第14話
言葉を失っていた明里だが、すぐに気を取り戻す。
「柳先生の殺害もあなたが?」
「そうよ。君達がさっき言った通り。あのまま捕まって、私のことまで喋ったら、使命を続けられなくなる。だから、トラックの前に突き飛ばした」
話をしている最中、逢蕾花は思い出し笑いで吹き出す。
「あの時の彼の顔、傑作だったわ。呆けた顔をしていて。自分が女性に使い捨てにされるなんて、全く思いもしていなかった。きっと、来世の彼は相当な苦労するでしょう」
柳に対して逢蕾花は、終始冷酷。彼女も柳のことが相当嫌いのようだ。
これまでほとんど発言しなかった烈は、ようやく自身の感情を逢蕾花にぶつける。
「あんた。花咲と仲良かったよな? 化粧とかの話でよく盛り上がってた。……それなのに、それなのに、どうしてあいつを殺した! なんとも思わなかったのか!」
烈の非難を込めた詰問に、逢蕾花は一瞬目を伏せる。しかし、すぐに表情を壊れた笑顔に戻した。
「もちろん、悲しかったわ。生徒の中でも、彼女とは特別仲が良かったからね。でも、彼女を悲しく辛い人生から救うため。遺体への化粧も頑張ったのよ。柳先生に殴れられた痣を隠すためにね。彼女も天国できっと喜んでいるはずだわ」
逢蕾花の回答に、烈の怒りが一気に湧き立つ。感情の赴くまま、近くの壁を殴りつけた。
「花咲の気持ちを勝手に決めるんじゃね―よ! 生きるのが辛いって、死にたいって言ったのかよ!」
「いいえ、聞いてないわ。でも、生きたいとも言っていなかった」
烈は震えながら拳を握る。自分の感情を必死にコントロールするように。
「あいつは、あいつはな、毎日毎日楽しそうに笑っていたんだよ。友達と遊ぶのが楽しい、クラスメイトとバカ騒ぎするのが楽しい。俺と会うのが楽しいって。確かに花咲には辛い境遇があった。柳から暴力を振るわれていた。追い詰められていた」
烈は話をしながら、萌絵との日々を回顧する。様々な感情が混ざり合った複雑なものが、胸の中から込み上げてきた。
烈は今回の事件をきっかけに、萌絵が隠していた裏の事情を知った。彼女の全てを見ていた訳ではない。
だが、これだけは言える。毎日接していた烈だからこそ、言える。
「あいつは死にたいなんて、思ってちゃいなかった。ひたすら前向きに生きていたんだよ。柳と正面から戦った。それを死んだ方がいい? ふざけんじゃねーよ! あんたは相手のことを何一つ理解しないまま、自分の考えを押し付けてるだけじゃねーかよ!」
烈の心からの叫びをぶつけられても、逢蕾花は全く動じない。
「いいえ、私には分かるの。彼女は死んで人生をリセットした方が良いって」
逢蕾花に悪びれる様子もない。心の底から自分の行いが正しいと信じきっている。
明里が烈の袖を引っ張る。
彼女の哀れみに満ちた目が、烈を諭す。
これ以上、彼女と話をしても無駄だと。
明里は烈からに視線を移し、逢蕾花に対してはっきりと静かに告げる。
「どちらにしろ、あなたの使命とやらここで終わりです。大人しく自首してもらいましょう」
「断るわ」
逢蕾花はきっぱりと拒否。犯行を認め、烈達に全てを話したのに、まだ笑みを浮かべている。
その不気味な様子に、烈は当惑。明里も眉を顰める。
「あなたの負けですよ。ボク達はあなたの話を聞いたし、録画もしている。もう言い逃れはできない。自首があなたに残されて唯一の選択肢です」
明里から再度負けを通告されても、逢蕾花は尚も笑顔を崩さない。
「いいえ、まだ負けじゃないわ。本当の勝負はこれからだもの」




