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7話

「……うそ、だろ……」


 血が壁にまで飛び散り、むせ返る臭いで辺りは充満していた。


 何が起きたのか、理解が追いつかない。心が現実を拒絶して壊れそうだった。心臓が締め付けられたようで、ひどい動悸が襲う。


 俺はただ、その場に呆然と立ち尽くしていた。思考が止まった。

 時間だけがどこか他人のものみたく流れてゆく。時計の秒針を数える音がカチカチとリビングに鳴る。


 足が震えている事に気が付いたのは膝が、がくりと折れたときだった。

 視界が揺れて世界が歪曲してゆく。ひどい目眩に襲われた。


 喉から漏れた声はもはや言葉ではなく、悲鳴とも嗚咽ともつかぬそれが空っぽの家の中に虚しく反響する。


「……っ、あ、ぁ……うぁ……」


 膝をついた床に、乾き始めた液体がズボンに染み込む。


 母さんの血だ、父さんの血だ。温もりだったはずのものがもう冷えている。


「……かぁさん、とうさん。うそだよな? わるいドッキリだよな、どがすぎてるって」


 呼べば起きてくれると思っていた。

 冗談だと、誰かが笑ってくれると思っていた。


 返事はない。割れた窓からひゅうっと風が吹く。

 ──誰も、ここにはいない。


 家族の笑い声が響いていたリビングはただの屍の眠る場所へと変貌していた。

 鮮やかなはずだった夕焼けの残光も、今は血の色を連想させる忌々しいものとしか捉えられない。


 何もできなかった、守れなかった。

 帰る場所があると思っていた。


 でも、ここはもう──俺の家じゃない。


 ぽたりぽたりと、自分の涙が血溜まりに落ちていく。

 混ざる事なく冷たく弾かれた。心が空っぽになる。

違う。空っぽじゃない。

 冷たい氷のような何かが胸の中を満たしていく。音がしない。ツーンと鼓膜が塞がれたような静寂が世界を包み込んでいた。


 あぁ、現実の輪郭がぼやけていく。



 ──俺の世界が、終わった。

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