12-8 修羅道
寒風吹き荒ぶ雪国。
環境は厳しく、資源に乏しいエディーラ国を支えてきたのは、いつだって信仰の力であった。
この地に根ざす『女神教』とは、かつてこの世界から悪しき一族を追い払った女神と、その従者としてともに戦った六人の天使を信仰する宗教である。
すなわち、
『神愛』のノエル。
『希望』のカロラエル。
『勇気』のリャーナエル。
『忠節』のミシフォン。
『智慧』のディハザ。
『忍耐』のアラデル。
女神六徳と呼ばれる大徳を持つ六人の子らである。
そして今彼らの名は受け継がれ、今この地で新たなる畏怖を振りまく存在として誕生していた。それはあたかも天使たちが闇に堕ちたかのようであった。
六禁姫。彼女たちはエディーラの首都、リーンカテルダムの外れに位置する屋敷の中にいる。
悪辣なる顔をし、陋劣さを振りかざす。
今もまた――。
「ノエル」
声をかけられ、少女は振り返る。
真っ赤なドレスの裾がふんわりと揺れた。
「あなたぁ、ずいぶんシュウと“仲良く”しているみたいじゃない」
ディハザだ。その後ろにはおっかなびっくりとこちらを見つめるカロラエルがいた。
「……カロラエルから聞いたのね、ディハザ」
「別にどうだっていいのだわぁ」
残忍な笑顔を浮かべる彼女は、実に楽しそうだった。
「わかっているわぁ、あなたがお父様から教えられた大徳は『神愛』。常に人を包み込むその光は、わたしたちにとってもとても美しく、敬虔だわぁ」
「ありがとう」
「だ・け・ど」
ディハザはノエルの真っ正面に立ち、笑わない瞳をしていた。
「知っているでしょう。わたくしは『智恵』。わたくしたちの幸せ、そして願いを叶えるために、わたくしにはその義務があるのだわ」
「あなたの信心は見習うべきところがあると思っているわ」
「そうね、ノエル。ねぇ? わたくしがひとつ、あなたに助言をしてあげようと思うのだけどぉ」
手を打ち、口の端をつり上げるディハザ。
にこりともしないノエルをその心根の奥底まで見通すように、告げる。
「“悩みすぎ”は良くないわ、ノエル。気にかかることがあったら、わたくしに言ってちょうだいねぇ。なんでもわたくしが、あなたの懸念を取り払ってあげるわ。だってわたくしは『智恵』だもの。すべてわたくしに任せてくれていいのよ、ノエル」
「……」
ノエルはやはり浮かない顔で、それでも薄く微笑をした。
「ありがとうね、ディハザ。でも、わたしは大丈夫よ。あなたの魂も、愛で包むために、わたしがしっかりしてあげないといけないもの」
「うふふ、その調子だわ。いい子ね、ノエル」
ディハザはノエルの頭を撫でる。並び立つふたりは見分けがつかないほどに似ていた。
しばらく憂慮を抱えていた様子のノエルだったが、彼女はやがて思い出したようにつぶやいた。
「そういえばディハザ?」
「なぁに」
「アラデルはいつものようにお部屋で眠っているのでしょうけれど、他の子たちはどうしたのかしら? 最近姿が見ていないわ」
「ああ、そうねぇ、あなたはシュウのところにいたから知らなかったのよねぇ」
ディハザは妖魔のように笑う。
「とても楽しいことよ。楽しいことが始まったの。せっかくだからもっともっと楽しくするわぁ。残っているものは、なにもかも使い切ってしまわないと、もったいないものね。――滅んでしまうのだから」
「そうね、わかるわ、ディハザ」
「うふふふ、だからあなたは好きよ、ノエル。あなたはとてもお利口だものね」
ディハザはノエルの頬に唇を寄せて、軽い口づけをかわして去ってゆく。
取り残されたようなカロラエルは、自らのドレスの布をぎゅっと握りしめながら、うつむいていた。
「カロラエル」
「……っ」
ノエルの声に、彼女はびくりと体を震わせた。
「…………ごめんなさい、ノエル」
絞り出すような声に、ノエルは鼻から息を抜く。
「別に怒っているわけじゃないわ、カロラエル。あなたはわたしのことを心配してくれたのよね、わかっているわ」
「ごめんなさい、ノエル。あなたのことが心配だったのよ。あなたは誰にでも優しいから。でも余計なことをしてしまったわよね。わかっているのよ、ごめんなさい、ノエル」
「大丈夫よ、カロラエル。大丈夫、大丈夫だからね」
「ノエル……」
こちらに頭を預けてくるカロラエルに、ノエルは彼女の背を撫でた。その視線は床を這う。なんの光も映してはいない。
ぐずぐずと鼻を鳴らしていたカロラエルはしかし、すぐにこちらを仰ぎ見た。
「あ、そうよ、ノエル。聞いて、どうやらわたしたちを狙っているヒトがここに向かってきているらしいのよ」
ああ、とノエルは思い出す。
「そういえば、少し前にこの辺りをこそこそと這い回っている子がいると、聞いたわ」
「ううん、それじゃないの。シュウを助けに来る子がいるみたい。まただわ、無駄なことをするのね」
きらきらとした瞳に見つめられ、ノエルは目を逸らす。
「そうなの、ディハザはなんて? またわたしが行けばいいのかしら」
「ううん、平気よ、ノエルはわたしのそばにいて」
カロラエルはニコニコと笑い、そして無垢なる魔女のように。
「ディハザが言ったの。わたしもそれがいいと思ったわ。皆に『希望』を捧げるのは、わたしの役目。わたしがやるべきことを、ディハザが考えてくれたの。ディハザはやっぱり天才だわ」
「……それは?」
良い予感も悪い予感もせず、ただ淡々とノエルは聞き返す。
今まではノエルだって胸躍っていたはずが、今では悲しみの連鎖を繰り返すだけの異常な言葉にしか聞こえなくて。
カロラエルはとても楽しそうに、こう言った。
「ハノーファを向かわせるわ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
しばらくの間、姿をくらましていたイサギは冒険者エージェントの資格もとっくに剥奪されたと思っていたのだが。
しかし、承認されたギルドカードによって、いともたやすくトッキュー馬車を借り受けることができた。
大森林ミストラルからエディーラへは近い。
それはブレイブリーロードを辿る旅でもあった。
「……」
トッキュー馬車の窓から外を眺めるイサギの表情は硬い。
エディーラに良い記憶など、ほとんどなかった。
その中でも、セルデルを殺し、極術の余波によって北方の山脈を消し飛ばしたことはあまりにも鮮烈な記憶として、イサギの胸を今なお苛んでいる。
イサギはセルデルの野望を止めた。彼ら人間族が世界を支配するというその野望だ。
だが果たしてそれは本当に正しい行ないだったのだろうか。
もしかしたらまだなにかできたことはあったのではないか。
左の目玉を、眼帯越しに撫でるイサギの、その表情は硬い。
「……」
意気揚々と――とまではいかないが――大森林ミストラルを発ったイサギの心は、北に近づくほどに沈み込んできていた。
どこかへ旅するたびになにかを失って、それに比べて、新しく手に入れたものはなんて少ないことだろう。
ただひとつ愛さえあればいいと思っていたのに、それも叶わない。
胸の中のプレハはいつもいつまでもイサギを囁き続ける。
仲間を助けろ。人を信じろ。
勇気を持て。愛こそがすべて。
もし本当にそれが正しいというのなら、なぜ世界はここまで荒廃してしまっているのだろうか。
イサギひとりが頑なにプレハの想いを受け継ぎ、信じなければならない道理など、どこにもない。
かつて肩を組んだ仲間に裏切られて、裏切られて、裏切られて、それでも赦して、ここまできたけれど。
イサギの胸中に沈殿した淀みは、どんなに水を注いだところで失われることはないのだ。
帰りを待つデュテュやリミノたちの顔が、浮かんでは消えてゆく。
そうだ、彼らのために生きなければ。そして必ず帰らなければ。
「……愁、待っていろよ。必ず、助けてやるからな」
己の言葉までも空虚に聞こえるというのなら、いったいなにを信じればいいのか。
少女や仲間たちにもらった温もりは、いともたやすく消えてしまうのに。
凍てついた外の寒さは、体の芯を凍えさせ、いつまでもいつまでも冷たいままだった。
エディーラに到着したイサギは、すぐにセルデルの屋敷へと向かった。
そこに仲間が幽閉されているのだ。
途中、イサギが打ち倒したはずの女神の塔が目に入った。
しかしもはや、何事もなく修復されている。まるで時間転移したかのような錯覚に陥ってしまうが、違う。もうあれから一年以上経つのだ。
肩に落ちる雪を払いのけることもなく、イサギはそちらをじっと眺めていた。
あの場所でセルデルを斬った。
利用されていただけの騎士を斬り、そしてエルフの少女を助けられなかった。
イサギの記憶に残るアルバリススは戦の思い出だ。
どこにいき、なにを見ても、助けられなかった人たちが脳裏に浮かび、そして斬り殺した死者たちの念が聞こえるようだ。
以前はこんな考え方をしてはいなかったはずなのに。
なぜだろう、この身が神化病に冒されてから、こんなことばかり考えてしまう。
よくないことだとわかっている。
もう少ししたらプレハが目を覚ますかどうかの瀬戸際なんだ。
仲間たちを置き去りにし、逃げ出すようにしてここまでやってきた。
自分の心がわからない。
自棄にはなるなよ、イサギ。
己に言い聞かせながら、イサギはマントの前を閉めて雪風をしのぎ、また歩き出す。
寒い。
芯まで凍えてしまいそうだ。
とても寒い。
ここはあまり好きではない。
それでも行かなくては。
仲間を助けるために、そのために。
行かなくては。
自分を待っている人がいるのだから。
立ち止まっている暇はない。
こうしている間にまた誰かが死んでいる。
一分一秒ごとに、悲しみが降り注ぐ。
その怨嗟は魑魅魍魎のごとくイサギの足に絡みつき、煩累を及ぼした。
ひとりには慣れていたはずだったのに。
極大魔晶と離れた途端、これだ。
自分の中身はなにも変わっていない。
彼女がいなければなにもできない、ただの弱虫だ。
本当に、度し難い。
救えないな、とイサギは小さくつぶやいた。
――そのときだった。
「勇者イサギ」
ぴたり、とイサギの足が止まった。
雪で埋もれた道の半ばに、ひとりの男が立っていた。
長いコートをはおった、赤髪の剣士だ。
彼は吹雪の中でも印象的に輝く、真っ赤な双眸でこちらを見つめていた。
見覚えのある、男だった。
「父上を殺したのはお前だな」
「――」
はっとした。
その声には、聞き覚えがあった。
失われていない記憶の中から、イサギは答えを導き出す。
「……まさか、ハノーファなのか? そうか、愁を助け出すために、ここまで」
「お前が王都に戻ってこなければ、父上が死ぬことはなかった」
「それは――」
二代目ギルドマスター・ハノーファは、有無を言わせぬ口調でイサギを弾劾する。
吹雪の中に礫が混じったような痛みがイサギの全身を責め立てた。
苦々しい味を口の中に感じながらも、イサギは遠くの地で見知った人と出会えた嬉しさから、言葉を紡ぐ。
「……そんなことよりも、愁が捕まっているんだ。ハノーファも一緒に助けに来たんだろ……」
語りながらも、はたと気づく。
彼はイサギを『勇者イサギ』と呼んだ。
なぜだ、どうしてそれを知っている。
違和感が四肢の末端を痺れさせた。
「……アマーリエから聞いたのか? ハノーファ。……それで、俺を恨んでいるのか?」
「恨んでいるとも。お前は父上を殺したのだからな。なにが勇者だ。いい気になっているのか、仲間殺しが」
その言葉に、イサギの目の前が赤くなる。
彼は事実を誤認している。憎悪に心を囚われている。
過ちを正さなければならないと思った。
「――違う、すべての元凶はカリブルヌスと、そしてあいつを利用したセルデルだった。バリーズドはずっと苦しんでいたんだ」
ハノーファはまるで聞く耳を持たない。
「お前が父上をその苦しみから、永遠に解放してやったというのか?」
「……そんなことはない、あいつは、大事な仲間だった。仲間だったんだ。もうよせ、ハノーファ。一緒に愁を助けにいこう。俺たちを待っているはずだ……」
「仲間を殺したお前などと、共に歩める道はない。帰るがいい」
イサギは奥歯を噛みしめた。
「……もうやめろ、ハノーファ」
彼は間違っている。
言っていることはまるで的外れだ。
そうだ、そのはずだ。
はずなのに。
「お前が父上を殺したのだ。勇者イサギ。お前には誰も救えない。お前の行なってきたものはすべて――無駄だ」
――なぜそんなことを言われなければならないのだ。
「俺は精一杯やっただろう!」
叫ぶ。
「アマーリエを助け出し、神化カリブルヌスを止めた!」
「そのために父上を犠牲にしたのか」
「仕方なかったさ! 俺の手にはクラウソラスがなかったのだから!」
語るに落ちたその怒声が、空しく響く。
「あの場に俺がいなければ、どうなっていたことか! そんなことを想像できないお前ではあるまい! ハノーファ!」
「知ったことか。お前が介入した結果、父上は死んだ。それこそが事実だ」
「なぜそんなことを言うんだ……」
イサギはうなだれ、うめく。
かつての仲間であり、失った友の子が自分を親殺しだと糾弾する。これほどの悪夢があるだろうか。
「もうよせ、ハノーファ……。お前には、本当にすまないと思っている……。これ以上、俺になにを言わせたいんだ……」
「そうだな」
ハノーファは剣を抜いた。
「罪はあがなってもらおう」
イサギは絶望的な顔をして、ハノーファを見つめ返していた。
「俺に死ねと言うのか?」
ハノーファの瞳の色は赤い。
超常の力を持つものの証だ。
彼の様子がおかしいことぐらいはわかっている。
一体なにがあったのかわからない。
だが、それでも――イサギはハノーファから目が離せなかった。
「率直に言えば、そうなるな」
「……ハノーファがひとりで愁を助け出すのか?」
「お前にはもう、関係のないことだ」
「……」
これから死にゆくイサギには、ということか。
なんということか。
今まで生きてきたイサギの冒険が、こんなところで終わるのか。
様々な人を助けてきて、行き着いた果てがこんなことか。
許容などできない。
プレハや皆が、イサギの帰りを待っているのだから。
だが――。
「そうか……」
敵ではなく、イサギが守ろうとしていたはずの人に、こんなにも死を請われることなどはなかった。
彼が願うのなら……。
――瞬間、それは甘美な誘惑にすら、聞こえてしまう。
「俺が死ねば、お前の気は晴れるのか?」
「そうだ」
「……これから先、何の心慮もなく、生きていけるか?」
「ああ」
イサギをかばって、バリーズドは死んだ。
それならば、その息子であるハノーファのために、イサギが死ぬのもまた、道理なのだろうか。
志はまだ半ばだ。
シュウを助けられていないし、プレハともう一度言葉を交わすことも叶っていない。
デュテュやリミノには叱られるだろう。
こんなところで死ぬことになるかもしれないなどと、予想だにしなかった。
だが、だが――。
廉造に殺されそうになったとき、イサギは思った。
――これも仕方ないことなのかもしれない、と。
だったら今回のケースはあのときと、なにが違うのだろうか。
ハノーファが誰かに操られているとしても?
彼が本当にそう思っていないと、誰が言い切れる。
イサギにはもう、わからない。
「あの世にいる父上に、謝罪するのだな」
「……会えるはずもない。俺がいくのはどうせ地獄だろう」
「ならば悔やみ続けていろ」
ハノーファがゆっくりとこちらにやってくる。
死と生。
受容と反抗。
ふたつの心が今、せめぎあう。
選択だ。イサギは選ばなければならない。
すべてを受け入れた穏やかなる死か、これから先もあがき続ける辛く苦しい生か。
恐怖もなにもない。
なにもかもがしんしんと雪のような悲しみに覆い尽くされているばかりだ。
指の先までしびれるような寒さの中、ゆっくりとハノーファが迫る。
人っ子一人通らない、雪道がイサギの墓場か。
ふさわしいのかもしれないな、とイサギは思っていた。
あるいはこのままひとりでいたら、本当に殺されていたのかもしれない。
「――待ちなさい」
黒尽くめの格好に、燃えるような長い赤髪。
雪世界に、黒点が穿たれたかのようだった。
「そうはさせないわ」
その女性は毅然と、ハノーファとイサギの間に立ち入った。
腰に剣を帯びている。彼女も剣士だ。
異様であった。
――その女は、仮面をつけていたのだ。
「すぐに戻ってきて、良かったわ。……まさかこんなことになっているとは、思わなかったけど」
「……なんだ、お前は?」
ハノーファは顔を歪めたが、気にせず。
彼女は無防備に、こちらを振り返ってきた。
そして告げるその言葉。
「イサギ、諦めないで。あなたの未来は、あたしが拓く」
どこかで聞いた覚えのある、懐かしい台詞であった。
「常に誇りを胸に。自分の信じる道を征きなさい。あなたがあたしに教えてくれたことだわ」
この人物も自分の名前を知っているようだ。
顔の上全体を覆うような、その彼女のいびつな仮面を見つめ、イサギは誰何する。
「なんなんだ、急に、一体……お前は、何者だ」
「あたしは――」
腕を振ったその瞬間、彼女の周囲の粉雪が舞い散った。
白銀のカーテンに包まれながら、赤髪の女は優美に、そして堂々と名乗る。
「――ミス・ラストリゾートよ」
仮面の奥のその瞳が、凛と輝いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ひとりの男が、中央国家バラベリウのとある街にいた。
彼は冒険者ギルドの門をくぐると、案内板へと向かう。
右から左まで眺めて、そしてひとつのメモを見つけた。
そこに描かれていたのは――日本語だった。
緋山愁からの伝言。
「……」
彼が行方不明になったというのは、もちろん耳に入っている。
その実行犯が六禁姫と呼ばれる忌まわしき存在であるという追加情報も、まもなく届けられた。
――。
思うことは、ある。
間抜けな男め、と罵る気持ちなども、また。
だがそれよりも今は、彼の頭の中にひとつの考えがうずまいていた。
振り払えない。
まるで悪魔のようなささやき。
掲示板の前で破いたメモを見下ろしていたところで、ひとりの少年が走り寄ってきた。
「あ、と、頭領! だめですよ、まだそんな体でうろついちゃ!」
「……」
振り返るその男の両眼は、紅い。
男は石をこすり合わせるような声をあげた。
「北だ」
「……え?」
「行くぜ」
戸惑う少年を置き去りにし、男は歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、頭領! 一旦本部に戻って、治療を受けた方が――」
邪魔な音はもう、なにも聞こえない。
その男は、足利廉造。
勇者イサギと死闘を繰り広げ、全身に生涯完治することはない傷を負った将。
世間では行方不明者として扱いを受けている、その男は向かう。
「――グズが」
神国エディーラ。
運命が集う、禁断の地へと。