別れは死の時報
「岬ちゃんって愛が重いって」
今日スタバ行こうってノリでクラスメイトがそうこぼした。岬ちゃん、元気溌剌で文武両道ってほどではないけど、真ん中にいる女の子。
岬ちゃんは他の学校の人と付き合っているという噂は元々あった。他の学校の人とこの前ミスドで見たよ、ユニバ行ったみたいだよ、ネカフェで見たよ。岬ちゃんと付き合える男って絶対にいい男だよ。
岬ちゃんのことではなく、付き合っている男の目線から見た噂があまりにも多く、その話には岬ちゃんがどう思ったかという視線は欠如していた。見たことのない相手なのにどこでミスドやユニバで見たのか。噂の話は誰かが作った話だろうと感じさせてしまう。
「そうなんだ」
その一言ですべてが終わる。そのあとには新しいフラペチーノの話になった。結局、岬ちゃんがどうしようとすぐに流れるトピックで人の恋愛に止まっている場合ではないのは私たち女子校生の呼吸だった。
岬ちゃんはそのうちラブホで一夜をともにしたという噂も流れて先生に話を聞かれて、その話ですら流れてしまう。
岬ちゃんの名前が凛であることもみんなの頭に残らずにみんな凛のことを岬ちゃんとしてしか認識せずに新しいドーナツの事ですぐに終わってしまう。それが岬凛と私の恋愛だ。
女子としては背が高い方だ。それに中性的な衣服を選ぶ。凛は甘えんぼでデート中、私の体をよく触る。最近は脇の下が好みだ。どうにか性感帯を見つけると精を出しているが、残念ながら私の性感帯はマニアっくなところだ。言ってしまうと私は触りたがる凛によって脱がされてしまう。凛の為ならなんでもするけど、催した凛の為にわざわざ多機能トイレを探すのは面倒だ。
凛は愛が重いのは本当だ。いつも目に入れるのは私であって欲しい。と、よく言われる。
それを平気で要求する。わざわざ人目を避けて行ったプールで着替えようとするとそれさえも見て欲しいと言われる。でもとても素直な子なので、無理なことは無理と伝えると我慢してくれる。その代わり二人で私の家に帰ると私の首に痕跡を残される覚悟をしないといけない。
凛はたばこを吸うし、酒も飲む。私はすすんで嗜む方ではないので、凛に言われても嗜むことはしない。オプションの8ミリ。オプションシリーズはスッとするし、味が多いけど、私はノーマルなオプションがいいと豪語している。私はそれを聞いて私の彼女って馬鹿だなってその一瞬だけ思うのだ。
「蒼って何が欲しい?」
凛が言っているのはおそらくサプライズ誕生日プレゼントの件だ。サプライズはしたいけど、無駄な物は買いたくない。二回目の誕生日は一回目と同じくこう答える。
「凛の健康が私の一番欲しいことだよ」
そうしたら凛は去年と同じく。
「そんなのズルい」
と、言うのだ。
本当に凛の健康は尊い。あんなに喫煙してよくもまぁどうともないことだ。飲酒は家の中でするけど、そんな凛を腫物に触るようなことをしているから、凛はもっとどうしたらいいか分からなくなる。凛は家族に飢えていて、情事は叩きつけるものになる。それが「お母さんが笑ってくれない」とか「弟が目を合わせてくれない」になるとよく攻める。でも攻めることに慣れていないから、いつも上に乗ってガシガシやって泣き出す。私は凛の為に痛いのを一週間我慢する。
あの子は私がいないとダメだ。
噂は凛の家族に及んだ。中学から凛の家族を知っている悪意のない誰かが凛のお母さんが漏らした。
「最近、悪い子と付き合っていて恥ずかしくて家族で外出出来ない」
そういうことを言ってしまった。中学から知っているだけあって、その噂の周りは早く。いつの間にか凛の家庭は機能不全家族ということになった。彼氏の話は出なくなり、そういう週刊誌みたいな話はスタバのフラペチーノとかミスドの新作よりかは優先事項になった。
「岬ちゃんって喫煙しているって本当?」
凛は嘘をつく能力はある。冗談っぽくごまかすうちに話はスタバのフラペチーノの話に流れる。プライドは高く、外聞を気にする凛はこういう時に荒れる。部屋で私にたばこを押し付ける。みんな私を馬鹿にする。私はおもちゃじゃない。
凛は病んでいる。家族からは忌避されて、学校では剝がれやすいメッキを張っていて、私に無限の愛を引き出せなくてもうどうしようもない。
「蒼は私と死ねる」
疑問符ではなく、断言だった。私はただ凛を抱きしめる。
「凛が一番好きだよ。愛している」
私はその一週間、痛いのを我慢して過ごすことになる。次の日、会っても入れようとするから、痛い我慢してくれた。私たちは付き合って二度目にクリスマスにプレゼント交換をした。凛はチョーカー、私は健康のお守だった。凛にとっても大切な物だ。キスでは足りなくて、自分本位のセックスは空虚に感じる。自分の物にしたいから分かりやすい証明が欲しいのだ。
「なんでお守り?」
「私がいない時に守ってくれるよ」
「いない時があるの?」
「トイレとか」
「何それ」
凛はクスクス笑った。この一瞬でも凛が笑って嬉しかった。
「エッチしようよ」
自分本位のセックスが始まると思った。辛うじて中は治っているけど、正直少し面倒だ。日に日に凛とのセックスが億劫になってきた。毎日がハッピーってわけではないけど、時間が経つにつれてしたいことが出来てきた。それをするには凜はやや邪魔だった。距離を離すとこの子は終わる。私のせいで薬に手を出したら後味が悪い。
「蒼、どうした?」
冬休みは明けて二月になったある日、クラスメイトが背もたれに頬杖をつき話しだした。
「ちょっと寝れていなくて」
「彼氏?」
この子は悪意無く機能不全家族がどうという話をした凛の幼馴染だった。ここで余計なことを言うと凛が傷ついてしまう。
「まぁね」
「もしかして激重?」
「どうかな」
「私は蒼の事をそんなにしないかな」
「あんたレズだっけ」
「蒼だけだよ」
思えばこの子レベルの情報網だと私と凛の交際を知らないわけはないだろう。
「凛よりいいはずだけど、考えておいてよ」
幼馴染さんとの噂は一日で学年を回っていて、隣のクラスの人が見に来るほどだった。
「茜と付き合えば?」
「茜の方がいい女だよ」
どうせそのうち新作が出たらそっちに話は流れるし、凛だってこっちに帰ってくる。でも私の思う以上に展開は複雑だ。学校なのに凜が迫ってきた。
「茜ちゃんのこと好きなの? どういうことか分かってる。私たちのことばらしたの知っているでしょう。ありえない本当にありえない。乗り換えるの? 私を捨てるの? ねぇ、早く何とか言ってよ。どうせ私の事はどうでもいいんだ。私が重いから避けるの? なんでチョーカーつけてないの。私が面倒なの? なんとか言ってよ」
私は凛を抱きしめた。それが一番残酷なことを私は知っている。今から別れのカウントダウンが始まるのだ。違うという一言は最後まで私の口から出なかった。
私の彼女は重い。いつでも見て欲しいっていうし、一緒に出掛けたら体を触ってくるし、すぐに不安になってたばこ吸うし、クリスマスプレゼントはチョーカーだ。私の物だと思わないと安心出来ない。ガシマンするし、重くて愚かで可愛い彼女だ。自分本位だし、私のことはあまり考えてくれない。
放課後、私は茜を呼び出した。教室の外には野次馬多数。
「悪いけど、茜ちゃんと付き合えない」
「はいはい、彼女を大切にしなさいね」
「サンクス」
「……、簡単に別れないでね」
茜はつかつかと教室を出て行って、野次馬に「いやぁ、女に振られたのは初めてだわ」と笑って帰った。
「待った?」
教壇の中に潜んでいた凛は私を抱きしめた。
「私の前からいなくならないでね」
「分かっている」
この子から離れるときは私の死ぬ時だ。凛と別れるカウントダウンではない、私の命が消えるカウントダウンだ。
「一生、そばにいてね。絶対だよ」
私たちはどちらかの部屋ではなく、久しぶりに普通の恋人らしいことをした。ボーリングに行って、カラオケに寄って、スタバでフラペチーノを飲んだ。
そのあと、凛と形ばかりのセックスとガシマンをして、私の股は血で汚れて、凛は股を私がふいている間たばこを吸った。冷静になって謝罪をして私はいつも通り「大丈夫、痛くない」と言って、そのせいで不安定になった凛はたばこの火を私に押し付けて泣いて、また薬を取りにいこうとするのを止めて抱きしめる。
そういういつも通りを過ごして発情した凛に再び抱かれる。そういう毎日を夜まで過ごした。疲れて眠った凛に毛布をかけて私は凛の家を出た。凛の家族の気配は凛と過ごしている間も感じなかった。
傷はいくらまで増えるだろうか。




