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24話

 ──ギギ、ガチャ。


 すると、また背後の扉が開いた。

 ついさっき、俺たちが立ち去る事を余儀なくされた鉄扉。


 ほんの少し開けた隙間から現れたのはとある女子高生だった。


 俺と幡代は思わず身構えた。


「……は~あ! つーかれた~。ほんと嫌になっちゃうよね~キミたち、それでこの先大丈夫なの?」


 言いながら、後ろ手に扉を閉めた。


 一体何なんだ? この人は。文句の一つや二つ言いに来たようには見えない……それを裏付ける理由として、玄ちゃんを含めた俺たちを心配していたからだ。


 普通の心配というよりはアウトローな感じだが……。

 しかし、高校の制服? 確か、この制服は近くの進学校のものだっただろうか。


 スカートは短く、暖かそうな白色のダウンジャケット。性格は陽キャ感満載、高校時代こういう女子がいたな。何にでも臆さずコミュニケーション能力もずば抜けてた子。


「キミたち今からどうするつもり? こんな状況じゃ、瞬殺されるのは目に見てると思うけど、そんなに死に急ぎたいの?」


「一体何なんですか、あなたは。別に死に急ぎたくて外にいるわけじゃないんですけど、わざわざ煽る為だけに来たんですか?」


「ちょ~っと、怖いな! もう、そんな目で見つめられたら困るじゃん」


 幡代が怪訝な目を向けると、堪えきれず笑いだした。


「いやいや、キミたちを助けたいだけなんだよ。それにこんな鬱々とした豚小屋にいるのはうんざりなんだよ。だから、アウトローにいこうと思ってね」


「何か、狙いでもあるんですか?」


「そんなわけないじゃん。だから、アウトローに行きたいんだよ……私は。アウトローが私の人生のテーマだからね!」


(アウトローしか言わないな……この人)


 幡代が俺の袖を引っ張り、耳元で囁いた。


「……何なんですか、この人?」


「よくわからん……」


 小さく呟いた。何がしたいのかさっぱり読めない。


 それまで、俺たちの背後に隠れていた玄ちゃんは「あっ!」と声を上げた。


「…………ひなみ、さん?」


「おお、玄ちゃんじゃん! よかった、私の事を忘れたのかと思った……キミに昨日の恩を返しに来たんだ。だから、このお兄さんとお姉さんを説得してくれないかな?」


 見るにどうやら玄ちゃんと面識があるようだ。


「玄ちゃん、この女の人を知っているの?」


「うん……ひなみさんはママと仲が良かったんだよ。い〜っぱい遊んでくれた!」


「そーそー! 避難所で寝床が隣だったんだよ。それに、お母さんと仲が良かったし、色々良くしてもらってたから玄ちゃんの力になりたいって事。ホントにそれだけなんだって」


 人差し指を振り、顔面に喜色を浮かばせた。


 だからといって、二つ返事で同行を許可するのはどうにも躊躇ってしまう。

 玄ちゃんと面識がある事はこの際置いといて、連れて行くとなれば必然的にリスクが高まってしまうからだ。というのも、玄ちゃんだけを守るならまだしもこの女子高生も増えると身の安全は保障できない。


 俺自身、あのバケモノと無傷で戦えるわけでもない。かえって足手纏いなくらいだ。

 覚醒者の能力としても幡代には劣っている上に、戦う甲斐性すら持ち合わせていない俺は言うまでもなくお荷物に近い存在。

 

 しかし勘弁してくれと喚く隙もなく。


 見るに目の前の女子高生はあまりにも融通が利かなそうだ。


「……その思いはありがたいが、外にはバケモノがうろついているし危ないぞ」


「さっきも言ったじゃんか。アウトローな人生の方が生きてるって実感するでしょ? それに玄ちゃんのお母さん──美佳さんと仲が良かったから」


「それとこれは関係ない……はぁ、どうする? 幡代、お前に任せる」


「え? 私ですか……? そ、そうですね」


 嘆息する幡代に訊くといきなり話を振られ、ぎょっとしたのか大きく目を見開く。


 長髪を手櫛で解かして地面の一点を見つめていた。


 そして、少しの間思考を巡らせたあと、ゆっくりと口を開いた。


「わかりました……ですが、危なくなったら絶対に逃げてください」


「……おい! 決断をお前に任せた俺が言うのもおかしい話だが、本当にいいのかよ。連れて行っても……」


「仕方ありません。たぶん、何を言っても聞かなそうな雰囲気だったので」


「ふっふっーん、よ~し……! じゃあ、決まりだね!」


 幡代の言葉を聞くと、女子高生は欣快に言い放った。


 実際のところ、この判断は正解なのかどうか、明らかに正解でない事だけは理解できた。

 許可をせずとも、無言でついてくると思う。早くここを立ち去らなかった事が運の尽きだった。当惑を隠せずにいる俺たちを後目に「出発しましょう」と、いそいそと歩き始めた。


 利己的というか、他人との歩調を合わせようという意識がほとんど感じられず、協調性という言葉からもっとも遠い存在のように思えて、胸の奥でじわりと不安が広がってくる。


 こちらの都合や立場を顧みる様子もなく、まるで自分の感情や欲求だけで行動しているように映るのだ。


 もちろん、それが彼女の持ち味であり、時に大胆さや強さにもつながるのだろうが──それでも、この先一緒に行動していくとなると、ほんのわずかとはいえ危うさを拭えない。


 それでも玄ちゃんは、そんな一面すら気にする事なく、むしろ嬉々として彼女に懐いている様子だった。


 俺たち四人は避難所を離れて、行き場がなくなっていた。玄ちゃんのお母さんの行方に関しては見当もつかない。


 玄ちゃん曰く、つい数時間ほど前にはぐれてしまったと言っているのだが、それだけでは居場所を把握するのは困難だった。

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