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9話

「お前が覚醒……者?」


『はい、詳しくは後ほどお伝えします──でも、今はそれよりも……その銃、捨てないでくださいね。すでにバケモノがあなたに気付いていますから』


「……バケモノが俺に?」


 そう、単調な声色が告げた瞬間、ピクリと背筋が粟立った。

 インターホン越しのモニターには少女がこちらに向けて、指を突きつけていた。


 ──ぎょっとした俺はすぐさま振り返り、割れた窓の外を見る。そこにあったのは、ありふれた住宅街の景色……のはずだった。

 けれど隣家の屋根の上を佇む黒い影がこちらを見つめていた。


 最初は人影だと思った。だが、違う。

 腰の高さからねじれたように曲がった四肢、細すぎる腕と膨れ上がった肩のアンバランスさ。

 瓦屋根の上で膝を折る姿は明らかに人間の骨格ではなかった。


 ねじれた四肢。口の端まで裂けたような笑み。

あれは……京都駅で遭遇したバケモノと同じ得体の知れない何かだ!


「嘘だろ……また来たのかよ……!?」


 インターホンの向こうの少女が静かに呟いた。


『さぁ、始まりますよ、覚醒者さん。これは、私たち人類の希望、覚醒に選ばれた救世主の宿命ですから』


「……こうなったら、やってやる。覚醒とか救世主とか知らないが、生きる為なら……家族の仇を打つならなんだってしてやるよ」


 徐にジャケットを脱ぐ。

 右手にはカッターナイフ。左手には拳銃。七発ほど装填されている。


 拳銃を手にするのは初めてだった。重みも、冷たい感触も、すべてが未知で、引き金に触れる事すら怖かった。ほんの少しでも間違えれば暴発しかねない──些細な想像だけで体が強ばる。


 正直なところ、拳銃はまだしもカッターナイフは役立つのか疑問ではあるが、ないよりは幾分かマシだ。持っているだけで安心感を覚える。

 カッターナイフと拳銃に俺の命を賭ける。その気持ちだけで十分だった。


(死んだら、父さんと母さんも快く迎えてくれるだろ。よくやったって……)


 リビングと繋ぐ廊下を通り玄関から外に出る。

 不思議と恐怖は消えていた、アドレナリンが分泌されてもう脳も麻痺しているのだ。

 京都駅でコイツと出会った時とは違う。脳も冴えて体もよく動く。


 屋根にいるバケモノに目を遣ると、アイツはぬるりと首を傾げた。


「……あの女、一体どこいったんだ? さっきまでここにいたはずなんだが……」


 玄関から外に出ると、少女の姿はなかった。

 その瞬間、屋根の上から一気に距離を詰め──俺を目掛けて奴が突っ込んできた。


「………………ッ!!」


 間一髪、転がって避けた俺の頭上を、漆黒の爪がかすめる。

 壁がえぐれアスファルトに大きくヒビが入って隆起する。とんでもない破壊力だ……。

  

 もし当たったらと考えるだけで背筋が凍る。足がすくみそうになるのを必死に振り払い、俺は本能のままに走り出した。振り返る余裕すらない。

 もし次の一撃が飛んでくれば避けられない。


 耳の奥で轟く鼓動に急かされるように、建物の影へと身を滑り込ませる。

 だが背後から迫る気配は衰えず、逃げているはずなのにまるで逃げ場など、どこにも存在しない錯覚に囚われ全身を脂汗が伝う。


「くそッ……! あぶねぇ!」


 隣家の庭に身を潜めていたが轟音とともに壁が粉砕された。腕が突き破り、瓦礫と塵を撒き散らしながら俺の顔すれすれを抜けた。


 どこに隠れようと見透かされている。身を伏せる事も、距離を取る事も意味を成さない。獣の勘なのか、それとも異形の力か。

 逃げ道はどんどん狭まり息が荒くなる。避けても避けても追い詰められる。まるで俺という獲物が最初から掌の上で転がされていたように。


 だが────


 このまま逃げ惑うだけでは確実に仕留められる。喉を焼く呼吸の合間、


「……ふざけんなよ」


 俺はすぐさま体勢を立て直して父さんから受け取った拳銃を構えた。

 焦点を定める。動くな、手元をぶらすな──撃て!


「…………うおおおっ!!」


 トリガーを引いた。パンッ、パンッと軽い発砲音。

 同時に強烈な反動が腕を打ちのめす。二の腕から肩にかけて重い痛みが走り、握った指先まで痺れる。

 

 息を整えようと腕を下ろすと、鈍く重い痛みが骨の奥まで響き、次の一発を撃つのを躊躇わせるほどだった。


 だが、バケモノは紙一重で見切ると、身をくねらせて避けた。


(は、速いッ……!!)


 そんなはずはない。ただの反射神経のはずがない。まるで、撃つ瞬間を予知していたかのように発砲音と同時に軌道を予測した?


 奴が跳ねる。壁に張り付いたかと思えば、再び躊躇いなしに俺をめがけて飛びかかってきた。


「く、来るなッ……!」


 咄嗟に右手のカッターナイフを胸にある大きな目に向けて足掻く。 


 ここで死ぬ、そう思った。

 自分の頭くらいある大きな右拳は俺に焦点を当てて、この軌道はおそらく直撃する。

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