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3話

 それは惨憺たるものだった。あの後、中継を見た俺たちは言葉通り絶句したと同時に、画面に釘付けになっていた。


『全人類が同時に見た夢』——それは、単なる不可解な現象では済まされない事案で、世界中の人間が同じ夢を同じ内容で、同時に見た。そんな事が本当に起きたのだ。    


 さらに夢の中では神を名乗る存在が、世界の崩壊と逃れられない『代償』の到来を啓示していた。


 画面が切り替わり、防犯カメラが捉えた異形の姿が液晶に映し出される。人型の得体の知れない何か、漆黒の触手が全身を覆うバケモノと形容するに相応しい殺戮兵器だった。


 テレビ越しではわからないがそれほど大きくないその体躯に反して、自由自在に触手を変形させる。そして、驚異的な身体能力でいとも簡単に人間を一刀両断にした。

 言わずもがな、ネットは騒然としていた。『怖い』『世界の終わりだ』など動画を観た人々は一抹の不安感を文字として綴っている。


 陰謀論、終末論、ノストラダムスによる予言の的中──宇宙人、様々な憶測が飛び交いSNSもニュースもどこもかしこも夢の話題で埋め尽くされていた。

 著名な研究者たちも困惑の色を隠せず、政府ですら正式に「未曾有の現象である」と、会見を開く事態からして極めて異常だと言える。


 だからといって、こうもしていられない。異常事態に直面してなお、然る事ながら俺には学校があるし父さんも仕事、母さんはパートに出るしかないのだ。



 しかし、駅構内は大パニック。ホームにはいつも以上に人が溢れていて駅員がアナウンスで何かを叫んでいるけど、誰も耳を貸していない。

 かえって、ざわつきは収まるどころか激しさを増し、不安をいや増しに掻き立てる。


 電光掲示板には『点検中』『遅延』『運転見合わせ』の文字が羅列され、普段は無表情で物憂げな通勤客たちが今日ばかりは一様に顔を強張らせていた。


 電車が動いていない事もあり学生、会社員など駅は多くの人でごった返し、まるで休日のテーマパークにいるのかと思わせるほどの数で、人混みが嫌いな俺からすると些か気が滅入る事案だった。通っている大学の線も運行が遅れているらしい。


 ふと、耳を澄ませると皆総じて、同じ話題を挙げている事に気が付く。


「――昨夜、同じ夢を見ましたか?」


 さっきから駅に来るまでの道を含めて、あちらこちらでそのフレーズが囁かれていた。

 まるで何かの合言葉みたいに知らない人同士が恐る恐る確認し合っているのだ。これほど異様な光景を今までに見た事がない。


 普段は何も会話を交わす場面などなく、大方スマホに視線を落とすか寝ているかして、暇を持て余した人たちが共通項があるだけに、まるで他人ではないように高揚させて語り合う。


 恐怖に支配され行き場をなくした思いをどうにか昇華しようとしている風だ。


 ────京都駅。


『三番線、大和西大寺駅行き急行は現在運行を見合わせております。お客様には大変ご迷惑をおかけしますが、今しばらくお待ちください』


(ああ、これ相当ヤバいな。家出るのも遅かったし学校に遅れちまう……)


 運行に関するアナウンスを聞いて、そう思った直後だった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ…………!!!!!」


 凄まじい絶叫。三番線のホームを目指して階段を上ろうとしたとき、目の前からスーツを身に纏う長髪の女性が血相を変えて降りてきた。


「やめて、来ないでッ! 来ないでええええええっ!!」


 彼女は泣き叫びながらこちらに駆けてくる――と、次の瞬間、何かが階段の上から現れた。俺は瞬時にそれを理解した。


 ────バケモノだ。

 言葉にすれば、陳腐な表現になってしまうが、何度見ても適当な表現だと思う。目が拒絶する。理解しようとすればするほど、頭がズキズキと割れるように痛くなる。人間界に存在しない異形だったのだ。

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