第二章:「似て非なる存在」
突如として、少年の耳がわずかに動いた。乾いた枝が折れる音――それは、彼の知るどの四足獣とも異なる歩法の響きだった。スライムは即座に硬化し、警戒態勢に入る。二人は完璧な同期をもって、茂みの境界へと視線を向けた。
草木が左右に分かれ、八年という歳月を経て、少年は初めて自分と同じ姿をした存在を目にした。しかしそれは、時の流れによって歪められた、見知らぬ鏡のようでもあった。
そこに立っていたのは、一人の老人だった。顔には過去の冬を刻み込んだ地図のような深い皺があり、白髪混じりの髭が荒々しく伸びている。彼が身に纏う革の服や粗末な布地は、少年にはあの竜と同じくらい異質なものに映った。老人は矢を番えた弓を構え、狩人の鋭い眼差しを向けていたが、少年の姿――腰まで届く奔放な髪と、野生の光を宿したエメラルド色の瞳を持つ少年の姿を捉えた瞬間、その手が激しく震えた。
弓がゆっくりと下ろされた。矢はもはや脅威ではなく、外界の存在を告げる象徴へと変わった。老人は瞬きを繰り返し、顔から緊張が消え失せ、驚愕がそれに取って代わった。彼は少年と、その傍らで彼を守るように佇む青い生物を、信じられないものを見るように見つめた。
「神よ、なぜこのような光景を私に見せるのですか……」
老人は祈るような、震える声で呟いた。
「……お前、こんな忘れ去られた地の果てで何をしている? 迷い込んだのか? 怪我はないか?」
少年は答えなかった。いや、答えられなかったのだ。人の声という響きが、静かな水面を叩き割る石のように彼の耳に突き刺さる。食べかけの魚を手にしたまま、彼は硬直していた。かつて竜を見上げた時と同じ、恐怖と好奇心が混ざり合った眼差しで老人を見つめる。
二人の間に流れる沈黙は、いかなる人の言葉をもってしても、今はまだ越えられぬほど深い深淵だった。




