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勇者イサギの魔王譚  作者: イサギの人
Episode:5 さあ、神に抗おうではないか
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5-5 リアルデの休日

  

「うう、なんで揺れるのよ、馬車……」

 

 トッキュー馬車に乗り込みながら、うめくアマーリエ。

 もう出発して二週間は経つというのに、未だに乗り物酔いには慣れないようだ。

 

「まあ……また治癒術を唱えてやるから、こっちに来いよ」

「うううう……

 いつもお手数おかけしましてスミマセン……」

 

 顔を赤くしながらも、アマーリエは隣の席にやってくる。

 礼儀正しい娘だ。

 

「でもでもー、イサにーさんは、

 とーさんを昔から知っているんだよなー?」

 

 正面に向かっていたフランツが、

 顎先に指を当てて首を傾げる。

 

「そんなに若いのに、どうしてだ?

 とーさん、おれが知っている限り、ずーっと旅もしてないのに」

「えと……」

 

 イサギが迷っている間に、アマーリエが先に答えた。


「一流の術者さんなんだから、どうせ加齢を調節しているんでしょ……

 ちゃんとアタマ使いなさいよ、フランツ……」

「あーそっかー。

 すごいなー、うらやましいなー!」

「大体、わたしと同じぐらいの年で、

 こんなに強かったり、落ち着いたりするわけないでしょー……」

「ははは」

 

 イサギはなにも言えず、乾いた笑い声をあげる。

 そうか、そんなに年を取って見えるのか。

 

 フランツは手を叩く。

 

「じゃあさ、これからイサおじさんって呼んだほうが」

「やめてほしいなあ!」

 

 思わず声を荒げてしまった。

 そうこうしている間に、馬車は次の街へと到着する。


 

 

 

 明日からは大森林ミストラルを一気に越える。

 三日三晩走り通しだ。

 長旅になるということで、そのための用意が必要だった。


 ミストラルと隣接したベリアーデ公国の都市、リアルデ。

 二本の大河に挟まれた美しき水の都である。


 西側の都でも五指に入るほどの規模を持つこの街で、

 イサギたちは明日からの準備を整えていた。


「ふっふふっふーん」

 

 イサギの隣で口笛を吹くフランツ。

 なんでついてきたんだろう、と思う。


「冒険者ギルドに寄るだけだから、

 面白いことなんてなにもないぞ?」

「いいのいいのさ。

 たまにはおれだって、

 ねーちゃん以外の人と喋りしてーしな!」

「う、うーん?」

 

 フランツはまだまだ子供だ。

 彼はイサギにひっつくようにして歩いている。

 腰に提げた剣もまた、少年には似合わないようなブロードソードだ。


「にーさん、冒険者ギルドにいってどーするんだ?

 あっ、今から冒険者登録するか? おれたちのギルドに入っちゃうか?」

「いや、ちょっと人探しを依頼していてね」

「ああ、頼んだパターンなんだな。

 え、もしかして全世界の冒険者ギルドに?」

「まあね。結構お値段はかかったよ」

「じゃあ大変なのはこっからかもなー」

 

 フランツはニヤニヤという笑みを浮べている。

 その理由も、イサギにはなんとなくわかったけれど。

 

 いざ、冒険者ギルドについて、窓口の娘に話しかけるとだ。


「えと、イサさま……

 ご依頼内容は、『極大魔法師・プレハの捜索』でお間違いありませんか?」

「ああ」

「各国ギルドから、482通の情報が届いておりますね」

「マジかよ」

 

 思わず呻いてしまう。

 

「ちなみに、真偽の確認って」

「ご依頼主さまの方で、行なっていただいております」

「ですよねー」


 イサギは頭を抱えそうになる。


 捜索依頼だと、最初にかかる金額は少ないが、

 集まってきた情報を購入するためには、さらにお金が必要だ。

 どれがデマか、どれが真実か、

 追加料金を払いながら、ひとつひとつ封を切っていかなければならない。

 無理だ。

 

 リストを渡されて眺める。

 情報を届けてくれた冒険者のランクは、G級からC級まで様々だ。

 信用度に関わるため、高ランクのほうが、

 デマは少ないかもしれないが、その場合かかる料金も高い。

 

 とりあえず、無作為に選んだ三つの情報を購入することにした。

 渡された手紙の写しを開く。


 一通目の情報は、Eランク冒険者。

 伝説の魔法師プレハは、エディーラ神国・女神の塔にて、

 女神として今なお祀られている、という内容だ。

 

(あいつが女神……?

 ないない、ないない)


 イサギは静かに首を振る。

 次の手紙を開く。


 二通目の情報は、Fランク冒険者。

 現在、プレハは死亡している。

 大森林ミストラルの地下迷宮『ラタトスク』にて、

 彼女の遺体を見た冒険者がいたとのこと。


(死んでも殺せるようなやつじゃないだろ……

 ダンジョンなんて吹っ飛ばすよ、あいつなら)


 極大魔法師(ウィザード)の名の通り、

 プレハの魔法はあらゆるものを消し去る。

 障害物など、彼女の前にはあってないようなものだ。


 三通目は少し奮発して、C級冒険者。

 かなりの料金を払ったため、期待して開いたのだが……


 現在、魔帝の娘と呼ばれているデュテュこそが、

 人間族に絶望したプレハその人である。

 彼女は勇者イサギを謀殺されたため、

 人間族に反旗を翻したのだという。

 

 そこには詩的で情熱的な文章が、長く綴られていた。

 イサギは頭を抱える。


(それだったら良かったんだけどな、マジで……

 ……くっそう、しょうもない仕事しやがって……)

 

 見えない誰かを恨み、手紙を握り潰す。

 これでは、何度依頼を出しても同じだ。

 もっと細かく情報を絞ったほうがいいのかもしれない。

 

 受付に尋ねる。


「なあ、お姉さん。

 例えば、開く前にある程度選別するためにさ、

 題名に『外見的特徴を必ず明記すること』とかでも、いいのか?」

「あ、はい。大丈夫ですよ」

「そうか……

 じゃあひとつ、それで頼む」

「はい、クエスト内容の更新ですね。

 追加料金をいただくことになりますが、よろしいですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「かしこまりました」

 

 彼女はにっこりと微笑む。


 全世界に名が知れ渡っているプレハだ。

 どれほど効果があるかはわからないが。


 デュテュからもらった路銀が、また少なくなってしまった

 無駄遣いはしていないため、まだまだ余裕はあるのだが……

 

 帰りがけ、イサギはちらりと掲示板を覗く。

 

 発行されている依頼は、やはり下位のランクのほうが多い。

 F・G級クエストは掲示板いっぱいに紙が貼りつけられており、

 高位のものほど少なくなっていた。

 

 S・A級の討伐依頼などは、せいぜい数十枚ほどで……

 

 そこでハッとした。

 デュテュやシルベニアだけではなく、

 魔族軍に新たな名前が追加されている。

 


>S-級討伐対象

>レンゾウ


>商業都市レリクスにて、暴虐の限りを尽くす。

 騎士団、冒険者だけではなく、民間人まで含めた多くの人間族を殺害。

 冒険者プレハ・クリューゼルから奪った晶剣、ミラージュを操る。

 剣術、魔術ともに非の打ち所がない強さを誇るが、

 もっとも恐ろしいのは、その耐久力と残虐性である。

 

 

 さらにもうひとり。

 

 

>A級討伐対象

>魔王ヨシノブ


>魔都ブラザハスに誕生した新たなる魔王である。

 その実力は未知数。

 ゆめゆめ油断召されることなく。



 イサギはさらに暗黒大陸の動向について、確認する。

 冒険者ギルドが発行している、ギルドニュースペーパーだ。

 それを一枚購入し、広げる。

 

 魔族は商業都市レリクスを奪還し、

 さらにはミンフェスを攻め落としたようだ。

 

 残る、人間族に奪われた暗黒大陸の街は二箇所。

 ベリフェスと港ブラックラウンドだ。


 今は廉造軍とデュテュ軍が、

 合同でベリフェスを攻めているのだという。 


 それに伴い冒険者たちも次々と暗黒大陸に渡っているらしい。

 一攫千金を夢見た賞金稼ぎたちなのだろう。


 魔族軍と冒険者たちの総力戦だ。

 

(……負けるなよ、みんな)


 イサギは友の無事を祈りながら、ギルドを出る。




 冒険者ギルドを出ると、外ではフランツが待っていた。

 まるで利口な犬のようだ。

 

「さ、にーさん、次はどこにいくー?」

「……そうだな。

 久しぶりだから、剣でも新しく一本買っておこうかな」

「お、いいなー。

 おれも新しい剣がほしいなー」

「本当は手に馴染んだのが一番なんだがな」


 大事には使っているが、すでに刃こぼれもある。

 どんなに丁寧に扱っても、剣のほうが持たないのだ。

 

 いくつかあった武器屋のうち、もっとも近いところにやってくる。

 店内ところ狭しと並べられた剣や槍を眺めて、イサギは顎を撫でる。


「兵士の使っているような、

 なるべく安いものでいいんだよな」


 フランツは名剣の類を眺めて、目を輝かせているが。

 剣を消耗品としか思えないイサギは、冷めた目だ。


(どんなに良い剣でも、

 クラウソラスを超えるものはないからな……)

 

 パラベリウ王国の神具、クラウソラス。

 白銀時代から伝わる、人間族の最終兵器のひとつである。

 

 神族が打った剣とも言われている。

 晶剣のひとつだが、その能力はただひとつ。


 ――あらゆるものを断つ。

 それが神剣クラウソラスの能力だ。


 あれと比べてしまえば、木剣も名剣も変わらない。

 極端な話だというのはわかっているが、仕方ない。

 

 イサギはさらに一本の小ぶりの剣と、短剣を購入し、店を出る。

 さっさと買い物を済ませると、フランツが頬を膨らませながら出てきた。


「もー、にーさん、ねーちゃんみたいだぜ。

 なんでもちゃっちゃと済ませちゃってさーもー」

「ま、時間は有限だからね。

 その点では俺もアマーリエに賛成だな」

「くそー、なんでだよー」

 

 宿へと帰る道を歩きながら、笑う。

 彼の奔放さは、まるでリミノと話しているようだ。

 しかし、アマーリエとフランツはあまり似ていない。

 もしかしたら、本当の姉弟ではないのかもしれない、などと思ったが。


「あ、もしかして、にーさん今さ、

 おれたちが似てないって思っただろ?」

 

 ギクリとしてしまった。

 そんなにわかりやすい顔をしていただろうか。


「ま、しょーがないよな。

 おれたち、半分は血が繋がってないからさ」

「ああ、そうなのか」

「ねーちゃんが二番目のかーさんで、

 おれが三番目のかーさん。

 ちなみに一番上ににーちゃんがいるんだけど、それは一番目のかーさんだぜ」

「すげえな」

 

 ハーレムルートか、バリーズド。

 そんな器用なやつだとは思わなかったが。


「会うの久しぶりなんだよな、とーさん。

 元気しててくれたらいいんだけどな」

「……」


 そういえば、アマーリエが言っていた。

 ダイナスシティで、バリーズドが死にかけている、と。

 病に臥せっているのだろうか。

 この時代の彼は、もう48才だ。

 術師でもない人間にとっては、もはや老年期に差し掛かっている年齢だろう。

 だから<スターダム>のふたりも、大陸の端から帰郷しようとしているのだ。


 イサギは空を見上げながら、尋ねる。


「父さんは、どんな人だったんだ?」

「え?」

「偉大な人だったんだろう。

 かつては傭兵王と呼ばれて、一から冒険者ギルドを立てた男だ。

 俺にも教えてくれよ。彼が一体どんな人だったのか、さ」

「お、おお……」

 

 フランツはニカッと笑う。


「い、いいぜー!

 宿に帰ったら、ねーちゃんとふたりで話してやるよ。

 とーさんは、本当にすごい人だったんだからなー!」

「ああ、楽しみにしている」

 

 腕を立てて笑う彼に、イサギも微笑む。

 

 かつて傭兵王と呼ばれて、勇者と共に旅をした男、バリーズド。

 彼は国に帰り、冒険者ギルドという仕組みを作り上げた。

 人間族にとってその偉業は讃えられるべきものだった。

 

 だというのに。

 十分立派にやったというのに。

 

(なぜその先を望んじまったんだ……?

 バリーズド)


 イサギは彼の男臭い笑顔を思い浮かべながら、

 空に問いかけるばかりだった。




 トッキュー馬車は大森林ミストラルを一気に踏破し、

 その後、パラベリウ王国に入る。

 

 ダイナスシティはもはや、目と鼻の先であった。

 

 

 

イサギ:プレハの行き先を探しながら旅をするものの、冒険者ギルドの使い方に失敗。先は遠い。時々、プレハのことを怪獣かなにかだと思っている節がある。あと中二病は完治しました。


フランツ:ちょこまかとイサギの後をついていく。ねーちゃんととーちゃんが大好き。

アマーリエ:ぐあいわるい。

 

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