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勇者イサギの魔王譚  作者: イサギの人
Episode:5 さあ、神に抗おうではないか
55/176

5-6 これからの「正義」の話をしよう

  

 パラベリウ中央国家。

 800年前である白銀時代に、

 人間族がもっとも最初に作り上げた国と言われている。

 

 かつては魔族に攻めこまれ、そこまで巨大な国ではなかったが、

 現在では西方の大森林ミストラルと、南方の旧シャハラ首長国連合を、

 侵食するほどまで、領土拡大を続けている。

 

 大地は肥沃であり、東方の大洋サンファバルは海の恵みを与えてくれた。

 全てにおいてスラオシャ大陸の中心が、このパラベリウ中央国家である。

 

 そしてその首都は、パラベリウ東方に位置していた。


 王都ダイナスシティ。

 第127代国王が支配するこの都は、

 スラオシャ大陸最強と名高い陽聖騎士団と、12の関所、

 それに7つの砦、さらに3箇所の対魔術要塞、

 そして、冒険者ギルド本部によって守られていた。


 召喚転送魔法陣『クリムゾン』を持つダイナスシティは人間族の本拠地であり、

 あの魔帝ですら攻め落とすことのできなかった最硬の拠点である。

 

 

 許可を与えられたトッキュー馬車は、

 そのダイナスシティの待合所へと到着していた。

 

 辺りは旅人で溢れている。

 もちろん、人間族の姿しか見えなかったが。

 

 降りるやいなや、アマーリエは大きく伸びをした。

 

「う~~~ん!

 よーやくついたわぁ!

 もー、馬車旅なんて懲り懲りよ! 次から走って行くわ!」

「無茶言うなよなー、ねーちゃんー。

 どんだけだよー」

「人間、やってできないことはないのよ……!」

「そういう根性論で人を付き合わせないでくれよなあ」

 

 フランツは苦笑いを浮かべている。

 さらに、眼帯をつけた少年も鞄を背負って降りてきた。

 

「今までありがとうな、アマーリエ、フランツ」


 元々、旅は共にダイナスシティにつくまで、という約束だった。

 イサギは手を差し伸ばす。


 アマーリエはわずかに視線を揺らしたが、

 それからすぐに笑みを見せた。


「ううん、こちらこそありがとうね」

「サンキューだぜ、にーさん!」


 ふたりと握手を交わす。

 

「ああ」

 

 数多くの出会いも別れも経験してきたイサギの態度は、

 傍目には素っ気ないものだ。

 

 けれども、彼にとって、

 この旅は初めての一人旅だ。

 歳近い彼らとともに冒険ができて、

 イサギは本当に心強かったのだ。

 

 ……勇者として三年間旅をしてきた手前、

 そう口に出すようなことは、できなかったが。

 

 人知れず、イサギがしんみりと名残を惜しんでいる間に、

 アマーリエはいつもの調子で気安く誘ってくる。


「で、でも、イサくんも、

 父に用事があるのでしょう? もし良かったら取り次ぐわよ」


 少しだけかしこまった口調の彼女に、

 イサギは視線を落とす。


「あー……そうか、

 でも、迷惑じゃないかな」

「そんなの今さら気にしないわよ。

 こっちは治癒術の治療代だって払っていないんだから」

「教師はともかくな、

 そいつは受け取らないって言っただろ」

「だからこれもあたしが勝手にやること。

 おーけー?」

 

 アマーリエがずいっと迫ってくる。

 その睨むような目に、イサギは両手を挙げる。

 

「はいはい、それじゃアテにしているよ」

「いいでしょう。

 じゃあとりあえず宿を教えてね」

 

 彼女に連絡先を預ける。

 アマーリエとフランツは自宅に戻るのだろう。


 イサギはふと思い出す。


 冒険者ギルドのギルドマスターたるバリーズドは、

 王宮に一室を与えられていたと聞いていた。

  

「あれ、だけどバリーズドは王宮に寝泊まりしているんだろう?」

「ええ、そうよ。ずっとね」

「そしたら、お前たちの屋敷って」

「お城に帰るわよ。

 あたしたちも王宮で育ったんだもの。

 王族や貴族の間でね」


 威張るように胸を張るアマーリエ。


「へえ。堅苦しそうだな……」

 

 素直に感想を漏らすと、彼女は笑った。

 

「まあね、昔はすごく嫌だったけれど、

 でも、あたしには剣の才能があったからね。

 だから冒険者になったのよ。

 自分の力だけでどこまでも行ける、冒険者になろうって思ってね」

 

 そう言う彼女はフランツとそっくりのようで。

 物語の中の英雄に憧れる、子供そのものだった。

 

 

 

 

 宿を取り、アマーリエにその場所を伝えた後で、

 イサギは冒険者ギルドに立ち寄っていた。


 ダイナスシティは戦火を免れていたことから、

 20年前とあまり景観は変わっていなかった。

 

 都を十字に貫く大通りと、その他には、

 まるで碁盤の目のように街路が配置されている。

 

 完全な都市計画に基づいて設計された都市だということがわかるだろう。


 冒険者ギルド本部はその中核、

 商業区の中心地点に建てられていた。


 さすがそこはギルド本部だけあって、他の街に比べても断然大きかった。

 三階まであり、障壁魔法陣で覆われているほどの堅牢さだ。

 ダイナスシティでも、王城を除いて、ここまでの規模の建造物はないだろう。

 

 冒険者ギルドに顔を出すと、中では職員が忙しなく働いていた。

 本部だけあって、掲示板の数は通常の3倍の数はあった。

 そこに張られている依頼も、ほぼ満杯だ。

 

(すげーなあ)

 

 こうして見ると、

 学校の体育館で行われていたフリーマーケットのようだ。

 様々な人が動き回っていて、まるで置いてけぼりにされたような気がする。


 ここに来たのは、アマーリエのことを信用していなかったわけではない。

 ただ、王城の連中は何事にも段取りを必要とするものたちだ。

 もしかしたら、アマーリエたちも何週間も出入りを押しとどめられるかもしれない。

 そう思い、イサギ自身もバリーズドについて動こうと思っていたのだ。


 イサギは窓口に近づいて、女性に尋ねる。

 

「ギルドマスターのバリーズドと少し、話をしたいのだが」

「え?」

 

 彼女は顔を挙げた。

 驚いたような目でこちらを見上げている。


 もしかしたら、高圧的な言い方になってしまっただろうか。

 言い直す。


「ええと、バリーズドと直接お話しする機会を与えてもらえることはできないか?

 少しなら、お金も時間もあるのだけれど」

「えーと、申し訳ございませんが、そういったものは……」

「なら手紙を届けてもらうことは?」

 

 懐から手紙を差し出すと、彼女は戸惑ったような顔で腰を浮かす。


「あの、少々お待ちいただいてもよろしいですか?」

「ああ、すまないな、無茶を言って」

 

 頭を下げると、彼女は申し訳程度に微笑んでから奥に引っ込んでいった。

 しばらく、辺りを観察しながら待つ。

 

 本部に出入りする冒険者は、老若男女様々だ。

 頼りなさそうにキョロキョロと視線を動かす新人もいれば、

 歴戦の戦士のような男性が、いかめしい顔で掲示板を睨んでいたりする。

 若い術師の女の子が髪をいじりながら、どの依頼をこなそうか値踏みしていた。

 まさに人間族の発展を象徴するかのような光景である。

 

 どうして自分がここにいるのか、忘れてしまいそうになる。

 それほどまでにこの場は、平和の空気が漂っていた。

 

(……)

 

 自分はなにを思えばいいのか、わからない。

 人間族の繁栄を喜ぶべきなのか、その犠牲を悲しめばいいのか。

 冷めた目で待つ。

 

「キミか、私の父に用があるというのは」

「……ん」

 

 振り返る。

 そこには、バリーズドに良く似た顔の、茶色の髪の男性がいた。

 きっちりとしたギルド職員の制服を身にまとっている。

 まるでバリーズドがそのまま若返ったようだった。


 彼は見たことがある。

 戦線に加わった当時のバリーズドは、一児の父だった。


 イサギは驚きながら、問いかける。


「お前……ハノーファか?」

「……? いかにも、私がこのギルドを任されている、ハノーファだが……」

 

 彼は胡乱な目でこちらを眺めていた。

 顔を見たことはなかったが、話は聞いていた。

 バリーズドほどの戦士が、

 息子について語るときはいつでも幸せそうな顔をしていたのだ。

 忘れられるわけがない。


「うわあ、大きくなったなあ。

 そうか、良かったなあ良かったなあ」

「なんなんだねキミは……」

「ああ、そうだ。

 バリーズドに会いたいんだけどさ」

「父は誰とも会わない。

 用があるのなら、私が受け付けよう」

「わかった、じゃあ手紙だけでもお願いしていいか?」

「中身は閲覧させてもらうぞ」

「ああ、構わない」

 

 手紙と共に、少々の銀貨を渡す。

 ハノーファは少し眉をひそめたが、受け取ってくれた。

 

「ありがとな、ハノーファ」

「……失礼だが、私とキミ、

 どこかで会ったことがあるか?」

「ああ、お前は覚えてないかもしれないけどさ」

 

 笑いながら手を振る。

 彼は声を張り上げてきた。

 

「名前は!」

 

 後ろ手を振り、告げる。


「かつては奥の手を名乗っていた。

 だが今はただの、名もなき男さ」

 

 

 

 

 その夜。

 宿に戻ると、なぜかアマーリエとフランツが待っていた。

 彼らは――というかアマーリエは――イサギの部屋を占領し、叫ぶ。


「どおおおおしてあたしたちが王宮に入れないのよおおおおお!」

 

 ベッドに何度も拳を打ちつけながら、叫ぶ。

 フランツはため息を付いている。

 ホコリが舞って、イサギは顔をしかめた。


「えーと……最初から話してほしいんだが」

「門前払いよ、門前払い!」


 アマーリエはこちらに指を突きつけてくる。

 八つ当たりの対象が見つかって、フランツはホッとした様子。


「おかしくない!? あたしたちどこからどう見ても父さんの子供なのに、

 門番が通してくれないのよ! 『バリーズドさまのご命令でな』って、

 なに考えてんのよ父さん! まったくもおおおお!」

「えーと」

 

 フランツもさすがに冷や汗を流している。


「ねーちゃんが兵士さんをぶちのめすところだったから、

 慌てて引っ張ってきたんだぜ……苦労したぜ……」

「そいつは、ご苦労だったな……」

「その上! あたしたちのおうちも、立入禁止の状態ってどういうこと!

 なんで自由におうちに帰れないのよ!

 どういうことなのよ、どういうことなのよー! きーっ!」


 手足をじたばたと暴れ、奇声を発するアマーリエを見やりながら、

 イサギは「困ったな」と思う。

 

 これでバリーズドと会うためのパイプは、なくなってしまった。

 やはり当初の予定通り、王宮に忍び込むしかないか。


 防御結界をラストリゾートで突き破り、

 どこにあるかわからないバリーズドの部屋を目指す。

 なかなか難易度が高い上に、捕まってしまったら最後だ。

 さすがに城の兵士を殺すわけにはいかない。


「……でもどうしてバリーズドは、

 アマーリエとフランツに会おうとしないんだろうな?」

 

 イサギが聞いてみると、アマーリエの動きがぴたりと止まった。

 彼女はゆっくりと身を起こしながら、こちらを見やる。


「……たぶん、よけーな心配しているのよ」

「余計な心配?」


 心当たりがあるようだ。 

 アマーリエは頬を膨らませながらそっぽを向く。


「……父さんが病床にあって、王宮では権力争いが激化しているのよ。

 二代目ギルドマスターの扱いね。

 最有力候補はもちろんハノーファ兄さんだけど、

 その若さから、英雄王カリブルヌスを推す人もいるの。

 父さんはもしかしたら、あたしたちがそれに巻き込まれると思っているんじゃないかな、って」

「なるほど」


 冒険者ギルドは今、凄まじい権力を持っている。

 今では人間族の暮らしに無くてはならない存在だろう。

 少し仲介料やマージンの割合を変えるだけでも、莫大な財産が転がり込んでくるに違いない。

 あり得る話だ。

 

「バリーズドは、どうするつもりなんだろうな……」

「とーさんは、まだどっちを推すつもりか、

 世間的には明らかになっていないみたいだけどさー」

 

 フランツが横から口出してくる。


「でもしょーじき、ハノーファにーさんより、

 カリブルヌスさまのほうを、みんな望んでいると思うんだよなー」

「フランツ、あんたなに言ってんの」

「ねーちゃんだってハノーファにーさんは頼りないって思っているだろー」

「それはそれ、これはこれ、よ!

 ありえないわよ、あんな人をギルドマスターなんて!

 大体、他種族排斥論だってあの人が主導で行なっているみたいなもんじゃないの!

 アルバリススは人間族だけのものじゃないよ! それを、それをっ!」

「わ、わかったからねーちゃん! ベッド、ベッド壊しちゃダメだってば!」

 

 彼らの言い争いを聞きながら、ふとイサギは顎に手を当てる。


(英雄カリブルヌス、か……)


 明日はカリブルヌスのことを、少し調べておこう。 

 イサギはそう思い、ベッドにごろりと横になった。




 

 旅の最中、彼の噂は多く聞いていた。

 

 カリブルヌスが歴史に初めて現れたのは、ドワーフ戦争の折。

 宣戦布告もなく、突如としてドワーフに攻めこまれた(!?)エディーラ神国に、颯爽と舞い降りたひとりの剣士。

 それがカリブルヌスだと言われていた。

 

 当時、勇者イサギを失っていた人間族は、希望に沸き立った。

 冒険者制度を利用し、初めて有名になったのがカリブルヌスである。

 彼こそが冒険者の象徴であり、冒険者こそが彼であった。

 

 カリブルヌスはドワーフの軍勢をたった一パーティーで追い返し、

 そのまま彼らの王国タイアニアにまで攻め込み、

 そして結果、冒険者は彼の働きもあり、ドワーフ族を滅ぼすことになった。

 

 その働きは先の勇者イサギと比べられ、

 カリブルヌスは英雄王の名を送られた。

 

 それから先も、

 カリブルヌスは次々と世界地図を人間の色に塗り替えてゆく。


 エルフ族の王国ミストランド戦。

 シャハラ首長国連合攻め。

 ドラゴン族、及び、ピリル族との大戦。

 人間族の戦いには、いつでも彼の姿があった。

 

 御年35になる英雄である。

 

 一体何者なのだろう。

 イサギがいたときには、15才だったはずだ。

 なのに、まったく彼の噂を聞いたことはなかった。

 

 イサギはダイナスシティの大通りを歩きながら、考えに耽る。

 

(異世界からの召喚者、か……?

 しかし、この20年で王都の召喚陣は使われていないという。

 ならばカリブルヌスは、ただの人間、か?)

 

 リヴァイブストーンを世間に広めたのも、彼だという。

 ならばもしかして、回復禁術を復活させたのもカリブルヌスなのだろうか。

 その辺りの情報は全て、秘匿されているらしい。


 後ろ盾もなにもないイサギが調べるのには、

 時間かお金のどちらかを注ぎ込まなければならない。

 

 記憶を埋めるようにダイナスシティをさまよい歩いていると、人だかりにぶち当たった。

 本日はなにか催しでもあっただろうか。

 一体これは何の騒ぎだろう。


「カリブルヌスさまー!」「キャー!」

「おかえりなさいませー!」「英雄王様ー!」

 

 その歓声に、イサギは眉をひそめる。


(カリブルヌス……?)

 

 どこかへと遠征に行って、戻ってきたのだという。

 たかが一冒険者のクエストを遠征と呼ぶとは、大それたことだが。


 彼の姿をひと目見ようと、イサギは人垣をかき分ける。

 馬上には、ひとりの男性の姿があった。

 

 まるで年を取ることを忘れてしまったかのような、金髪の優男だ。

 白銀の鎧に身を包んでおり、優しい笑顔を浮かべて手を振っている。

 

 

 だが。

 

 

 イサギだけが蒼白の表情をしていた。


(なんだ、こいつ……)

 

 彼はこちらを見た。

 目が合った気がした。


 怖気が走る。

 

 カリブルヌスはそうして、首を傾げる。

 穏やかな声だったはずなのに、それはやけにハッキリと聞こえた。


「どうしてこんなところに、

 魔族が、いるんだろうね」


 まずい。

 

 彼は剣を抜き放った。

 なにをしたのか、わからなかった。

 

 近くで、ごろりと音がする。

 イサギの隣のいる男の首がはねられたのだ。

 フードで隠されたその頭がむき出しになる。

 額に小さな小さなツノが見えていた。


 気づかなかった。

 わざわざ暗黒大陸からここまで、

 カリブルヌスかそこらのものを暗殺しようとやってきた魔族の手のものか。

 恐らく魔族を救うという使命を抱いて旅をして、そうして無残に殺されたのだ。

 

 それにしても、今の技。

 狙われていたら、避けられる気がしなかった。

 血も出さず、極めて鋭利な切り口だった。


 ゾッとする。

 彼の剣技が見えなかったことではない。

 こんな人波の中、迷うことなくひとりの男を殺す彼の性質に、だ。



 悲鳴と歓声の混じった叫び声があがる。

 彼は両手を掲げて、民衆たちに告げる。


「このダイナスシティに亜人がいた!

 彼らは平和を乱す、魔物だ!

 私は彼らを滅ぼすまで戦いをやめることはない!

 私こそが冒険者の王、カリブルヌスである!」

 

 熱狂が通りに渦巻いてゆく。


 彼は『亜人』という言葉を使った。

 それは20年前には存在しなかった単語だ。

 

 亜とは、本来は『次ぐ・次の・準ずる』などという意味を持つ、

 正当なものより一歩劣っただとか、そういった言葉である。

 彼は間違いなく人間族以外のものを亜人(劣った人種)だと思い込んでいる。


 イサギは胸を抑えながら、後ずさりをする。

 すぐに人にぶつかってその足は止まった。


(なんなんだ……?)

 

 信じられない。

 他の人たちには、彼が人間に見えているのだろうか。 

 

 震えが止まらない。

 あんなのは人間ではない。

 

 以前、S級冒険者であるドレグを見たときにも思った。

 その違和感は、カリブルヌスを見た瞬間に確信へと変わった。

 

 こいつは人間ではない。


 彼は、魔力の塊に肉が宿った姿に過ぎない。


(極大魔晶で作られたゴーレムか?

 だとしても、あの禍々しさは一体……!)

 

 左目が疼く。

 彼の凝縮した魔力はまるで、全てを飲み込むブラックホールのようだ。

 

「この世界には、三つの異分子(イレギュラー)が存在する」

 

 抱きすくめられるように腕を回されて、

 後ろから声がした。

 

 耳元で囁かれて、イサギは目を見開く。


「ひとつはキミ。

 ひとつは僕ら。

 そして、もうひとつは、わかるだろう。

 そう、“彼”だ」


 振り払い、振り返る。

 

 彼女?――と見まごうような、彼がそこにいた。

 少し伸ばした髪を下ろして、まるで少女のような笑顔を浮かべながら。

 過ぎ去ったときと変わらない、彼だ。


「久しぶり、イサくん。

 会いたかったよ」


 花のように笑う彼は、冒険者ギルドの制服を身にまとっている。


 イサギは動悸を抑えながら、その名を呼んだ。

 

 

「愁――」

  

  

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