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25話

 踵を返してまた、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開く。


 ショッピングモール内はあいも変わらず、荒れていた。追い打ちをかけるように、凍えた風が肌を突き刺してくる。


 ひとまず、玄ちゃんと最初に遭遇した二階を目指す事にした。


「あ、えーっと……そういえば、私の自己紹介を忘れてた!」


 ひなみさん? がくるりと振り返り、ウインク混じりに微笑む。


「遅くなったけど、私の名前は芦屋ひなみで~す! 京都中央高校の三年生、座右の銘はアウトローに生きる! 趣味は……まぁ、スポーツかな?」


「……、立志社大学の氷室祐だ。よろしく」


「京都府立女子大学の幡代エマです。よろしくお願いします……」


「すっご〜い! 二人とも府内の難関大学じゃん、いいな〜っ!」


「そ、そうか?」


 突拍子のないテンションについていけず、俺たちはしばし無言になった。


 芦屋はそんな間すらお構いなく、通学鞄から手鏡を出して前髪を直し始めた。

 手入れされている綺麗な黒髪の長髪を揺らす。

視線をだんだん下に落としていくと、艶めかしい太腿が視界に入って、すぐさま焦点をずらす。


 まず、その丈の短いミニスカートをどうにかして欲しいのだが、到底言えるはずもなかった。

 俺以外、女子三人だということを決して忘れてはいけない。セクハラと受け取られる発言には気を付けなければならない。


 すると、幡代は探るように言った。


「芦屋さんは、なんだか陽気な方なんですね」


「そりゃあそうでしょ、こんな非日常だからこそ日常の名残を忘れないようにするって、結構大事じゃない?」


「確かにそれはそうですね。どんな状況でもポジティブな気持ちを持つのは大事だと思います」


「でっしょ~! エマっち!」


 芦屋は声に合わせて軽く指を鳴らした。明るさと軽快さを携えている。


「……ていうかエマっち、ってなんなんですか?」


「ええ~、そりゃあ。あだ名かな!」


 幡代がわずかに困ったように眉を寄せつつも、否定の意思はなさそうだった。

 肩を組まれて、されるがままといった様子だ。こう見るとどっちが年上なのかわからない。


 芦屋は身長が俺と同じくらいだろう、百七十センチほどある。


 身長だけで見れば彼女の方が断然年上のように見える。まだ、制服を着ているのがせめてもの救いだな──と、言えば激昂が飛んでくるので唾液と共に飲み込むことにしよう。


「……ほんじゃあ、次はゆうっち! よろしくね~!」


「俺もその呼び方なのかよ……別に普通に呼び捨てでいいぞ」


「そんなの面白くないじゃん! もっと仲良く行こうよ。ね〜、玄ちゃん!」


「面白くないって……」


 調子が狂う……昨日から陰鬱なニュースやら自分を含めた生きる希望を失った人たちを見ていたからなのか、いきなり芦屋のような明朗快活とした姿を見せられると眩しくて正視できない。


 淀んだ空気に反して、周囲から浮いている発言や行動は常軌を逸していた。


 停電により、止まってしまったエスカレーターを登る。


 ふと目の前にいる芦屋の大きなリュックが視界に入って、不思議に思った俺は訊ねた。


「それで、芦屋は避難所に戻るつもりはないのか?」


「え、なんで……? なんでわかったの!?」


「いや……お前の大きいその荷物が見えたから。帰る気ないんだろうなと思ってさ」


「……あ、これの事?」


 芦屋は親指を軽く立てて、背負うリュックを指した。肩越しにチラリとこちらを見遣って破顔する。


 可能な限り、余計な物を減らしたコンパクトな俺たちの外観とは反して、まるでバックパッカーが背負う大きなリュック。


 今から数々の国を渡り歩くつもりなのか、と錯覚させてしまうくらいだ。

 あと帽子を追加すれば思い描くそれの完成。制服とは不調和な感じ。


「もちろん、帰る気はないかな。あんな辛気臭い場所にずっといたら気が滅入っちゃうし、なによりつまらないからね。だ・か・ら、このまま抜けちゃおうってわけ!」


「それにしても、大きすぎる気はしますけどね……」


「何事もデカくしとけりゃ安心だからね。大は小を兼ねる、ってヤツ!」


「言いたい事は分からなくもないですけど……見た感じ動きにくそうですけど。その中、一体何が入ってるんですか」


「エマっち、いくらなんでも野暮すぎるよ。男の子がいるのにさ〜!」


「そうですか……それ以上は言わないでください。はい。わかりました」


 幡代は呆れ果てた様子で溜め息をつき、それ以上言及はしなかった。


 視線をエスカレーターから見える荒廃した一階のショッピングモールへと移す。


 バケモノの気配は一切ない。時が止まったような静寂が館内を包み込んでいた。


 エスカレーターを登りきって、さきほど最初に玄ちゃんと出会った場所。

 そこには倒したバケモノが干からび上がっていた。真っ黒な血は蒸発したらしく、跡形もない。


 思春期特有の好奇心が魔が差したのか、玄ちゃんは一度見るもやはり後悔したらしく「……きもちわるい」と、顔を歪ませた。


 芦屋は興味深そうな顔で足を折りたたみ、それから、死体をまじまじと覗き込んでいた。


「なんとなくだけど、死んでからあんまり時間が経っていない感じだね~」


「ついさっき、襲われていた玄ちゃんと出会ったときに殺したからな。ほんの数時間前くらいじゃないか?」


 幡代はゆっくりと頷く。


「ええ~ッ!? これエマっちがやったの? どうやって、ナイフ? それともライフルとかマシンガンでも使ったの?」


「……いえ、たまたまです。ナイフとか色々使って倒しただけです」


「避難所でエマっちがバケモノだって言っている人いたけど、それって本当なの? 見た感じ普通の人間だしそんな風には思えないんだけど……」


「違います。おそらく、混乱していたのだと思います。バケモノの触手攻撃と私が重なってしまい、見間違えたという線が濃厚ですね……」


 怒涛の質問攻め。幡代は右手に持っていたナイフを芦屋の前に見せて、いい加減な嘘をついた。


 覚醒者の能力を伏せたのだ。一般人にバレたくないという思いは重々理解できる。


 なぜなら、碌な事が起きないからに他ならない──あの避難所の件に然り、しかしこの子には完全には見破られておらず、弁解の余地はある。


 玄ちゃんに見せなかったのが功を奏したと言うべきだろう。芦屋の事も正直よくわからない。どういう人間で、そして何がしたいのか未だに理解が及ばない。

幡代も同じ事を考えていたのだ。


 普通の感性ならばバケモノの疑いをかけられている奴に不用意に近づくなどしないが、極めつけのアウトローバカなのだろうか? 


 人情深い性格には見える。けれど、建前のような気がしてならなかった。


「ふぅん……そっか。そっかそっか。エマっちはとっても強いんだ!」


 表情から明るさが抜け落ちているわけではないが、声色が少し単調のような気がした。


 しゃがみ込んだ姿勢を解き、


「ほんじゃあ、どんどん進んでいこ〜う!」


「うん……早くママに会いたいよ」


「行きましょうか、氷室さん」


「……ああ、そうだな」


 玄ちゃんと手を繋いで意気揚々と歩く彼女の様子を窺い、俺たちは歩き出す。


 ふと幡代が袖を引いて歩みを遅めるよう促してくる。


「幡代? どうしたんだ?」


「いえ、どうしたも何も……」


 小首を傾げて、目の前に歩く芦屋を見遣る。


「やっぱり芦屋さん、なんか変じゃないですか? 全体的に妙な雰囲気というか……」


「それは俺も思う。何が目的なのか、全くもって底が読めないんだよな」


「ちょっとだけ、気を付けておいた方がいいかもしれません」


「……わかった」


 そして、言いたかった事を終えるとすぐに俺の側から離れた。

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