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第一章 接触

 ミルファク星系の宙域から一五〇〇光年。リギル星系より五〇〇光年離れたミールワッツ星系にレアメタルを含む貴重な鉱床を持つ惑星が見つかった。しかしミルファク星系からここにたどり着くためには航行不可能宙域を避け、リギル星系の同盟星系領を航宙しなければならない。

しかしリギル星系は、ミールワッツ星系の鉱床探査権は自星系にあるといって譲らずミルファク星系派遣艦隊のリギル星系同盟領の航宙を許可しようとしなかった。これによりミルファク星系は、チャールズ・ヘンダーソン中将を司令官としたアガメムノン級航宙戦艦を含む六〇〇隻をミールワッツ星系に派遣した。鉱床探査は、順調に進みほぼ終了しようとした時、

リギル星系同盟領ペルリオン星系軍との共同軍事演習からリギル星系に戻る予定のシャルンホルスト級航宙戦艦に乗艦するデリル・シャイン中将率いるリギル星系第二艦隊が遭遇した。

ここから全六章に渡る西銀河物語の第一巻が始まります。


リギル星系より五〇〇光年離れたミールワッツ星系。

ミールワッツ恒星を主星とし、四つの惑星を持つ。四つの惑星のうち第四惑星は恒星から遠い楕円軌道を持つガス惑星であり、第一惑星は恒星に近く高温の為、生命が生きるに適さない。恒星から一〇光分離れた第二、第三惑星は大気を持ち、生命体が生存可能だと考えられている。

今から一五年前にリギル星系と同盟を結ぶペルリオン星系の広域偵察派遣艦隊が第二、第三惑星に移住可能性を求め調査を開始したところ、偶然にもレアメタルを含む重要な鉱床を発見した。

ペルリオン星系と同盟星系であるリギル星系も興味を示したが、ペルリオン星系から同盟公約として資源を購入している為、あえて鉱床探査を進めなかった。


ミールワッツ星系から一五〇〇光年離れたミルファク星系より航路探査の為、航宙していたミルファク星系軍航路探査派遣艦隊はミールワッツ星系に至り、第二、第三惑星に鉱床があることを発見した。まだ、近隣星系が手つかずのままにいる事を理由に鉱床探査を先行して進めようとしていた。


そのミールワッツ星系第三惑星付近を第一〇一広域偵察艦隊所属航宙軽巡航艦“テレマーテ”を旗艦とする軽巡航艦二隻と駆逐艦八隻が航宙していた。

偵察と言ってもこの宙域は、まだ人類が開拓しておらず、実地偵察訓練には適した場所として新兵の練習を兼ねて派遣されていたのである。

旗艦“テレマーテ”より先行している僚艦“テレス”に乗艦しているレーダー担当官エルスは後二日で終了する航宙にリギルで待つ恋人のことを考えていた。そこに突然レーダーに映る星系を横切り始めた多数の光点を見つけた。

エルスにとって、今回の偵察勤務は訓練の一部と聞いている。帰還してから知り合いに話すネタ程度にしか考えていなかったである。

そもそも銀河系のこんな端っこの星系に来るものなどないと考えていた。周りの士官も勤務中でありながら、緊張感などまるでない。 

そんな状況でエルスは、再度四次元レーダーパネルをみるとやはり第三象限の端っこミールワッツ星系外縁部に何かがいる。

「あれ、こんなところを航行する艦艇の集団なんて聞いてないけどな。レーダーの故障とは思えないし、一応報告をしておくか」

レーダー担当官エルスは、口元にあるコムをオンにすると「タルミレーダー管制官。左下方、当星系外縁部を航行する艦船の集団を発見しました」

軽巡航艦テレスの艦橋の中段に位置するレーダー指揮長席に座るタルミは、

「星系外縁部に艦船の集団。聞いてないぞ。見間違いじゃないのかエルス」

「いえ、見間違いではありません。レーダーパネル第三象限を見てください」

四象限レーダーパネル。多元スペクトル分析を利用し通常は自艦を中心に三次元の立体パネルを四象限に分け、全方向が同時に見えるようになっている。星系に入った場合、主星を中心として四象限の球体上に映像を映すレーダーパネルである。

今回はミールワッツ恒星を中心とした三次元パネルの左下方に無数の光点が横切っていくのが見えた。但し、星系外縁部までの距離は七光時あり、光学レーダーでの詳細な認識は不可能ため、光点でしかとらえることができない。


「見つかったようですね」

アガメムノン級航宙戦艦ミルファク星系派遣艦隊第一七艦隊旗艦“アルテミッツ”の艦橋に座る副参謀ガイル・アッテンボロー中佐は、そう言うと副参謀席からちょうど右後ろに座る艦隊司令のチャールズ・ヘンダーソン中将を見つめた。

ミルファク星系評議会は、ミールワッツ星系で発見された鉱床の共同試験採掘とリギル星系同盟領の通行をめぐり星系連合体ユニオンと何回かの交渉を重ねたが、星系連合体ユニオンは、ミールワッツ星系の鉱床を発見したのは我同盟であり、ミルファク星系が手を出す理由は無いとして断固としてこれを認めなかった。

ミルファク星系評議会は、一五〇〇光年先にあるミールワッツ星系に行くための非公式航路の調査は終了しており、今回はその航路確保と試験採掘の為、星系連合体ユニオンには連絡せず、艦隊を派遣したのであった。

「なあに、最初から予定に入っていたことだ。問題は、ユニオンがどう出てくるかだ」

ミルファク星系航路局からの情報を元にリギル星系軍に接触しないように慎重に航宙してきたが、ミールワッツ星系に入る前に見つかったようだ。

涼しそうにそう言うヘンダーソン司令を横目でみながらアッテンボロー副参謀は、艦橋前方にある多元スペクトルスコープビジョンを見つめていた。

リギル星系第一〇一広域偵察艦隊との距離は七光時、彼らが捉えて第一七艦隊の姿は既に七時間以上前のものだ。


「ロング司令、先行するテレスからの報告です。座標アルファ二六〇.一六、ガンマ三五〇.三六、ベータ九〇.二四に航宙する艦隊を発見。数およそ六〇〇」

ロングは一瞬考えたが、先行する僚艦テレスから送られてきた通信を基に

「よし、すぐに首都星ムリファンに報告。我、敵味方不明の艦隊を発見。このまま追跡する。座標とともにすぐに送れ」

首都星との距離五〇〇光年。高位次元連絡網を利用しても相対位相二週間は必要だ。一抹の不安が脳裏によぎりながらロングは、自艦のレーダーパネルには、まだは反応していない映像を待っていた。

リギル星系の第一〇一広域偵察艦隊が捉えた艦艇は、アガメムノン級航宙戦艦三二隻、アンドロメダ級大型空母三二隻、ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻、アテナ級航宙重巡航艦六四隻、ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻、ヘルメース級航宙駆逐艦一九二隻の他、高速補給艦、強襲揚陸艦を含む六〇〇隻で構成されたミルファク星系のミールワッツ星系調査派遣艦隊であった。

「このまま、ぶつかれば、偵察を任務とする軽巡航艦二隻と駆逐艦八隻などひとたまりもない。まして乗っているのは新兵ばかりだ。今はこの艦隊の進行方向を探るのが適切だ」とロング少佐は考えた。しかし、もうひとつの事もありあまり深くは考えていなかった。

「本当に敵艦隊か。まあいい、とりあえず連絡はした。後は見ているとするか」

目の前のスクリーンに目をやったロング少佐は、ひとり言のようにつぶやいた。


人類が宇宙へ進出して二五〇〇年。

太陽系第三惑星に居住していた人類は、人類の増加に耐えられなくなった国同士が技術力と国力を最大限に行使して火星への移住を強制的に進めたのであった。

当初移住した三〇〇〇万の居住者も最終的には移住人数一五億人となっていた。いわゆるマーズフォーミング計画である。

これに選ばれたのは、一般人だけではなく、移住先である火星の開発のために送られた優秀な科学者、技術者たちがいた。彼らは、人類が適する住居設備だけでなく、娯楽や運動施設も作り、快適な移住空間へと火星を変えて行った。

地球とは違い、空気もなく重力もほとんどない状況では原料や物資を人が運ぶには適さない。その為大量の原料や物資を無重力に近い状況で運ぶ特殊リフトを開発し簡単に運べるようにした。

また、資源も豊富で、地球ではほとんどとれないレアメタルや地中にあるカルアリキッドもほぼ無尽蔵に採取することができた。精錬は、埃がまったくない火星上空にある純真空精錬所で出来るため、地球ではまったく不可能な純合金が出来てしまう。

当然ながら火星には不足している、鉄やスズ、銅といった低金属も隣の木星の衛星や土星のリング(岩礁帯)の中に資源が豊富に含まれていることは事前調査でわかっていたので、徐々に調達の手を伸ばしていった。

これに伴い、星間連絡船の構築技術の向上、宙港設備の拡充と、連絡船を造船、修理するドックも次第に巨大化していった。

やがてその技術は、星間連絡船から太陽系の外へと進出する星系間連絡船へと発展していったのである。

当初地球外の惑星に移住した人類も時が立つにつれ、その欲望は太陽系外へと向け始められた。他惑星に移住した人類のほうが地球に残った人類よりはるかに高い技術力と工業力を持ったのである。

むしろ捨てられた・・置き去りにされたのは地球に残った人々であった。

その地球人を尻目に地球外で生まれ育った新しい人類とも言うべき人々は、銀河の中心へとそして銀河の外へと爆発的なエネルギーとフロンティアスピリッツのもと瞬く間に周辺の星系に進出し、その勢力を拡大した。

八〇億人だった人類も今や五〇〇億人にも増え、それとともに、それぞれが生きるための領土拡大と資源獲得のための星系間争いが勃発した。

はじめは、星系同士の小さな小競り合いも複数の星系同士が争うに至り、それを取り巻く星系では、無視できない事態へと発展した。

ここに至り、いくつかの有力星系同士が互いの経済、資源そして領土の保全という利害関係の一致のもと、西銀河連邦を宣言し、その巨大な軍事力と経済的影響力を行使して、争いに中立的な星系も含めその影響力を拡大した。そして星系間の争いを抑えに入った。

当初、反発的だった星系も圧倒的な経済力と軍事力の差にその力を失い、ついに西銀河連邦は、人類が進出した西銀河の半分を統一するに至った。これを機に各星系が勝手に決めていた星域の隔たりや星域間貿易の障壁も消えていった。

これとともに各星系が決めていた時間の尺度も西銀河暦と改められ、WGCウエストギャラクシーセンチュリー一年とされた。

その後、各星系の平和と発展は続いたが、たった五〇〇年もしないうちに人類は、過去に自ら彩った戦いという歴史の流れに満たされていったのであった。

それは西銀河連邦の理想と信念も、自己の利益しか考えない有力企業の独善と腐敗しきった政治家を排除できなくなった衆遇政治へと陥ったにほかならなかった。


「アッテンボロー副参謀、敵偵察艦隊は無視。第二、第三惑星の衛星軌道に到着次第、資源調査を開始する。上陸部隊の準備進めておけ。通信士。第一九艦隊と艦隊本部に連絡。敵偵察艦隊に発見された。ミールワッツ星系到着は予定通り。作業は予定通り開始する。と伝えろ」

「リギル星系のやつらが来るまでには、こちらは仕事を終えて帰路に着いている。後は第一九艦隊に任せればいい」

既にミルファク軍事衛星“アルテミス9”から発進して一ヶ月。ミルファク星系航路局からの航路を基に重重力磁場利用による何回かの跳躍も終わりミールワッツ星系外縁部に到着したところだ。ここから第二惑星まで三日間で着く。


重重力磁場を利用した航法は、人類の目が太陽系から外に向けられた時、偶然発見された航法だ。宇宙は銀河、星雲、星系等様々な重力を持つ物質でバランスが保たれている。  

この重重力磁場を利用し、何光年も離れた星系から星系へと移動することが出来ることを発見して以来、その航法が研究された。

しかし、この航法が開発されるまでには色々な困難があった。入り口から入ったが、元の入り口に戻ってきてしまう重重力磁場、入り口から入ったが二度と連絡が取れなくなった重重力磁場。そして長い年月を掛けて発見されたのが、一番安定的に重重力磁場を使用できる方法、位相慣性航法だ。

重重力磁場は、一対一で端と端が結ばれているが、一度通常空間に出た後、目的の星系に行くには、また別の重重力磁場を利用しなければならない。

この星系から星系へ移動する航路を調査し、チャート化し、そこに航路名を付けるのが星系航路局の仕事だ。このチャートを西銀河連邦内で共有する為にデータベース化したのが「西銀河航路チャート」と呼ばれるものだ。しかし、これはあくまで公のチャートである。各星系はこれとは別に独自に開拓した航路を持っている。

今回ミルファク星系先遣艦隊第一七艦隊が利用した航路も他星系には知られていない独自の航路である。


「ロング司令、艦隊は第二惑星と第三惑星の衛星軌道上に展開しています。衛星軌道上の艦からいくつもの小型艇が惑星に向かって降りて行きます」

「どうやら報告どおり、ミルファクのやつらが、資源調査に来たのは間違いないようだ。すぐに首都星に連絡しろ。ミルファク星系軍の艦隊を発見。目的は資源惑星の調査。対象は第二、第三両惑星。以上だ」

「復唱します。ミルファク星系軍の艦隊を発見。目的は、資源惑星の調査。対象惑星は第二、第三の両惑星。すぐに送ります」

ロング少佐は通信の復唱にうなずくと既に光学レーダーで捉えることが出来るようになった敵艦隊を見つめていた。

「タルミレーダー管制官。後方一〇万キロ。ミサイル反応多数」

「何だと! 司令、後方よりミサイル接近。至近です」

「アンチミサイル発射」


「いつまでもお前たちとお散歩しているとでも思ったのか」

ミールワッツ星系調査先遣艦隊が星系外縁部に到着し、第一〇一広域偵察艦隊に発見されてから、ヘンダーソン中将は、自分たちについてくる偵察艦隊の航路を予測させた。

その航路を後方より追随するようにワイナー級航宙重巡航艦から慣性航法射出によって発射された六四発の長距離ミサイルが攻撃したのである。

レーダー探知による軌道射出だとレーダーの逆探知による迎撃により撃ち落とされる確率が高い為、レーダー探知軌道は、艦隊同士の近接戦闘の時しか使えない。

慣性航法射出により発射された長距離ミサイルは、計算された軌道にのり目標の三〇万キロまで近づいた時、自ら目標に対してレーダーを射出し、相互連動しながら、目標に向かって進むのである。


「司令、敵偵察部隊の全滅を確認しました。」

「たった一〇隻に六四発のミサイルは多すぎたかもしれないな。無駄使いかな」

「しかし、慣性航法射出では、敵の軌道変更に対応できない為、複数航路に射出しなければなりません。仕方ないと思います」


第一七艦隊司令チャールズ・ヘンダーソン中将は、少し低い左前方に座るアッテンボロー副参謀に目を流すと「解っている」というような目線を送った。

「陸戦隊長のルイ・アシュレイ少将を呼び出してくれ」

二分後・・・

「司令。お呼びですか」

「第二、第三惑星の展開は予定通りか。」

「予定通りです。後二時間で簡易基地の建設も完了します。その後、スケジュールに沿って、磁気探査艇による鉱床の調査、メガトロンによる試掘を始める予定です」


メガトロン・・・磁気探査艇が上空より地下一〇キロまでの地質調査を行い、そのデータをもとに掘削、簡易精錬を行う全長一〇〇メートル、全高三〇メートル、全幅三〇メートルの無人巨大モグラマシンである。

モグラの先頭の着いているドリルは、毎時三キロの速度で掘り進むことができ、ドリルの先に鉱床が見つかるとドリルが円形に展開し、鉱床から原石を腹の中に飲み込むのである。

腹の中では、熱処理とレーザー処理により採掘されたレアメタル毎に精錬され、品質検査が行われる。そのデータを地上にいる技術者に送るとともに採鉱した鉱石と精錬した金属を運び出す仕組みになっている。


「アシュレイ少将。ここにいる時間は一〇日間だけだ。予定の調査が終わり次第、後続の第一九艦隊につなぐ。宜しく頼む」

「了解しました」


惑星としては小さい部類だが、第二惑星は直径五〇〇〇キロ、第三惑星は直径七〇〇〇キロもある。調査としては十分な大きさだ。

もちろん、全ての調査をするのではなく、今回の派遣艦隊の任務は、鉱床の有無と埋蔵範囲の大きさ、そして品質調査が目的だ。

アシュレイ少将は、それぞれの惑星に磁気鉱床探査艇を一〇〇機ずつ飛ばし、鉱床の探索を行うとともに、メガトロンを五〇台ずつ投入し、良質な鉱床の調査を行う予定にしていた。メガトロンは専用輸送艇で発見した鉱床まで運ばせればよい。

この作業を行う為、各惑星に調査担当者三〇〇名と基地設営と調査担当者の保護を目的として一〇〇〇名ずつの隊員が投入された。


「ウオッカー主席参謀。周辺宙域の状況はどうだ」

「はっ、空戦司令アティカ・ユール准将に星系外縁部周辺宙域一〇万個のプローブをアクティブモードで展開させています。また、アンドロメダ級大型空母二六隻から常時一〇〇〇機のスパルタカスを三交代で展開し、担当周辺宙域の警戒にあたらせています。現在敵を探知したという連絡は入っていません」

「わかった。引き続き厳重な警戒を行ってくれ」


第二惑星と第三惑星衛星軌道から一〇〇〇万キロほど離れた宙域で五グループに分かれたアガメムノン級航宙戦艦三二隻、アルテミス級大型空母三二隻、ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻、アテナ級航宙重巡航艦六四隻、ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻、ヘルメース級航宙駆逐艦一九二のうち、四グループが第二、第三惑星を四象限の中心にしてそれぞれ一から四象限に展開し、外側に警戒態勢を敷いている。一グループは、第二惑星と第三惑星の衛星軌道上に展開し、惑星上の作業の後方支援を行っている。


調査から七日目、ほぼ調査も終了に向かって進み始めていた時、・・・

第三象限ミールワッツの主星を右上方に、惑星を上方に見ながら警戒飛行を行っていた第一七艦隊A3G宙戦体隊長ユーイチ・カワイ中佐は、最遠方のプローブから発信された探知信号を中継プローブからの伝達により受信していたのであった。

探知信号を発信したのは第三象限の最外縁部におかれたプローブからである。そのプローブが発信するアクティブソナーが何かを捉えたとすれば、ソナー探知範囲以内に何かがいるということである。

一瞬、考えた後、「ジャック、キリシマ、キリン。反応あったか」

カワイ中佐は、同象限を警戒中の自分と同じ宙域を飛行中の各中隊に確認をとった。彼は、酒好きが功をそうして中隊にニックネームを付けている。

「はい、反応がありました。一番遠方のプローブからです」

「よし」そう言うと

「こちらカワイ中佐。ユール准将、第三象限の最遠方に配置したプローブより反応がありました。位置は座標アルファ二一○.一一○、ベータ三一○.一一○、ガンマ九○.一一○の宙域。正体は不明です」


宙域偵察を行っているプローブから反応があったことの連絡を受けたヘンダーソン中将は「どう思う、ウォッカー主席参謀」

「はっ、リギル星系軍が現れるとすれば第一象限方面です。第三象限方面はペルリオン星系です。しかし、彼らは、我々に対抗する軍事組織を持てるほどの力はありません。それに早すぎます。たとえペルリオン星系から来たのだとしても一五日はかかるはずです」


現れたのは、デリル・シャイン中将率いるリギル星系第二艦隊である。

第二艦隊は、ペルリオン星系との合同軍事演習に参加する為、二か月ほど前にリギル星系を経ち、軍事演習が終了した後、帰途に就いていたのであった。合同演習の為、通常のフルスペック一個艦隊が参加したわけではなく、全体の八〇%、艦艇総数五一二隻が参加しただけであった。

第二艦隊側にとっても、ミルファク星系第一七艦隊の出現は突然のことであった。

シャルンホルスト級航宙戦艦第二艦隊旗艦“ベルムストレン”に乗艦する主席参謀グラドウ大佐は、

「シャイン司令。ミールワッツ星系第二惑星、第三惑星付近及び主星ミールワッツを中心とした宙域全体に艦影発見」そう報告するとシャイン少将の反応を伺った。

「うむっ、とんだおまけだな。こちらは軍事演習が終わったばかりだというのに」

一瞬の間をおいて

「グラドウ主席参謀。こちらのエネルギー及び補助資材の状況はどうだ。演習で少なからず使ったが。」

グラドウは、目の前のパネルから資材担当官を呼び出すとすぐにエミール・ラッゼ大尉より状況を報告させた。

「現在、戦艦、巡航戦艦のミサイル、エネルギーは六五%、重巡航艦、軽巡航艦は七五%、戦闘空母九○%、駆逐艦、哨戒艦は六五%です。空母に搭載している戦闘機ミレニアンは三二〇〇機ですがエネルギーは一〇〇%の充填を完了しています」

「補給艦から各艦にミサイル、砲エネルギーを補給するのにどの位かかる」

「補給をする場合、艦隊の航行をいったん停止し、補給を開始します。補給完了まで一三時間は必要とします。また今回の補給で補給艦の補助資材は底をつきます」


航宙艦艇の推進エネルギーは核融合により生み出される為、ほぼ無限といってよい。現在、艦艇がエネルギーパックによる航法をとっているのは、惑星間貨物船と宇宙遊覧飛行艇位なものである。戦闘機ミレニアンは対局宙域戦闘用である、その大きさからエネルギーパックを使用している。これは、戦闘空母に搭載されているエネルギーパック充填装置により何回もの利用が可能になっている。

戦艦が搭載している荷電粒子砲は、艦艇が推進を目的としたエネルギーに対し、対象物へ当った時に莫大な衝撃エネルギーを発生させるのが目的の為、おのずとそのエネルギー要素は違ってくる。


「シャイン司令。敵は四グループに分かれています。とるべき選択肢が三つあります」

シャインはそれを主席参謀より聞くと“話してみろ”と言うように目で合図した。


「一つ目の選択肢です。今第三象限にいるグループを撃破した後、第二象限グループを迂回しつつリギルセ星系に進む。二つ目は一度ミサイル、エネルギーを充填後、敵全艦艇を相手取る。三つ目は第三象限を受け流しながらリギル星系に逃げ込む 」

シャイン司令は一瞬目をつぶると

「逃げるは好まない。かといってミサイル、エネルギーに不安を抱えながら戦闘に入るのは愚だな。よし、グラドウ主席参謀、各艦艇に連絡し、エネルギーの充填とミサイルの補給を行う」


「全艦艇に告ぐ。こちらリギル軍事演習部隊第二艦隊司令デリル・シャインだ。レーダーに発見された敵艦隊との不足の事態に対応する為、各艦艇の砲エネルギーの充填及びミサイルの補給を行う。全艦三○光分後退。後に全体相対速度を〇にとり補給を開始する。補給可能時間は一三時間。この間、艦長は各士官、兵を交代で休ませるように。以上」

第三象限にいるミルファク星系軍とは四二光分、あの拡散された位置なら艦隊の体制立て直しに一四時間、更に第一級戦闘航行しても七時間必要だ。我々が八時間の後退と一三時間の補給時間をとっても、戦闘隊形に持っていくには十分な時間だ。


それから三二時間後、補給を済ませたペルリオン軍事演習部隊第二艦隊が同じ宙域に戻ってくるとミルファク星系軍は、各象限に散らばっていた各艦隊の体制を整え第三惑星前方に布陣していた。距離四二光分。双方が第一級戦闘速度で向かっていけば約五時間で射程範囲に捉える事が出来る。


「グラドウ主席参謀。敵の位置がはっきりしている以上、すぐに戦闘ははじまらない。無駄な緊張は解しておくべきだ。全艦隊に標準戦闘隊形にて前進。各艦長は士官、兵を二時間交替にて休憩をとらせろ。と伝えてくれ」

シャイン中将は告げると、前方のスコープビジョンに移る敵の動きに目を向けた。

標準戦闘隊形。各艦艇を四つの戦闘グループに分け一つのグループがエリザベート級航宙母艦を中心に前方にヘーメラー級駆逐艦、次いでハインリヒ軽巡航艦、ロックウッド重巡航艦、左右にテルマー級巡航戦艦、後方にシャルンホルスト級航宙戦戦艦を配置した標準戦闘隊形である。二グループを上下にその間に二グループを左右に分け形である。前方からみればひし形に上から見れば三角形に見えるこの体系は、敵艦隊の体系により柔軟に対応できるもっとも標準的な戦闘隊形とされている。


「司令もお休みになったらどうですか。司令の言うとおりすぐに戦闘は始まりません」グラドウ主席参謀がそういうと

「そうだな。交替で休むとするか」


それから四時間後・・

「レーダー士官敵の動きはどうだ」

「第三惑星の前方に展開していますが、動いている様子がありません」

「グラドウ主席参謀。ライアン副参謀を呼んでくれ」ライアン副参謀が来るのを待って、

「二人の意見を聞きたい。敵艦隊が布陣したまま動いていない状況をどう見る」

「まだ、惑星上の作業が終わらず、とりあえず戦闘隊形を整えただけで、動くに動けない状況ではないでしょうか」

そう言うとライアン副参謀はグラドウ主席参謀に目をやった。

「私もそう思いたいのですが、少し解せません。敵は既三二時間前に我々を捉えています。戦闘するにしろ、撤収するにしろ、未だに惑星上に兵や物資を残しておくのはおかしい気がします。何か別の理由があると考えます」

「しかし、敵が惑星上の鉱床の確保とこの星系の主権を考えているならば、ここは守らなければならないと考えます」

ライアン副参謀がグラドウ主席参謀の考えに自分の意見を出した時、

「前方五〇〇〇万キロにアクティブソナー型機雷多数。後三〇〇〇万キロで反応範囲内に入ります」

「全艦、減速。機雷との距離を二五〇〇万キロで維持しつつ、時計回りに機雷源を迂回しろ」

「敵も我々が補給を完了するまでのんびり待ってくれていたわけではないようだ」そういうとシャインは目をつむった。


ミルファク星系派遣艦隊は、リギル星系軍が後退し、補給を行っている間に前方二〇〇〇万キロに二〇〇万個のアクティブソナー型機雷を敷設した。アクティブソナー型機雷は、従来の熱源感知型機雷と違い、自ら指向性ソナーを持ち、動力源を切って慣性航法を使用しても近寄ってくる物体に対して機雷自身が進んでいく機能を持っている。


「敵さん。うまく停まってくれましたね」アッテンボロー副参謀は、ウォッカー主席参謀とホフマン副参謀を両方に見ながら言った。

ミルファク星系先遣艦隊第一七艦隊司令チャールズ・ヘンダーソン中将は、敵艦隊発見の知らせを受けた段階で資源調査を速めるとともに、荷電粒子砲の最大射程のところに機雷を敷設する指示を出した。

こうすれば、機雷除去は不可能になる為、敵は大きく迂回しなければならない。

これこそがヘンダーソンの目的であった。

「あと八時間か。ぎりぎりだな。やはり無傷で第一九艦隊にバトンタッチというわけにはいかなそうだ」

ヘンダーソン司令の独りごととも思える言葉にウォッカー主席参謀はうなずくと

「敵が迂回するのに三時間。双方が射程内に入るのに二時間。戦闘で三時間は持たせないといけません」

「仕方ない。敵迂回方向に戦闘隊形を防御隊形にて布陣しろ。ミサイルの射程に入り次第。発射しろ」


五時間後・・・

ミサイル最大射程を持つミルファク星系アテナ級ミサイル重巡航艦とリギル星系ロックウッド級ミサイル重巡航艦が先に発射した長射程ミサイルの戦闘から始まった。

長射程ミサイルは、敵艦隊方向軌道に発射し、三〇万キロを切った段階でミサイルの

探知レーダーとミサイル同士の相互連動により目標に向かって進む。


「ミサイル至近。アンチミサイル、mk271c(アンチミサイルレーダー網)発射」

双方のミサイル迎撃態勢を整えている駆逐艦の艦橋で命令が飛び交う。

ミサイルを迎撃するのは、駆逐艦の役目である。敵が至近でもない限り駆逐艦搭載のミサイルでは敵艦艇まで届かない。よって先行するミサイル駆逐艦がミサイルを迎撃する役目になる。

ミサイルを迎える艦艇側は、アンチミサイルとアンチレーダー網を艦隊の前方に発射することでミサイルのレーダー波を撹乱させミサイルを迎撃する。タイミングが早くても遅くても有効にならない為、ミサイルの餌食になる艦は多い。駆逐艦レベルだと一発で完全に宇宙のチリとなる。


「敵艦隊。戦艦主砲の射程内に入りました。」

「よし、撃て」

ミルファク星系軍は、防御優先の台形型(跳び箱を横にして上を前にだしたような状態)の戦闘隊形を敷いた。ミルファク星系軍は、全面にワイナー級軽巡航艦、その両脇をヘルメース級駆逐艦、後続にアテナ級重巡航艦、すぐ後ろにアルテミス級戦闘空母、両脇を外側からポセイドン級巡航戦艦、アガメムノン級戦艦で固めた。この体制は、すぐに一つまたは二つの標準戦闘隊形に変更でき、相手方の攻撃に対して強い防御を行いつつ、すぐに攻勢に移れるというメリットを持つ。


ミルファク星系軍の左翼を守るA2Gのマイケル・キャンベル少将は、ヘラルド・ウオッカー主席参謀に「始まったな」というと

「A2G1、座標アルファ三五○.一五、ベータ二五〇.一六、ガンマ四〇.一六に移動。A2G2座標アルファ三五○.十五、ベータ二七○.十六、ガンマ六〇.一六に移動」

キャンベルは、ミルファク星系軍の体系が敵艦隊に対して左肩上がり右に突き出すような体系にとった。

これにより味方艦艇に塞がれていた最左翼に布陣していたアガメムノン級戦艦とポセイドン級巡航戦艦が敵艦隊の右翼に対して左斜め上から主砲を向けられるようになる。

「A2G全艦、敵が射程に入り次第、主砲を撃て」

アガメムノン級戦艦は、スフィンクスの前足の様に突き出た荷電粒子砲が両足にそれぞれ二門ずつ装備されている。過熱を考慮しこの二門を交互に撃つのである。

核融合エンジンから取り出されたエネルギーを利用してエネルギーパックに充填されているプラズマよりエネルギーが高い荷電粒子を○.五光速にまで加速し射出する収束型荷電粒子砲である。

口径が二〇メートルと巨大な為、メガ粒子砲とも呼ばれている。その巨大なエネルギーをリギル星系軍が守る右翼に斜め上から浴びせかけた。

六〇万キロまで近づいた先行するヘーメラー駆逐艦に荷電粒子エネルギーが到達するとものすごい光と衝撃によって全長二五〇メートルある艦の後ろ三分の一が消滅した。

ハインリヒ軽巡航艦が核融合エンジンに直撃を受け一瞬の光と轟音のあと、そこにいたはずの全長三五〇メートルの軽巡航艦はチリと化していた。シャルンホルスト級戦艦やテルマー級巡航戦艦も被弾する。


二時間後・・双方に被害を出しながらも戦線が膠着していた時、ミルファク星系軍第一七艦隊旗艦“アルテミッツ”のレーダー士官が、

「敵艦隊。開いていきます」と叫んだ。

艦隊司令ヘンダーソン中将は、一瞬目を開き、“ごくり”と唾を呑んだ。前方のスコープビジョンに映る敵艦隊が人食い花のように大きな口を開いて見えたのである。

上下左右に三角形の体系をしていた布陣が、左右の艦隊は横になっていた三角定規が九〇度底辺を縦にして更に前方を前に対して左右に広げた。上下の艦隊はそれぞれ上下に動いた。まるで台形体系をとっているミルファク星系軍を飲み込むような布陣である。

そのリギル星系軍が第一戦闘速度で第一七艦隊に迫ってきた。


「“シューベルト”被弾。“マザーテイル”撃沈」

「なに、“マザーテイル”が撃沈」

航宙空母も外側を守っていたアガメムノン級戦艦“シューベルト”が被弾し、一番攻撃が受けにくい位置に布陣させている航宙空母“マザーテイル”が撃沈された。

ヘンダーソン中将は、戦闘が自軍に不利に進んでいることを感じ始めていた。

「敵エリザベート級航宙母艦よりミレニアン戦闘機が出撃しました」

「こちらもスパルタカスを出せ」

副参謀アッテンボロー中佐の言葉に第一七艦隊司令ヘンダーソン中将はそう指示をだすと

スコープビジョンを見ながら苦味虫をつぶしたような顔になった。


人類が地球という星の海の上で戦っていた時代から、その戦場が宇宙空間に代わっても制宙権を取ったほうが戦いを有利に進められる。

既に双方が一〇万キロ近くまで接近していた。宇宙では目の前である。まさに近接戦闘の様相を呈していた。


「A3G宙戦隊カワイ中佐。発進準備完了」

「エアロック解除。発進して下さい。気をつけてね」

「えっ」と舌を噛みそうになりながら、目元を緩ませる。

アルテミス級航宙母艦(戦闘空母)の戦闘機射出口から強烈なダウンフォースを感じながら射出されると、同時に射出された三六機のスパルタカスを確認した。

「ジャック、キリシマ、キリン。各中隊射出できたか」

無事に射出を確認すると左ポケットにある小さなデジタルカードを見た。

「ちょっと行ってくる」

そう言うとカワイは、目の前に映るモニターパネルに目を向けた。全ての計器がグリーンであることを確認すると、口元のコムに向かって「全機聞いているか。普段通りやれ。必ず三機一体でかかれ。カッコつけるなよ。英雄気取りに幸運の女神は微笑まないぞ」

顔を前に向けるとリギル艦隊から発進したミレニアン戦闘機群が、最大速度でこちらに向かってくるのを直視した。

スパルタカス戦闘機・・全長二〇メートル、全高五メートル、全幅五メートル、エタノール型推進エンジンを持つ。

戦闘型と雷撃型があり、前者は、制宙権を目的とし両脇に内蔵型八〇センチ収束型荷電粒子砲を二門ずつ計四門備えた対戦闘機型機体である。後者は近接対艦ミサイルを装備した対艦攻撃機体である。

カワイは迫ってくるミレニアン戦闘機を視界に入れると、スクリーンパネルがロックしたことを確認した。

別に肉眼で見えるわけではない。フルフェース型ヘルメットの視界の中にレーダーによる光学点が見えるのである。

その光点を目が認識するとヘルメットから荷電粒子砲制御システムに指示が送られロックされる。

と同時に両脇から光の帯が伸びると、すぐに右ペダルを強く踏んだ。強烈な横Gとともに右に回転した機体の左側をオレンジ色の光が通り過ぎていく。ほんの一瞬のことである。 

機体の回転を戻し、ヘルメット越しに見るとグリーンの点が一瞬赤くなり消えた。

敵は荷電粒子エネルギーを受ける前に撃ったのであろう。そう考えると次の目標点を探した。

一時間後、四機のミレニアンを撃墜したカワイが戦闘母艦ラインに戻ると、移住区と核融合エンジンの間にある格納エリアの横に大穴があいていた。

スパルタカスがそのまま入れそうな穴である。すでに自動補助機密液が硬化している。空気が漏れてはいないだろうが、内部は隔壁が閉鎖され入れないようになっているのだろう。

「ずいぶん、やられているな」そう独り言をつぶやくと、機体射出口の下に機体を持っていた。後は自動である。射出口が開き、格納アームが伸びてきて、機体をつかむとそのまま機体格納エリアへ引き上げら。

「A3G宙戦隊カワイ中佐。着艦完了」

“シュー”という音と供に前方のエアロックがレッドからグリーンに変わると機体を包んでいたパネルが両脇のレールに吸い込まれていった。

すぐに整備員が取り付き、外側からスパルタカスのコクピットのロックを解除すると上方に持ち上がったコクピットカバーの下にコクピットに収まったカワイが「ふーっ」と息を吐いて立ち上がった。

「もう一度出そうだ。すぐに推進エネルギーパックの充填と荷電粒子エネルギーパックの補充を頼む」

そういうと周りに目を向けた。スパルタカス格納エアカバーが締めたままになっている格納エリアが、まだずいぶん残っている。

結局、二回目の出撃はなかったが、後に各中隊長からの報告で実に八機ものスパルタカスが撃墜されたことを知った。三六機中被撃墜八機、一回の出撃で実に二〇%の損耗である。

「他の隊はどうなんだろうか」そう独り言をつぶやいた。


戦闘開始から三時間、

ミルファク軍は数の優位差を生かせず不利な状況に陥っていた。開いた花びらが閉じるようにリギル星系軍は上下左右からミルファク星系軍を攻撃して行った。

当初、数の優位で押していたミルファク星系軍もリギル星系軍第二艦隊デリル・シャインの戦術に徐々に押された。

ミルファク星系軍左翼を守るマイケル・キャンベル少将率いるA2Gだけが、リギルの右の花びらを食いちぎる様な善戦を見せている。


「少してこずったが、何とか勝てそうだな」とデリル・シャイン中将は言うとそれに頷きながら

「しかし、このまま勝ったとしても惑星上の施設はどうします。陸戦隊はつれてきていないし、惑星攻撃用兵器も搭載していません」

とグラドウ主席参謀は言った。

「なあに、補給がなければ干上がるさ。かわいそうだがな」

と言うとほとんど勝利を確信していたシャイン中将は前方のスコープビジョンに映し出される映像を見ていた。


「左舷よりエネルギー波多数接近」


「ふうっ。危ないところだった」

旗艦アルテミッツに乗るアッテンボロー副参謀はそう言うとヘンダーソン司令を横目で見た。

既に味方の三割を失い、劣勢にたたされていたミルファク星系軍は、ぎりぎりのところで味方艦隊に助けられたのである。

駆けつけたのは、ミルファク星系先遣艦隊第一七艦隊の後に惑星の維持を行う予定だった

キム・ドンファン中将率いるミルファク星系遠征軍第一九艦隊である。


「なんとか、間に合ったな」

ヘンダーソン中将はそういうと

「体制を立て直す。第一九艦隊に呼応していっきにリギルのやつらを押し返せ」


リギル星系軍は、第一九艦隊の攻撃に左の花びらがぼろぼろになって行った。元々前方の敵を考慮した戦術である。少ない艦数で敵を討つには適しているが、花びらのように開いている分側面は薄い。

更に右側の花びらもキャンベル少将率いるミルファクA2Gにやられている。中央の二枚の花びらだけで、自軍に倍する敵にかなうはずがなかった。

リギル星系軍は徐々に右後方に動かされて行った。


「これ以上右に行くと機雷源に接触します」

グラドウ主席参謀が、そう言った時であった。

機雷源の一番左側に位置する機雷群が、ぼろぼろになった右の花びらめがけて迫ってきた。

「下だ。全艦そのままの位置からガンマ三一〇。潜れー」

立上がりながら、ほぼ絶叫に近い声でシャイン中将は言うと、司令官の椅子にどっと倒れこんだ。


二時間後、リギル星系群は艦数を二分の一近くに減らしながら何とか、窮地を脱した。左上にミールワッツ恒星を見ながら、何とか逃げ切れた艦隊の状況をスクリーンビジョンに見ながら

「グラドウ主席参謀。被害状況をすぐに報告してくれ」

「はっ」グラドウはそういうと自分前にあるスクリーンパネルに手早く指示を打ち込んだ。


五分後、

「被害状況がわかりました。すぐに司令のスクリーンパネルに送ります」映し出された数字を見てシャイン中将は、左の脇腹を押さえた。


シャルンホルスト級戦艦三二隻中、撃沈一二隻、大破五隻、中破六隻、小破二隻

エリザベート級戦闘空母三二隻中、撃沈八隻、大破六隻、中破一二隻、小破二隻

ミレニアン艦載機四〇〇〇機中、未帰還一二〇〇機、使用不能と判断された機数六〇〇機

テルマー級巡航戦艦三二隻中、撃沈一五隻、大破六隻、中破五隻、小破三隻

ロックウッド級重巡航艦五二隻中、撃沈一二隻、大破七隻、中破五隻、小破一〇隻

ハインリヒ級軽巡航艦五二隻中、撃沈二〇隻、大破一二隻、中破七隻、小破三隻

ヘーメラー級駆逐艦一五三隻中、撃沈三〇隻、大破一五隻、中破三五隻、小破一〇隻

ビーンズ級哨戒艦およびライト級高速補給艦 損害無し


「なお、撃沈及び大破が確認された艦は、戦闘宙域に残したままです」

左側の花びらを受け持ったグループは全滅、右側の花びらを受け持ったグループの損耗率六割。上下の花びらの損耗率二割。

「何と言うことだ。あの時、無理に戦わずにいればこのような損害は出さずにすんだものを。私の責任だ」

「グラドウ主席参謀。中波と判断された艦の状況はどうだ」

「はっ。全艦航行可能ですが、通常航行の七〇%しか出せない艦が二五隻います。位相慣性航法による跳躍が不可能です。またミルファク星系軍が追ってきた場合、すぐに追いつかれます」

「それはないと思います。ミルファク星系軍の目的は資源惑星の確保です。我々との戦闘は、予定外の行動と考えます。彼らが我々を追いかけてくる理由はありません」

グラドウ主席参謀の言葉にライアン副参謀は言い返した。

「確かにな。しかし、全く追っ手がこないという保証もない。艦速に問題がある艦は、乗員を他の艦に移乗後、爆破しろ」

「しかし、それでは、星系に帰還後、責任を問われます」

「構わん。責任は私が取る。艦はいくらでも作れるが、ここでこれ以上の人的被害を出すわけには行かない」

シャインはそう言うと頭の中で「もう既に責任を取らされる立場になっている。今更少し重くなったところでたいしたことは無い。乗員の命が優先だ」そうつぶやいた。

シャイン司令の言葉にグラドウ主席参謀もライアン副参謀も出る言葉が無かった。

「責任を部下に押し付ける将官が多い中でこの人は将官の責務をわきまえているようだ。しかし、私も責任は免れないだろうな」頭の中でそう考えたグラドウ主席参謀は、頭を振ってすぐに自分の考えを打ち消すと自席にあるコムに向かって

「シャイン司令の命令を伝える。艦速に問題のある艦は、すぐに乗員を近くの艦に移乗。その後艦を爆破。以上だ」

一瞬、艦橋がざわついたが、グラドウ主席参謀が見つめるとすぐに静かになった。


二時間後、更に少なくなった艦数を見つめながらシャイン中将は

「全艦、帰還する。進路をリギル星系に取れ」


その頃、ミルファク星系派遣艦隊第一七艦隊も体制を立て直し、ヘンダーソン中将も被害報告を見ていた。


アガメムノン級航宙戦艦四〇隻中、撃沈五隻、大破四隻、中破三隻、小破五隻

アンドロメダ級大型空母三二隻中、撃沈三隻、大破四隻、中破二隻、小破一隻

スパルタカス戦闘機三五八四機中、未帰還二六〇、使用不能と判断された戦闘機五三機

ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻中、撃沈七隻、大破八隻、中破六隻、小破三隻

アテナ級航宙重巡航艦六四隻中、撃沈八隻、大破五隻、中破八隻、小破一二隻

ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻中、撃沈一〇隻、大破三隻、中破八隻、小破一二隻

ヘルメース級航宙駆逐艦一九二隻中、撃沈二〇隻、大破八隻、中破六隻、小破一〇隻

ホタル級哨戒艦、タイタン級高速補給艦に損害無し

哨戒艦、高速補給艦などの補助艦艇は戦闘時、後部に下がらせるため被害はでない。


「今回の派遣目的は資源惑星の鉱床調査。その為にリギル星系軍に悟られない航路を選びここまで来た。調査もほぼ順調に進みもう少しで終わる予定だったはずである。まさかこのタイミングでリギル艦隊と戦闘になるとは、全く予想していなかったことだ。艦隊体制も艦隊戦まで考慮したものではない。鉱床探査のための体制だ。そう考えながらもこれだけの被害を出すとは」頭の中でそう考えながらヘンダーソン中将は被害報告をみていた。

「グラドウ主席。参謀破壊された艦の修復予定がまとまり次第報告してくれ。鉱床探査の再開予定も至急報告してくれ」と言うと

「修復予定は今、調べさせています。損害が多きいため、修復見積もりに時間がかかっています。鉱床探査の再開はすぐにでも行えます」


「アシュレイ少将。鉱床探査をすぐに再開してくれ。調査再開の時間と残った探査作業含め、どのくらいの時間になる」

「戦闘開始がわかった時点で、回収した時期探査艇とメガトロンを元の位置に戻すのに半日、作業は残り二日です。第一九艦隊との引継ぎが一日を予定していますので、すべて終了するまで三.五日を予定しています」

「わかった。すぐに再開してくれ」

アシュレイ少将からの報告を受け終わるとヘンダーソン中将は司令席にあるパネルに第一九艦隊司令キム・ドンファン中将を呼び出すよう指示を入れた。



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