に備えている。

ウッドランドはシノダ中尉に映像を消すよう促すと

「出発は二週間後のWGC3045/10/25、0800だ」各自、艦隊出動の準備をしてくれ」そういってヘンダーソン提督とギヨン提督を見た。

提督とその参謀たちが敬礼して航宙軍作戦会議室を出る姿を見ながら、ウッドランドは

「シノダ中尉、私のオフィスに戻る」と言った。


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