表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者イサギの魔王譚  作者: イサギの人
Episode:7 喜びも悲しみも分かち合いながら
79/176

7-7 蒼天航路

 

 

 ドラゴン族は廉造の指示通り、全軍が退却していった。

 あれほどの戦いを間近で見せつけられたのだ。

 このまま抵抗を続けようというものはいなかった。


 騎士たちは勝ち鬨をあげ、功労者である冒険者イサギをねぎらっていた。

 懐かしい気分だ。かつて勇者としてこの世界で旅をしていた記憶が蘇る。

 

 慶喜に預けていたカラドボルグとミストルティン、それに鞄を受け取る。


「お、お疲れさまっす! 先輩」

「ああ。予想よりもだいぶ疲れちまったよ」

 

 くたびれた顔で笑い、イサギは廉造の身柄を拘束しにゆく。

 ひとまず自分の仕事は終わった。ここからは魔王慶喜の働き次第だ。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 廉造は捕虜として武器を奪われ、椅子に縛りつけられていた。

 まるで尋問室のような地下室だ。

 蝋燭の灯りが瞬く中、顔を腫らした廉造はため息をつく。

 

「こんなことしなくても、逃げりゃしねェよ」

「わかってっけどな、仕方ねえだろ」


 向かいの椅子に座るイサギ。

 破れた服から新たに着替え直している。

 

 この場にいるのはたったふたり。

 イサギは背もたれに顎を乗せ、半眼で廉造を見やる。


「で、頭は冷えたかね」

「ああ?」

「さっきまでのお前、ひどい有様だったぜ。

 同情はするけどな。俺に言われちゃ終わりだ」

「……っせェな」

 

 自覚があるのか、廉造は目を背けて舌打ちした。

 イサギは頭をかく。

 もしかしたらやぶ蛇かもしれないと思ったけれど。

 

 静かに語る。


「なあ、廉造。

 もしもお前が、なにもかも面倒になって、

 罪のない人々を殺し、理性も失い、

 暴虐をまき散らすだけの災厄と化したとしよう」

「……」

「そんときは、早めに俺に教えてくれな。

 すぐにお前を叩き斬りに行ってやっからさ」

「っせェな。

 ……もうやんねーよ、クソが」

 

 ホッと息をつく。イサギは額を押さえた。


「……よろしい」

 

 戦いの中の発言は、気の迷いだと信じよう。

 

 一歩間違えば、自分たちはいつだってそうなるだけの危険性がある。

 神化病でなくとも、人を殺すことはできるのだ。

 禁術使いならば、それはもうたやすく。

 

 イサギは眼帯の上から左目を撫でる。

 

「……同じように、俺がそうなったときも、

 お前に殺してほしいって思っているんだぜ」

「知るかよ。テメェで勝手に死ね」

「なるべくそうしたいもんだ」

 

 首を振る。冗談ではない。

 で、改めてイサギは現状を語る。

 

 

「今な、慶喜やロリシアたちが国王と話している。

 多分、お前の処遇もそこで決まるだろう。

 表面上でいいから、それまでは従っておいてくれ」

「へェ、オレは処刑されるンかね」

「そうならないように、あいつらが頑張っているんだろうが」

「期待しないで待っててやンよ」

「ったく、ふてぶてしさは相変わらずだな」


 イサギはカラドボルグを肩に担ぐ。

 

 廉造は術師でもある。

 彼を本気で拘束するのなら、ノドを潰すか口を塞ぐしかない。

 だがそれをしたところで、廉造の闘気出力は凄まじかった。

 どんな拘束具であろうとも、彼の身動きを封じる手だてはないのだ。

 

 というわけで、剣を所持したイサギが、

 廉造を見張っていることにより、彼の命はかろうじて保たれている。

 

 廉造もそれはわかっているのだろう。

 今のところは脱出の気配は見せなかった。

 

「もし万策尽きて、処刑されるようなことになったら、どうせ一暴れするんだろ」

「ただで死ぬわけに行くかよ。待っているやつがいるンでな」

「そうなったら俺もついにお尋ね者だな」

「……別に、頼んじゃねェよ」

「野暮なこと言うなって。俺とお前の仲だろ」

「……」


 イサギは肩を竦めた。

 廉造はなにも言わなかった。

 きっとイサギに付き合わせるのは悪いと思っているのだ。

 不器用なところも相変わらず、か。

 

 努めて明るく語りかける。


「しかし、相当久しぶりだぜ、廉造。

 見違えるように強くなったな。

 煌気もどこでマスターしたんだよ」

「あァ? やり方だけはテメェに教わっただろうが」

「そんな単純なもんじゃないんだけどな……」

 

 イサギは頬をかく。

 まさに廉造は戦いの申し子か。

 

 色々と積もる話もある。

 恐らくは一晩語り明かしたところで、まだ足りないけれど。

 さすがにそこまでの時間はない。


「なら、今のうちに互いの近況報告といこうぜ」

「ったく、めんどくせェな」

「まずはお前からだよ、廉造。

 行方不明になったお前がなんでこんなところに現れたのか。

 ドラゴン族の将軍なんてやってんのかさ」

「別に言うことなんてねェよ」

「くすぐるぞ」

「は?」

「俺がその気になったら、お前を悶絶させることができる」

「……バカか?」

「やってみせようか?」

 

 にやりと笑うイサギに、廉造がついに折れた。


「テメェは……

 わーったよ。話しゃいいんだろ、話しゃあな」

 

 

  

 それは彼が魔族軍に裏切られた後の話だった。

 

 魔族――ドルフィン――の策略にハメられ、

 乗っていた船を転覆させられた廉造は、

 なんとか命からがらスラオシャ大陸に泳ぎ着いたのだという。

 

「直接助けられた部下は、ひとりだけさ。

 そいつは今、ドラゴン族の王城で養生中だ」

 

 廉造がたどり着いた浜辺は、

 偶然にもドラゴン族の国ヒュドリアスであった。


 人ひとりを抱えて海峡を渡り切った廉造は、

 さすがに力尽きる寸前だったのだという。


「哨戒中のやつらに見つけられてな。城まで連れていかれたのよ。

 でも良かったぜ。オレは手配中の身だ。

 人間族に見つかっていたら、今頃こうして生きてはいなかっただろ」

 

 ドラゴン族にも、魔族軍の猛将・廉造の噂は伝わっていたのだという。

 ドラゴン族にとっても人間族は敵だ。

 だから彼らは廉造の力を利用しようとしたのだろう。

 

 廉造もまた、ドラゴン族に協力を申し出たのだという。

 傷を癒し、自分と部下が生き延びるために。


「いくつか“決闘”と称したタイマンをさせられたけどな。

 どいつもこいつもつええやつらだったが、オレは負けなかったぜ。

 全員ぶっ倒してやったさ。そしてここまで上り詰めた」

「……決闘か、懐かしいな」

 

 ドラゴン族の証は力だ。

 力を持つものが上に立つ。

 

 かつて魔帝アンリマンユが竜王バハムルギュスを決闘で打ち破り、ドラゴン族は魔族軍に従属した。 

 イサギもまた、大孤竜スラオシャルドを決闘で倒したことにより、暗黒大陸への翼を手に入れたのだ。

 

「どっちみち、もう暗黒大陸には戻れねェと思ったからな。

 俺はドラゴン族に力を貸し、ここで人間族をぶちのめす気だった。

 あいつらとつるめば、元の世界に戻るために近づけると思ったしな。

 ……ただ、肝心の召還師はいねェけどな」

 

 それから廉造はドラゴン族とともに、人間族に攻め込んできたのだという。

 彼の中でもう、魔族は過去のことになっているようだ。


 イサギは頭をかく。

 自分が言ってもいいのか、という遠慮はあったものの。

 

「それなんだけどな、廉造」

「あァ?」

「魔族全体がお前を裏切ったわけじゃない。

 やったのはドルフィンとオセというふたりの五魔将だ。

 そいつらが勝手にお前を罠にはめたんだ」


 廉造の眉がぴくりと動いた。 


「……はァん、あいつらだったか」

「ああ、それにそいつらはもう魔族自身の手によって処罰された。

 お前の預かり知らぬところで、事態はもう終わったんだ、廉造」

「……」

「お前に捜索隊だって出されている。

 さっきここにいた慶喜やロリシアの目的の半分はそれだ。

 デュテュたちだってお前に戻ってきてもらいたいと思っているぜ」

「どうだかな」

「なんだよ、それ」

 

 廉造は椅子を揺らしながら天井を仰ぐ。

 

「……姫さんたちにとっても、オレはいねェほうがいいだろ。

 ずいぶんと無茶をしてきたからな。

 オレが暗黒大陸に戻っちゃあ、また戦が始まっちまう。

 人間族を山ほどぶっ殺してきたンだ。

 こんなオレが魔族側にいたら、どの面下げても人間族と和平は結べねェよ」

「それは……」

「姫さんに言っといてくれ。

 あいつは暴れすぎたから粛正した、って言えってな。

 オレに全ての罪をおっ被せておけばいい。

 平和を掴むンなら、ガキを切り捨てるぐらいの傲慢さが必要だぜ。

 あの姫さんは甘すぎる」

「廉造……」

「どっちみち、オレはもう戻らねェ。

 戻る気はねェ」

「……そうか」

 

 廉造の存在は暗黒大陸の反乱の象徴であった。

 魔族の戦いは、いつしか廉造の戦いになっていたのか。

 

 ふたりの間にわずかな沈黙が落ちた。

 すがられても振り払い、一体廉造はどこに行こうとしているのか。

 

 まるで血を求めてさまよう魔人のようだとイサギは思う。

 ただひとつの目的のために。彼はこれからも殺戮を続けるのか。

 

 イサギは視線を宙に浮かべ、つぶやく。


「……あれだけの人を殺しても、

 極大魔晶はできなかったんだな……」

「みてェだな。

 ったく、先が長ェぜ」

 

 もはや一体、どうすればこの世界に極大魔晶が生まれるのか。

 ドワーフ族を皆殺しにした時にも、極大魔晶は作られなかったという。

 そもそも本当に人工的に極大魔晶を発生させることは可能なのか?

 前提となる理論が間違っているのではないだろうか。

 

 そう考えて、イサギはハッとした。

 

 もしかしたら、廉造も薄々気づいているのかもしれない。

 だからあんな、自らを死地に追い込むような暴挙に出ていたのだろうか。

 

 望みのない戦いに身を委ねれば、神経もすり減る。

 廉造はとても強くて気づかないときもあるけれど、本当はまだたった17才の少年だ。

 妹と引き離され、孤独に陥って。

 それでもなんとか前に進もうと必死に足掻いているのかもしれない。

 

「……なあ、廉造」

「あァ?」

「今頃は妹さん、どうしているかな」

「……知らねェよ。たぶん、この時間は学校に行っているンじゃねェのか。

 あいつには口を酸っぱくして勉強しろって言っているからな」

「そうか。大切だもんな。いいな学校。

 俺ももう一度現代に戻れるなら、中学校から通い直したいもんだ」

「ケッ」


 そっぽを向く廉造は、どことなく拗ねているようにも見えた。

 

 

 

 地下室の扉が開く。

 顔を見せたのは、慶喜とロリシア、それにシルベニアだ。

 

「よう、テメェら、久々だな」

 

 ふんぞり返って挨拶をする廉造。

 やはり彼の顔は魔族に怖がられるようだ。

 ロリシアなどはあからさまにシルベニアの陰に隠れてしまった。


 そのシルベニアは腰に手を当て、廉造を半眼で睨む。


「まったく……死んでもバカが治っていないの」

「生きてるっつーの」

「あたしたちに敵対するだなんて、身の程を知らないの?」

「ありゃあ成り行きだろうが。

 こっちにも事情ってモンがあるんだよ。

 ガキにゃあわからねェだろうがな」

「あーあーきこえなーいのー。

 バカにしか聞こえない言葉なのー」

「っせェよ……」

 

 耳を塞ぎ、わーわーうめくシルベニア。

 廉造は目を瞑ってため息をついた。

 彼女は廉造を黙らせることのできる数少ない人物のようだ。

 

 かたやロリシアは、イサギの身を案じていた。


「あ、あの、だ、だいじょうぶですか? イサさま」

「うん?」

「いや、だって、さっきまであんなに……

 その、すごい勢いで、戦っていたのに。

 それがもう、レンゾウさまとふたりっきりで……」

「あー、そういえばそうだな」

 

 廉造を見やる。

 彼も眉をひそめていた。

 

「ありゃ、ただのケンカだろ。

 別に負けたからって恨んじゃいねェよ」

「そうだな。別になんでもないことだ」

「手加減でもされていたら、マジでぶっ殺しやるところだったが、

 もう終わったことだし、遺恨はねェよ」

「廉造が強くなっていて、驚いたさ」

「抜かせ。まったく歯が立たなかっただろうが」

 

 睨む廉造にイサギが笑うと、彼も口元をほころばせた。

 ロリシアはよくわからないという顔をしている。

 シルベニアも大きなため息をついた。


「……死んでますますバカが加速したみたいなの」 

「再三言うが、死んでねェっつーの」


 廉造がうめく。

 そこで、今まで黙っていた慶喜が、前に歩み出てきた。


「それで、ええと……

 ひ、久しぶりっす、廉造先輩」

「おう、ヨシ公。

 オレの魔術を防いだのはテメェだな。

 余計なことをしやがって、クソが」

「ひいっ! すみませんすみませんっす!」

「冗談だよ、バーカ」

 

 平謝りする慶喜に、吐き捨てる廉造。

 どうにも、未だに慶喜は廉造を苦手としているようだ。

 

「え、えと、で、廉造先輩のことなんすけど」

「ああ。やっぱ処刑か?」

「ち、違いますよ! えっと……」

 

 慶喜があたふたと言いあぐねていると。


「それは私が話そう」

 

 重厚な男の声がした。

 一同が振り返ったところに、男が立っていた。

 ふたりの兵士を連れて。

 

 豊かな髭をたくわえた勇壮な男。

 まるで獅子のような印象を受けた。


 青いマントを着た、冠を身につけた男だ。


「お初お目にかかる。

 私はブルムーン王国国王、

 アピアノス=ブルムーン=ミレノルズである」

 


  

 ◆◆

 

 

 

 場所を変え、一同は砦の中でも中枢部に招かれた。

 王の待つ、作戦立案室である。

 

 長机を囲むのは九人。

 まずは国王アピアノス。

 それにブルムーン側は騎士団長、魔術団長。

 そして腕利きの軍師と評判高い、若い男。

 

 イサギと慶喜、ロリシア、シルベニアは魔族側。

 イグナイトは治療を受けている最中だというので、ここには来られなかった。

 

 目隠しをして連れてこられたのは、廉造だ。

 彼は手首に錠をつけられているが、拘束具はそれだけだ。

 

 

 イサギが思っていたよりも、場に緊張感はない。

 どうやら話し合いは一段落したようだ。


 慶喜は気まずそうにあちこちに視線を動かしているが、それはいつものことだ。

 隣に立つロリシアが比較的落ち着いているのだから、大丈夫だろう。


 アピアノスは事実の確認をするように口を開く。

 

「事情はすでに魔王ヨシノブ殿に聞いた。

 あなた方は本気で人間族側と和平を結ぼうというのだな」

 

 慶喜が必死にうなずく。

 

「は、はい! そうっす……じゃなくて、そうです!」

「……にわかには信じがたい話だったが。

 しかし、これが罠だとしても、そちらには得がないだろうな」

 

 口ひげを撫でながら、アピアノス。

 こんな砦にまで自らやってくるぐらいだ。

 戦争好きの好戦的な王かと思ったが、そうでもないようだ。

 

「ドラゴン族の襲撃の最中に、というのも、

 出来すぎた話のようにも思えるが……

 しかし我らとしても、魔族と和平を結ぶのは悪くない提案だと受け止めている」

「な、なら!」

 

 慶喜の言葉を遮って、アピアノスは首を振った。


「しかし、恐らく国民と、冒険者ギルドが納得はしまい」

「う……」

 

 言葉を詰まらせる慶喜に代わり、イサギが前に歩み出た。


「冒険者ギルドは、こちらに任せてくれ。

 今は人間族の中にも、魔族との平和を望むような派閥もできつつあるんだ。

 だから、その件についてはこっちでなんとかしてみせる」

「そなたは……

 ドラゴン族の将と一騎打ちをした者だな」

「ああ、冒険者ギルド本部、エージェントのイサだ」

「なるほど、冒険者であったか。

 どうりで、だな。

 そなたの戦いはまるでカリブルヌスの再来かと思ったぞ」

「……」

 

 なぜだかイサギは目を伏せる。 

 アピアノスはイサギと慶喜を交互に見やった。


「なるほど。魔王と本部の冒険者がともに行動しているのなら、その可能性もあり得るのかもしれん。

 だが、国民はどうするつもりだ?

 彼らの中には20年前に魔族の手で家族を失ったものたちがたくさんいる。

 言ってしまえば、私もそのひとりだ」


 前王は魔帝アンリマンユによって殺されたのだ。


「魔族は許せぬ。魔族は殺せ。

 そう主張するものたちは貴族の中にも多い。

 分かり合うことは非常に難しいのではないかね」

「……」

 

 ロリシアは俯いた。

 それはお互い様の話だ。

 彼女もまた、人間に家族を殺されたのだから。

 

「それは……」

 

 慶喜はそんなロリシアの様子を伺い、言いよどむ。

 けれど……その殻を破ったのもまた、ロリシアだった。

 

「そんなの……そんなことなんて、

 全部、忘れちゃえばいいと思います」

 

 魔族の娘の不遜な物言いに、王を除いた人間たちの顔色が変わる。

 けれどロリシアは言い放つ。

 

「わたしも、両親を人間族の人に殺されちゃいました。

 でも、それとこれとは関係ないと思います。

 だってこのまま戦争を続けたら、

 わたしとか王様みたいな人がもっともっと増えるってことじゃないですか。

 だったら、今すぐにわたしは戦争を止めるべきだと思います。

 自分がされてイヤなことは人にしちゃいけないって、

 お姉さまも言っていました」

 

 そのお姉さまというのは、リミノのことだろう。


「歩み寄るためには、確かに時間もかかるかもしれません。

 すごく、大変なんだと思います。

 でも、最初から諦めていたら、なんにもできません。

 わたしはそんな大人の人は、その……情けないと思います!」

 

 ロリシアの精一杯の言葉に、イサギは強くうなずいた。


「……俺もそう思うよ、ロリシア。

 いや、デュテュだってきっとそう思っているに違いないさ」

「あたしは、でも――もごご」

 

 と、慌ててシルベニアの口を塞ぐ。

 どうせ余計なことを言うに決まっているのだから。

 

 廉造は口笛を吹く。


「言うじゃねえか、嬢ちゃん。

 気に入った。愛弓の友達にしてやるぜ」

「なに言ってんだよお前」

 

 イサギは廉造にため息をつく。

 慶喜はただ、へらへらと笑っていた。


「そ、そうだね……ぼくも、その、

 そう、おもうよ……はは……」

 

 自信なさげに、だ。

 それはともかくとして。


 国王アピアノスは賢王であった。

 彼はロリシアの誠意ある言葉に、納得したようだった。

 

「なるほど。

 確かにこちら側の事情は、そなたたちには関わりがないことであるな。

 いや、悪かった。まるで試すようなことを言ってしまって。

 私も自国の国民の安全を第一に思っておる。

 だがな、何事にももっともらしい“理由”が必要なのだ」

「理由……ですか?」

 

 ロリシアが問いかけると、彼はうなずく。


「ああ、対外的にもな。

 国民のことは我らがなんとかしよう。

 だが、人間族の国の中で、率先して魔族と同盟を結ぶのだ。

 勘ぐられては、かなわない。

 誰もが納得し、我らの事情を推し量ってくれるような理由だ」

 

 そう言われても、ロリシアにはまるで思いつかなかった。


「それ、すごく難しいんじゃ……」

「いや、それがあるのだ。ひとつだけな。

 誰もが納得するほどの大きな理由だ。

 そのために……彼にも来てもらったのだ」

 

 アピアノスの視線は廉造に向けられていた。


「……あン?」

「魔族軍のレンゾウ。討伐対象ランクS+の賞金首で間違いないな」

「知らねェよ」


 彼の不遜な態度に、護衛のものたちがわずかに前に出る。

 王は彼らを手で制す。


「よいよい。そなたを冒険者ギルドに突き出して小金をせしめようなどとは思わぬ。

 だが、捨て置けば人間族の脅威にもなるであろう。

 ここはそなたの身柄を冒険者ギルドの人間に一任しようと思ってな」

 

 そこには、魔族とことを構えたくないという王の意図が見え隠れしていた。

 冒険者ギルドの人間……つまり、イサギだ。


「……俺か」

「ああ、頼まれてくれるか?」

「ただでというわけには、いかなさそうだな」

 

 イサギの言葉にアピアノスは口元を緩める。


「冒険者にやってもらうことはない。

 むしろ頼みは魔族にあるのだ。

 それが対外的な理由となる」

 

 アピアノスは語る。


「我らは今、ドラゴン族の脅威にさらされている。

 だが、それを魔族が救ってくれたとあらば、

 世界も認めないわけにはいかないだろう。

 やってもらうことはそう多くはない。

 ただ、和平の書を届けてもらいたいだけだ。

 だがそれを我らには、魔族の功績にして大々的に発表をする用意がある。

 そなたたちには、我ら人間族とドラゴン族の橋渡しをしてほしいのだ。

 どうだろう、悪い話ではないと思うが」

 

 悪い話どころではない。

 あちらから提示される条件としては、破格だ。

 元々、和平すらもうまくいくとは思っていなかったのに。

 

 彼らはブルムーン王国だけではなく、

 西側諸国にまで魔族との同盟を結んでくれると言っているのだ。


 さらにドラゴン族と人間族の戦いを阻止することができれば、

 それぞれに武力を保ったまま三すくみの形を完成させられる。

 成功すれば、魔族側の手腕も大陸に知れ渡るだろう。

 

 

 慶喜がうろたえながらロリシアを見た。

 少女は小さくうなずく。


 しばらく考えをまとめるだけの時間をもらっても良かったけれど。

 慶喜は皆を代表し、受け入れた。

 

 

 細部を確認し、条件をさらに詰めながら、

 こうして、話はまとまった。

 

 

「わ、わっかりしました。

 この一件、魔族国連邦代表魔王、ヨシノブが引き受けます!」

  

 

 旅はさらに続く。

 

  

 

廉造:激おこタイム終了。殴られてスッキリした模様。対シルベニア☓。

イサギ:冒険者ギルド本部(愁)の犬。狂犬(廉造)の手綱を任される。

慶喜:後ろのほうで立っている係。重要。


スラオシャルド:大孤竜。群れを離れてたったひとりで暮らしていた。大戦時、ドラゴン族にも人間族にも加担せず、人との関わりを絶っていたが、イサギに破れ、力を貸す。竜王バハムルギュスとの決闘の結果、息絶えた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ