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勇者イサギの魔王譚  作者: イサギの人
Episode:5 さあ、神に抗おうではないか
50/176

5-1 勇者、スラオシャ大陸に立つ

 

 魔力で動いている定期船は、わずか四日の航海でスラオシャ大陸に到達する。

 これだけ近いのだ。冒険者の上陸を防ぐのは至難の技だろう。


 今のところ幸いにも、国対国ではなく、

 魔族対冒険者という構図になっている。

 

 例えばこの港で作られている全ての船を壊したとしよう。

 そういった妨害工作を行うことにより、魔族はより多くの憎しみを買うことになる。

 それが臨界点に達したら、巻き起こるのは戦争だ。


 この天秤が崩れたとき、魔族と人間族の全面戦争に発展するのだ。

 そうなる前に、イサギは戦争を止めなければならない。

 だからイサギは、スラオシャ大陸に来た。

 

「……あれ、お前」

 

 甲板に立つイサギの元に、ゼッドがやってくる。

 もう船は入港の準備に入っていた。

 別れの挨拶を交わそうとする彼に、イサギは振り返る。


 その全身は、黒衣で覆われている。

 船内の行商人から調達した一式とマントだ。


 さらにイサギは眼帯の上から、目を覆う仮面を装着していた。 

 光沢のある金属で作られたそれは、猛禽のようである。

 

「……どうしたんだ、それ」

「仮面だ」

「いや、見りゃわかるが」

「……」

 

 イサギは軽くマスクを手で抑えながら、彼に答える。


「俺はきょうから影のように生きる。

 これはその誓いのマスクだ。

 決して誰にも正体を明かさないための、な」


 デュテュがくれた手紙は、鞄の中に大切にしまっている。

 彼女の想いに応えるためにも、イサギは決意したのだ。


 ゼッドは言葉を失っていた。

 恐らくこの覚悟を目の当たりにして、震えているのだろう。

 イサギはそう思っていたが。

 

 ゼッドはなにやら、頭痛を堪えるような顔でこちらを見つめている。


「……お前んとこの村がどうだったかは知らないけどよ」

「ああ、そうだ。忘れていた」

 

 お前、と言われて気づく。

 イサギは自らの胸に手を当てる。


「俺は名を捨てた。

 きょうから、ミスター・ラストリゾートと呼んでくれ」

「お、おう……」

 

 彼は少し後ずさりをした。

 恐らくは自分の放つオーラに気圧されているのだ。

 これが決心した男の強さなのだろう、とイサギは思う。


 今までの自分は甘かった。

 捨てることもまた強さに変わるのだと、気づいたのだ。

 

 まるでガラスに触れるようにこわごわと、

 ゼッドはイサギ――もとい、ミスター・ラストリゾート氏に説く。


「その、ミスター・ラストリゾートの一族がどうだったかは知らんが、

 恐らく、スラオシャ大陸ではその出で立ちのほうがよっぽど目立つ。

 思いとどまったほうがいい」

「……」

「いや、本当だ。本当に、やめたほうがいい」


 冷静沈着な男だと思っていたが、ゼッドは慌てている。

 どうやら、冗談ではなさそうだ。


 なにをバカなことを、と言いかけたが、

 傲慢な態度はいけない。

 ミスター・ラストリゾートは謙虚でなければならないのだ。

 その意見を考慮することにした。


「確認してみよう」

「あ、ああ。いや、頼む。本当に」 


 イサギ――もとい、ミスター・ラストリゾートは術式を唱える。

 氷の鏡を作り出す魔術だ。

 手鏡のようなそれを持ち、様々な角度から自分を見直す。

 

 うん。


 うん。

 

 ……うん。

 

 我に返る。

 視界が広がった気がした。

 自分の姿を、実に客観的に観察できた。


 ないな。

 これはない。

 やばい。

 これはない。


 痛いなんてもんじゃない。

 完全に一線越えてしまっている。

 度が過ぎる。


「……」

「……」


 こんな姿で自分は外に出るつもりだったのか。

 完全に、現在進行形の黒歴史だ。


 デュテュの手紙に感動して、すっかり自分を見失っていた。

 気合を入れすぎた。

 

 思いついたときは、確かにカッコイイと思ったのだ。

 なのになぜだ。

 なぜこうなってしまうのだ。

 

 ……これは、一時の気の迷いということにしよう。

 旅先でついハメを外しすぎてしまう修学旅行生のようになるところだった。


 己を取り戻したミスター・ラストリゾートは、仮面を取ると海に向かって投げた。

 水音を立てて仮面は海に沈んでゆく。


「忘れてくれ」

「……ああ」

「ミスター・ラストリゾートは死んだ」

「……」


 ゼッドはなにも突っ込みを入れず、ただ黙ってうなずいてくれた。

 大人だ。

 いいやつだ。

 そして、早めに気づいてよかった。


 今さら頬が火照ってくる。

 なぜだろう、目の奥が熱い。

 イサギは叫び出したい気持ちをグッと抑えこむ。

 恥ずかしくてたまらない。

 今すぐこの服も染め直したい。

 もうだめかもしれない。


 イサギの内心の葛藤をよそに、

 ゼッドは鼻の頭をかきながら、つぶやく。


「まあ、また会えるといいな。

 ミスター・ラストリゾートよ」

「頼む。イサと呼んでくれ」

「なあミスター」

「俺が悪かったから」





 ゼッドと別れて、イサギはその港に降りる。

 スラオシャ大陸最西部、港町ハウリングポート。

 

 ここは古くからスラオシャ大陸と暗黒大陸の行き来が行われてきた、

 アルバリススでも有数の貿易港である。


 顔を軽く叩き、気合を入れ直す。

 ここからまた、旅の始まりだ。


(さてと、まずは冒険者ギルドに行ってみるか)

 

 ハウリングポートは20年前にも訪れたことがある。

 あの頃は度重なる魔王軍の襲撃によって、街の半分は焼け野原だった。

 今はほぼ復興完了しているらしい。

 戦争の跡はどこにも見えなかった。

 

 貿易と漁業で栄える活気のある港を出て、商業区を目指す。

 冒険者ギルドがどこにあるかはわからなかったが、

 歩き回っていればそのうち見つかるだろう。

 

(しかし……なんだか、雰囲気が変わったな……)

 

 人間族の街でも、昔は様々な種族が歩き回っていた。

 ピリル族やゴブリン族、エルフ族にドワーフ族。

 戦争は起きていたが、種族単位での迫害などはなかったはずだ。

 

 それが今は、街には人間族の姿しかない。

 少し、違和感を覚えてしまう。

 

 魔王城でイラに語られた世界情勢が、

 今さら実感となって襲ってきたような、そんな気がした。

 

(そうか、俺はこれから、

 20年の時を埋めていかなければならないのか……)

 

 様々な技術が生まれているのだろう。

 新しい術式も次々と開発されているはずだ。

 冒険者が使っていた魔法陣を植えつける魔術や、キャスチのコードを分断する法術など。

 もしかしたら、初見で遅れを取ってしまうことがあるかもしれない。


(だからって、禁術は使い過ぎないようにしねえとな)

 

 この時代、どれほど破術が普及しているかわからないが、

 少なくとも20年前のアルバリススでは、イサギ以外の使い手はいなかった。

 ネタが割れない限りは、まさに一撃必殺の威力を誇る禁術だが、

 その効果を知っている相手と戦う場合には、慎重にならなければいけない。

 

 そんなことを考えながら街をさまよっていると、

 やがて剣と杖が交差したエムブレムが目に入った。


 冒険者ギルドのシンボルマークだ。


 あれは以前イサギが考案したものだ。

 落書きのようだったものが手直しされて、ちゃんとした紋章のように輝いている。


(おお……

 なんかこういうのを見ると、感慨深いな……)

 

 20年前の自分と今の世界が繋がっているのだと、確かにそう感じる。

 案内の通りに歩くと、冒険者ギルドにたどり着いた。



 西部劇のような両開きのドアを開く。

 中は郵便局のようだった。

 カウンターには職員が何人も働いており、奥まったところには掲示板が五つ。

 待合室のような場所には椅子と机がいくつも並んでおり、

 何人かがそこで順番待ちをしているのか、待機していた。

 

 いわゆる物語の中に出てくる冒険者ギルドのイメージとは大きく異なり、

 この施設は全体的に清潔感があった。

 誰でも気軽に入って、気軽に依頼をお願いし、それを冒険者全員が共有できる。

 これぞイサギの目指していた冒険者ギルド、という感じだ。

 

 魔王城で交戦したあの禍々しい冒険者たちと、

 今のこの冒険者ギルドの雰囲気がまったく結びつかない。

 だがどこでも表層と内部は、違ったものなのだろう。

 

 冒険者の手続きをしている受付を横目に、イサギは掲示板を眺めた。

 そこにはびっしりと依頼の紙が張り出されている。


 五つの掲示板の内訳はこうだ。


 F・G級クエスト。

 D・E級クエスト。

 B・C級クエスト。

 さらに全国規模の、S・A級クエスト。


 そして最後の掲示板にあったのは、ランキングだ。

 現状の功績ポイントランキングが、一位から百位まで列挙されている。

 

 上から順番に眺めてみよう。

 一位は空座だ。

 二位がカリブルヌスという人物。

 その横にギルド名が並んでいることから、二位から五位まではどうも同じパーティーのようだ。

 彼がこの世界で現状、もっとも強い冒険者か。

 

 と、眺めていると、いつの間にかふたりの少年少女がそばにいた。

 彼らも掲示板を見上げている。

 

「はー、カリブルヌスさますげーなー」

「フラちゃんはミーハーだからねえー」

「えー! ねーちゃんこそ頭どうかしているんじゃないか!?

 カリブルヌスさまだぜ、カリブルヌスさま! 全世界ナンバーワンの冒険者さまだぜ!」

「おねーちゃんはあんまり好きじゃないわ、あの人。

 実際会ったことあるけど……なんか、ちょっとブキミだし。

 っていうか、あんまり騒ぎ過ぎないのフラちゃん、人様の迷惑になるから」

「あっ、えと、ご、ごめんなさい!」

 

 彼はこちらを見て素直に謝ってくる。

 イサギは無言で、構わないよ、という風に片手を挙げて応じた。

 

 姉弟だろうか。

 髪の色が違う彼らは、どちらも剣士のようだ。

 姉が赤毛。弟が金髪。

 姉は髪を横で片結びにして、弟は小さく尻尾のように縛っている。

 

 姉のほうはイサギと同じ年ぐらいだろうか。

 弟はそれよりも二つほど下のようだ。

 

 ずいぶんと年若い冒険者もいたものだ、と思いながらも、

 イサギは再び掲示板を上から眺めてゆく。

 何人か、20年前に共に戦った人物もランクインしていた。


 ただ、プレハ、バリーズド、セルデルの名前は見当たらないが……

 

 いや、あった。

 プレハ。全世界53位。

 しかし、すぐに気づく。

 ギルド名が<ワルキューレ>と書いてある。

 

 なるほど、彼女はイサギが魔王城で倒したあの剣士、プレハ・クリューゼルだ。

 世界53位。それがどれほどの位置なのかわからないため、なんとも言えない。

 

 それに53位といっても、それは功績ポイントでの順列なので、

 実際の戦闘力が、世界で上から53番目というわけでもないようだ。


 船に乗る前に戦ったばかりのドレグ・ドラゴネイという男は、

 全体順位では22位に位置していた。


 この辺りの評価制度は、ただ単に戦闘力ではなく、

 世界をいかにより良くしていったか、をわかりやすくするためであり、

 もともとイサギが発案したものだ。

 

 掲示板とは別に、壁に冒険者のマニュアルのようなものも壁にかけられている。

 イサギはしばらくそれを読み込んでいた。


(……なるほどな)

 

 大体の仕組みは理解できた。

 冒険者のランクは基本的にはAからGまでの7段階。

 S級はごく一握りの冒険者だけがなれる、特別な称号だとか。

 

 次のランクに昇格するためには、

 いくつかの試練や能力レベルが必要であり、

 単純クエストだけをこなしてもある程度は上位までいけるが、

 そこから先には必ず戦闘力が必要になる、というものだ。


 冒険者カードは身分証明書と同じだ。

 その人のランク次第で社会的信用が異なる。

 

 仕事のない傭兵やゴロツキを社会に組み込み、

 その労働力によって世界に繁栄をもたらす。

 それこそが冒険者ギルドを作る際の理念だった。

 

 犯罪者は減り、世界の富は循環する。

 それがアルバリススを救う国政になるものだと、イサギは信じていた。

 

 けれど。

 

(……あと問題は、やはり……)

 

 イサギは手が空いたところで、受付の女性に尋ねる。


「悪いが、リヴァイブストーンというものは、売っているか?」

「あ、はい、冒険者カードはお持ちですか?」

 

 にっこりと微笑む彼女。

 愛嬌のある、可愛らしい女性だ。

 ギルド職員たちは皆、揃いの白い制服を身につけており、

 彼女もそれが非常によく似合っていた。


「いや、それが登録してなくてさ」

「あ、それでしたらぜひとも冒険者カードをお作りください。

 リヴァイブストーンは冒険者さま専用アイテムとなっております」

「へえ」


 冒険者ギルドが独占販売しているものが、専用アイテムということか。


「冒険者専用アイテムっていうのは、色々あるのか?」

「ええ、たくさんありますよ。

 冒険や依頼の実行を手助けする魔具を、多数販売しております」

 

 受付女性は胸を張った。

 自分たちの仕事に誇りがあるのだろう。


「えっと、そういうのってなにか、目録とかないのかな」

「申し訳ございません。

 冒険者ランクによって販売するアイテムが徐々に解放されていきますので、

 そういった情報はこちらからは規制対象となっております」

「ふむ……」

 

(こちらからは、か)


 イサギは少し考えて、それから尋ねる。


「ちなみに、リヴァイブストーンは、何級から売ってもらえるんだ?」

「三級ですと、Cランク。二級はBランク、

 一級石の場合、Aランクからの販売となっております」

「ずいぶん上のランクからなんだな」

「ええ、リヴァイブストーンは貴重なものですから。

 それに、体が育っていない方にとっては、ショックも大きいですので」

「俺、田舎から出てきたばっかりだからさ、なにも知らないんだ。

 だからってわけじゃないけど、ちょっと意地悪なことを聞いてもいいかな」

「はい、なんでしょう?」

「えーっと、な」

 

 少し声をひそめる。


「例えば、俺は冒険者でもなんでもないわけだけど、

 それなりのお金をもっているとしよう。

 そこで、Cランク以上の冒険者を捕まえて、

 リヴァイブストーンを売ってもらおうと考えたら、

 これはどういう罪に問われるのかな、ってさ」

「その点はご心配なく」

 

 不安げな表情をしていた彼女は、すぐに微笑む。

 

「冒険者ギルドで販売されている商品は全て、

 本人でなければ使用できないものとなっております。

 ご購入時に、魔法陣承認(アドミッション)をしていただきますので」

「魔法陣承認……?」

 

 知らない言葉が出てきた。

 

「ええ、ご本人様の魔力波形を登録していただいて、

 その方以外はお使いになられないようになっております」

「へー……

 今はそういうこともできるのか。

 本人専用アイテム、ってことか」

「はい」

 

 なるほど。

 それが冒険者ギルドの技術力の産物、というものなのだろう。

 さすがに誰でも思いつくような不正には、対抗策が打たれているようだ。


 ホンの少しだけ安心した。

 リヴァイブストーンはある程度、上位の冒険者じゃないと使わせてもらえないようだ。


 この世界には、飲めば傷が癒える水薬のような都合の良いものはない。

 しかし、もしかしたら初心者冒険者救済用の、新たな魔具もあるのかもしれないが。 

 

「色々とわかった。

 ありがとうな」

「いえいえ。

 それで、ご登録はされていきますか?」

「またの機会にするよ」

 

 手を振り、窓口を離れる。


 時間があれば冒険者カードを作り、

 リヴァイブストーン以外の魔具についても見てみたいものだが、

 それらはもう少し落ち着いてからだ。

 

 今は脇目も振らず、ダイナスシティに向かうとしよう。

 



 港の外側に向かう。

 乗合馬車の手続きを行なうのだ。

 いくらイサギの足でも、さすがに馬車よりは遅い。


 ただ、やはり待合所は混み合っていた。

 暗黒大陸から避難してきた人たちだろう。


 冒険者カードを見せれば、あるいは都合してもらえるのかもしれないが、

 なるべくなら<ワルキューレ>のイサギのカードは使いたくない。

 どこで足がつくかわからないのだ。

 

(路銀にはまだ余裕があるしな。

 多少握らせることにするか)

 

 そう思い、運行表と案内板を眺める。

 ここ、ハウリングポートからダイナスシティに向かうルートは大きく分けて二種類。


 ひとつめ。大陸中央部の大森林ミストラルを迂回し、北側から人間族の王国を通過し、

 エディーラ神国側から中央国家パラベリウに入るルート。

 

 二つ目。大森林ミストラルを突っ切り、そのままパラベリウに入るルート。

  

 移動距離では圧倒的に二番目のほうが短いが

 しかし大森林を経由するのだから、危険も多いだろう。

 常識的に考えれば、北回りよりも日数がかかってしまうに違いないが……

 

 だが、それも20年前の話だ。

 どちらのほうが良いのだろうか。


 悩んでいると、再び冒険者ギルドで聞いた声がした。

 

「なあなあ、ねーちゃん、どっちから行く?」

「そーねー。ここはやっぱり、ミストラル直進の一択でしょ」

 

 ピクッとした。

 

 彼らは冒険者ギルドでカリブルヌスについて語っていた、剣士の姉弟だ。

 どちらも同じぐらいの身長で、イサギより多少背が低い。

 目を向けると、姉のほうと視線があった。


 よく見れば彼女の衣装は旅慣れているようだ。

 深い外套と、胸当て。それに小さな鞄を背負っている。

 荷物を必要最低限に留めているのは、取捨選択に長けている証拠だ。

 剣は鞘まで磨かれている。手入れも十分だろう。

 

 軽く頭を下げる。


「悪い。少し聞きたいんだが」

「え、なに?」

「俺はパラベリウ王国のダイナスシティに向かおうと思っているのだが、

 一番早く着くためには、どのルートを通ったほうがいいのだろうか」

「あーうん、なんだ、そういう話ね。

 いいわよ、えーっとね」

 

 姉は案内板にある小さな地図を指さす。


「ちょっと値段は張るんだけどね、一番早いのは間違いなくこの便よ。

 ダイナスシティとハウリングポートを結ぶ直通の特別馬車でね、

 一ヶ月半もあればダイナスシティに到着するのよ。

 その名も通称、トッキュー馬車」

「一ヶ月半……?」

 

 イサギは思わず聞き返した。

 魔帝戦争の折は、イサギがダイナスシティを出発してハウリングポートに着くまで、

 2年半かかったというのに。

 

「そ、すごいでしょ。冒険者ギルドが運営しててね。

 なんでも魔具の車輪と特別な馬でぐんぐん進むみたいなのよ。

 ただその代わり、一台ごとの貸切制で、

 すっごいお金かかっちゃうんだけど……」

 

 確かに料金を見てみたら、ひとつだけ桁が違う。

 ふうむ、と口元を撫でる。

 

 路銀は足りている。

 だが馬車を貸し切るとなると、途端にギリギリだ。

 デュテュからもらったほぼ全額をつぎ込むことになってしまう。

 今の時代の物価がわからない以上、なるべく倹約して行きたいが……


「……参ったな」

  

 どうしようか、と迷っていた時だ。

 質問に答えてくれた姉ではなく、弟のほうが顔を輝かせながら言ってきた。


「ねえねえ、にーさん、ねーちゃん!

 おれ良いこと考えたぜ!

 もし良かったらさ、折半して馬車を借りようよ!」


 唐突の提案である。


「え?」

「はあああ!?」


 その申し出は、まったくの予想外だった。  

 イサギだけではない。むしろ姉のほうが目を剥いていた。

 

 

 

ミスター・ラストリゾート:本編の主人公。またの名をイサギ。漆黒の仮面をつけ、冥闇のマントを身にまとう。夜から夜に駆け、悪人を成敗する。すごくかっこいい(自称)が、5-1にて海中に没する。今後の出番は不明。

ゼッド:ないわー。


姉:赤毛の剣士。ダイナスシティに向かいたい。

弟:金髪の剣士。怖いもの知らず。恐らくゆとり世代。

 

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